それって、もしかして裏技じゃないか?












 ブルマは、見上げるほどに巨大な龍をヒタリと見つめて──ペロリ、と緊張のあまり乾いた唇を舐める。
 かすかな錆びたような味は、口紅の味か……それとも、乾きすぎて唇が切れてしまったのか。
 そんなことを気にもしていられない状況の下、ブルマは「次の願いを言え」と、感情の欠片もない声と目で自分たちを見下ろす神龍に言葉を叫ぶ。
「どうして悟飯君を生き返らせるのはムリなの、神龍!?」
 その叫びは──神龍を呼び出す前から決めていた「掛け声」。
 悟飯が生き返るならそれに越したことはなく。
 けれど──その可能性が低いからこそ、むしろムリだといわれたときの展開を、幾十にもブルマは考えていた。
 その中の最初の一つ目の展開を口にする。
 神龍はブルマの言葉を聴いて、それに厳かな声で答える。
【孫悟飯は、私の力で蘇る期間を過ぎてしまっている。
 他の願いを言え。】
 簡潔な内容だった。
 けれど、そこに確かにブルマは光明を見つけて──よし、と、口元に笑みを浮かべる。
 キラリと双眸を輝かせて、不敵な表情で神龍を見上げる。
「待ってちょうだい。──あなたの力で蘇る、と表現するってことは……他の方法なら、蘇ることが出来るということよね?」
 その問いかけは──確信に近かった。
 揚げ足取りだと思われるかもしれない。
 もしかしたら、ない、と答えられるかもしれない。
 けれど、ブルマは半ば以上確信していた。
──必ず、答えはここにある、と!
 神龍は、無言でブルマを見下ろす。
 その空虚にすら見える双眸に飲まれないように、ギッ、と彼女も目に力を込めて見返す。
 少しの沈黙に、デンデの額に汗が滴る。──最初の正念場が、ここだと、彼もまた分かっていたからだ。 
【それが願いか?】
 静かに──静かに問いかける神龍の返答に、ブルマは一瞬眉を顰めた。
 思っていた答えと違うのもそうだったが、その問いかけの真意を測りかねたのだ。
 ──願い? それは、他の方法で蘇らせてくれ、と願うことが、願いかと聞いているの?
 ここで、言葉の意味を読み間違えるわけには行かない。
 軽く爪を噛み、黙考することしばし。
 頭の上に落ちてくる神龍の視線を感じながら、ブルマは目を伏せる。
 戸惑い気味のデンデの視線が、ブルマの横顔に注がれる。
「──! ううん、違うわ。」
 ブルマは微かに顔をゆがめると──おそらく、違う、と決断をして、デンデを見た。
「デンデ君。──最初の打ち合わせどおりに、二つ目の願いを。」
「え、いいんですか? それで。」
「ええ、それでいいの。」
 それならば、この状況にも対応している。
 力強く頷くブルマに、デンデはパッと笑顔を見せて、頷き返す。
「はい! ブルマさんっ!」
 改めてデンデは両手を広げて神龍に向かい治ると、
「ポルンガ! 二つ目の願いだっ!」

『孫悟飯さんを生き返らせる方法を教えてください! 可能な限り、詳しく!』

 願いを待ち続ける神龍に、願いを飛ばす。
 その言葉を聴いて、神龍は考えこむように、無言で聳えた立つ
【………………。
 ……………………。
 …………………………。】
 黙っているだけなのに、感じ取れる威圧感に、デンデは心配そうに眉間に皺を寄せる。
 長い──長いようにしか感じない沈黙に、耐え切れず、ブルマが口火を切る。
「あなたが蘇らせる以外にも、生き返る方法があるんでしょうっ?
 その方法を教えてちょうだい。どんな方法でも!」
 この広い宇宙──いきかえりの秘法だとか、生き返る術だとか、そんなものが、ドラゴンボール以外にもあるだろう。
 それを教えてもらえば、なんとでもできる!
 大きな賭けではあるが、このまま泣き寝入りするよりは、ずっとマシだと、ブルマは真っ直ぐに神龍を見上げた。
「あ、もちろん、ゾンビになったりとか、タイムマシンで連れて来たらいい、とか言うのはやめてね。」
 一応、一言付け加えることだけは忘れない。
 自分が求めているのは、「あの孫悟飯」が、そのままの状態で生き返り、彼その人が自分たちの下へ来ることだ。
 彼の肉体を借りた知らない魂や、彼が機械や偽りの体を手に入れて魂だけが戻ってきたりとか、生まれ変わって違う人格でやってくるとか、そういうことを求めているわけではない。
 そのことをきっちりさせようと、更に口を開きかけたブルマの言葉は、けれど。
【孫悟飯が生き返るには、条件を満たしている必要がある。】
 静かに続いた神龍の言葉により、口から出てくることはなかった。
 はっ、と、ブルマとデンデは顔を見合わせる。
 これは──生き返れる可能性が、濃厚なのではないか、と、期待に胸が高鳴った。
「条件?」
【長の死を持つ者を蘇らせるには、必要不可欠な条件がある。
 まず、肉体が存在していること。】
 ブルマは軽く眉を顰めて、神龍を見上げる。
「肉体……って、死体を冷凍保存しているかということ?」
 そう言えば、昔──ナメック星で死んだクリリンを生き返った時に、「ばらばらになった体はサービス」と、目の前のポルンガが言っていたような覚えがある。
 つまり、基本的に神龍は肉体をベースに生き返らせるということなのだろう。
「──悟飯君は、骨しかないわよ。それだと、骨人間になっちゃうってこと?」
 入れ物が必要だというなら、それこそ人造人間でも作らないと無理だろう。
 けれど……と、ブルマは顔を歪める。
 つい最近まで、人造人間の脅威にさらされていた身としては、その手段は使いたくない。
 すべての人造人間が悪いわけじゃないことは分かっているけれど、やはり──心理的に、微妙なのだ。
 何よりも悟飯自身がイヤがるだろう。
【魂が肉体を纏っている場合でも可能だ。】
「魂が肉体?」
 何それ、どういうこと?
 顔を顰めたまま、ブルマはデンデに視線を落とす。
 デンデも意味がわからないというように、フルフルと軽く頭を振った。
 神龍はブルマたちを静かな目で見下ろすと、
【また、魂が洗われてしまったら、蘇らせることはできない。
 その魂は、すでにその本人ではありえないからだ。】
 そう厳かに続ける。
 ますます何のことだか分からない。
 デンデは困ったようにブルマを見上げ、ブルマは腰に手を当てて考えるように斜めを見上げる。
「魂ってことは……、死後の世界ってことよね?」
 その世界のことは、ブルマには全く分からない。死んだことがないからだ。
 けれど──その話を聞いたことはあった。
 もう20年も前の話だ。それも一度じゃない。二度か、それ以上は耳にした記憶がある。
 必死になって「優秀な」脳みそをフル回転させて、ブルマは当時のことを思い出す。
 確か、彼らは何と言っていた?
 死んだ後は、界王様の元で修行をしていたのだと、そう言っていたのではないか?
「そうだわ、その界王様よ。」
 記憶の中に、神龍の表現と一致するものを見つけて、ぽむ、とブルマは手を叩く。
「確か、界王様のところで修行するために、特別に肉体を貰ったって言っていたわ。」
 本来なら、魂だけの姿になって、その魂も洗われていったりするらしいのだが、彼らはそうならなかった。
 そうだ。だから悟空も、ベジータ来襲時に、一年は生き返らせないでくれ、と願ったわけで。
 ヤムチャだって、死んでいたときに界王様越しに話をしてきたことがあったのだから、「肉体を持っていた」ことは間違いない。──もしかしたら今も、肉体を持ってあの世にいるのかもしれない。
 アレがつまり、神龍の言うところの、「魂が記憶を持っていて、肉体を纏っている」という状況というやつだろう。
「ってことは……ヤムチャが肉体をもらえてるのに、悟飯君が肉体を持ってないはずはないわよね。」
「ぶ、ブルマ、さん?」
 ヤムチャさんって確か──、ブルマさんの恋人だった人、ですよねー? と。
 デンデが、困ったような顔で、複雑そうにブルマを見上げる。
 そんなデンデに気付く様子を持たず、ブルマがほぼ確信を持って頷いた瞬間。
 ふ、と、声が振ってきた。


『ブルマ……ブルマよ、聞こえるか、ブルマ。』


「あ、なんか声が聞こえる。」
 そう言えば、前にもあったような気がする──と思い出すまでもない。
 先ほど思い出していたのと同じ光景だ。
 ただし、聞こえてきたのはヤムチャの声ではない。
 もう少ししわがれた声だ。
「……あ、そうだわ、この声……、ナメック星に行くときにも聞こえた声だわ! もしかして、界王様っ!?」
 ハッ、として顔を跳ね上げれば、それに答えるように、聞こえてきた声も跳ね上がった。


『そうじゃ、ブルマよ! その問いにはわしが答えよう!
 悟飯は肉体を持って、ここにおるぞ!』


 嬉々としたその声に、ブルマは、よし、と拳を握り締める。
「デンデ君っ、今の聞こえたっ!?」
「はい、聞こえました!」
 やりましたねっ、と、デンデがグッと親指を立てるのに、ブルマは親指を立て返す。


『トランクスも一緒じゃっ! すでにトランクスは生き返っておるぞっ! 1日ほどもあれば、わしのところから地球に戻れるであろう。』


 更に追加で付け加えられた内容に、ブルマはパッと顔をほころばせる。
「やったわっ! ありがとう、界王様っ!」
 軽くウィンクして、空中に向かって投げキスをしてみせる。
 それからすぐ後、ブルマは笑顔で神龍を見上げると、
「神龍! 悟飯君は肉体があるそうよ!
 それから、どうしたらいいのっ!?」
 一つ目の条件はクリアだ。
 これで随分と悟飯復活への勢いが増した気がしてならなかった。
 鼻息荒く問いかけるブルマを、静かに見下ろした神龍は、ヒゲをユゥラリと揺らすと、
【一つ目に、、誰かの命を、孫悟飯に与えることがある。】
「……誰かの、命?」
 突然、不穏なことを口から零し始めた。
 唇を歪めるブルマを見下ろし、神龍は淡々と続ける。
【閻魔大王以上の者の赦しがいるが、孫悟飯は誰かの命を得て生き返ることが出来る。】
「──……それって、例えば、私が悟飯君に命あげるから、悟飯君をよみがえらせて、ってお願いしたら、叶うってこと?」
 顎に手を当てて、渋い表情で問いかけるブルマに、神龍はいつもと変わりない口調で答える。
【与える者がそれを赦し、閻魔大王かそれ以上の位のものが赦せば、それはなるだろう。私の一存では行えない。】
 それは常と変わらない口調であったからこそ余計に、真実味があった。
 デンデは告げられた内容に、ごくん、と喉を上下させる。
「確かに、そうですよね。……ポルンガが勝手にそんな願いを叶えてしまったら、突然、誰かが死んで誰かが生き返ることが、まかり通ってしまいます……。」
 それは確かに、恐ろしいことだ。
 人造人間を殺して、悟飯が生き返る──そういうことすら、神龍に願えば叶ってしまうことになってしまう。
 それはそれでいいような気がするけど、悟飯ならきっと、そんなこともイヤがるだろう。
「そうね、それは怖いわ。自分が知らないところで、勝手に自分の命がやり取りされてるなんて……、冗談じゃないものっ。」
 悟飯なら、たとえ悪人の祈りでも、誰かの命を勝手に貰って生きるのは、彼自身が赦さないであろう。
 だから、死を望んでいる人の命を貰う──なんていうことも、決して出来ないだろう。
「他の方法はないの?」
【蘇るという意味ではないが、1日限りで蘇る方法もある。】
「あ、それは知ってるわ。占いババでしょ。」
 昔、ブルマがまだ若かった頃、ドラゴンボールを探すために占いババの元に行った事があった。
 そこで戦うことになったのだが──最後に戦った相手こそが、一日限りで蘇った悟空の祖父だったのだ。
 頭にワッカを浮かべて、今日限りで生き返っているのだというようなことを言っていた。
 けれど、それでは意味がない。
 24時間しか生き返れないのだから。
「でも私が望んでいるのは、そういうのじゃないの。
 えーっと……そうね、あなたの力では、悟飯君を生き返らせるのはムリなのね?」
 何て言ったらいいのかと、ブルマは目線を上にあげながら問いかける。
 神龍が頷くのを見届けて──ゴクン、とブルマは喉を上下させた。
「なら……あなたの力を超える能力を持つ神龍なら、それは可能になるのかしら……!?」
 これは、一種の賭けであった。
 目に力を込めて期待を込めて叫べば、神龍は唸るような沈黙を宿し──その末に、絞り込むような声で、答える。
【確かに──それならば可能であろう。】
「可能なのっ!?」
 思わずパッと笑顔を見せたブルマとデンデが顔を見合わせて頷きあう。
 これは──シミュレーションの一つの枠に、当てはめることが出来るかもしれない!
「じゃ……じゃぁ、その、あなたの能力を超える力を持つ神龍は、どうしたら生まれるのかしらっ!?」
 不安と期待をない交ぜにして、声を詰まらせながらも、ブルマは問いかけた。
 右手で拳を握り、それを胸元に当てながら──キュ、と唇を一文字に結ぶ。
【能力の高い龍族が作り出したドラゴンボールであれば、その願いをかなえる神龍を作り出すこともできるであろう。】
「……能力の高い龍族……っ!」
 デンデとブルマが、互いに素早く視線を交し合う。
 ブルマは、「そう言えばデンデ君も龍族だとか言ってたわよねっ」と言う目で。デンデは、「能力が高いって……」と、不安に思いながら。
 複雑な表情で見交わすお互いの頭の上で、神龍が留めを差すように更に告げる。
【だが、今の世に、それほどの物を作り出せる者はおらぬ。】
「──……あぁ……。」
 思わず、ぽつり、と──デンデは、絶望の色が混じった溜息を漏らす。
 考えるまでもなく、神龍が言っている言葉が真実だと、彼は知っていたのだ。
 目の前のポルンガを生み出したのは、今のナメック星の最長老さま──「現存する龍族の中でも最高の実力を持つ」者なのだ。
 その最長老さまが生み出したポルンガが出来ぬことを、他の誰が出来るというのだろうか?
「──……、と、いうこと、は。」
 ブルマも軽く顔を顰める。
 この案も、出来ないというなら──。
 ス、と目を細めて次の案に頭をめぐらせる。
 まだ、二つ目の願いの只中だ。なんとかして、ここで悟飯を生き返らせる方法を神龍から探り当てねばならない。
 なるべく穏便な方法を。
「今、ダメ、ということは……。
 ………………未来、なら、可能……?」
 ちらり、とブルマの脳裏に浮かんだのは、自分が作ったタイムマシンの存在だった。
 未来の時間軸のどこかになら、──もしくは過去の時間軸のどこかになら、ブルマたちの願いを叶える神龍がいるのだろうか?
 なら、二つ目の願いは、「その願いを叶える神龍が過去に存在していたかどうか」と聞くことが無難だろうか? だが、もしいないと答えられたら?
 脳をフル回転させるブルマは、はっ、とした表情で自分を見上げるデンデには気付かなかった。
 デンデは、大きく目を見開いて彼女を見つめると──ぐ、と拳を握り締めた。
 そうして、双眸に強い光りを宿して、神龍を見上げる。
「ぽ、ポルンガ……お願いです。
 僕はこれから、地球という星に行って、ドラゴンボールを作ります。
 そのドラゴンボールで……悟飯さんを生き返らせたいのです。
 僕は──どれくらい修行したら、ドラゴンボールを作り出せるようになるでしょうか?」
「──……、デンデ君っ!?」
 彼の口から飛び出した言葉に、ブルマは驚いたように彼を見やった。
 まさか、そんなことが彼の口から出てくるとは思わなかったのだ。
「どんな辛い修行だって、耐えてみせます。……だから、……だから。」
 もし、それが10年くらいで何とかなると言うのなら、トランクスとブルマに待っていてもらえばいい。
 厳しい表情で、じ、と見つめてくるデンデに、神龍は目を細める。
 その値踏みをするような視線に、デンデは、ごくん、と喉を上下させた。
 ──そうして。
【100年か、200年か──もっと長くなるか。】
 神龍が、人にとっては絶望的とも言えるセリフを告げる。
 地球人よりも長く生きるとは言えど、ナメック星人にとっても、その歳月は酷く長い。
 そこまで生きれば、最長老になってしまうような年月だ。
「そんな……っ!」
 さぁぁ、と顔から血の気を引くデンデに、ブルマも顔を顰めて──しかし直後、表情を緩める。
「絶望することはないわ、デンデ君。」
 ブルマはニ、と自信たっぷりに微笑むと、軽く片目を瞑ると、
「私が、もう1度タイムマシンを作ればいいだけの話よ!」
「タイム……マシン……。」
 デンデは軽く目を見張る。
 そんな彼に、ブルマは、うん、と一つ頷く。
「そう。それで、100年か200年か……デンデ君がそのドラゴンボールを作れるくらいの未来に行って、デンデ君を連れて帰ってきて、こっちでドラゴンボールを作ってもらったらいいのよ!」
「あ、でも、それならそこでドラゴンボールを使ったらいいんじゃないですか?」
 首を傾げながら──ブルマは、未来のデンデがそんなドラゴンボールを作れる優秀な龍族になると確信しているように話しているのが、くすぐったくて、デンデは微かに頬を赤らめて、問いかける。
 ブルマはそれに、ひらりと手の平を返すと、
「それだと、その未来の世界の悟飯君が生き返るだけじゃない。」
 おそらくその頃には、トランクスも自分だって、あの世に行っているに違いない。
 そんな風に皆で楽しく過ごしているかもしれない中、悟飯だけ無理矢理生き返らせてつれて帰ってきてしまったら、今度はあの世のトランクスたちが可哀想だ。
「──あ、そ、そうですね。」
 考えませんでした、と、恥ずかしそうに首をすくめて頭を掻くデンデに、ブルマは笑いかけると、
「とにかく、それでもいけるわね。」
 まずは帰って、タイムマシンを作るか……いや、それなら、三つ目の願いでタイムマシンを出してもらった方がいいかも、と、ブルマが思ったところで。
 あ、と、デンデが声をあげる。
「あのっ、でも、僕は必ず──そんな、先の最長老さまが作れるようなドラゴンボールを作れるようになれるんでしょうかっ?」
 確かにデンデは、先の最長老にも、今の最長老にも、優秀な龍族で将来が楽しみだと言われては居た。
 長ずれば、最長老となることも可能かもしれん、とも……ただの末っ子を可愛がった末の言葉かもしれないけれど。
 確かにドラゴンボールは作れるけれど、実際に作ったことはない。
 だから──本当にそうなれるのか、分からなかった。
【……可能性は皆無ではない。】
「その言い方だと、随分低いみたいに聞こえるけど──確実に、デンデ君に、悟飯君が生き返るようなドラゴンボールを作ってもらえるような方法はないわけ?」
 ここの神龍は、どうも正直に答えすぎるというか、そのわりに曖昧な逃げ道を作る表現があるというか。
 ブルマは、ムッと眉を寄せて、ジロリと神龍を睨みつける。
 人に期待させておいて、持ち上げて落とす──っていう手法は、好きじゃない。
「そんな遠まわしじゃなくって、デンデ君がどうしたらいいのか! ──っていう方法を教えて欲しいのよ、神龍。
 二つ目の願いの中に、コレも含まれてるわよっ!」
 ビシッ、と二つ指を立てて、神龍に向かって告げれば、神龍は無言でブルマを見返す。
 デンデは不安そうに神龍とブルマを見交わすが、ブルマはキッとにらみつけた視線を決してそらしはしなかった。
 だって──ここにかかっているのだ。
 なんとしてでも、悟飯君を生き返らせて見せる──! 自分のためにも、トランクスのためにも……悟飯のためにも!
【デンデの能力を上げる必要があるだろう。ナメック星の最長老が持つ、眠っていた能力を目覚めさせる力で、更に能力アップを測る必要がある。その後ならば、150年ほどの時間で可能になろう。】
「だって、デンデ君。」
「で……でも……ブルマさん。」
 困惑したように、デンデはブルマを見上げる。
「……先の最長老さまなら、その能力がありましたが──今の最長老さまは、まだ、その能力をお使いになれないのです。」
 龍族だから、すべての能力が使えるわけではなく──長い月日を生きた最長老であるからこそ、開花する能力もある。
 今の最長老もまた、その能力を持っているのだが、それは未だに開花してはおらず……ということはつまり、その能力の開花の後、更にプラス150年かかるということだ。
「えっ!? いや……でも、タイムマシンでそれも何とか……うーん。」
 けれど、それだとデンデに今すぐ地球に来てもらうわけには行かなくなる。
 チラリ、とデンデを見やれば、彼はブルマの考えに感づいたのか、酷く哀しそうな表情になった。
「──…………、神龍! その──デンデ君の能力アップは……、最長老じゃなくって、あなたでも出来ないものかしら?」
「! あ、そ、そうか!!」
【……可能だ。】
「よし、ならその問題はクリアね。
 なら、悟飯君を生き返らせるためには、今から3つめの願いでデンデ君の能力を極限まで引き出してもらって。
 その後、デンデ君と地球に帰って、タイムマシンを作って150年後の世界に行って、デンデ君を連れて帰ってきて……、悟飯君が生き返れるようなドラゴンボールを作ってもらう! それでいいってことよねっ!?」
 満面の笑顔で、胸を張ってそう叫んだブルマに──しかし神龍は、即答してはくれなかった。
「ぽ、ポルンガ?」
 不安になり、問いかけたデンデに、神龍はス、と目を細めると、
【ドラゴンボールを作る際に、条件を絞る必要がある。】
「……条件を、絞る?」
 いぶかしげなブルマとは逆に、デンデはハッとしたように神龍を見上げる。
「最初の調整のことですね……。」
【そうだ。】
 頷く神龍に、やっぱり、とデンデは拳を握り締めてそれを見下ろした。
 そう──ドラゴンボールは作る時に、作り主は調整を行うのだ。
 その微調整によって、ドラゴンボールは作り手の個性を宿す。それは同時に、願い事の種類と範囲を絞り込むということになる。
 例えば、ナメック星のドラゴンボールは、1つの願いで1人の人間しか生き返らせることは出来ない代わりに、何度でも生き返らせることが出来る。しかし、地球のドラゴンボールは、1つの願いで複数の人間を生き返らせることが出来る代わりに、前に生き返らせたことがある人間は、生き返らせることが出来ない。
 願いの幅を広げれば、どこかの願いの幅が狭まる。──そのように、調整が行われるのだ。
 ドラゴンボールを作った術者の能力と、そしておそらくは、世界のバランスを保つために。
 その理論で行けば、条件を絞れば絞るほど、ドラゴンボールが叶えられる願いは強大になる。
 神龍は、そうして条件を絞り込めば、悟飯を生き返らせることも可能だというのだ。
 ──おそらくは、「生き返るのは生涯にただ一度だけ。死後10年以内」などと言った条件をつければいいのだろう。
 けれど、今のデンデには、そこまで条件を絞る事は出来ない。
 特定の範囲に狭めるには、高い能力値と繊細な調整が必要となる。
 そして当然、どのような条件付けをすれば、どこまで願いが叶うのか──それにも、作り手の個人差が出てくるのだ。
「その条件付けの内容も、考えないといけないんだ。」
 独り言のように呟いたデンデに、ブルマは今ひとつ分かりかねる顔で小首を傾げる。
「条件付けって……、なによ?」
「えーっと、つまり、最初に神龍に出来ることと出来ないことを設定するってことなんです。
 例えば、地球の神龍は、一度にたくさんの人を蘇らせることが出来ましたけど、一生に一度しか蘇りませんでしたよね? 逆にポルンガは一度に一人、ただし何度も蘇れました。」
 もちろん、その条件付けも、作った龍族の能力や特徴に左右されることがあるから、必ず同じドラゴンボールが出来るとは限らない。
 事実、今目の前にいるポルンガは、「大勢の人を一度に何度も生き返らせることが出来るが、理不尽な理由で殺された場合のみ」と言うように条件づけられている。──これほどの細かい条件付けが出来るのは、最長老さまのお力がスゴイと言うことの証なのだ。
「10年近く経過した人間が生き返るための条件づけって、けっこう難しいのかしら?」
 さすがに神龍の条件付けのこととなると、まったくの管轄外になるブルマは、眉をひそめてそう問いかける。
「……だと思います。
 それに、神龍が叶えられる願い事が大分絞られてしまいます。
 もしかしたら──それこそ、悟飯さんを生き返らせる以外の用途には、使えない可能性も……。」
 それだと、後々に影響が、と、続くはずだったデンデの言葉を遮り、神龍が厳かに告げる。
【そのとおりだ。そのドラゴンボールは、ただ一度しか願いを叶えられぬ。】
 何年もの月日を経た人間を生き返らせるというのは、それほどのリスクが伴うものなのだ。
 そう、告げられた意味を、ブルマは一瞬、理解できなかった。
 ぽかんと神龍を見上げて、ゆっくりと目を瞬いて──こくり、と喉を上下させる。
「……それって、そのドラゴンボールは、悟飯君を生き返らせたら、もう使えなくなるってことっ?」
【そうだ。】
 それでは、本当にただ一度きり。悟飯を生き返らせるためだけドラゴンボールになってしまう。
 ブルマは顔を顰めて──もしそうだとすれば、と、素早く脳味噌をフル回転させて考えた。
 もし、そうなのだと、すれば。

 地球に、ドラゴンボールは、二度と生まれないかもしれない。

 そうなれば、悟飯を生き返らせるのと引き換えに、この一年で死んでしまった人間を生き返らせる可能性も、その人々が生きるための力を貸してもらうことも──この先、何かがあったときに、神龍という奇跡に頼ることも、無くなるということだ。
 ──それらと引き換えにして、悟飯を生き返らせる。
 そのことに、ブルマ自身、躊躇いなどないつもりだった。──地球を守るために、色んなものを犠牲にしてきた彼らに、今度こそ幸せな人生を送ってもらうためなら、【蘇れるかもしれない人間】のことは、頭から追い出すつもりでいた。
 もとより、ドラゴンボールなんて、奇跡の力でり、「蘇って当然」のものでは、決して無いのだから。
──でも。
 そう、はっきりと口に出されると、決意が、揺らがずにはいられなかった。
 とおの昔に亡くなった父、母。肉体が無くなってしまって、もう蘇ることも叶わないだろう人たち。
 けど、──一年以内であれば、肉体が無くても、蘇ることも出来るのだ。一年、以内なら。
「──……。」
 その可能性を、すべて捨てることになる。
 覚悟していたつもりなのに、とっさに即答できない自分に、ブルマは奥歯を噛み締める。
 そんな彼女に、デンデは、大丈夫ですよ、とギュと拳を握ってみせた。
「け、けど──新たに作りだせますから。」
 別に、ドラゴンボールは生涯にただ一度しか作り出せぬわけではない。
 確かに、その性質上、ナメック星人は「ひとつの星にドラゴンボールは一つだけ」と取り決めをしてはいるが一人が一つ以上のドラゴンボールを作ってはいけない、というのは掟にはない。
 ドラゴンボールが壊れたという話は聞いたことがないが、もし壊れたのならば──また作り直せばいいだけの話だ。
 おそらく、たぶん……それで大丈夫なはず、と、かすかな不安を抱きながらも、デンデがそう説明したときだった。
【否。孫悟飯を蘇らせるためには、お前のすべての龍力を注ぎ込む必要がある。
 そのドラゴンボールを作れるのは、生涯にただ一度だけ──お前は二度と、ドラゴンボールを作れなくなるであろう。】
「!!」
 驚いたように顔を跳ね上げたのは、ブルマとデンデだけではなかった。
 周囲に集っていたほかのナメック人たちも、驚愕の目で神龍を見上げる。
 暗い空を背景に、うっすらと輝く神龍は、幾十もの視線を受けても、表情一つ変えずにブルマたちを見下ろす。
「作れなくなる、って──、でも、そのドラゴンボールだって砕けちゃうんだから……。」
 だったら、もう、ドラゴンボールは、地球に存在しないということだ。それはもう、確実に確定してしまったということだ。
 もう一度その事実を胸に思い描いて、──そうすれば、なぜか、先ほど悩んでいたことよりもずっと、大事な問題が頭にポンと浮かんできた。
 そう、問題はそれじゃない。──確かにその事実も、どうしようかと思うくらいに悩むことではあるけれど。
 ブルマは、チラリ、とデンデの呆然とした顔を見下ろした。
 ──問題は、デンデの気持ちなのだ。
 彼は、ナメック星の龍族だ。
 それがどういう意味を持つのかブルマには良く分からないけれど──でもきっと、優秀な龍族であるという言葉は、デンデにとって大事なことのはずだ。
 デンデからドラゴンボールを作り出す能力を奪うということは、ブルマから機械を作り出す力を奪うのと同じことなのだろう。
 ──少し、違うかもしれないけれど。
 けれど、そういうことなのだ。
 それは、つまり……彼にとって、自分の存在価値を奪われるのと、同じような意味合いではないのだろうか?
「──……え、と……。」
 ブルマは、困惑した顔で神龍を見上げる。
 デンデは、顔をあげたままピクリとも動かない。
「ね、ねぇ、神龍! 他に方法はないの? 例えば、宇宙のどこかに、人を生き返らせる妙薬があるとか、そういうの。」
 ことさら明るい声を出して、ブルマが両手を広げて問いかければ、神龍はそれに頷いて答える。
【神薬の類は存在する。しかしそれは、肉体と魂がなくては意味がない。
 孫悟飯のように、肉体がすでに朽ちており、魂が肉体を纏っているなら、人の命を貰い受けるか、ドラゴンボールを使うのが一番容易く行えよう。】
 わたしも、すべての情報に通じているわけではないのだ。
 そう続ける神龍に、思ったよりも使えない情報網だわ、と苦々しくブルマは思う。
「その肉体って言うのは、本人の物じゃないといけないの?
 例えば、誰かのピチピチの死体とかに、悟飯君の魂を移すってことは出来るんでしょ?」
【それならば可能だ。だが、体と魂には相性が存在する。上手く適合しなければ、魂の消滅の可能性もある。】
「……、それじゃ、その肉体が人工の物なら? ロボットとか……思い切って、神龍に悟飯君の魂に適合するようなロボットを作ってもらうとか!」
 どうよ、と胸を張って問いかけるブルマを見下ろし、神龍は考えるように目を眇める。
【可能だろう。だが、どれにしても、あの世に完全に属性している魂を地上に呼び戻すこと自体が、禁忌とされるが故に、デメリットは変わらぬ。】
「……この抜け道もなし、ってことね。」
 うーん、と顎に手を当てて、なんとか抜け道はないものかと、頭をひねるブルマに──デンデは、ぐ、と拳を握り締めて彼女を見上げる。
「ブルマさん、……僕、やります。」
「……へ?」
 唐突に言われて、ブルマは何を言われたのか分からず、目を瞬いて彼を見下ろす。
 真っ直ぐに自分を見上げるデンデを、ブルマはポカンと見つめ返す。
「ドラゴンボールが二度と作れなくなっても──僕も、悟飯さんに生き返って欲しいです。」
 そんな彼女を、真摯に見上げて──強い光を宿して、デンデは言い切る。
 その声にも、力強い決意が宿っていた。
「って……デンデ君……。」
 困惑したように自分を見つめるブルマに、デンデは手の平をグッと握ると、
「なんてことありません!」
 に、と、口元に笑みを浮かべた。
 その顔は、無理矢理笑っている表情ではなかった。
 彼が、心の奥底からそう思い、決断し──それ以外の道はないと、そう信じているような微笑だった。
「けど、デンデ君……、本当にいいの?」
「だって、どっちにしても僕は、ドラゴンボールを作れる能力はあっても、本当に作る機会があるかどうか分からないまま過ごすはずだったんですよ! だったら──本当に作れなくなっても、構いません。」
 デンデは、自分の手の平を見下ろし──1度目を閉じた。
 思い出すのは、ナメック星での出来事。
 あの時に、デンデは絶望と共に知った。
 諦めないこと、足掻くこと。自分に出来ることをするということ。
「それよりも僕は……こんなことであきらめて、後悔なんてしたくないんです。」
 迷いのない目で真っ直ぐに見つめれば、ブルマは言葉を失い、絶句したようだった。
 そんなブルマのほうこそ、諦めず、足掻いて……ここまで来たと言うのに。
 小さく笑みを零して──デンデは、あぁ、と思い出したようにブルマに小首を傾げる。ほんの少しだけ……困ったように、眉をひそめて。
「ブルマさんは──ドラゴンボールがなくなったら、その……困ります、か?」
 上目遣いに、おずおずと尋ねる。
 そう──元々、地球の人たちが最初にナメック星に来たのは、地球のドラゴンボールを復帰させるためだった。
 そして今再び、地球ではドラゴンボールが失われている──ブルマは、自分の息子を生き返らせると同時に、地球に再びドラゴンボールを取り戻すことも、期待していたに違いないのだ。
 なのに……ドラゴンボールを残してやることすらできない。
 そう肩を落とすデンデに、ブルマはゆっくりとかぶりを振った。

 デンデが、そこまで覚悟を決めているのに。
 どうして私が──彼にそう提案した自分が、いつまでもしり込みしていられるだろうか。

 ブルマは、苦い感情も、多くの人の蘇らない命も、そのすべてを飲み込み……抱えていくつもりで、一度強く目を閉じてから、──ニ、と口元に笑みを広げてみせた。
「……願ったりだわ。何年も前に死んだ人間を蘇らせることのできるドラゴンボールだなんて、本当は存在しないほうがいいんですもの……それを願っている私が言うのもおかしな話だけどね! たった1度きりで壊れても、問題はないわ。」
 パッ、と明るい笑顔を浮かべて、ブルマは軽く片目を瞑る。
 そんな彼女に笑顔に──心からの言葉だと分かるソレに、ほ、とデンデは胸を押さえて吐息を零す。
 ブルマはそんな彼を見下ろして、こみ上げてくる色々な感情を噛み締めるように、小さく、呟く。
「……ありがと、デンデ君。」
 デンデはそれに、当然だというように笑って頷く。
「やらせてください、ブルマさん! 僕、がんばって修行しますから。」
 二人で──悟飯さんを生き返らせようと。
 言外にそう告げるデンデに、ブルマはもちろんだと親指を立てて頷く。
「うん。──それじゃ、デンデ君、三つ目の願いよ!
 あなたの力を──最大限に引き出してもらって頂戴!」
「はい!」
 力強く頷いたデンデは、硬い意思を滲ませて、神龍を見上げた。
 厳かな表情で自分たちを見下ろす神龍に向かって、デンデはゆっくりとその両手を挙げる。
 そしておそらくは……ナメック星ではこれで最後になるだろう願いを、叫んだ。







【これで願いはかなえたぞ。また会おう。】
 地の底から響き渡るような声で、ポルンガがそう告げて──煌く7つの光と共に消え去った後。
 瞬く間に明るくなる空の下、デンデは自分の両手を見下ろしていた。
 体の奥底から湧き上がるような不思議な感覚に、むずむずと背中が痒くなって、ときどき気になるかのように背中を振り返っている。
 そんなデンデを楽しそうな目で見下ろしながら、ブルマは、さて、と腰に手を当てて後ろを振り返った。
「さ、それじゃ──、地球に戻るわよっ!!!」
 おぅっ! と片手をあげて叫べば、周りを囲んでいたナメック星の人たちも、釣られるように片手をあげてくれる。
 ブルマはそんな彼らの前で、嬉しそうに──本当に嬉しそうに笑うと、ゆっくりと顔をあげて、綺麗な蒼い空を見上げた。







──この空の向こうに、自分が帰るべき場所がある。
 そしてそこには……息子が待っているのだ。
 更には──……希望も。





「……ふふ、待ってなさい、トランクス!
 あなたの綺麗で優しくって天才のお母様が、今から帰るからねーっ!」
 胸を張って叫ぶブルマに、デンデは一瞬、クシャリと顔を歪めたものの……何かを言うことはなく、へにょりと顔を崩して笑った。










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裏 技 で す ね 
さらに、実はブルマさんは、裏技を使う気満々ですよ。



ドラゴンボールで、そんなに簡単に生き返れたら、それはそれで困るよなぁ、って思ったので、いろいろ条件をつけてみました。
書きながら、「そこまで悟飯にこだわる理由はなんだ……」とか、ブルマとかデンデに言いたくなりましたが(作者が悟飯生き返りにこだわってるからですvv笑)、まぁ、それはそれ!!

これでようやく、ドラゴンボールも復活です……あぁ、長かったナ!

早く現世で二人を幸せにしてあげようよ……ほんとにさ……。
  ちょっと、悟飯と悟空とピッコロさんのお別れシーンも書いてあげたかったけど、ムリv っぽくなりそうです。





「あ、でも……ブルマさん。
 僕、ドラゴンボールを作り出す力がなくなっちゃったら、地球に居てもお邪魔なだけですよ……、ね?」
 地球に戻る宇宙船の中──二人きりになった室内で、今までのことやこれからのことを、ぽつぽつと話し合っていたデンデは、ふと困ったような顔でそう言った。
 それを見下ろして、ブルマはあっけらかんとした口調で答える。
「何言ってるのよ! そんなことないわよ。
 悟飯君が生き返ったら、きっと喜ぶわよ、デンデ君が地球に来てくれたこと。
 それに──私も、あんたに、平和になって綺麗になった地球を見て欲しいもの。」
 ね、と、片目を瞑って笑うブルマの顔は、自分が知っていることよりもずっと老けてしまっていたけれど──表情は、まったくと言っていいほど同じものだった。
 デンデは、ブルマの表情に小さく笑って──はい、と、照れたように頬を掻いた。

「それはそうとね、デンデ君。私ちょっと考えたんだけど。」
「はい?」
「いいアイデアよー? 今から地球に戻って、150年後に行くタイムマシンを作るでしょ。」
「はい。」
「で、その後デンデ君を連れてきて、ドラゴンボールを作ってもらう。」
「はい。」
 この場合、150年後のデンデが、なんらかの理由で考えを変えていても、無理矢理強引に泣き落としでもして説得するつもりだ。
 ──まぁ、デンデが150年やそこらで、考えを変えてしまうような子ではないことを、ブルマも分かっていたが。
「それで、その後、150年後のデンデ君は、ドラゴンボールを作れなくなるわけだけど。」
「……はい。」
「そのタイミングで、ナメック星でポルンガを呼び出してもらって、未来のデンデ君の龍力の復活をお願いしたらどうかしら?」
「──……え?」
「で、悟飯君が生き返った後、もう一回そのデンデ君がドラゴンボールを作れば、地球にはそのままドラゴンボールが残るんじゃないの?」
「……………………。」
「同じデンデ君が作ったドラゴンボールなわけだもん。きっと今のデンデ君が維持できるでしょ? ね、ほら、いけそうじゃないっ!?」
 私、天才! ──と、パチンと指を鳴らして、嬉しそうに笑うブルマに。
「──……っ!!」
 それって……使っていい裏技なのでしょうか?
 っていうか、それ……いいんですか、本当に?
 そもそも、未来の僕と今の僕って、存在感的に同じ扱いしてもいいのかどうかは、わからないんじゃないですか?
 とか、いろいろ思ったけれど──、ま、いっか、と。
 デンデは、コリコリと頭を掻きながら、ブルマに釣られるように笑った。







──この会話を界王星で盗み聞きしていた界王さまは、このセリフを聞いて。

「ぬぬぬぬ……、ブルマめ……っ! なんとハラグロなことを……っ!!!」

と、再び叫んで、ヤムチャや天津飯たちの生ぬるい目を背中に一心に集めていた。