心身ともに疲れ果てたハリーが、ベッドの上で眠りに落ちた後、事の顛末を耳にした一同は、ハリーに気遣うように、そ、と部屋から出て行った。
ロンとハーマイオニーの二人は、最後の最後までそのハリーの側に控えていようと視線を交し合う。
見下ろした先で、ハリーは意識がないほど深い眠りに落ちていた。
ただ疲れ果てた表情で──否、表情すらも見えないほど、静かな眠りをむさぼっている。
まるで死んでいるように見えて、ふと不安になってロンは手の平をハリーの口元に当てた。
手の平を撫でるように、力のない呼吸の音が繰り返し吹き付けられ──眉を寄せて自分たちを見つめているハーマイオニーに、うん、と頷いて笑ってみせた。
「寝てるだけみたい。」
「そんなのは分かってるわよ。」
ハーマイオニーはバカにしたように答えたが、それでもその目と唇に安堵の笑みが浮かぶのを、ロンは見逃さなかった。
なんだかんだ言って、心配してるくせに。
そんなことを心の中で呟いてから、ロンはもう一度ハリーに視線を落とす。
見下ろした顔は、出会ったときよりもずいぶんと大人びて見えた。
それは、外見だけではなく、きっと──。
額に乱れかかったハリーの髪を掻きあげて、ロンはふとその額に見えた稲妻の傷に目を留めた。
「──……ハリーが大変なときに、私たちは、側に居て上げられなかったわね…………。」
ハーマイオニーもまた、ロンが止めた傷跡に目をとめた。
「……居たかったさ……っ。」
苦く、吐き捨て……ロンは、キリ、と唇を噛み締めた。
そんな苦しげなロンの表情に、ハーマイオニーも同じ気持ちで、手の平を握り締めた。
そのまま二人、静かにハリーの寝顔を見つめる。
昏睡しているハリーは、ようやく訪れた安らぎを──眠りを、必死で守っているようにも見えた。
そんな彼を、ただ無言でハーマイオニーとロンは見つめた。
血の気を無くしたようなハリーの顔。
「──そうね。」
ハリーが大変なときに、自分たちは何をしていただろう?
そんなことを、今度も噛み締めて思いながら──自分たちの力のなさを悔いて拳を握り締めた。
そんな二人の肩に、ぽん、と手が置かれた。
ビクリッ、と体を震わせた二人は、とっさに懐の杖に手を伸ばしながら、ハリーを庇うようにして体を張って振り返る。
キッ、と視線を上げた先──睨みつけた先には、見事な赤毛の女が立っていた。
驚いたように目を瞬かせるその見慣れた顔に、ロンは一瞬眉を顰め──ぁ、と、小さく口を開いた。
「ママ……。」
唇を震わせるように呟かれたロンの言葉に、ウイーズリー家の主婦は、眉を顰めた後──唇の前に人差し指を立てて、しぃ、と小さく呟いた。
「ハリーが起きるわ。静かに。」
神妙な顔でそう囁く母に、ロンは何か言いたそうに口を開きかけたが、結局何も言わずに閉じた。
そして、ハーマイオニーと共に、どこか暗い色を宿している彼女を見上げた。
ウィーズリーおばさんは、チラリとハリーの寝顔に視線を走らせると、また不安そうに顔をゆがめた。
どこか顔色も青く見える。
「ママ?」
「おばさま?」
確かにウィーズリーおばさんは心配性なところはあるけれど──、ここまで冴えない顔になる理由がわからなくて、ロンとハーマイオニーは軽く視線を交し合った。
次へ