まぁまぁ、と肩を叩いてやると、ナナミはぶすくれた表情でリオを振り返った。
「リオ──……ハロウィンって、何のお祭りだったっけ?」
そして、恐ろしい上目遣いのまま、リオを見あげた。
「……………………えーっと、妖精とか精霊とか、魔女とかがぁ…………。」
「なんの、お祭り、だった、かしら?」
一節一節を区切って、ナナミはリオの両頬を掴んだ。
そして、ぐい、とこちらを向かせると、ん? と迫った。
「──────子供たちが仮装して、大人からお菓子をもらう日です。」
リオは、しぶしぶナナミが求めているだろう答えを口にした。
彼女はそれを聞いた瞬間、にやり、と形容出来る笑みを浮かべて見せた。
「なら──……やるわよ。」
「…………ナナミ、犯罪って、知ってる…………?」
一応尋ねて見たが、
「今夜は無礼講っ!!」
拳を握り、燃える女になったナナミには、脳に届かないのであった。──後で後悔するだろうにと、リオは止められない自分に、そっと嘆息するのであった。
が、その手がしっかりと武器となるホウキを握っていたのは……単に姉が恐ろしいからだと………………………………言えないでもない。
「トリック オア トリートっ!!?」
「欲しいものくれなきゃいたずらしちゃうぞっv」
えへ、と笑ったリオが、ホウキの柄の部分を突きつけると、ナナミがそこらに吊るしてあるかぼちゃのランタンを片手に迫る。
「いたずらってなにかなぁぁー?」
「えー? たとえばぁ、かるーい所で、おじさんをここから落しちゃうとかっv」
「おもーく行っちゃうと、中でろうそく燃えてるランタンをかぶせちゃったりとかv」
嫌そうに参加したわりには、リオは楽しそうであった。
賞品置き場で片づけに精を出していたジョウイは、乱入してきた二人の姿を見た瞬間、動きを止めた。
そして、無言で自分の後ろにあるトレーニングセットを見あげて、ああ、これか、と無表情に呟く。
「お、お前らっ!」
「だって、やっぱりハロウィンって言ったらこれだよねぇっ♪」
「うんうん、これやらないと、終らないよねっ!」
嘘つけ、さっきまで食べるのに夢中だったくせに。
突っ込みたくなったジョウイは、無言で溜め息を零したのであった。そして、隣にいたメイド達に命じて、トレーニングセットを包むように命じた。
どうせこうなったら、欲しいものをやらなくてはおさまらないのであるから。
一体何事だと驚いた町民達も、にやり、と笑うや否や、
「トリック オア トリートっ!!」
ステージに乱入した。
「ナナミちゃんっ! あたしも加勢するよっ!」
「きゃーん、ありがとう、おばちゃんっ! 目指すはトレーニングセットっ!」
「わーい♪」
「無礼講だーっ!!」
辺りでグラスが当たる音がする。
笑い声がひびく音がする。
ジョウイは一番被害になりそうな自分の場所を自覚するや否や、ひょい、とステージから降りた。
そして、ぎゅうぎゅう詰めなステージを見あげて、なんだかんだ言いながらもリオがはしゃいでるのを見て取った。
楽しそうにホウキでジョウイの父親を掃いている。隣では、猫耳をつけたメイドさんが尻尾をつかんで踊っていた。
ナナミはトレーニングセットを見つけて、ナナミマークをつけていたし、おばさんが笑いながら紙屑をバァッと空に飛ばした。
さらさらと炎に照らされたそれが、空を舞っていく。
「………………ふむ。」
ジョウイは少し考えて、ナナミとリオのお遊びをきっかけに飛びまくった一同を見た後、
「じゃ、僕も参加してこようかなぁ〜♪」
楽しそうにステージをあがったのであった。
後に、アトレイド氏は語る。
──二度と無礼講なんてするもんか、と……。
もう片方の続きが気になります。選択肢2へ