SIDE リラ


 嫌いな場所なら、両手であげていっても足りないくらい。
 人差し指を立てて述べる、一番嫌いな場所は、赤い目。
 人を見透かして侮蔑したような、あの色の目が嫌い。
 二番目に思い浮かべるのは、やっぱりあの唇。
 人の神経を逆撫でする無神経な台詞を吐くあの口は、大嫌い。
 そうそう、それを言うならやっぱり性格もよね。
 冷酷無比で残虐非道。人を人と思わないその所業も、言葉も、何もかもが最低。
 少しばかり顔と剣と魔法の腕が立つからと言って、──あぁ、一応魔族の王でもあったわけだから、それなりに上に立つ者としての心構えも出来ているけど。
 でもその代わり、ワガママで、傍若無人で、人のことを考えないわ。
 そう、思いやりがない。
 けど、誰も思いつかないようなことに気づいたり、忠告してくれたりはするわね。
 ううん、あんなの、数には数えられないわ。
 だって、気づいておきながら、無視することだって多数あるもの。
 人がせっかく居心地が悪いだろうと思って話し掛けても、「うるさい」だの、「口を閉ざすことを知らないかしましい女」だの、好き勝手に堂々と目の前で言ってくれる。
 何度、叫びそうになることを必死で飲み込んだか、分からないわ。

 だいっきらい。

 でも、それだけで済ませたくないから。
 それだけで済ませられるような関係じゃないから。
 だから、彼と手を組む道を選んだ。

 彼は、初めて私が憎いと思った人。
 彼は、初めて私が、命にかえても殺したいと思った人。
 彼は、初めて私が出会った、村の人以外の「最初の人」。
 彼は、初めて私が。

 17年間、知らなかった感情の殆どを、「彼」が私に、植え付けた。



SIDE ピサロ


 嫌いなところを上げろというなら、列挙していくことが出来るが、それは余りにも意味がない。
 だから、しない。
 嫌いなのは当たり前だ。
 天空の血を引いているというだけで、虫唾が走る。
 人にはありえない髪の色を見るだけで、見せ付けられた気がして、腹が立つ。

 どうしてあのバカは、マスタードラゴンを憎むことをしない?
 どうしてあのバカは、無理矢理押し付けられた「勇者」という肩書きを憎んでいるくせに、それを受け入れる?

 理解できないことばかりだ。
 だから、理解したくなどない。
 知れば知るほど、不可解な女だからこそ、関わりたくはない。
 人間は、愚かなものばかりだ。
 天空人は、バカばかりだ。
 その両方の血を引くあの娘は、例えようも無く。


 憎いと、思う。


 憎まれるのは、わたしのはずだった。
 事実、彼女はわたしを憎んでいる。
 そんな感情を向けられて当然のことを、わたしはしただろう。
 わたしからロザリーを奪った人間どもを、わたしが心の奥底から憎んだように。
 彼女はわたしを含めた魔族を、モンスターを、心から憎んだことだろう。
 顔も名前も知らぬ実の父と母を奪ったマスタードラゴンよりも、わたしの方がよほど彼女の心に強く刻まれたらしい。

 だから、憎まれても当然だとは思う。

 なのに。

 わたしには理解のできない「こと」を、彼女は抱く。



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