炎の試練




幻想水滸伝マニアッククイズ レベル1

「幻想水滸伝の最新シリーズ、3で出てくる、50年以上前の『英雄』。
 その存在が、幻想3のキーポイントになるわけですが──
さて、『その人物』は、通称で何と呼ばれていたでしょうか?」




第2の隠しページは、このページのどこかにあるその人物の「通称」にリンクが貼られています。
よーく探してね♪






の英雄



 小さな蝋燭の炎が揺れていた。
 その光りを頬に受けて、儚げな雰囲気を漂わせる少女は一人、杯を傾けている。
 鈍く反射する銀色の髪には、つややかな月光の光が宿り、冷めた色を宿す瞳には、ワインに宿る紅が撮り映ったかのよう……。
 古びた漆喰のテーブルに肘を付いて、埃にまみれた空気を吸う。
 その中、ヒンヤリと冷えたワインは、まろやかに舌先に消えていく。
 ペロリ──と、唇を舐めて、彼女は闇に浮き上がる青白い頬に、笑みを浮かべて見せる。
 そうして、やおらクツクツと笑い始めると、ゆるりと弧を描くように目もとを和らげる。
「──気付いておらぬと、思ったのかえ?」
 それは、甘い声だった。
 優しい声のようにも聞こえた。
 けれど、聞いていた方は──退屈凌ぎを見つけた、手に負えない猫のようだと、そう思った。
「何時までそうして隠れておるつもりだ? いい加減、かくれんぼをするような年でもあるまいに?」
 可憐な外見に似合わぬ、古びた言葉遣い。
 けれど、どこか不思議な印象を与える少女には、良く似合っていた。
 ユラユラと揺れる蝋燭が、微かに揺れた。
 それと同時、まるで影が揺れるように、闇が掠れた音を立てた。
 少女は、それを素知らぬ顔で、美しい耀きを宿すワイングラスに口をつける。
 甘酸っぱい香が、ツン、と鼻先を抜けた。
「気付いていないとは、思ってなかったさ。」
 答えた声に、少女は、ワインの色で赤く塗れた唇に笑みを刻んだ。
 満足そうな笑みは、ワイングラスに薄く映るだけ──。
「ただ、一人の時間を邪魔しちゃいけないと、そう思ったダケでね……元気そうで何よりだぜ、シエラ老?」
 からかうように口にされて──その、どこか重いくせに軽い口調の相手に、シエラは無言でワイングラスの脚を持ち替えた。
 かと思うや否や、彼女はそのグラスの中身を、自分の背後に立っているだろう声の主向けて、思いきり良くブチまけた。
「……っ!? ぅわっ!?」
 思わずあがった悲鳴は、大人びた印象を与える口調とは違う、幼い──まだ声変わりも終えていないような物だった。
 ギィ──と、きしむイスの上で、ゆったりと脚を組替えた少女は、空になったワイングラスを片手に、腕を組んで顎をツンと上げる。
 見下すように見やった先──ベットリと赤いワインを頭から浴びた昔の知り合いが、ぺっ、ぺっ、と、口に入ったワインを吐き出していた。
 闇夜にも際立つ、存在感。
 普通のどこにでも居そうな少年ではあるが、長い月日を闇で行きてきたシエラの鼻には、痛いくらいに突き刺さってくる──闇の匂い。
「つべてっ、──何すんだよ、ご挨拶だなぁ、久しぶりに会ったお仲間だって言うのにさ。」
 唇を突き出して、ブルリと頭を振る少年に、シエラは軽く目を細めてみせた。
 彼女の手にした空のワイングラスから、ツゥ、と、残っていたワインの雫が滴った。
「誰が、誰と同朋だと? 妾の同胞は、村が滅びたときに全て潰えたわ……残るのは、狩るべき子供達のみじゃと──。」
 傲慢にすら見える冷ややかな瞳は、銀髪の美しい少女の姿には不似合いで──同時に、酷く魅惑的に映った。
 綺麗な見目の人間は得だね、と、皮肉げに心の中だけで呟いて、少年はベタベタする髪を掻き揚げた。
 ここまでは届かない蝋燭の明かりに、暗い色に見える髪には、タダでさえでも埃にまみれていたためか、ズルリとした感触がした。
 思わず、その気持悪さに、彼は唇をへの字に曲げた。
「……それでもさ、久しぶりに会った知りあいに、コレはないんじゃないんすかね?」
「追い出されぬだけ、ありがたく思え、若造。」
 小さな明り取りがあるだけの、薄暗い小屋。
 それなりの人物が隠れ場として用意したのだろうと思われる、農村から程遠い場所。
 聞こえるのは、遠くで獣が吼える声と、木々がざわめく音ばかり。
 獣皮で作られた蝋燭の明かりが無ければ、ただの暗闇しか落ちていなかっただろう室内は、雑然としていた。
 その中、テーブルについて、少女は何事も無かったかのように、手酌でワインを飲み始めた。
「俺だって、もう200年は生きてるんですけどね……。若造って呼ぶくせに、老って呼ばれるのがイヤなんて、女はワガママだな。」
 ブツブツと、少女には聞こえないようにグチりながら、身体にかかったワインに辟易する。
 肩からかけていた布を解き、乱雑に髪を拭いた。
 それから、先ほど──少女から声をかけられるまで隠れていた、ソファの裏手にチラリと目をやり──溜息を零すようにして、ドスン、とソファに腰を落とした。
 瞬間、舞いあがった埃に、眉を寄せずにはいられない。
「埃を立てるな。ワインがまずくなるであろうに?」
 すかさず飛んでくる辛辣な口調に、ハイハイ、と少年は軽く答える。
「それじゃ、俺がお詫びに酌するからさ、俺にも一杯ちょーだい?」
 ひらりん、と片手を突き出すと、嫌そうな視線が返ってくる。
 そんな少女に、少年は明るく笑って見せた。
「いいじゃん。血を飲んで飲まれた仲なんだからさ。」
「それなら、お主はずいぶんと血兄弟が多いことよのぉ? ──テッド。」
 嫣然と微笑むシエラに、彼は大きく顔をゆがめて見せた。
 そんなもの、兄弟なんて呼ぶなと──そう言いたいらしかったが、賢明にも彼はそれ以上少女に反論することはなかった。
 結局、自分の数倍の刻を生きているこの女性に叶うはずがないことを、彼は前回の出会いの刻に、嫌と言うほど知らされたのだ。
 数少なく存在する、この世界の礎──この世界の始まり、真の紋章の継承者同志として、巡り合った自分達の刻が、こうして交錯するのは酷く珍しいことだ。
 現に、テッド自身も真の紋章の──それも完成体である紋章の主と会ったのは、彼女と……片手の指で足りるほどであった。
「…………〜〜んじゃさ、ここで巡り合えた偶然に、祝って──っていうのはどう?」
 人との出会いを避けて、農村や町から離れた場所を行くことは良くあった。
 旅の休息所として置かれている場所も避けて、こういう捨てられた廃屋で一夜の宿を取ることも珍しくは無かった。
 そんな自分達が、こうして巡り合えたのは、酷い偶然と幸運ではないかと、テッドは笑って見せる。
 もっとも、そんな彼の笑顔は──多分、前にあったときよりも、数倍はマシな表情になっている自分の顔は、ろうそくの明かりが届かなかったため、シエラに見て取られることはなかったけれども。
「──お主の命の雫と引き換えになら、考えてやらんでもないぞえ?」
 クツクツと、楽しそうに笑うシエラの声に──テッドは、思い切り良く眉を顰めて見せた。
「……あんた、珍しくワインを飲んでると思ってたけど──もしかして…………結構、飢えてたり………………?」
 たらり、と、こめかみを伝う汗の感触を感じながら、ジリリとソファの上で身を引いたテッドへと。
「これも、飛んで火に入る夏の虫──とでも言うのかのう?」
 涼しい顔で、シエラはそう笑って見せた。