『こんな幼い子供を、どうしろって言うんだっ!?』
『俺たちゃ、何の義理もないね。』
『よく言うよっ! あの人達にいっつもお世話になってたのは、あんたも同じじゃないか!』
『……確かに、世話にゃぁなったが──かと言って、この子の世話なんて……面倒見切れないよ。』
『でも、誰かが引き取ってやらないと、こんな小さな子──生きていくことなんて出来ないよ。──モンスターに食い殺されちまうのがオチだね。』
『ならお前が面倒見るか?』
『冗談はよしとくれよ! 見なよ、この子の手。とてもじゃないが、力仕事なんて出来そうにもない、ひよっこいもんじゃないか! 畑仕事もしたことがないんだろう? 働き手がほしいのはドコでもおんなじだけど、こんな──……。』
『もう少し大きけりゃ、お父さんの仕事も手伝ってただろうから、薬師の真似事くらいできただろうが……こんなに幼かったらなぁ。』
──声。
父さんの「客」達の声。
そう、彼らは父さんの「客」だ。決して同じ村の住民ではありえない。
だって彼らは、父さんを同じ「村の人」として、決して認めなかったから。
彼らにとったら、父さんはいつまで経っても「よそ者」で。
必要なのは父さんその人ではなく、父さんの腕だった。
薬師としての腕。癒し手としての腕。
神に仕える身でありながら、子をなしたが故に排斥された──サントハイムの廃神官。
その意味を知ったのは、本当にずっと後のことだったけど。
ただ、父さんの体の入った棺おけを前に座り込む僕を巡って、そう声高に叫びあう人の言葉の意味は分かった。
つまり。
誰も、「僕」は、いらないんだ。
『どうする? この子の身寄りは、どこにも居ないのか、本当に?』
『そんなの、誰もわかるはずがないじゃないか。
だってあの人は、結局よそモノで、あたしらと交わろうとすらしなかったんだからね!』
喧々囂々と自分勝手に叫びあう大人たち。
この村に来てからずっと、僕は自分と同じ年頃の子供を見たことがなかった。
どうしてかな、と父さんに聞いたことがあったけど、父さんはただ苦く笑っているだけだった。
その答えを、父さんは決してくれはしなかったけど、僕はなんとなく分かっていたような気がする。
一生懸命笑いかけて挨拶しても、よそよそしく笑う大人。
僕が父さんのお使いで薬を届けに行っても、家の中に決して入れてくれることは無かった。
僕が村の中に──家が立っている辺りに入っていくと、遠くからコソコソと見る目も感じ取ることができた。
なんだか歓迎されていない。それがいつも僕が村に行って思うことだった。
──────それでも。
僕が父さん以外に接することができ、頼れることが出来るのは、この村の大人達だったから。
だから、父さんが動かなくなった時──助けを求めに行ったのに。
村はずれのこの家から、村の大人達が居る場所まで……どれほど長く、孤独に感じたか。
それでも、ようやく村に辿りつけたときには、安堵すら覚えて………………でも、彼らは……泣きじゃくる僕を家に入れてくれることすらなかった──そんなときでも。
答えはきっと、そのときに出ていた。
用意されたのは、おざなりな棺おけと花。
後は、さっきからずっと、そんな話し合いばかりだ。
『近くの町まで行って、神父さんを呼んでくるって言うのはどうだい?』
『無理じゃないのか? 聞いた話だと、サントハイムの王都を追い出された神官らしいじゃないか……。』
『でも、このままにしておくわけにもいかないしねぇ。──どっかの屋敷に奉公に出れる年でもない。』
『あぁ、厄介な年齢だな──。』
僕にとって、この村の全ては、この大人達。
この村は、僕が居ることを許さない。
なら、どこへ行けばいい?
……この家の背後に広がる、広い森の中?
──あぁ、そうだ。僕が父さんの手伝いをして、薬草を集めに行く森は、村じゃない。
あれは、ただの土地だ。
あそこだけが……僕の居ても良い場所。
働けない僕は、要らない子供だから。
もう動かなくなった父さんも、村の人たちを癒すことはできないから、多分、村にはいらない人なんだと思う。
だから、できることなら一緒に連れて、村から出て行こうと思ったんだ。
でもね、僕の小さな手では、小さな腕では、どれだけ頑張っても、父さんを連れて行くことは出来なかった。
父さんをホコリ臭い棺おけの中に寝かせたまま、僕は住みなれた──けど、村の人たちに取ったら、よそ者でしかない人の家を、出るしかなかった。
だって、誰も「僕」が、いらないんだから。
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