血の匂い。
 くすぶった煙と火。
 残されたものが何もない、世界。
 ただ、眼の前に映るのは。

「……ぁ…………。」

 花畑であった場所の上に、血と泥に塗れ、つぶされて半分埋もれた。
 親友の。

「──……っっ!!! ぅぁ…………っ。」

『リラ……わたしたち、ずっと一緒に居れたら、いいね。』

「あぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!!」

 胸が、痛い。
 目が、痛い。
 全身が悲鳴をあげていた。
 心が、張り裂けそうな憎しみと恨みを訴えていた。
 さびしい。
 いたい。
 かなしい──その感情は湧き出てこない。
 ただ、胸を占めるのは、傷を流し続ける心の痛み。
 耳がキンと音を鳴らせている。
 もう何の音もしない、シンと静まり返ったその中に蹲り、リラは地面に吼えた。

「あああああぁぁぁぁーっ!!!!!」

 それは、獣の咆哮にも似ていた。

 喉がこのまま張り裂けてしまえばいい。
 血が沸騰するほどのこの怒りで、身が裂けてしまえばいい。
 眼の前は真っ赤に染まり、何も見えなくなる。
 それでもリラは、体を抱きしめて、ただ叫んだ。
 眼の前に埋もれた羽根帽子を手にすることもできず──ただ、叫んだ。
 叫ぶことでしか、今の自分の感情を出すことが、出来なかった。


──それは。


 果てない時の中、ずっと、続いた。


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