ムリを一つ、言って見ませんか?
ドラゴンボールは、それぞれの集落の近くに隠してあるのだという。
前のように、各集落の長が持っているのでは、フリーザの時の二の舞になってしまう──と言うのもあったが、そもそも7つに集落を分けられるほど人が居ないのだ。
とは言うものの、隠した場所に、ずっと残っていてくれるとは限らないのが、ドラゴンボールというヤツである。
少し離れた場所に移動している物に関しては、ブルマが自ら出て行き、ドラゴンレーダーで詳しい場所を検索する必要があった。
「ドラゴンレーダーを持ってきて良かったわ。」
さすが私♪ と自画自賛しながら、ブルマはドラゴンレーダーを示しながら、ドラゴンボールを探すのに協力してくれているナメック人たちに指示を出す。
ナメック人たちは、全員テレパシーが使えるので、効率よく探してくれている。
そうしている間にも、隠した場所にそのまま残っていたドラゴンボールが、最長老の家へと集められて行っているようだ。
怪鳥が持ち運んでしまったらしい──なんて不幸に遭ったドラゴンボールは、ブルマが出張しに来ているこの場所だけらしく、他は隠し場所になくても、すぐに見つかっているようだった。
「ブルマさんっ、残すは、ここのドラゴンボールだけみたいですよ!」
最長老からのテレパシーを受けたらしいデンデが、興奮を隠せない様子で叫ぶ。
そんな彼をチラリと振り返って、ブルマは、ニ、と笑みを刻んだ。
「そう。それじゃ──うちの息子が蘇るのも、秒読み段階ね〜。」
「はい、早く生き返るといいですね!」
打てば響くように返ってくる返事に、ブルマは、ふふ、と笑って──そうねぇ、と、空を見上げる。
ごつごつした岩場に囲まれた場所に、椅子だけ出して座り込むブルマは、遠い旧ナメック星でのことを思い出す。
あの時は、たった一人残されて、クリリンたちにドラゴンボールを探してもらっていた。
その時に一緒に居た二人に、デンデはとても懐いていた。──地球に居たときには、「地球では、クリリンさんや悟飯さんみたいな人のことを、おにいさんみたい、って言うんですよね!」なんてことを言っていたときもあった。
お別れのときは、分かっていたとは言えど、本当に名残惜しそうで、名残惜しそうで。
このまま地球に残っちゃえばいいんじゃないの、なんて──後先のことを考えずに、言ってしまいそうだったっけ。
「……ねぇ、デンデ君。」
「はい、どうしました、ブルマさん?」
あの頃の、すぐに泣いちゃいそうなか弱い雰囲気のなくなった、青年の顔をしたデンデが、笑顔で振り返ってくる。
彼は優秀な龍族らしくて──それがどういう意味なのか、聞いていないからわからないけれど、どうも神龍に伝える正当なナメック語が使えるとか、そういう意味っぽい──、神龍のことについても、他のナメック人たちよりも詳しい。
だから、この機会に聞いてみようかと、ブルマは彼を横目で見やった。
「あんた、ムーリさん──最長老さまに、私の目的のこと、全部聞いた?」
「え、全部、ですか? ──息子さんのトランクスさんを生き返らせたい、って言うのだけではなく?」
キョトン、とした顔をするデンデに、何も聞いてないのね、とブルマは苦笑を浮かべる。
「願い事はね、もう一つあるのよ。」
「えーっと……地球をよみがえらせてほしいとか、そういう感じの、ですか?」
頭をフル回転させて問いかけてくるデンデに、んーん、とブルマは頭を振ると、
「そうじゃなくてね……あのね、私は──────、悟飯君が、生き返らないかな、って、思ってるのよ。」
小さく……小さく、心に秘めてきた希望を、そ、と零す。
途端、え、と固まったデンデに、慌ててブルマは顔をあげた。
「とは言っても、悟飯君が亡くなって、もう7年も経ってるわけだし! 今更って言ったら今更なんだけどね!
でも──もし、ナメック星の神龍の生き返りの期限がないんだったら、悟飯君くらいは……いいんじゃないかな、って──そう思っただけなの。」
口早にそう説明して──無茶を言っているのは分かってるのよ、とブルマは両手を激しく振った。
けど、最後の一言で、小さく、ぽつん、と呟いた背中が小さく見えて、デンデは、そ、と触覚を垂れさせる。
悟飯。
それは、デンデに生まれて初めて出来た「ともだち」の名前だった。
ナメック星にいるのは、皆兄弟だったから、「ともだち」とは少し違う。
最長老さまから聞いたことがある「きょうだい」でも「うみのおや」とも違う存在。それは、デンデたちにはおとぎ話のようであった。
その存在を、デンデが初めて知ったのは、目の前のブルマたちがナメック星にやってきたときだった。
自分と兄弟以外の存在を知らなかったナメック人たちの前に、数々のめまぐるしい事件を巻き起こした異星人たち。
その中でも、デンデの心の長く残る事になった、悟飯さんとクリリンさん。
きっと遠く地球で、彼らは元気に生きているのだと──デンデは今日、ブルマに会うまで、疑ったこともなかった。
彼らが、もうずっと前に──クリリンに至っては、お別れを告げて間もないうちに亡くなっていただなんて、とても信じられなかった。
けれど、あの頃に見たよりもずっと老け込み、ずっと強い光を目に宿すようになったブルマと会ってしまったら、それが真実なのだと、信じざるを得なかった。
最長老の口から事実が告げられた瞬間、デンデは泣いた。
ブルマが到着する直前まで、泣いて泣いて──どうせなら、こんなことを聞きたくはなかったと思った。
知らずに居たら、自分はずっと、遠い地球で二人は生きていると、そう信じていられたのだから。
でも──真っ直ぐな目で、「わがままだとわかってはいるけれど、息子を蘇らせたいの。」そういいきったブルマに、そんな弱虫のようなことを言っていてはいけない事態なのだと思った。
無言で話を聞くデンデに、ブルマは一人、焦るように言葉を紡ぐ。
「それに、それにね──、今回の件で思ったのもあるのよ。
今、地球には、戦士がトランクスしか居ないでしょ? それでこれから先も乗り切れるか、って言ったら、正直わからないわ。
実際、トランクスは──死んじゃったし。」
ブルマはそこで苦笑を滲ませながら、1度言葉を区切った。
──デンデたちには言っていないけれど、トランクスは……ブルマの目の前で殺されてしまったのだ。
タイムマシンに乗り込もうとしていた矢先に、突然トランクスに隠れるように言われて──後は、瞬く間の出来事だった。
何が起きているのか分からず、呆然としている間に、あの変な緑の化け物は、トランクスを飲み込み、タイムマシンに乗って行ってしまった。
止める間もなかった。
すべて、一瞬の出来事で、まるで悪夢を見ているようだったのだ。
「──というか、そうね、正直に言っちゃうと、私だって人の親なのよ。自分の息子が、たった一人で戦い続けるのを見るのは、とても辛いわ。
かと言って、もちろん、悟飯君が一人で戦ってるのが、辛くないわけじゃなかったのよ!」
自己弁護か、必死で言葉を連ねた後、ブルマは、ふ、と表情を暗くして、息を漏らす。
小さい頃から知っている悟飯が、ただ一人でがむしゃらに戦うのを見ているのは、辛かった。
彼のために何か力になれはしないかと、そう思って、色々試してみようとした時期もあった。
けれど結局、自分は彼に、何かをしてあげることは出来なかった。
たった一人で戦い続けた彼を、癒してあげることも、助けてあげることも、守ってあげることも──何もできなかったのだ。
絶望を抱えて死んでいっただろう彼のことを思うと、ブルマは今でも胸が締め付けられるように痛くてしょうがなかった。
悟飯が死んだと聞かされたときの、心に宿った絶望と……そうして、何もかもを一人で抱え込み、悟飯のときのように立ち上がる息子を見て、運命の残酷さをのろったものだった。
「トランクスが、悟飯に修行をつけてもらい始めたときにね──そりゃ、母としては内心、心配だったし、できれば辞めてほしいと思ってた。
けどね、それとおんなじくらい……ううん、それ以上に、トランクスが悟飯君のいいパートナーになってくれることを願ってたわ。
あの、孫君とベジータの息子なんですもの! 二人がタッグを組めば、きっと人造人間だって──って、そう、思ってた。」
でも、運命は残酷だった。
まるで、地球に戦士は一人しか要らないのだと言うように、トランクスが戦士として力をつける前に、悟飯は逝った。
あのときの、慟哭を──ブルマは、トランクスが亡くなった時に、再び思い出したのだ。
「私はもう──トランクスに孤独な戦士でいてほしくないの。」
「ブルマさん……。」
「そのために、悟飯君を蘇らせるのか、って言われたら、そりゃ……悟飯君にも悪いとは思ってるわ。
でもね、どれだけ考えても、やっぱり私は、あの子達を、一人で戦わせたくはないのよ。」
自分が傍にいても、どれほど彼らを助けようと思っていても、結局彼らは、戦うときは常に一人だった。
並び立てる者が誰も居ないから──ずっと彼らは一人だった。
その隣に立つのは、やはり同じ戦士ではなくてはいけないのだと、ブルマは、ずっと──20年もの間、そう思い続けてきた。
だから──どうせ神龍を呼び出すのだったら。
これくらいのわがままを、言って見たいと、そう思ったのだ。
「……悟飯さんもきっと、ううん、悟飯さんなら絶対に、ブルマさんと同じように思ってますよ!
トランクスさんを一人にしたくないって。」
だからきっと、大丈夫です!
ぐ、と拳を握ってそう言いきるデンデに、ブルマは目を丸くさせて──それから、ふ、と柔らかに笑った。
デンデはその笑顔に、うん、と大きく頷く。
「ありがと、デンデ君は、いい子ね〜。」
なでなで、と頭を撫でられて、デンデは微妙に顔を歪める。
小さい頃と同じ扱いをされていることも、どうかと思うのもあったけれど──ブルマにそうされることがあるなんて、思ってもみなかった。
思わず目を白黒させるデンデに、ブルマはニコリと微笑むと、すぐにキリリと表情を改めて、
「それで、デンデ君? ナメック星の神龍は、どれくらい前に死んだ人間までなら、生き返らせることが出来るの?」
「え、ええーっと……それは……、分かりません。」
「えぇっ、分からないのっ!?」
触覚をシュンと落としたまま、すまなそうに答えるデンデに、ブルマは大仰に眉を寄せる。
「はい。……そもそも、僕たちは滅多なことがない限り事故で死ぬことはありませんし、死ぬのはほとんど、自然死ですから……。」
そう説明されて、そういえば、とブルマは顔を歪めて思い出す。
ナメック人は、再生能力があるのだ。頭が潰されでもしない限りは、腕の一本や二本、平気で再生させることが出来る。
しかも龍族であるデンデなどは、仙豆並の回復をさせる能力まで持っている。
並大抵のことが起きない限り──本当に事故で頭が潰されて即死とか──、死ぬ、ということ自体がないのだ。
そして、自然死をした人間は、いくらドラゴンボールでも生き返らない。
と、言うことは──ナメック人たちはそれこそ、宇宙侵略にでも遭わない限り、誰かをよみがえらせて欲しいと願うことは、滅多にないわけで。
「けど、デンデ君は、神龍は何度でも蘇らせられるとか、1つの願いにつき1人だとか、そういうことは知ってたわけでしょ?
だったら……。」
それくらいは大体でも分かるんじゃないの? と続くはずだったブルマの言葉は、
「それは、僕が、龍族だからです。
けど、自分で作ったドラゴンボールの性能ならまだしも、先の最長老さまが作ったドラゴンボールにどこまでの許容範囲があるかどうかは、さすがに僕も分からないんです。。
デンデが口早に説明した内容に掻っ攫われる。
だから、ソレが何よ、と言いかけたブルマは、あれ? と頭の中でデンデが今言った言葉を復唱してみた。
龍族、という意味は分からないから、後で聞くとして。
自分で作ったドラゴンボールの性能?
「──えっ!? って、何、それ、もしかしてデンデ君、ドラゴンボール作れるのっ!!!??」
「は、はい、作れます。龍族ですし。」
肩をガシリと掴み、勢い良く近づいてくるブルマの顔に、思わずデンデはジリ、と後ろに下がる。
「うっそっ! デンデ君ったら、神様とおんなじ能力を持ってるってことなのーっ!?」
「同じとは限りませんよ? 龍族といえど、ドラゴンボールを作る能力を持つのは、ほんの一握りの存在だけですし──赦された者しか、ドラゴンボールを作ることはできません。
そ、それに、その作り出された神龍の能力も、作った者の能力に左右されるんです。」
それはスゴイじゃない! と、目をキラキラさせるブルマに、デンデはすまなそうに目を伏せて続ける。
自分たちの親である最長老さまは、偉大なるお方だった。
龍族としても、祖としても、長としても。
その偉大なる最長老さまが作られたドラゴンボールは、それはすばらしい能力が込められていただろう。
もしかしたら、あの方の能力で作られたドラゴンボールであったならば──七年前に死んだ悟飯も、蘇らせることが出来たかもしれない。様々な好条件が整わないと、実現はしなかっただろうが。
今の最長老さまも、すばらしいお方ではあるけれど……その辺りがどうなのかが、イマイチ分かりかねた。
フリーザの件があったことを踏まえて、このナメック星に移り住んでから、ムーリは条件を少し弄ったと言っていた。詳しい内容は聞いてはいないが、それ故に他の条件が狭まったようなことも言っていたから──もしかしたら、地球のドラゴンボールのように、「何年以内に死んだ者に限る」という条件付けがなされた可能性がある。
しかし、そのどれもが、今のデンデにははっきりと回答できるものではなかった。
こればっかりは、呼び出された神龍に問いかけないと分からない問題なのである。
最初から「こう」と決めた条件以外の条件は、神龍が自らが持つ能力内におさまるように、バランスを取ってしまうからだ。
「あー、そっか。そう言えばそうよね。神龍も、昔は良く『それはできかねる』とか、『わたしの能力を超えた者については……』とか言ってたもの。作り手の能力にも左右されるって言うことなのね。」
うんうん、とブルマは頷いて──それから、あーあ、と溜息を漏らす。
「まぁ、行き当たりばったりの賭けみたいな願いごとだから、叶わなくてもしょうがないって言えば、しょうがないんだけど。
……トランクスが一生懸命がんばってるご褒美に……とかって、閻魔大王様とやらが、気を利かせてくれたりしないかしらねーっ。」
頬杖をつきながら、ブルマはそんなことを呟いてみる。
まぁ、ありえないと思いながらも、希望として。
そんなブルマに、デンデは少し考えこむように顎に手を当てて目を伏せる。
「悟飯さん、を……生き返らせる──……。」
「そう言えば、デンデ君は、悟飯君と仲が良かったものねー。」
小さく呟いたデンデの言葉に、複雑な感情が込められているのに気づいて、そっか、とブルマは頷く。
もし悟飯が生き返ったら、デンデもとても嬉しいに違いない。
……ふむ、と、ブルマは少し考えるように首を傾げると、ピーン、と来たようにニマー、と笑みを口元に刻んだ。
「あ、ねぇ、デ・ン・デ・くーん?」
つつつ、とブルマはいたいけな少年なら一撃で鼻血を吹きそうな色香を垂れ流しながら、デンデに擦り寄る。
彼の腕に、ぴたり、と自分のむき出しの腕をくっつけると、わざとらしく上から上目遣いでデンデを見つめる。
「はい、なんでしょう、ブルマさん?」
「──…………。」
突然擦り寄ってきたブルマに驚きながらも、デンデはキョトンと彼女を見上げる。
その純朴な視線に、ブルマは、チッ、と舌打ちしたくなった。
──そうだわ、こいつらナメック人は、雌雄同体(違)だったんだわ……っ!!
自分の魅力が通じない人間(というかナメック人だけど)の存在に、ブルマはグッと拳を握り締めたが、気を取り直してデンデを見上げ直す。
「デンデ君は、ドラゴンボールが作れるって言うことよね?」
「はい、最長老さまに許可をいただければ、ですけど……。」
何を言い出すのだろう、と言う目で、キョトンと自分を見つめるデンデに、ブルマはそのまま体を摺り寄せて、デンデの腕に自分の腕を絡める。
「うふふ……それなら、ちょっと私と一緒に地球まで来て、地球のドラゴンボールを作ってくれるって言うのは、どうかしら? ──ついでに、悟飯君が生き返れるくらいにパワーアップさせてv」
どう? と、軽い口調で、おねだりしてみた。
本気半分、冗談半分、である。
そうなればいいな、とは思う反面、自分が無茶を言っているのも分かるからこそ、の半分半分だ。
ナメック人には効かないと分かっていながらも、おねだりといったらこのポーズ以外に思い浮かばなかったのだ。
亀仙人には百発百中に効く必殺のポーズである。
ちなみにトランクスには、「母さん……いい年して恥ずかしいです……」と失礼なことを言われるポーズでもある。
ね? と、留めとばかりにウィンクをしてみたら、デンデは苦笑を浮かべて、
「いいですよ?」
静かに──静かにそう返した。
その、あまりに静かに、けれどアッサリと返された言葉に、ブルマは一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
「──……え?」
ちょっと、今、何と言ったの? ──と、呆然と口を開いて、ブルマは間近に見えるデンデの顔を見上げた。
マジマジと自分の顔を見ているブルマにきづかず、デンデは頭を軽く掻くと、照れたように目元を赤らめる。
「……とは言っても、僕の力では、悟飯さんを生き返らせるくらいにパワーアップできるかどうかは、分かりませんよ?
あの、……それでよかったら。」
はにかむような表情で、デンデはブルマを見返す。
そして、そこでようやく、彼女が自分を呆然と見上げているのに気づいたデンデは、不思議そうに首を傾げた。
「ブルマさん?」
名を呼ばれるなり、ブルマは問いかけるデンデの肩を、ガシッ、と掴んだ。
え、と目を白黒させて驚くデンデを、真下からジロリと睨み挙げると、そのままグイと顔が触れそうなほど間近で覗き込む。
その迫力に、思わずデンデは顔を後ろに下げる。
「ちょ、ちょっとデンデ君っ!? いま、自分が言ったことの意味、分かってるのっ!?」
「は、はい! 僕が地球に行って、ピッコロさんの跡を継ぐってことですよね?」
自分で誘っておきながら、なんでそんなことを聞くのかと、デンデは不思議そうに目を瞬く。
「地球に来るって──あんた、それで本当にそれでいいのっ!?」
「いいも何も──だって、今、ブルマさんが誘ったんですよ?」
ガクガク、と肩を揺さぶりながら叫ぶブルマに、デンデは彼女の腕を止めて、いぶかしげに問いかける。
少し離れた所で、ドラゴンボールを探していた仲間たちが、こちらをギョッとしているように見ているのが分かった。
デンデは彼らに大丈夫だと示すように、ヒラリと手の平を振る。
兄たちは、デンデのその仕草に安心したのか、またスルリと岩場の間に消えていく。
まだドラゴンボールを探し出すのには、もう少しかかりそうだった。
姿を消した兄たちからブルマへと視線を移せば──ブルマは、目を伏せながら、複雑そうな顔をしていた。
「そりゃ、誘ったのは私だけど……私だって、ちょっと冗談半分だったっていうか……、まさかこんな即答で返事をもらえるとは思ってみみなかったというか……。」
モゴモゴ、と更に続く独り言に、デンデは、カァッ、と触覚まで赤く染める。
「えっ! 冗談だったんですかっ!?」
ぅわっ、だったら、本気で答えた僕って、物凄く恥ずかしいっ! と、赤らめた顔を両手で押さえるデンデに、ブルマは苦笑をにじませた笑みを浮かべる。
「冗談半分って言ったでしょ! 残る半分は本気だったのよ!
でも、まさか──本当に来てくれるなんて思ってなかったっていうか……。
まぁ、来てくれるのなら、それに越したことはないんだけど。」
せめて、「考えさせてください」とか、そういう答えになるものと思っていたのに、「いいですよ!」と即答と来たもんだ。
これを驚かずに、一体何を驚けというのだろう。
──もしかしたら、悟空や悟飯なら、「そっかー!」の一言で済ませてしまったかもしれないけれども。
「いいんですか? 僕、地球に行ってもっ?」
ぱっ、と目元を赤らめたまま、笑顔になるデンデに、今度こそブルマは満面の笑顔を浮かべて、大きく頷く。
「もちろんよっ! デンデ君なら大歓迎よっ!」
がしっ、とブルマはデンデの両手を掴み、ブンブンとそれを上下に振る。
に、と口元に笑顔を広げながら──心の中で、そ、と付け足す。
……もし、悟飯君とクリリンが生きていたなら、きっと、とても喜んだろうに、と。
「はい! ありがとうございます、ブルマさんっ!
僕、がんばります!!」
デンデはブルマの言葉に、ぱっ、と顔を輝かせる。
ブルマが、グッ、と親指を立てて笑うのに、デンデもそれを真似するように親指に当たる場所をグッと立てると、あは、と照れたように笑って頭を掻く。
「ほんと……デンデ君に地球に来てもらったら、本当に助かるわ。」
ありがとね、ともう一度続けるブルマに、デンデは、そんな、と頭を軽く振る。
「そんな簡単に決めちゃっていいの? ムーリさんとか反対しない?」
「それは大丈夫だと思います。
お世話になった地球のためですから、最長老さまは、許可を下さいます。」
それに──と、デンデは恥ずかしそうに頬を掻きながら、目を伏せて続ける。
「僕……地球から帰ってきてからずっと、その──地球の話ばかりしてたんです。
また……いつか、地球に行ってみたくて。」
「あら、デンデ君は、地球が気に入ってたの?」
モジモジ、と指先をあわせながら呟くデンデに、ブルマは体を離して首を傾げる。
そう言えば、お別れの前には、物凄くワンワン泣きをしていた覚えがあったが──、悟飯とクリリンと離れるのがイヤなだけだと思ってた。
「はい! 地球はスゴイです! 生き物もたくさんいるし、海も綺麗だし、たくさんの人がいて、たくさんの物があって! 悟飯さんとクリリンさんに、いろんなところへ連れて行ってもらって! 僕、本当にたくさん、いろいろ見て、知って、それで──……っ!」
がばっ、と顔をあげて両手を広げて力説して叫ぶデンデに、くす、とブルマは笑いを零す。
その笑い声に、はっ、と我に返ったデンデが、触覚をビンッと立てて手の平で顔を覆った。
「す、すみません……っ! 僕、ちょっと調子に乗っちゃって……っ!」
「あははは! なーによ、照れてるの、もしかしてっ!」
高らかな笑い声を上げて、ブルマは満面の笑顔を零す。
──あぁ、そうだ。
あの時の地球は──ナメック人たちが居たときの地球は、本当に、綺麗だったのだ。
ブルマの家に彼らが居候としているときには、良く悟飯とクリリンがやってきては、デンデたちをつれて、どこかへ遊びに行っているようだった。
どうやら、パオズ山や亀仙人ハウスなどに行って、あっちこっちを自然に溢れた地球を体感させていたようだった。
──けれど、今は。
「……ねぇ、デンデ君。」
あの地球は、人造人間に破壊されて──見る影もない。
「でもね、今の地球は……。」
あなたが憧れ、あなたが好きだと思ったことが、全然ないかもしれない。
デンデが慕った悟飯もクリリンも、とおの昔にあの世で。
悟飯も──生き返らない可能性のほうが、高いのだ。
だから、今地球に行っても、君は……後悔するかもしれないのよ?
そう続けようとしたブルマに、デンデは笑って、首を振った。
「分かってます。地球に今何が起きているのかは、僕も、ちゃんと分かってますよ、ブルマさん。」
僕だって、もう、あの頃のような小さい子供じゃないんです。
デンデは、自分の手の平を見下ろして、ぎゅ、と握り締める。
「ナメック星がなくなったとき、僕は何も出来ない子供でした。」
けど、今なら、役に立てるんです。
今なら──地球を救う手助けが出来るんです。
真っ直ぐにブルマを見つめるデンデの双眸に、彼女は真摯に彼を見返し──そして、うん、と一つ頷いた。
「ありがとね、デンデ君。
……ほんとうに、ありがとう。」
彼の手を、そ、と握り締めて──ブルマは、とびきりの笑顔でそう告げた。
最長老の前に、ゴロリと七つのドラゴンボールが転がる。
その前に立ち、よしよし、とブルマは腰に手を当ててうなずいた。
今までにも何度か生き返りを望んだことはあったけれど──でも、自分の一番大切な人が蘇ると言うのは、興奮もひとしおだった。
「さ、デンデ君っ! 打ち合わせどおりに頼むわよっ!」
ぐ、と親指を立てて告げるブルマに、デンデは嬉しそうに大きく頷く。
「はい! まかせてくださいっ! では、参りますっ。」
最長老に向いて叫べば、ムーリはコクンと頷いてデンデに続けるように促がす。
ふぉん、ふぉん、と──光り始めたドラゴンボールを前に、デンデは厳かに両手を広げる。
誰もが固唾を呑んで見守る中、デンデはリンとした声で呪文を唱えた。
「タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ!」
その言葉と同時に、ドラゴンボールは激しく瞬き、空が一瞬で暗くなった。
おぉ、と感嘆の呟きが零れる中、ブルマにとっても──そしてナメック人たちにとっても、20年ぶりになる神龍が出現する!
「ポルンガ!」
喜びのどよめきを発するナメック人たちの前で、ブルマは見上げるほどに巨大な神龍を見上げた。
ごくん、と喉が上下して──知らず握り締めた手の平に汗が滲んだ。
これで、私の息子が蘇る!
【さぁ、願いを言え。可能な限り叶えてやろう。】
奥底から響き渡るような声で、神龍は告げる。
その声の深さに、ナメック人たちの何人かが、ゾクゾクと体を震わせた。
デンデはチラリと自分の肩越しにブルマを見る。
ブルマはその合図に気づいて、コックリと頷く。
「心の準備は、いつだってOKよ!」
やってみせる──何がなんでも。
最後のドラゴンボールを見つけ、この最長老の元に戻ってくるまでの間に、デンデと打ち合わせた内容をブルマは脳裏に思い描く。
最長老にも、デンデはテレパシーでその内容を伝えてはいる。
大丈夫。
デンデは、続けて最長老の顔を見る。
慎重な表情の最長老は、うむ、と重々しく頷いた。
それと見届けて、デンデは両手を広げてポルンガに訴える。
『ここにいるブルマさんの息子さんの、トランクスさんを、生き返らせてくださいっ!』
良く響き渡る声のナメック語でそう叫べば、ポルンガは無言でデンデの顔を見下ろした。
ごくん、と誰もが固唾を呑んで見守る。
ポルンガは目を細めて、
【よかろう。その願い、かなえてやろう……。】
キラリ、と両目を光らせた。
「──っ!」
よし、と、ブルマは手を軽く上下させる。
デンデも、ぱっ、と顔をほころばせる。
ポルンガは目から光を治めると、低い声で続ける。
【トランクスとやらは蘇った。
さぁ、次の願いを言え。】
淡々とした声に、ナメック人の何人かがあたりを見回すが、当然、ここで死んだわけではないトランクスの姿はココにはない。
デンデは、再びブルマを振り返る。
「きっと地球で蘇ってるはずよ。」
すぐにでも会いたいだろうに、ブルマは気丈にも笑って見せると、自分の頬にかかる髪を耳に引っかけた。
そして、真っ直ぐな目をデンデに向けると、こくん、と顎を引いて頷いてみせる。
──これからが、本番なのだ。
一つ目の願いが、ブルマの本命の願いではあった。
けれどそれは、条件が万全に整っているから、ドラゴンボールが集りさえすれば、絶対に叶うと分かっている願いだった。
だから──気合を入れて取り掛かるのは、これからの……「二つ目の願い」なのだ。
同じく緊張に顔を染めたデンデに、ブルマは小さく深呼吸をして──お願い、と、掠れた声で頼んだ。
「では……いきます。
ポルンガ! 二つ目の願いです!」
両手を広げて、再びデンデはナメック語で告げる。
『7年前に死んだ、地球の孫悟飯と言う人を生き返らせてください!』
ポルンガはその願いに、す、と目を細め──黙考するかのように、しばし沈黙した。
そして、重々しくその口を開く。
ごくん、と、ブルマとデンデの二人の喉が上下した。
ポルンガは、静かに厳かに二人に向かって告げる。
【それは出来かねる。
他の願いを言え。】
ずっしりと二人の頭の上に落ちるその言葉は、半ば以上予測はしていたものだった。
一心の願いを託した者への答えにしては、あまりにストレートで、あまりにそっけなすぎる。
ブルマは苦笑を浮かべながら、落胆の溜息を漏らす。
「そう……やっぱり、駄目なのね……。」
「ブルマさん……。」
どうしましょう、と振り返るデンデに、ブルマは米神を指先で揉むと──、うん、と一つ頷いた。
長いかた、一端ここで切ります。
ブルマさんとデンデさんは、仲がいいといいなぁ、と思います。
でもブルマは、なんだかんだで自分が母親になるまでは、子供とかの面倒見はあんまり良くないんですよ。
普通に扱っちゃうのです(笑)
だから、そんなブルマから頭を撫でられたりして、悟飯とかデンデが驚いてくれると嬉しいな、と(笑)