好戦的な色に、お互いの目が染まっていた。
ここまできたら、もう誰も止めることはできない。
「最初はグーッ!」
声高に叫んで、二人は再び拳を振りおろす。
「じゃんけんほいっ!!」
刹那、
「とったっ!!」
「くっ。」
お互いに目には見えないほどの素早さで、剣の柄を、盾を握りこむ。
ユーリルは慣れた仕草で、はぐれメタルの剣を掴みざま、手首を返す。
ヒュンッ、と、思う以上に早く襲い掛かってきた剣に、アリーナは軽く目を見開く。
まずい、と思うと同時、体が背後に動くが、それよりも早く、目前に剣が迫る。
「──……っ!」
負けた、と──彼女がそう思ったと同時。
カコン。
情けない音を立てて、はぐれメタルの剣が、アリーナの目前ではじき返された。
「………………アレ?」
そのままアリーナに鞘を叩きつけるつもりだったユーリルは、手前ではじき返された剣に、目を丸くする。
キッ、と、最後まで剣の軌道を睨みすえていたアリーナも、アレ? と首を傾げて、ユーリルと目を交し合った。
それから、揃って二人は、同じ方向に視線を飛ばした。
そこでは、何もなかったような表情で、何もなかったような態度で、ミネアと一緒に昼食を作ってるクリフトが居た。
「…………クリフト、だな。」
「クリフト、よね。」
今のは、紛れもなくクリフトのスカラだった。
朗らかな微笑を浮かべてミネアと話しているクリフトに、ユーリルはブスくれた顔を向ける。
「クリフトーっ! アリーナにだけスカラかけるなんて、ずるいぞーっ!」
「ありがとう、クリフト!」
クリフトは、声をかけられて首を傾けるようにして二人を振り返った。
そして、スゥ──と瞳を細めると、
「何度も言ってますけど……その遊びは、感心しませんよ。」
そう、低い声で呟いた。
「だからって、アリーナにだけスカラかよ!」
「危ない遊びをしているからです。」
バンッ、と地面を叩いて叫ぶユーリルに、呆れたようにクリフトは溜息を零す。
「遊びじゃないわ、訓練よっ!」
すかさずアリーナが反論するが、クリフトはただ溜息を零すばかりだ。
チラリ、と視線をよこすと、パーティ内の最強武器と最強盾が、ごろん、と地面に転がっているのが見えた。
この二人、最近、コレに嵌っているのである。
じゃんけんをして、勝った方が剣を手にして、負けたほうを叩くのだ──もちろん、剣の刃で攻撃したら危ないから、剣は鞘に入ったまま使うのだ。
負けた方は、攻撃を受けないように盾を手にして、それを防御する。
はじめの頃は、薪と鍋でやっていたのだが薪もなくなり、鍋は使うからと没収されてしまって、二人はこうしてはぐれメタルの盾と剣を持ち出して行っているのである。
「ならせめて、ヒノキの棒と木の盾でやってくださいと何度も言ってるでしょう?」
まったく、と、呆れたように眉を寄せるクリフトの声には、諦めの声も混じっていた。
鞘だから大丈夫だと言い張るユーリルと、多少は危機感を感じないと体が反応しないと言い張るアリーナと。
何度言っても、二人は一向に反省する様子を見せないのだ。
「だいたいなー、クリフトっ。なんでアリーナにだけスカラをかけて、僕にはかけないんだよっ。」
まったく、と膨れたように唇を尖らせる、ユーリルには、
「……………………とにかく、ソレ、片付けておいてくださいね。
これ以上やるというなら、お二人に何度でもスカラをかけさせてもらいますから。」
あえて返答を濁してみせた。
二人は顔を見合わせると、軽く首をかしげあった。
それから、諦めたように小さく肩を竦めあうと、
「しょうがない、今日はこれで条件反射訓練は終了にしよう。」
「そうね、後はまた、あっち向いてホイでもしよっか。」
「そうしよう、そうしよう。」
和気藹々と、はぐれメタルの剣と盾を抱えて立ち上がる二人を背に。
「……──、一度、お説教3時間とかしないと、止めてはくれないんでしょうかね……アレは。」
クリフトは、次々に新しい遊びを見つけては、嬉々としてチャレンジしている二人に、少々手を焼いていた。
──いや、焼いていた、という表現は、ある意味正しくはないのだろう。
今も尚、それは継続されていたのだから。
「うーん──お説教しても、あの二人の好奇心は、止まらないと思いますけどね。」
ミネアは、それ以外に答える台詞はないと言いたげに、クスリと小さく笑ってみせた。
戻る