彼女はいつも、パワフリィ









 ピコーンピコーンピコーン。
 宇宙船の操縦席から聞こえてきた音に、ベッドの上でゴロゴロしていたブルマは、バッと起き上がった。
 年を取っても美しいラインを変えない脚をさらして、タンクトップに半パンといういでたちの──楽さを追及したため、年に見合わないラフな格好でくつろいでいたブルマは、急いで冷たい床を蹴って操縦席に辿りつく。
 小さな液晶に表示された項目を鋭い目で認めて、ブルマはキーの上に指を滑らせる。
「よーしっ、よし! さっすがブルマさまっ! 世紀の天才とは、私のことを言うのよねっ!」
 自画自賛の独り言を言っても、突っ込む人間は誰もいない。
 広い──10人は乗れる広い宇宙船に乗り込むのは、ブルマたった一人だからだ。
 地球を出発するとき、後の地球のことは頼んだと告げたチチや亀仙人、プーアルたち昔なじみの──今まで生き残ってきた非戦闘員たる仲間たちは、自分たちも一緒に行くと、そう言ってくれた。
 けれどブルマは、亀仙人たちのエロ心を拒否する以外の理由で、彼らには地球に残るように頼んだ。
──トランクスが人造人間を倒したとは言えど、自分の目の前でトランクスを吸収してしまったあの化け物が、いつ戻ってくるのか、わからないのだ。
 まぁ、半ば以上の可能性で、過去の世界で悟空たちが倒してくれることを願っているのだけれど。
 そんな状況下で、丸投げしていくわけには行かないというのも理由の一つ。
 もう一つは、あの人工生命体が戻ってくる、戻ってこないに関係なく……今の地球を支える人の手が、一つでも欲しかった、ということがあった。
 元々ブルマとトランクスは、世界が平和になれば──人造人間が倒された後には、カプセルコーポレーションの地下シェルター内に、長い間保存され続けてきた「在庫」を、地球全土に配るつもりでいた。
 家を壊された人たちのために、ハウスカプセルを。
 分断された大陸を行き来するための、移動手段を封じ込めたカプセルを。
 人造人間が居た同時には、それを配ってもすぐに壊されてしまうという見解の元、ずっと日の目を見せずに──いつか来る平和の日に配れることを祈って、封じてきたそれらを。
 一人でも多くの人に、少しでも早く渡して欲しいのだと、ブルマはチチたちに願い出たのである。
 それに──ナメック星人たちが良く知っている地球人は、今生きている人間の中ではブルマだけだ。
 だから、ブルマが行く以外に、方法はないのだ。
 そして、ナメック星に行くのに、2人も3人も要らない。
 危険があれば、すぐに戻ってくる。
 そう約束して、ブルマは亀仙人やチチたちに残りを託して、宇宙に飛び出してきた。
 快速の宇宙船に乗って、一週間。
 半日もしないうちに、占いババが的確に示せる範囲である太陽系を抜けて、3日過ぎた頃には、北の界王が納める北の銀河を抜けることが出来た。
 一週間が経過した今居る場所は、前のナメック星があった場所よりも、更に地球から遠く離れた場所だ。
「……ん、ここから──、あと3日ほど進んだところねっ!
 うっふっふっふ〜、順調、順調!」
 まさか、こんなにすぐにナメック星人の反応が見つけられるなんて! と、ブルマは小躍りしたい気持ちで両手を握り締める。
 そのまま操縦席に腰掛けると、地球からの現在位置と、ここまでのルートがきちんとデータに保存されているのかを確認して、よしよし、と頷く。
「よーっしっ、待ってなさいよ、トランクス! この美人で天才のお母様が、あんたをバッチリ生き返らせてあげるからねっ!!」
 よし、と両手を握り締めて宣言すると、ブルマは画面に表示された到着予定時刻を確認すると、ナメック星で使うつもりだった装着する形の元祖スカウターの調整をするため、ベッドサイドに移動する。
 辺りに色々と散らかっているが、それも気にせず、ブルマは工具セットを取り出して、よし、とその場に胡坐を掻いた。













 ナメック星に到着したのを宇宙船が告げると、ブルマは気が急くように着陸態勢になるように指示を出す。
 自らは防護服を着て操縦席に座り、しっかりシートベルトを締める。
 そうしながらも、ふ、と記憶の片隅に蘇った、もう20年以上も前の出来事に、ふ、と小さな笑みがこぼれる。
 あの頃──まだ自分が20代の頃、悟飯とクリリンと一緒にナメック星に行った。
 あの時も、ナメック星のドラゴンボールが目当てで出かけたんだけど、ほんと、ろくなことに遭った覚えがない。
 最後の最後で、地震だの大マグマだのに襲われて、ほうほうの体で逃げたっけ。
 あの時は、気づいたら地球に居て──あぁ、そうだ、あれからベジータと一緒に暮らし始めるようになったんだっけ。
「懐かしいわねー。」
 もう二度と、こんな大冒険はしないわっ! ──と、ブルマはあの時、心に誓ったというのに。
 今自分は再びこうして、わざわざ地球外のドラゴンボールを求めにやってきている。
 それも、地球の未来──なんていう大きくて厄介な代物を背中に背負って。
 ──ううん、違う。
「私が背負ってるのは、地球の未来だとか、そんな大きな物じゃなくって──ただ単に、私のたった一人の、大事な息子のため、だけなのよねー。」
 眼下に映る緑と青が入り混じった美しい星を見下ろしながら、ブルマは、ふ、と小さく吐息を零す。
 この大冒険が──本当に人生で最初に最後になればいいのに、と思いながら、彼女は着陸に入った宇宙船の中で、苦い笑みを口元に刻み付けるのであった。













 無事に着陸をした宇宙船から降りると、辺りは自然の只中。
 周りを見回しても、湖と木と岩と草があるばかり。
 殺風景な自然の光景は、前のナメック星に到着したときに見た光景と、そう変わらないように見えた。
「ここがナメック星かどうか、確認しないとね。」
 辺りの景色を確認した後、ブルマはポケットの中からドラゴンレーダーを取り出し、スイッチを入れる。
 宇宙に旅立つ前に、使えるかどうかを確認しては来たが、地球にはすでにドラゴンボールはない。そのため、レーダーとしての性能がきちんと動いているのかどうかを確認することはできなかった。
 少しの不安を抱きながらも、中味の回線は何も問題はなかったのだから、と、スイッチを入れたレーダーは、広域操作に変えた途端、ピッ、と、反応を生み出した。
 ──実に20年ぶりの反応であった。
「あったーっ!!! あるっ! ドラゴンボールの反応があるわーっ!!!」
 やったっ、と、ブルマは飛び上がりたくなる気持ちで、ドラゴンレーダーを両手で掲げた。
 興奮冷めやらぬままに、更にドラゴンレーダーの操作を広域に変更する。
 そうすれば、小さな画面の中に、3つの反応が出現した。
 そのどれもが違う場所にあった。
 よしっ、と握りこぶしをして、ブルマは込み出る笑顔をそのままに、ガッツポーズを作る。
「それじゃ、早速ドラゴンボールを探しに──……、と、その前に、ナメック星人たちに会わないといけないわね。」
 ナメック星のドラゴンボールは、ナメック語にしか反応しないのだ。
 ブルマも、ミスターポポに教えてもらって、ある程度のナメック語は使えるが、完全に使いこなせるわけではない。
 それに──知らない人間じゃないのだから、勝手にドラゴンボールを使いますよー、というのも、後味が悪いものだ。
 ブルマは宇宙船に近づくと、カプセルボタンを押して、船をカプセルに戻す。
 このナメック星が危険だとは限らないけれど──というか、あの時みたいにフリーザ軍のような存在が来ていたら、本気でゴメンナサイして地球に戻る気満々だけど。
 宇宙船が壊されてしまって、二度と地球に戻れなくなったらたまらない。
 前回と違い、今回は完全に1からカプセルコーポレーション製品なので、きちんとカプセルに戻せるのだ。
 こうしてカプセルにしておけば、壊される心配だけは、とりあえずはない。
 よしよし、とカプセル入れにそれを戻した後、ブルマは別のカプセルを取り出す。
 ボタンを押して放り投げれば、ボムッ、と音がして目の前にジェットフライヤーが出現する。
「えーっと……、スカウターで、人里を探さないと。」
 さすがに悟飯やトランクスのように、ブルマは人の気配を探ることなど出来ない。
 こういう時にスカウターは、本当に役立つわー、と、ブルマは自分のポケットから取り出したソレに頬刷りをしてから、ベジータたちが昔つけていたように自分の耳に引っかけた。
 指先でボタンを押して、まずは広範囲で人の反応があるかどうかを選択させる。
 ぴぴっ、と機械音がなり、すぐにブルマは自分のいる場所から南西に50キロくらいの地点に、十数個の「気」が集っていることを知った。
 その方角は、ドラゴンレーダーに最初の反応を見つけたのと、ほぼ同じ地点だった。
「あら、それじゃ、前みたいに一つの集落に1個、ドラゴンボールを持っているのかしら?」
 首を傾げながらも、それなら結局、ナメック星人に会うことになるのに違いはない。
 ブルマはイソイソとジェットフライヤーに乗り込むと、
「──あれから20年も経ってるんだもの……、あの人たち、私のことを覚えてるかしら……。」
 さすがに、生活を世話してやった人間の顔を覚えていないとは、言わないわよね? と少々の不安を覚えながら、ジェットフライヤーのエンジンを入れて──一気にその地点向けて飛び出した。
 最速のジェットだけあって、空に飛び立って十分もしないうちに、眼下に人里らしきものが見えてきた。
 着陸する場所を見つけるために、グルリと上空を旋回すれば、家から出てきた緑色の物体が、こちらを見上げているのが分かった。
「あら、ナメック星人ねっ! アレはデンデ君かしら、ムーシさんかしら! うーん、どれでも一緒に見えるから、全然わかんないわっ! ま、いっか!
 やっほー、地球から来たブルマさんですよーっ!! 覚えてるーっ!?」
 片手で手を振りながら、窓から見下ろして叫んでみるが──当然、下には聞こえない。
 ブルマは気にせずに、ゆっくりと集落から少し離れた所にジェットフライヤーを下ろした。
 静かに着陸したジェットフライヤーを、何人かの緑の物体が遠巻きにして見ている。
 その光景をチラリと見ながら──なっかなかにシュールだわー、と、ブルマは思った。
 20年以上前に、自宅の一階で、彼らがそこらじゅうにいる光景を半年以上も見ていなかったら、怖くて泣いて帰っていたかもしれない。
 ブルマは開閉スイッチを押すと、音もなく扉が開く。
 かぽ、と縦に開いたガラスの天井を押し上げて、ブルマは操縦席から身を乗り出した。
 目の前にいるのは、小さい子供のようなナメック星人と、それよりも少し大きいくらいのナメック星人。
 何人かのピッコロにそっくりなナメック星人が、こちらを警戒しているのが分かる。
「はーい! 久しぶりーっ! ──っていうか、皆同じ顔すぎて、本当に久しぶりなのかわかんないわー。」
 明るく友好的に、右手をヒラリと挙げて笑顔で挨拶をしてから、ヒラリとブルマはジェットフライヤーから降りた。
 突然話しかけられたほうは、ギクリと身を強張らせ、こちらを睨みつけている。
 子供たちなど、怯えたように戦士タイプの後ろに隠れる始末だ。
 しっつれいしちゃうわねー、私とフリーザたちなんかを、一緒にしないでほしいわっ。命の恩人に対してっ!
 心の中でぷりぷり怒りながらも、自分はココにドラゴンボールを借りに来た身だ。
 ここは憤りを飲み込んで、ブルマはナメック人たちに微笑みかける。
「えーっと……ここに居る人の中で、地球のことを覚えてる人、いるかしらー?」
 居たら返事してー、と、子供に言い聞かせるような口調で、ブルマはあっけらかんと問いかける。
 その口調はどうなんだ、と思わないでもなかったが、ナメック人たちはそう思わなかったらしい。
 ナメック人たちは、顔を交互に見合わせながら──戦士タイプの者が一人、ずい、と片足を踏み出し、
「地球のことなら、長老たちに聞いて、誰もが知っている。
 が──お前、何者だ?」
「あ! あなた、なんだか声に聞き覚えがあるわっ!」
 警戒心を露にしたナメック人の凄みのある声に、ブルマはなぜか嬉々とした表情になる。
 そんな女に、ナメック人はいぶかしげな表情になる。
 ブルマは、うーん、と顎に手を当てた後──ああっ、と指をパチンと弾けさせる。
「分かったっ! あなた、あの小さかったエスカでしょ!」
「──……なっ!?」
 なぜソレを──っ、と、驚愕の表情を浮かべるところは、ピッコロにソックリだった。
 うんうん、とブルマは頭を頷かせながら、覚えてるわ、と目をキラキラさせながら続ける。
「覚えてるわよー、よく、ムーリさんの後ろで、しゃがみこんで泣いてたわよねっ! そっか、あなた、戦士型だったのね。」
 そう言えば、当時のあなたのデータが、スカウターにもあったっけ。
 明るく続けるブルマの内容に、な、な──……っ、と声を震わせていた戦士は、周りの子供たちからの、不思議そうな視線に気づいて、慌てて小さく咳払いをする。
 そして、じっとりと目を細めて、自分の目の前に立つ女を見つめた。
 服装はおいておくとして、その姿は──地球人に似ている。
 というよりも、地球という単語を知っているか、と聞いたことから察するに、地球人なのだろう。
 地球人といえば思い浮かぶのは、自分たちを救ってくれた人たちのことだ。
 デンデが良く懐いていた悟飯という子供と、クリリンという子供(本当は子供じゃないけど、いつもそういう認識をされる)。
 それから、「美味しいお水よ」と用意してくれた女性と、その夫という人と、それから──……。
「あーっ! ブルマさんだっ! ブルマさんだよ、エスカ!!」
 記憶をさらった中に、ふとヒットした顔に、まさか、とエスカが目を見開いた瞬間だった。
 彼の少し離れた所に居たナメック人──龍族であり、自分の二つほど上の子供にあたる兄弟が、パッ、と笑顔になって叫んだ。
「そう! そうよっ! あんたたちが地球に居たときに、一緒に暮らしていたブルマよ! よかった、覚えていてくれる子が居たのねっ!!」
 パッ、と顔を明るく笑わせる──そのブルマの顔に、そう言えば、と、他のナメック星人たちも──前の最長老の子である者たちが、ざわめきはじめる。
 彼らの記憶にある「ブルマ」は、髪が長かったりクルクルしていたり、いろんな形であったけれど、若い娘であった。
 けれど今、目の前にいるブルマはそうではなかった。
 髪をこざっぱりを切り、に、と笑う顔は若々しく見えたが、その周りを覆う気が、あの頃よりも小さくなっている。
 ナメック星たちが成長したように、彼女もまた年を取ったのだろう。
「覚えてます! でもビックリしました、もうどれくらいの月日が経ったのでしょうかっ。ナメック星の周期で、60年は経過していますよ! ブルマさん、お元気でしたかっ!?」
 戦士タイプとは違う、穏やかな表情をしたナメック人に駆け寄られて、ブルマは首を傾げる。
「えーっと……あなたは……。」
「ルゴです! いつも、あなたのお父さんのネコちゃんに引っかかれてた……。」
「あ、あーあーあ! 覚えてるわっ! まぁ、あんたもおっきくなっちゃって!」
 バンバンっ、と自分よりも大きくなってしまったナメック人の腕を叩いて、ブルマはワラワラと自分の周囲に集ってくる彼らに笑顔を見せる。
 懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
 ──あの時は、そう、まだ、みんないたんだ。
 孫君は……まだ帰ってきてなかったけど、悟飯君も、クリリンとヤムチャと天津飯と餃子はまだ生き返ってなかったけど、それでも生き返ることが分かっていて。
 ピッコロもそう言えば、しばらくはカプセルコーポレーションに滞在してたんだっけ。
 それからベジータと。
「懐かしいわね……。」
 そ、と目を細めたブルマに、周りの若いナメック人とは違った、少し老けたナメック人が問いかける。
「あの……ブルマさん、悟飯さんたちは、一緒ではないのですか?」
 その言葉に──あぁ、と、ブルマは切なげに笑みを零す。
「──そのことで、私はここに来たのよ。
 ……ねぇ、ムーリさんは……、今の最長老さまは、どこに居るのかしら?」
 懐かしくも嬉しい再会は、ここまで。
 これからは──ぐ、と、ブルマはドラゴンレーダーを握り締める。
 ブルマの、一瞬で変わった表情の変化の意味に気づいたのだろう。
 他のナメック人たちも、ハッ、と顔色を変えたのが分かった。
 彼らの顔を一つ一つ見ながら、ブルマは手の中に取り出したドラゴンレーダーを見下ろす。
「地球が今、とても大変なことになっているの。
 ──ドラゴンボールの力を、貸してほしいのよ。」
 どうしても。
 そう告げるブルマの顔に、彼らは真摯な表情で、こっくり、と頷いてくれた。











 彼らの集落から、最長老がいるという集落までは、ジェットフライヤーで1時間ほどの距離にあった。
 前のナメック星よりも、星自体の大きさが二周りほど小さいのだそうだ。
 先導するエスカの後を追うようにジェットフライヤーを操縦していたブルマは、眼下に広がる大地を見下ろして、「けっこう、緑が少ないわねー」とボヤく。
 前のナメック星が、天変地異の後とは思えないほどに豊かになっているように見えたから、余計にそう思うのかもしれない。
 彼らが移住したての頃は、もしかしたら、もっと緑が少なかったのかもしれない。
 それを一生懸命ココまでに戻したのだろう。
「……地球も、おんなじように、緑が増えるかしら、ね。」
 先導するエスカが、時々気にするようにこちらを振り返るのに手を振ってやりながら、ブルマは小さく吐息を零す。
 そうしながら──ドラゴンボールを呼び出したら、どう願おうか、と思う。
 ナメック星に行くと決めた時から、考えていたことだった。
 もちろん一つ目は、トランクスを生き返らせること、だ。
 それだけは絶対に譲れないし、叶わない道理はないだろう。
 二つ目の願いも決めている──けれど、これはおそらくは、叶わない願いだ。
 神龍は、それはできない、と答えるだろう。──もしかしたら、かなえてくれるかもしれないけれど。
 そうしたら、神龍に頼んで、地球を緑豊かな星にしてもらおうか? ──否、人造人間の被害が20年も続いているのに、今更緑豊かな星が、ぽん、と戻って、どうしたらいいと言うのだろう?
 この1年の間に斃れた人たちをよみがえらせてもらう? ああ、ナメック星の神龍は、1つの願いで1人しか生き返らせられないのだったっけ。
 二つ目の願いが叶う可能性は低いのだから、残る1つの願いごとをかなえてもらうことなど考えても、仕方ない、か。
 ──なら。
 二つ目の願い事が叶わなかったら、どうしようか?
「あーあ、もう、ほんと、どうしようかしらねぇ。」
 本当の本当は、悩んでいるのだ。
 二つ目の願い事の行方をどうしようかと。
 こんなことを願ってもいいのかとか、それこそ今更じゃないのか、とか。
 そんなことをして喜ぶ人間は居るのだろうか、とか。
 天才ブルマさまでも、人の命が関わることだから、悩んでしまうのだ。
 困ったわねー、と呟いたところで、前を飛んでいたエスカが、くい、と指先で合図をする。
 彼の視線を追えば、少し先に集落が一つあるのが分かった。
 先ほどの集落と同じように、すぐ近くの水場があり、少し大きめの畑があった。
 そこには苗木が植えられていて──前のナメック星と同じように、アジッサ? とか言う木を植木しているのだろう。
 それを横目に見ながら、ブルマは下降していくエスカを追って、集落から少し離れた所にジェットフライヤーを駐車させる。
 軽い重力の上下を感じながら、ゆっくりとエンジンを切れば、先に地面に降り立っていたエスカがこちらを振り返っているところだった。
 ガラスの蓋のようになっていたフロントを開ければ、ちょうど集落の中から何人ものナメック人が出てきたところだった。
 ブルマは彼らに向かって身を乗り出しながら、
「はーい、こんにちは!」
 明るい笑顔で挨拶をする。
 今度もまた、引かれちゃうのかしら〜、と思いながらしたところ、先ほどとは違い、おぉっ、とザワメキがナメック人たちから上がった。
 あら? と思っていると、
「ブルマさんっ!」
「おぉ、地球の人だっ!!」
「地球の娘さんだっ!!」
 先ほどとは全く違う、歓迎に満ちた声があがってきた。
 片手をあげて挨拶したブルマのほうが、思わずそのまま固まってしまうくらいだった。
「ど……ども。」
 万歳三唱をしそうな勢いで喜ぶナメック人たちに、タジタジになりながら、ブルマはジェットフライヤーから降りる。
 どうやらこの集落は、最長老がいることもあってか、年を重ねている者たち──ひいては、地球に移住していた期間がある者ばかりで構成されているらしい。
 地面に降りて、ブルマが最長老の姿を探そうとしたところで、
「ブルマさーんっ!!」
 ナメック人の緑の間から、ひょこ、と顔を出した姿があった。
 背丈は10代中ほどの少年くらい。
 ぴょっこりと揺れる触角は、他のナメック人たちと変わらない。
 どう見ても、他のナメック人たちと同じ顔なのだけれど、あれ、と一瞬思う違いが一つだけあった。
 それは、自分に向ける表情が、他の人よりも随分となつっこい感じがしたのだ。
 この感覚は、どこかで覚えがある──と思ったと同時に、
「ああっ! デンデ君っ!?」
 答えがブルマの口から飛び出た。
 するとその子は、ぱぁっ、と顔をほころばせて、嬉しそうに笑って頷く。
「はい、そうです! デンデですっ!!
 お久しぶりです、ブルマさんっ!!」
「わーっ! うそっ、本当にデンデ君なのっ!? ずいぶん大きくなっちゃってっ!」
 走り寄って来るデンデに、ブルマも駆けつけて、互いに手を取り合って再会を喜ぶ。
 そんな二人の後ろから、
「これ、デンデ。再会の喜びは後にしなさい。
 ブルマさんは、急ぎの用でナメック星に来ているようだからの。」
 ゆったりとした声が聞こえてきた。
「あっ、すみません、最長老さまっ!」
 慌ててブルマの前から横に移動したデンデが、ナメック人たちの間から姿を見せた最長老に、ペコリと頭を下げる。
 ブルマはパッと顔をほころばせて、
「あら、ムーリさん、お久しぶり!」
 ヒョイ、と片手をあげる。
 ムーリは微笑を深めて──それから、
「お久しぶりです、ブルマさん。
 今回の訪問の件については、ツムリ長老から話は聞いておりますよ。──ドラゴンボール、ですね?」
 真摯な表情で、ヒタリ、とブルマを見据える。
 ブルマは驚いたように目を見開いて──それから、あぁ、そっか、と前髪を掻き揚げる。
「そう言えば、あなたたちは、テレパシーみたいなので会話が出来るんでしたっけ。」
 ナメック人には、いろんな能力があるんだったわねぇ、と、遠い昔のことを思い出しながら苦笑を浮かべるブルマに、ムーリは彼女の前まで足を進めてくる。
 そして、ブルマの方へと手の平を向けると、
「一応、あなたの過去を見せてもらえますかな? ──地球で何があったのか、教えていただきたい。」
 ブルマはそれに、くるん、と青色の目を回したが、すぐに笑みを乗せて頷く。
「……いいわよ。
 その代わり、エッチなこととか覗かないでネ!」
 イタズラっぽく片目を瞑れば、なぜかデンデが、「ブルマさん……」と、恥ずかしそうに目を伏せた。








NEXT



ナメック星編、もう一回続きます。

ブルマさんが好きなのだと、しみじみ思う長さになります……(爆)