傷ついた分だけ 3






 ユバールの民達と過ごし始めて、どれほどの日が過ぎたか――一生懸命現状になれようとする気持ちが薄れていき、ユバールに慣れはじめてしまえば、心は違うことに囚われはじめる。
 ふとした拍子に、心の奥底から湧き出てくるような恐怖に囚われる。
 何かが自分から奪われるような、今までの自分が否定されるような、わけのわからない不安。
 これが、記憶を取り戻すための恐怖だとは思えない。
 胸の中が、ツキンと痛むような、無性に泣きたくなるような。
 ――でも、それが何なのか分からない。
 けれど、それは、ユバールの光景を見れば見るほど酷くなるようで、アルスは、食料調達に行くと口にして、たびたび群れから離れていた。
 武器も無く、戦いの知識も奪われてしまったアルスを、一人で外に出すのは危険だと、キーファは口を酸っぱくして言ったけれど、一人になりたいときもあった。
 それをライラは分かっていてくれるようで、遠くには行かないでねと、念押しして、送り出してくれる。魔除けにと持たされた鈴が、ちりりん、と腰で音を鳴らすのを耳にしながら、結界の役割を果たすロープを潜り抜ける。
 いつものように、テントが遠くに見える場所の木の下に座り込んで、一人考え込むつもりだった。
 けれど、今日は森の梢から差し込む光が奇麗で、地面に映りだされた光を辿りながら、奥へと足を進める。
 足をゆったりと運びながら、風に誘われるように散歩する。
 遠くにテントが見え隠れしはじめて、アルスはふと足を止めた。
 ちりん、と鈴がなる。
 この周囲には、モンスターはいないと言っていたけど、これ以上遠くに行くのはまずいだろう。
 戻ろうかと、アルスが足を返しはじめたその瞬間、ふと、彼は気付いた。
 向こうから――前方から流れてくる風が、乾いた弱々しいものであることに。
「……砂漠…………?」
 熱い風が、頬を撫でる。
 それに覚えがある気がして、戻しかけた爪先が、ふ、と戻る。
 熱い風、熱い太陽――眩しいくらいの日の光。
 どうしてか、それが見たくなった。何もかも忘れるくらいの、頭が真っ白になるくらいの光が、浴びたかった。
 抱きしめられるような太陽の温もりを、全身に感じたかった。
 だから、足を向ける、ゆっくりと――次第に早く。
 ほとんど駆け込むように飛び出した森の外、広がる草原のむこうに、むせ返るような熱が広がっている。
 一面に続く砂漠。
 霞むような遠くに見えるのは、蜃気楼か本物の城か──。
 いや、蜃気楼ではない。砂漠に道が出来ている――らくだの足跡で出来た道が。
 他にも誰かが辿っていったのだろう、真新しいあとだった。
 この先にある砂漠の国には、大地の精霊の加護があるのだろ、ライラが言っていた。
 少し前まで魔物に支配されていたらしいが、英雄により国は救われ、今は精霊像を建設しているらしい。
 そのため、多くの行商人が行き来しているらしい。
 きっと、この足跡もそうなのだろう。重いものを引きずったらしい馬車のあともある。
 これをたどっていったら、砂漠の城につける。
 ふと、アルスはそう思った。
 そう、この道は、オアシスにも続いている。それから、砂漠の村にも………………。
 ぼんやりと砂漠の先を見ながら、アルスはかすかに眉をひそめた。
 ああ、どうして僕はそんなことを知っているのだろう?
 この砂漠に城があるのは、話にも聞いた。何よりも、遠目ではあるけれど、肉眼でも見えている。
 砂漠にオアシスくらいはあるだろう。
 でも、どうして村があるなんて、知っているの?
 僕は、……誰?
「…………………………僕は……………………誰…………………………?」
 低く呟いて、降り注ぐ太陽の下、アルスは砂地に踏み出した。
 足の裏に伝わる不安定な感触に、顔を顰めながら、先へと進む。
 どこまでも続いて行くような足跡を辿って、途中、いくつかに別れている足跡を、迷うことなく進みながら、歩く。
 照り付ける太陽、眩しいばかりの日の光。
 この、熱いばかりのそれは、誰かに似ていた。
 それを振り払うように、顔を振った。
 鼻をつくのは、水の気配。
 求めるように、そこへ、そこへと進む。
 オアシスを求めて歩く。
 水に……出会いたかった。
 
 
 
 
 
 

 照り付ける太陽の強さに、めまいがする。
 やはり、無謀だったのだろうかと、アルスは額に浮き出た汗を拭った。
 拭っても拭っても溢れてくる汗は、喉を熱く刺激し、からからに喉が渇いた。
 ふらり、と傾いだ脚を、慌ててふんばって、倒れることだけは防ぐ。
 足元からわき上げるような熱気を発しているこの砂地に、このまま倒れてしまったら、やけどではすまないのだ。
 それに、この砂漠には、モンスターも生息していて――。
 目眩をこらえながら、アルスは緩やかにかぶりを振る。
 やはり、何の装備もせずに砂漠に迷い込んだのは間違いだったのだ。
 あの時、それがどれほど恐ろしいことなのか、良く分かったはずだったのに、どうしてまた……――。
「…………? あの、時………………?」
 何を、思っているの、僕は?
 今、何を思いだそうとした?
 背筋が凍り付くような恐怖とともに、何を――……。
 とまどい、おびえた瞳で立ち尽くすアルスは、背後から聞こえてくる音に気付かなかった。
 それではいけないと、そう頭の中で警鐘が鳴っているのにも気付かず、アルスはその場に立ち尽くして、強い日差しを落とす太陽から顔を背ける。
 頭痛がする。頭の奥で痛みが走っている。
――これは、何……?
 頭が痛いのをこらえたまま、アルスは眉を顰める。その直後、背筋がピシリとしならせる。
 そして、何が起きているのか悟るよりも先に、身体が動く。
 立ち尽くしていた場所から跳びすさるようにして、後退する。
 そのままの動作で、腰に手をやりながら振り返る。
 けれど、腰にやった手は空振りし、何を掴もうとしていたのかわからないまま、アルスは自分の服の裾を掴んだ。
「……モンスターっ!?」
 焦ったように眼を大きく見開け、砂を身体から振り落とすように身震いさせているモンスターを睨む。
 見たことなんてないはずなのに、知っている。
 これくらい、大丈夫だと、なんの確信もなく、自分の中の誰かが思っている。
 でも。
「……………………っ。」
 唇が震えて、言葉が出てこない。
 じりり、と下がると、ずず、とモンスターが進み出る。
 その眼に宿るのは、獲物を見つけた肉食獣のもの。
 危ないと、危険だと、そう思っているのに――戦いの術など、まるでないというのに、無意識に大丈夫だと思っている自分がいる。
「……あ…………あ……。」
 ぎゅ、と服の裾を掴んで、巨体を見上げる。
 胸の中に恐怖がある。なんて恐ろしい魔物だろうと、おびえている思いがある。
 なのに、身体がそれを裏切っている。
 戦う術など、まるで思い付かないのに、身体が魔物との間合いを計って、後退している。そうしながらも、スキを見せないように目線は魔物に釘付けになっている。
 怖いのに、見たくなどないのに、このまま背中を見せて逃げてしまいたいのに、そうしてしまえば、自分はこの魔物に殺されてしまうと、直感で分かっていた。
 だからと言って、このままで居るわけにもいかない。
 少しでも視線にとまどいを見せれば、襲い掛かってくる。
 それが分かっているから、眼に力をこめて、それを睨み付ける。
 どうすればいいのかと、どうしたらいいのかと、頭の隅で考える。
 脳裏に浮かんだ金の髪に、アルスは一瞬息を止めた。
 ――彼は、助けに来ないよ?
 だって、彼は……もう…………………………。
「………………っ。」
 瞳が揺れる。
 その瞬間を逃さず、モンスターが襲い掛かってくる。
 ハッと息を呑んだアルスが、大きく瞳を見開ける。
 刹那。
ズサァァッッ!
 大きく、モンスターが揺らいだ。
 どす黒い血が飛び散り、砂地に撒かれる。
 どさぁっ、と大きな音を立てて、モンスターが倒れる。
「………………。」
 アルスの口が、ゆっくりと開かれる。けれど、「名前」が口から飛び出るよりも先に、倒れたモンスターが巻き上げた砂塵の向こうに、剣を持った人物が見えた。
 日に焼けた逞しい身体、獲物を睨む瞳は雄々しく、凛々しく――。
 助けてくれた人を、呆然と見つめるアルスに、相手は剣を振るい血を払った。
 倒れているモンスターの死を確認するように視線を走らせてから、彼はやっと、アルスを正面から見つめた。
 その目が、アルスに焦点があった瞬間、驚愕に開かれる。
「……アルスっ!? アルスじゃないのかっ!?」
 豪奢なマントを身につけた彼は、粗野な感じがするけれど、仕種の一つ一つが洗練された感がある。
 名前を呼ばれて、アルスは唇を半ば開いたまま、彼を見上げる。
 どこかで見たことがあると思った。
 彼は懐かしそうな表情で、アルスに近づく。その態度のそこかしこに、親しみが溢れていた。
「なんだ、俺の顔を忘れたのか? ああ、こんな格好をしてるもんな……ハディートだよ。
 今、城から帰ってきたところでな、正装していて驚いただろう?」
 見て分かる上等の服を身につけた男は、少し照れたように自分の服の裾を摘まんだ。
「は……ディート……?」
 何だろう? 唇が覚えている。その名。その名を呟いた事。
 もう一度唇の中だけで呟いて、アルスは眉を顰める。
 いぶかしむアルスが不思議だったのだろうか、彼はラクダを後ろ手に、アルスを覗き込む。
「どうしたんだよ? まさか俺のこと忘れたとか言わないよな?」
 その顔は、そんなわけないと信じてるそれだった。
 アルスは困ったように彼の顔を間近に見つめた。
 一度息を呑んで、でも、言わなければいけないと、きゅ、と手を握り締める。
 彼に言うのは、とても心苦しかったけれど、ちゃんと言わなくてはいけないから──……説明することにした。
 短く、一言。
「ごめん……なさい――僕、今、記憶が……ないんです。」
 驚いたように、そして傷ついたような表情をする彼に、アルスはそれ以上何も言えなかった。
 あなたのこと、覚えていないんです、なんて言えるはずがなかった。
 ハディートは、うつむいてしまったアルスの肩を掴んで、彼を覗き込む。
「マリベルとガボはどうした? あと、あのメルビンとか言う老人……お前の仲間達だよっ。」
 キーファの口から出たのと同じ名前が飛び出した。けれど、そんなこと言われてもアルスには分かるはずもなかった。だから必死にかぶりを振る。
 肩に爪が食い込むほどアルスの肩を掴み、揺さ振る。
「アルスっ!」
「わからな……やめ……はなして……っ。」
 覗き込んでくるハディートの瞳から逃れようと、必死に顔をずらして、アルスが呟く。
 でも、その弱々しい声はハディートには届かない。
 どうして分かってくれないのと、アルスが泣きそうな気持ちで思った刹那。
「アルスっ!!」
 声が、後ろから飛んだ。
 びくん、とアルスの肩が跳ねる。
 この声は――っ!
 驚くハディートに肩を掴まれたまま、振り返る。
「……キーファ……っ。」
 かげろうの昇る砂地に、汗をにじませ、全身から湯気を上げているキーファがいた。
「キーファ……?]
 ハディートが、アルスが口にした名前を唇の中で繰り返す。
 そして、それが何の名前だったのか気付いた刹那、ハディートは驚きの瞳をキーファに向ける。
 キーファは、アルスの姿が見えなくて、必死に追いかけてきたのだろう。
 彼はアルスとハディートの元まで来ると、二人を交互に見やって、
「あんたは……?」
 豪奢なマントを来た男を、怪しそうに見つめる。
 ハディートは、アルスの肩から手を放し、キーファを正面から見つめ――それから、彼に笑みを見せる。
「俺は怪しいものじゃない。この先の村で長を勤めている、ハディートと言う。
 命の恩人を見かけたから、声をかけていただけだ──そんな敵を見るような目で見ないでくれるか?」
 軽く言った男の台詞に、驚いたのはアルスである。
 目を丸くしてハディートを見あげる。
 今、彼は何といった?
「命の……恩人?」
 僕が? 誰かを救ったというの?
 唖然と呟くアルスに、ハディートは少し辛そうな、切なげな表情を浮かべて、頷く。
「ああ……お前は忘れているかもしれないけど──。」
 
 
 
 
 

 とりあえずオアシスまで案内してもらったあと、水辺で水を潤した彼らは、お互いの事を確認しあった。
「ってことは、なんだ? アルスはマリベルらと一緒に、ここを救ったわけだ──なるほどな。」
 キーファは、ここに何が起こっているのか、聞いただけで分かったらしい。
 顎に手を当てて、なるほどなるほどと頷いている。
「君は、アルス達と旅をしていたわけだ……なるほど、アルスが言っていたのは君のことか。」
 水辺にひざをつき、水筒に水を汲んでいたハディートが、そう言いながら水筒の口に蓋をする。
「あ? アルスが俺のことを?」
 なんとも形容しがたい表情を浮かべて、キーファはコリコリと自分の頬を掻いた。
 照れているような、困っているような――そして、悲しいような。
「……ああ、一度だけ……な。」
 キーファが浮かべた表情を計り兼ねながら、ハディートは水筒の回りを手ぬぐいで拭いた。
「ふぅん……。」
 微妙な声色で頷くキーファから視線を背けて、ハディートはアルスを見る。
 アルスは、ぼんやりと水面を見つめている。
 ハディートは無言で自分のラクダに歩み寄り、その脇に括り付けられた予備の水筒を手にした。
 そのまま水辺に近寄り、再び水筒を水の中につける。
 ぴしょん、と立った水の波紋に、アルスが顔を上げる。
 ハディートは、気泡が溢れる水筒を無言で見詰めた後、アルスを見やった。
 思いも寄らない真剣なその顔に、アルスは一瞬息を詰めた。
「ところでアルス。お前……これからどうする気だ?」
「………………────────。」
 水筒の蓋をきっちりしめて、手ぬぐいで回りを拭いた。
「どうする……って……。」
 それは、まさに今、アルスが気になっていることであった。
 自分がこのままではいけないと、分かっている。でも、どうしたらいいのか分からないのだ。
「マリベル達がどうなっているのかも分からない以上は、アルスの記憶が戻る方が先だろう。
 ま、あいつらのことだ。そうそうやられはしないだろけど──アルスのことを探しに来るってこともあるからな。
 しばらくはここから離れない方がいいだろうな。」
 それは、キーファが少し前に言ったことと同じ台詞であった。
 でも、結局答えが出なかったのだ。
 出ないまま、記憶が戻らないまま、ずるずると……居座っている。
 このままではいけないと、分かっているのに。
「…………………………。」
 どうしてハディートがこんなことを言い出すのだろうと、アルスは彼を見上るが、何も言いはしなかった。
 後で、レブレサックの方にも行こうと思ってると、キーファが代わりに答える。
 そんな彼に、水音をさせている水筒を片手に持ちながら、ハディートが尋ねる。
 ほんの少し、冷たい響きを含ませながら。
「……君は今、ユバールにいるんだったな? ユバールは放浪の民──いつになったら戻るか分からない記憶を待って、ここに残るのか?」
「……まぁ、いつまでも残れないけど……。」
 ためらうように、キーファが視線を落とす。
 アルスが心細そうな表情を向けて、キーファを見つめる。
 それに気付いて、キーファは太陽のような満面の笑顔を浮かべる。
「そんときは、俺が一緒に残って探してやるからっ! 大丈夫だぜ、アルス。」
「…………そんなの……。」
 だって、キーファはユバールの守り手なのに。
 自分のためにそんなの──駄目だ。
 下唇をかみ締めるアルスに、ハディートは水筒を手渡す。
 疑問をいだくように見上げたアルスに、予備の水筒だと、告げる。
「あ……ありがとう。」
 ハディートが、何の装備も持っていない自分たちのために、これを用意してくれたのだと悟り、にっこりと笑った。
 その笑顔を見て、ハディートは少しためらうように視線を逸らした後、決意したようにアルスを見つめる。
「アルス。お前、俺達のところに来ないか?」
「──え?」
 ちゃぷん、と、アルスの手の中で水筒が音を立てた。
 ハディートは、アルスだけを見つめて、先を続ける。
「俺たちはお前に恩を受けた。その恩を返させてくれ。勿論こんなことで返せるほど小さな恩じゃないけど──これくらいはさせてくれ。俺達砂漠の民が、マリベルやガボも探そう。そしてお前を守ってやる──どうだ?」
「…………………………………………。」
 ありがたい申し出だった。
 彼の真摯な瞳に見つめられ、アルスはとまどうように視線を落とす。
 手の中の水筒を見つめ――それから、どうしてかキーファを見あげてしまった。
 キーファに答えを求めるように。
 
 
 

 
 
 簡単な荷物を袋に詰めながら、朝から何度も口にしている言葉を、今一度ライラは口にした。
「アルスさん……本当に大丈夫なの?」
 心配そうなライラに、必死の思いで頷く。
 彼女に心配させるわけにはいかなかった。
「ハディートさん達は、僕のことを良く知っているらしいから……それに、ここなら僕が倒れていた場所にも近いし──。」
 言い訳するように口にするアルスを、納得いかないような眼差しでキーファが見つめていた。
 そんな彼に背中に向けて、アルスはライラから荷物を受け取る。
 元々何も持ってきていなかったも同然だから、持たされているのも、ユバールの人達が持たせてくれたものばかりであった。
 それに感謝すると同時、彼らから解放されることを喜んでいて、アルスは罪悪感にも似た感情を抱く。
 キーファは最後まで、アルスが砂漠の城に残る事を反対していた。
 なのに、ハディートや女王が自らユバールの族長に話をつけて、さっさとアルスの身柄を預かってしまうことを決定させてしまったのだ。
 記憶がない以上、誰よりもアルスのことを良く知る自分が側にいてやるべきだと言うのが、キーファの言い分であった。
 なのに、肝心のアルスが大丈夫だと笑う。
 まさかアルスに、お前はここの時間にいる人間じゃないと説明しても分かってもらえるかわからない以上、下手なことも言えない。
 だからキーファは、最後の最後まで不満そうな顔のままであった。
 アルスは、そんな彼に笑いかける。
 心の中は、ツキツキと痛みを訴えていたけれど、そんな物はおくびにも出さず、笑顔を貼り付ける。
「あの……ありがとう、キーファさん。」
「………………アルス、本当に大丈夫なのか?」
 最後までそう言い続けるキーファに、ライラが苦笑を見せる。
 アルスは大丈夫だと頷く。
 そして、キーファを見上げた。
 キーファは、少しためらうように目を伏せた後、笑った。
「がんばれ。」
 さまざまな思いを込めて、アルスの肩を叩いた。
 アルスはそれに頷いて、じゃぁ、と呟く。
 これ以上キーファの側にいて、彼に心惹かれる自分が……怖かった。



4へ続く