7 姫がいない。
「み……ミーティアっ!!」
見ているこちらが痛々しいくらいに、動揺し、おたおたする王が、先ほどまで自分の愛馬──否、愛娘が居ただろう場所に、がばっ、としゃがみこむ。
ソコに居ないのは見て分かるだろうに、彼は緑色の手の平を地面に叩きつけるようにして、暴れたような跡の残る地面を、目を皿のようにして睨みつける。
その姿を見下ろして、キリ、とゼシカは唇を噛み締める。
「これが普通の馬なら、アブか何かに刺されて逃げた……って言う可能性も、あるけど──。」
けど、それはありえないと、誰もがわかっていた。
この街の出身であるヤンガスが、あちゃぁ、と言った表情で呟いた言葉に、トロデ王は目を大きく見開き──そして、
「行くぞっ、イニスっ! ミーティアを一刻も早く探すんじゃっ!!」
短い手を振り回して、そう叫んだ。
もちろん、イニスはトロデ王にそういわれるまでもない。
すでに行動を開始し始めていた。
土の地面に残った車輪の跡をジ、と見据えてから、ヤンガスを振り返る。
その表情は、いつになく厳しい──戦闘中でもない限り見ることが適わないイニスの、鋭い眼光に、思わずゼシカもククールも小さく目を見張った。
「ヤンガス、ここの街の人は、行動は……早いほうだよな?」
静かに尋ねる声の奥に、フツフツとした怒りの色が見えて、思わずヤンガスはゴクリと息を呑み……コクコクと頷いた。
「そうか。」
呟く声にも、表情にも、いつもイニスが見せない色が濃く出ていて、どこか近寄りがたく感じさせた。
「……怒ってるな、イニス。」
「──初めてだわ、ここまでイニスが怒った顔を見るのは。」
なんだかソレ以上言葉をつむぐことができずに居たククールとゼシカが、なんとなく声を小さくしてささやきあう。
そんな一同を振り返り、
「姫のお姿なら、誰の目にも留まるはず──ヤンガスの言葉どおりなら、誰もがほしいと思うからこそ、チェックしてると思う。」
だから、聞けばきっと、すぐに答えは返ってくるだろう。
行こう、と。
そう告げるイニスに、動揺しまくったトロデ王は、早くせんかい! と怒鳴る。
「全員で、聞き込みする──ただし、散らずに、だ。」
そのトロデ王に頷いて、イニスは全員にこれ以上ないくらいの真摯な言葉で告げた。
もちろん、誰もその言葉に逆らうことはなかった。
──馬姫を見捨てるつもりがないと言うこともあったが、何よりも。
…………イニスが、怖かったから……で、ある。
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