地面の上に直接座り込み、二人は対峙していた。
 一人は可愛らしい面差しを宿した少女。
 もう一人はどこか浮世離れした美貌の少年。
 彼ら二人は、真剣な眼差しで向かい合って正座をしている。
 その中央には、美しい鈍い銀色の剣が、鞘に入ったまま横たえて置かれている。
 さらに隣には、同じ文様が刻まれた同じ色の盾。
「覚悟はいいか、アリーナ。」
 美しい翡翠の髪を持つ少年が、瞳に鋭い光を宿して問い掛ける。
 それに、亜麻色の髪の娘が、コックリと頷く。
「もちろんよ。そういうユーリルこそ、覚悟はできたの?」
 不敵な微笑を浮かべてみせるアリーナに、ユーリルも不敵に笑い返した。
 そして二人は、ジリ、と間合いを取るようにお互いの距離を目で測り、いつでも互いに飛びかかれるように軽く腰を浮かせる。
「どっちがヤラれても、言いっこなしだぜ。」
「もちろんよ。」
 実力は五分五分。
 どちらが勝っても負けても、おかしくはない。
 事実、過去の戦歴を思い返せば、勝率も五分、引き分けの数も馬鹿みたいに多い。
「素早さにかけては、私に勝てるわけないんだから。」
「駆け引きに関しちゃ、僕の方が優秀だと思うけどね。」
 ギリギリと間近で一瞬にらみ合い、交錯した視線をそのままに、互いの右手をゆっくりとあげた。
 バチバチバチと音がしそうなほど飛び散る火花の元。
 ユーリルは、高々と右手の拳をかかげた。
 アリーナも、右脇で拳を握り締める。
 そして、威勢よく、ユーリルは高々と叫んだ。

「最初はグーッ! じゃんけんホイっ!!」

 思い切り良く出した拳の行く先をお互いに見たのは、ほんの一瞬。
 互いの拳の行方と出した形を認めた次の刹那には、互いに行動を開始していた。
 チョキを出したアリーナは、そのまま手の平を右に滑らせて、ユーリルとの間に真横に置かれていたはぐれメタルの剣の柄を握りしめる。
 パーを出したユーリルは、おなじく右手を右に滑らせ、はぐれメタルの盾を掴み取る。
 そして、お互いにそれを一瞬の迷いもなく、掲げたっ!
「たーっ!!」
 使い慣れない剣を、勢い良く振りかざし、ユーリル向けて、それをたたき落とすっ。
「なにくそっ!」
 しかし、ユーリルは同じ速度で、自分の頭の真上にはぐれメタルの盾を翳していた。
 ガツッ、と、鈍い音を立てて、ユーリルの右腕に重みがかかる。
 チッ、と、姫君らしくない舌打ちが聞こえたかと思うや否や、アリーナは剣を振り下ろし、元の場所に戻した。
「絶対、勝てたと思ったのにーっ。」
 悔しそうに呟くアリーナに、痺れた右腕をヒラヒラと振りながら、ユーリルはフフーン、と鼻先で笑って見せた。
「アリーナの素早さには勝てないけど、アリーナは剣の扱いになれてないからな──無駄な動きが多すぎだからな〜。
 ……ま、これでフィフティフィフティってとこだな。」
 ガラン、と音を立てて盾をおきながら、ユーリルは軽く腰を浮かせて、今にもアリーナに飛び掛りそうな勢いで、
「さ、二回戦と行こうぜ、二回戦とっ!」
「今度こそ、仕留めてあげるわよ、ユーリルっ!」
「それはコッチの台詞だぜ。二回もラックが続くと思うなよっ!」
 ふっふっふっふ、と不敵な笑い声をお互いに上げながら、二人は再び握りこぶしをした。
 そして、拳を高く突き上げた。


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