「あの……こんにちは。」
ひょっこりと顔を出した少女を見た瞬間、背筋を貫いた衝撃は──確かに、天の光のソレだった。
少し照れたような顔で、彼女は大きな目を更に大きく見開いて、はにかむように笑う。
それから、彼女は何を言ったらいいのか悩むように眉を寄せて、少し首を傾げて……、
「どこから、来たのか……聞いてもいいですか?」
不安と期待を入り乱れた表情で、そう、聞いた。
その目に宿るのは、純粋な輝き。
健やかに伸びた手足も、浮かび上がる表情も、何もかもが初々しいほど純粋な……眩い光を伴うもの。
それに覚える苦痛と──苛立ちを押し込めて、男はにこりと微笑を見せた。
どこか冷たさを覚える美貌が、その微笑だけで拭い取られる。
ぱぁっ、と華やかな光を舞い散らせる男に、彼女はパァッと花を散らせるように頬を赤らめた。
「──このような場所に村があるなんて、思ってもみませんでした。
この村には、あなたのような子供も居るのですね。」
かすかに微笑んだ唇が刻む意味を、理解しないまま、彼女はコクリと頷く。
「うん──って言っても、子供は、私と……。」
言いかけた瞬間、
「リラっ! ほら、父親に弁当を届けるんだろうっ!? 早く行かないと、また怒られるぞ。」
家の主人から、叱咤が飛んだ。
リラと呼ばれた少女は、ピョンッ、と飛び跳ねるほど驚いた顔をして──それから、恥ずかしげに首を竦めた後、
「はーいっ、今行くわっ!」
男に向かって頭を下げた。
「あのっ、良かったら、あとで外のお話をして欲しいんです。
私、村の外に出たことがなくて……。」
早口に呟くリラに、青年は柔らに微笑んで頷いてくれた。
それに、リラは本当に嬉しそうに顔をほころばせると、
「それじゃ、また後でっ!」
ヒラリ、と身を翻して、部屋の外へと出て行った。
青年はソレを見送り──さて、と、表情に凍てつくほど美しい色を乗せた。
「……どうやら…………当たり、だったようだな。」
パチン、と指を鳴らすと、一人しか居なかった室内に、人影が現れる。
ソレは、迷うことなく青年の前に跪いた。
「デスピサロ様、準備は滞りなく。
いつでも号令をおかけください。」
その人影は、余計なことは何一つ言わなかった。
ただ、事実のみを告げた。
その台詞に、青年は血の色をした瞳を眇めると──低く、告げた。
「私が表に出たら──総攻撃を開始しろ。
勇者……リラを仕留める。」
一度目を閉じると、脳裏に浮かび上がったのは、愛らしい微笑みに、少し哀しげな色を閉じ込めた美しいエルフの姿だった。
彼女が、どれほど人間に虐げられてきたか、自分は知っている。
そして──人間が、どれほどおろかな生き物であるのか、も。
「……お前に罪はなくとも──、邪魔な芽は、早々に摘み取らねばならない。」
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