絶対にあきらめない! それが勝利に繋がるのよ!











 衝撃の事実を界王から聞かされた面々は、困惑と当惑とを表情に出した。
 ブルマがあきらめないというのは、分かる気がした。
 彼女は基本的に、自分の命に危機があれば別だが、根本的にあきらめの悪い性格をしているのだ。
 それが地球の未来──ましてや、自分の息子のこととなれば、それはもう、どんな方法でも出来うる限りのことはしてみせるはずだ。
「生き返らせる──それはつまり、ドラゴンボールのことか?」
 だがしかし、と、ピッコロは顔を歪める。
 ドラゴンボールは、自分が死んだときに消滅している。
 それは確かだ。──そうではなかったら、悟飯が先にドラゴンボールを集めているはずだからだ。
 ──もっとも、集めてもらったとしても、悟飯以外のここに居る面子はすべて1度よみがえらせてもらっているため、誰も生き返れないのだが。
「あ、そうか! ブルマさんは、ナメック星のドラゴンボールを探しに行くつもりなんだっ!」
 ぽむ、と、クリリンが答えが分かったと顔を輝かせて叫ぶ。
 今から20年以上前──自分と悟飯とブルマが、そうしたように彼女はナメック星に旅立つつもりなのだろう。
 それなら分かる。
 きっとそうだ、そうに違いない、と断言するクリリンに──悟飯が暗い表情でそれを否定する。
「……いえ、それはないと思います。」
 1度強く目を閉じて──、悟飯は、それを俺たちが1度も考えなかったと思いますか? と、自嘲じみた笑みを浮かべた。
「ナメック星のドラゴンボールのことなら、俺もブルマさんも、皆さんがなくなったときに考えました。一年以内なら、また蘇らせてくれるだろう、と。」
 でも、それは実現しなかった。
 人造人間に宇宙船が壊されてしまったというのもある。
 彼らに邪魔されずに宇宙に飛び立てるかどうか分からなかったということもある。
 けれど、一番の要因はそこではない。
「え、なら、なんでそうしなかったんだ?」
 純粋なヤムチャの問いかけに、悟飯は苦しげに視線を伏せる。
「……新しいナメック星の場所を探る方法が、俺たちには何もなかったんです。」
 ぼそり、と零された内容に、ああっ、と、誰もが納得した。
 旧ナメック星は、爆発して宇宙のチリとなって消えてしまった。
 新しいナメック星は、彼らナメック星人が神龍に願い、その願いをかなえる形で新しい星に移住してしまった。
 だから、新しいナメック星が宇宙のどの位置にあるのか──ナメック星人たちも把握はしていないのだ。
「けどよ、それなら界王さまに聞けば、分かるんじゃねぇのか?」
 悟空がアッサリと問いかけて、界王を横目で見る。
 前の時は、界王その人が教えてくれたのだ。なら、今回も教えてもらえばいい。
 悟空は単純にそう考えただけだった。
 しかし界王は、酷く難しい表情をしていた。
「……前のときは、わしが元々のナメック星の場所を知っていたからこそ、できたんじゃ。
 じゃが今は、まるでなーんも知らん状態じゃ。
 この状況下で調べるのは──とてもじゃないが、わしには手に負えん。」
 これが、北の銀河の中だけと言うのなら、できるだろう。
 しかし、南の銀河、東の銀河など、他の銀河にある無数にある星の中の一つに移住していた、ともなれば──それこそ、まったくもって手に負える話ではなくなるのだ。
 とてもではないが、探しきれない。
 もし、どうしてもと探し始めたとしても──果たして、ブルマの寿命が来る前に探し出せるかどうか。
「ええーっ、界王さまでもムリなのか。」
「わしとて万能ではないからの。」
 驚く悟空に、界王はすまんの、と言ってうなだれる。
「それでも、なんとかナメック星の場所を探ろうとはしてたんです。
 けど、人造人間に襲われながらでは、どうしても──。」
 物資も何も足りない状況で、歯がゆい思いをしながら、一年が過ぎ──二年が過ぎ。
 誰一人として生き返らせない状況になって、それでもブルマは宇宙船を作ることをあきらめなかった。
 その方法を探ることをあきらめなかった。
 でも。
 1度、宇宙に逃げ出そうとした人が居て、ブルマが作った宇宙船を盗み出して、起動させたことがあった。
 けれどその宇宙船は、空に舞い上がったところで──人造人間の格好の的となった。
 そのことがきっかけで、ブルマは違う方法を模索することにした。
 とにかく、人造人間を倒さないことには、どうにもならないのだ、と。
 その結果としてて──ブルマは、違う方法を模索することにしたのだ。
 それが、タイムマシンだった。
「……なら、どうやって母さんは、俺を生き返らせようとしているのですか?」
 トランクスが不思議そうに問いかければ、界王は重々しく頷いた。
「────……宇宙船を作っておる。」
「なんだ! やっぱり、ナメック星に行くつもりなのか!」
 そうだよな、それ以外に生き返らせる方法ないもんなー、とヤムチャが一つ頷く。
「だが、ナメック星の座標がわからないのだろう? どうするつもりだ?」
「そのまま行ったら、ブルマさん、宇宙で迷子になる!」
 天津飯が渋い表情で言えば、餃子が彼の肩の上でそれは大変だと力説する。
 宇宙はとても広大だ。
 そんな中に、小さな宇宙船一つで飛び込んで行って、一体どうなると言うのだろうか。
 それでは、息子と無理心中するようなものだ。
「いや、それはねぇだろ。ブルマは、絶対に自分が死ぬと分かっている状況に、自分から突っ込んでいくほどバカじゃねぇ。」
 悟空が頭を軽く振って、何か考えがあるんだろ、と続ける。
 界王は嬉しそうな顔で一つ頷くと、
「そうじゃ。あの娘、考えおったぞ! 占いババを尋ねおったのじゃ。」
「いっ? 占いババっ!?」
 その名は、悟空にもなじみ深い名前だった。
 悟空だけではなく、この場に居る面々にも。
「懐かしい名前だなー……。」
 ヤムチャが、あの人か! と頷く。
 亀仙人の実の姉にして、長い月日を生きている占い師。
 その占いの能力は百発百中。
 ただし、占い料金は法外で、それを払えないものは、バトルで占いババを満足させないといけないという。
 悟空も昔、ヤムチャやクリリンと一緒になって、占いババの手持ちカードとのバトルに挑み──そう、そうして育ての祖父である悟飯と、たった1日限りの再会を果たしたのであった。
 あの世とこの世を生きたまま行き来できる存在でもあり、悟空もこっちに来てから何度か会った事はあった。
 ──そしてこの場に居る誰もが、占いババに頼んで、たった1回、1日だけ現世に行かせて貰ったことがあった。
 残された悟飯が命の危機にさらされたときに、たった一度だけ。──彼を救うために。
「そんじゃ、占いババに頼んで、ナメック星の場所を教えてもらったってことかっ!? やるな、ブルマ!」
「さすがブルマさん……。」
 おおっ! と界王星全体に驚きが走る。
 ──だが、悟飯一人、困ったような顔で苦笑を浮かべていた。
「けれど、界王さま。──ブルマさんも知っているはずですよ。
 占いババさまでも、銀河の無数の星の中から、たった一つの星を見つけ出すのは、ムリだと……。」
「え、なんだ、悟飯、もしかしてお前……。」
「はい。」
 クリリンに言われて、悟飯はコクリと頷く。
 そうだ、今、ブルマが思い浮かんだ手段を、当時の悟飯とブルマが思い浮かばないはずがないのだ。
 ブルマが、「そうだ!」と思いついて、悟飯をつれて占いババの砂漠まで向かったのが、まだトランクスが2歳になる前だった。
 急げばきっと、みんなの復活に間に合うと、そうブルマが力説したのだ。
 いざとなれば、全員でナメック星とかで修行して、力をつけてから人造人間を倒しに行けばいいのよ! ──と。
 けれど、尋ねていった占いババは、それはムリだといった。
 占いババの力にも限界があり──言うなれば、界王が出来ないことが、占いババに占えるはずがない、と言ったことだろうか。
「どうも、ここにある、と特定することが出来るのは、せいぜい銀河系内のことだと言っていました。
 だいたいの場所の範囲を求めることは出来ても、宇宙は広いですから、その範囲から探し出すのは、それこそ100年や200年はかかるだろう、と。」
 それを聞いてブルマは、「何よ、この役たたずーっ!」と叫んでいたことは、ひとまず胸に締まっておくことにした。
 しかし、それを聞いてブルマは、「なら、近くまで行けば、ナメック星だと分かるようなシステムがあればいいわけよね。」と、発想を新たに考え付いていたようだった。
 何か心当たりがあるような感じだったが──、結局それも、実となることはできなかった。
 ──と、いうことは。
「……!」
 もしかしてブルマは、その「範囲を狭める」ことが出来るシステムを、完成させたのだろうか?
 ハッ、とした顔になった悟飯に、界王は重々しく一つ頷く。
「そうじゃ……、ブルマは、占いババに、自分が求める物がある方角を教えろと、そう言ったのじゃ。」
「方角!」
 「それなら、占うことが出来るでしょうっ!?」そう言って迫るブルマの形相が、容易く悟飯とトランクスには想像がついた。
「けれど、方角だけなら──ものすごく広すぎませんか?」
 それなら、それこそ100年や200年以上かかるだろう、と渋い表情になるクリリンに、界王は、にぱーっ、と笑顔を広げる。
「ところがじゃっ! あの娘、よくもまぁ、考えついたものでのっ!!」
 興奮さながらに、ヒゲをピクピクさせながら、界王は両手を大きく広げると、
「スカウターを宇宙船に設置して、それを使う方法を考え付いたのじゃっ!!」
「スカウターっ!」
 思わず飛び込んできた名前に、誰もがビックリしたように目を瞬いた。
 トランクスだけが、不思議そうに首を傾げているが、それ以外の者にとっては懐かしい名称である。
 スカウター。それは、あのフリーザ軍が使っていた、相手の戦闘力を測る装置だ。
「どうもの、ナメック星人を保護したときに、ブルマは何人かのナメック星人のデータをスカウターに残しておったらしくてな。」
「あ、そういや、そんなことしてました。
 ブルマのヤツ、俺やナメック星人の戦士タイプと、どっちが強いかとか計ったりして、遊んでましたっけ……。」
 ヤムチャが片手をあげて訴える。
 最初に蘇ったヤムチャを、「あ、あんた、戦闘能力あがってるじゃない! 本当にあの世でも修行できるのね〜」と感心していた姿を思い出し、しみじみと懐かしく思った。
 あの後しばらく、スカウターはブルマの遊び道具みたいになっていた。
 いろんな機能が追加されているのは知っていたが、機能を追加しすぎて、ブルマ以外に扱えない物になってきていたから、ヤムチャは触ったことすらない。
「うむ、なにやら、スカウターというのは元々、データにある人物の居場所を探ることが出来る機能もあったらしいんじゃ。」
「あー……あった、ありました、それ……。」
 ヤムチャが力なくそれに同意する。
 ブルマはそれでよく、ヤムチャの居る位置を探っては──「あんたっ、また女の子とデートしてたでしょーっ!」と叫んでくることがあった。
 それが決定的な理由になり(今までは、「そんなことはない」とかごまかしが効いたのだが、ブルマがスカウターというこれ以上ないくらいの追尾装置を手にしてしまったため、言い訳はまかり通らなくなってしまったのだ)、別れたことを思い出し、ヤムチャは心なしガックリと肩を落とす。
「元来、宇宙を飛び回っていたフリーザ軍が使っていたものじゃからの、元々、そのデータを探る機能の範囲が広くてのぉ、銀河系の中のどこに居るのかも、容易く探れるようになっておったらしい。
 それをブルマは更に拡張して、それを宇宙船に組み込みおった。」
 すぐにその意味に気づいて、悟飯は、ハッとしたように顔をあげた。
「もしかして……それって、つまり……。」
「そうじゃ! 宇宙空間を旅している間に、範囲内に目的のナメック星人のデータを見つけたら、自動的にソコに向かうように組み込んだのじゃっ!!」
 ブルマの持っているスカウターには、あの当時地球にいたナメック星人のほとんどすべてのデータが入っている。
 つまり、占いババに占ってもらった「この方角のどこかに、お前の求めるもの(ナメック星)がある」といわれた方角に向かって、飛んでさえいれば、いつかはデータにある「ナメック星人」を感知し、自動的にそこに向かってくれると言うことだ。
 確かに理論的には、いい方法だと思う。
 思うが、しかし……、
「それって……ある意味、運と行き当たりばったり、って言いません?」
 たら──と、汗を流しながら、クリリンは呟く。
 だって、宇宙って広いわけだし。
 この方角、って言っても、その方角自体の範囲も広いわけだし。
 もし、出発時の方角の角度が10度でも違っていたら、果てない距離を経た向こうでは、スカウターの感知範囲外もたくさん存在してしまうことだろう。
 最初の出発の方角を、1度でも間違えるわけにはいかない。
 更に飛んでいるうちに軌道修正をする必要だってあるのだ。
 それを思えば──、本当に、運と行き当たりばったり、としか言いようがない。
「……ブルマらしいって言ったら……ブルマらしいけど。」
 はぁぁ、と、ヤムチャは額を押さえる。
 きっと、悟飯が居る時でも、やろうと思ったらそうできたのだろう。
 けれど、その時はまだ、悟飯もトランクスもいるからと、ムリをすることはなかった。
 下手をせずとも、かなりの高確率でのたれ死ぬ。
 ブルマは、そんな危険な賭けをするようなタイプではない──けど、今はそれ以外にないと、分かっているからこそ、彼女はそうすることを選んだのだ。
「母さん……。」
 まさか、あの母がそうするなんて思っても見なかった。
 単身で宇宙に飛び出していくなんて、と。
 呆然と呟くトランクスの前で、コリコリとヤムチャが頬を掻く。
「ブルマは、やると言ったら……まぁ、やるだろうな。」
「ブルマさんですしね。」
 ガックリと肩を落としながら、クリリンも同意する。
 一同の脳裏には、若かった頃のブルマが、元気たっぷりに笑う姿が思い浮かんでいた。
 しみじみとしたムードが一同の上に降りる中──、
「そっか、ってことは、トランクスは生き返るっつぅわけか!」
 ぽむっ、と、悟空が明るい表情で手を叩いた。
 その表情とタイミングから察するに、界王が説明してくれたことを、必死に理解しようとしたが、やっぱり理解できなかったので、結果だけを理解しておいた──と言ったところだろう。
 悟空はニコヤカに笑うと、トランクスの両肩をダンダンと叩いて、
「よかったなー、トランクス!
 おめぇ、これであのなんとかいう、おめえを倒したやつとも戦えるじゃねぇかっ!」
 羨ましいなー、と、続ける悟空の、妙な方向に進んだ前向きさ加減に、はぁ、とトランクスは力ない返事を零す。
「なら、生き返ったときのために、修行しねぇとな、修行っ!!」
 キラキラと、無駄にバックに星を背負って笑う悟空に、トランクスは困ったような表情で笑い──隣に立つ悟飯に救いを求めるように視線をよこす。
 けれど悟飯は、これはどうにもならないよ、と言うように肩を竦めると、
「お父さん、とりあえず今すぐ修行というのは、やめませんか?」
「ええーっ!? なんでだよ、悟飯。
 オラ、久しぶりにおめぇにも会えたから、おめえとも手合わせしたくて、ウズウズしてんだぞっ!」
 やはり、どこに言っても悟空の戦闘バカは変わっていないらしい。
「悟空〜……お前、久しぶりに悟飯とゆっくり話せるようになったんだぞぉ? 組み手とかする前に、もっと話すこととかあるだろ。」
 あぁ、と溜息を漏らしながら、クリリンがそう諌める。
「え、そっか? でもそんなの、手合わせしたら……。」
「俺だって! 悟飯とトランクスと、色々話したいことだってあるんだ! お前に悟飯を独り占めさせはしねぇぞっ。」
 親子の会話なんて、手合わせで十分。
 そんなことをいいそうな悟空に先回りして、ビシッ、とクリリンは指を突きつけて言いきる。
「えええーっ。」
 ブーブーと文句を言う悟空を、いいから! と黙らせて、クリリンは、はぁ、と溜息を零す。
 現世では、天真爛漫といえば聞こえのいい天然悟空を、常識の道に引きずり戻していたのは、彼の妻と、一番古い付き合いのブルマであったが、ここに来てからは、めっきりクリリンの役目となってしまっている。
 そんな自分に、かすかな哀愁を覚えながらも、ま、しょうがないか、と割り切って、クリリンは文句を零す悟空に向き合うと、
「そんなに手合わせしたいんだったら、今から地獄にでも行ってこりゃいいじゃねぇか。
 まだ、トランクスに倒された人造人間が、魂を洗われてないだろうから、戦えるんじゃないか?」
「……!」
 おぉっ、と、悟空は喜びに顔を染めて、クリリンを尊敬の眼差しで見つめる。
 ほ ん と に や る き か !
 と、ヤムチャが大きく顔を引きつらせたが、相手は悟空。
 確実にやる気なのは分かっていたので、あえて突っ込むという労力は起こさなかった。
「クリリン! おめぇ、すげぇ頭いいなっ! そーだよっ! 今すぐ閻魔のおっちゃんとこ行けば、人造人間と戦えるかもしんねぇんだなっ!
 ひゃっほーっ! オラ、ちょっくら行って来るぜっ!!」
「マジかよ……。」
 自分で言っておきながら、それはどーなんだと、クリリンは頭痛を覚えて溜息を一つ。
 何せクリリンたちは、本気でまともに人造人間と戦って倒れた立場だ。
 正直、二度と会いたくないとも思う。
 ──が、しかし、
「ふっ……確かに、それはいい考えかもしれんな。」
 ピッコロが、乗り気になった。
「ピッコロ! お前も行く気かっ!?」
「当然だ。修行を積んできた成果を、今こそ見せてくれよう……っ!
 孫、俺も行くぞ。」
「えー、それじゃ、オラの取り分が減っちまうよ……。
 まぁいいや。そんじゃ、順番だからなっ!」
 戦闘バカ。
 まさにそれ以外にたとえようのないセリフをはく二人に、界王も、タラリと汗を流す。
「おまえら……アフォじゃろ……。」
「お父さんもピッコロさんも……、久しぶりに会ったのに──……。」
 あぁ、と溜息を漏らす悟飯に、トランクスはもう、何と言っていいのかわからなかった。
 母と悟飯から、悟空たちの性格については、ある程度聞いてはいたものの──まさか、これほど戦闘バカとは思いもよらなかった。
 呆然としている間に、悟空はピッと手をあげて、
「んじゃ、わりぃな、悟飯! トランクス!
 けぇってきたら、色々話すっからよーっ!!」
 明るくそう言いきると、ピッコロの傍に飛んでいき、その腕に手が触れたかと思うや否や──ひゅんっ、と姿が掻き消えた。
 まさに、一瞬のできごとであった。
「……悟空のやつめ……まったく。」
 やれやれと、界王は溜息を零す。
 まだ話は終わってないというのにのー、と続ける界王に、トランクスは、キュ、と下唇を噛み締めると、
「……界王さま。
 俺に──修行をつけてください。」
 真っ直ぐに界王を見下ろして、真摯に告げる。
「母さん……母が、俺を生き返らせようとしているなら、俺は、そのセルとか言うヤツを倒すために、強くならなくては。」
 今度は、あの時のような失態はしない。
 ……もう二度と、現世には戻れないと思っていたのが、もしかしたらチャンスが来るかもしれないのだ。
 なら、そのために──決して、負けるわけには行かない。
 硬い決意を胸にそう言いきるトランクスに、悟飯は目を細めて──彼の肩を、ぐ、と掴んだ。
「界王さま……俺もお願いできますか。」
「悟飯さんっ。」
「トランクス──一人で修行するよりも、皆とした方が、ずっと強くなれる。
 俺にも……お前の手伝いをさせてくれ。」
 今の俺には、それしかしてやれることがない、と。
 ほんの少しの苦笑を滲ませて告げる悟飯に、トランクスはジンワリと浮かぶ微笑を広げた。
「悟飯さん……。」
 また一緒に──修行をすることが出来るんですね、と。
 トランクスが、目元を揺るめるのを見下ろして、ああ、と悟飯が笑って頷く。
 そんな感動的な場面に、界王は、うんうん、と鷹揚に頷くと、
「よし、分かった。
 では、トランクス、悟飯よ! 第一の修行を授けようっ!!!」
 ──そう、告げた瞬間。

 悟飯とトランクス以外の全員が、「あー……」と、遠い目になった。

 何が待ち受けているのか、それはその試練をクリアした全員が分かっていた。
 テンションがガク落ちする代物であることも──よーく分かっていた。
 どんな事情であれ、界王は決して、その試練を飛ばしたりはしてくれないのだ。
 ゴクン、と喉を上下させるトランクスたちに向かって、界王は、バンッと手の平を前に差し出すと、威厳たっぷりにこう告げた。
「わしを、笑わせてみよっ!!!!」
────ほら、やっぱり、同じ試練だった。
 界王の兄弟子に当たる地球人たちは、生ぬるい笑みを交し合うと、ヒョイ、と肩を竦めて……物凄く生真面目そうに見えるトランクスと悟飯の、第一の試練突破を願って、合掌するのであった。












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けど、案外、悟飯とトランクスは、あっさりと試練を潜り抜けたりするんですよ。

「笑わせるって言っても……俺とトランクスで漫才をしろって言うことですか?」
「違うわいっ! そうじゃな、おぬしらは、大変な中で生きてきたからのぉ、笑いというても分からんか。なら、ちょっと見本を見せてやろう。
 おい、クリリン! 何か面白いことを言うてみいっ!」
「ええっ、俺ですかっ!? なんで俺……。
 あー、んー……そうだな、それじゃ、えっと……。
 『ネコが寝込んだ!!!』」(←言いながら照れる。恥ずかしいから)
「ネコがねこ……ぷっ、ぷぷっ、ぷっはーっ!!!!
 ど、どうじゃっ!? 面白かろうっ!? こんな風に笑わせたらいいんじゃっ!!」
「……はぁ……(←良く分かってない)」
「あぁ、つまり、駄洒落というヤツだよ、トランクス。」
「駄洒落、ですか?」
「うん、そうだね、俺が昔読んだ本では、
 『おやじが言いました。「おや、地震?」』とか。
 『気功のやり方を聞こう』とか、そういうのが載ってたな。
 言葉遊びみたいなものだよ。」
「……おやじが言いました、おや、地震……ぷぷっ。
 気功のやりかた……ぷぷぷっ!!!」
「えーっと……つまり、同じ単語が続くように聞こえるようにするってことですか?」
「そう、同じ音や、似通った音を持つ言葉をかけて、文章にするって言ったほうがいいかな? ニューヨークで入浴、とかが分かりやすいかなぁ?」
「にゅ、ニューヨークで入浴!! ぶはっ!! うまい! うまいぞ、孫悟飯っ!!! ぷっぷっぷっぷ。」
「悟飯……気づいてない……自分が試練にクリアしてることに……(呆然)。」
「なるほど! それなら俺も聞いたことがあります。
 こないだ母さんが言ってましたけど、あれも駄洒落だったんですね!」
「え、ブルマさんが駄洒落を? ……言いそうにないけどなぁ?」
「そこのアルミ缶の上にある蜜柑取ってー、とか。
 睡魔に負けて、すいませんでしたねぇっ! とか、良く言ってます!」
「それは天然じゃないのかっ!!?」
「アルミ缶の上にあるミカ……ぷぷっ!!
 睡魔とすいませんをかけたのか……ぷははは! ぐわっはっはっはっ!!!」
「それは、駄洒落のつもりで言ったわけじゃないんじゃ……。
 でも、そんな風に日常の言葉から出てくるんだったら、考えやすいかもしれないな、トランクス!」
「はい! そうですね、悟飯さんっ! それじゃ、考えましょうか。」
「うん、そうだな、まずはソコからだ……うーん。」
「いやいや、お前らもう、界王様を笑わせてるから、な?」(疲れるクリリン)

天然二人組みだと思います。