私の罪を思うとき、思い出すのは、あのタイミングで村に居た吟遊詩人の姿だった。
 旅の人だといっていた、私が初めて出あった「外」の人。
 考えてみれば、お互いに自己紹介なんてしなかった。
 ──だって、当時の私は、「自己紹介」というものの存在すら知らなかったのだから。
 あの樵のお爺さんに教えてもらって初めて、私は自分の名前を相手に伝えることの大事さを知った。
 その時、私が思ったのは。
…………私のせいで巻き込まれ……おそらく、死んでしまったのだろう、あのキレイな人の名前すら、知らない、と、言うこと。
 ──彼にも、誰か愛する人が居て、彼にも、帰る場所があって。
 そのことも何も、結局聞けなかったけど。
 彼を待っている人は、彼の死を知ることなく、今も待ち続けているのかしら?
 でも、私。
「…………名前も、知らない。」
 あの人のように、キレイな銀の髪を見たことはない。
 あの人のように、キレイな紅の瞳を見たことはない。
 旅をしていたといっていた。
 見てわかるほどの強そうな雰囲気。凛々しい体つき。
「──名前も、知らなかった。」
 ただ、出会って、少し会話をしただけ。
 初めて「外」の人と話せると、ドキドキしていたのを覚えている。
 でも、今なら、わかるの。

「初恋……って、言うのかな?」

 あのドキドキは、少しだけ、意味が違っていたっていうこと。
 ──気づいてしまっても、もう、会えない……会えるはずなんてない。
 だって彼は。
 私が。
 ころした、ひと。




「いいなぁ、アリーナは。大好きな人がいつも傍に居てくれて。」
「ぅん? あぁ、ブライとクリフトのこと? そうね、二人だけでも私の傍に居てくれて、私は幸せね。きっと、どちらかが居なくても、私はこうして元気に旅を続けることは出来なかったわ。」
 ニッコリと笑うアリーナの笑顔に、自分が失態をしたと気づいた。
 彼女の、誰よりも大切な人だろうサントハイム国王は……行方の知れぬ身なのだ。
 少し眉を寄せて、視線を落としたリラに、アリーナは明るく笑う。
「それに今は、その大好きな人がたくさん居るから、もっと元気よ!
 リラもマーニャもミネアも、トルネコさんもライアンさんも、大好き!」
 そんな彼女の、優しい暖かさに、いつも助けられる。
「うん──そうだね……私も、みんな大好きだから…………だから、元気でいられる。
 明日も、あさっても。」



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