「ピクニックへ行こう」 2













 果てなく青い空を通り過ぎていく雲を見上げながら、彼は久しぶりに直視する太陽の光に、眩しいな──と、暢気に思っていた。
 目の前には、どこまでも続いて行くなだらかな丘の草原。広大なそこには、自然の中では決して生えたりしない鉄の塊が、ドン、と鎮座している。
 数ヶ月前にシドが初飛行を果たしたばかりの新型飛空挺『シエラ号』だ。
 ここへ来るときには盛大な風とプロペラ音を撒き散らしていたシエラ号も、数時間ほど前に、その中から十数人を吐き出してからは、入り口の扉をきちんと閉ざして、沈黙を保つばかりだ。
 その閉じた扉の前には、地面に向けて梯子が下ろされているだけで、地上から飛空挺の上へと上ることはできない。──もともと、巨大な飛空挺の上部に上るためには、一度中へ入って、そこからハッチを開いて出るしかないはず……なのだが。
「────…………野生児だな。」
 背後に聳える森の手前──つい数十分ほど前に、ユフィとレッドXIIIとケット・シーが飛び込んでいった森の入り口で、木の幹に背を預けながら、ヴィンセントは呆れたように飛空挺の上を見上げていた。
 飛空挺に乗って「ピクニック」にやってきた面々は、最初のうちこそ、飛空挺からそう離れていない場所に集まり、広げられたお弁当に手をつけていたものだが、おなかが満腹になると同時に、散り散りに散って行った。
 やるときは意思を一つにしてやる「仲間」だが、その気にならないとてんでバラバラな行動をするというのは、昔も今も代わりはしない。たとえ好き勝手にしていても、根っこのところではお互いに信頼しあい、結ばれていると分かっているから、別にそれはそれでかまいはしないのだが。
 森のほど近くに広がった花畑では、エアリスとティファが、年少組二人+精神年齢年少組一人を相手に、花冠の作り方を教えていた。
 見る見るうちに出来上がったエアリスの一番最初の花冠は、ティファの頭の上。ティファは花冠ではなく小さな花束のような髪飾りを作って、それをエアリスのツイストされた髪に挿して、笑っていた。
 そうして肩を寄せ合って笑いあっている娘二人を見ていると、二年前までクラウドを挟んだライバル関係にあったなどとは、とても思えなかった。──いや、それを言えば、当時も、仲間全員が、「エアリスの本命は、クラウドだと思うか? それともティファか?」という、笑えない冗談を言う程度には、ティファもエアリスもとても仲が良かったのだが。
 彼女達は、軽やかな笑い声をあげながら、花冠を結う手もそこそこに、楽しげに口を動かせている。
 旅をしていた時も、四六時中一緒にいるくせに話すネタに困らないものだと感心するほどあの二人は良く喋り、良く笑っていたが、それは今も代わりはないようだ。
 数日に一度は会っているらしいが、そのたびに延々と喋っているのだろうかと、飛空挺の中でも途切れなく話していた二人のことを思い出しながら、ヴィンセントはふたたび視線をずらして、飛空挺の上へと目をやった。
 その飛空挺の頂上──鋼の衣に覆われた頭の部分に、親指の先ほどの大きさの人影が二つ見える。
 問題は、ソレだ。
──まぁ、何だ。
 あの上に乗ろうと思えば、乗れないことはないとは思うが、わざわざそれをする意味が分からない。
 ヴィンセントも、たまに入り組んだ町に入っって迷子になると、ビルの頂上に立って眼下を見下ろすこともある。
 ことも、あるのだが。
 見渡す限り木と草しかないこの場所でやる意味が分からない。
 ヴィンセントの強化された視力ではっきりと見える人影は、シエラ号の頂上で、地上よりも強い風を受けて、楽しげに目を細めて前を見据えていた。
 腰に手を当てて、今にも鼻歌を歌いそうな顔で笑っている男が、黒髪を乱しながら自分の背後に立つ青年へと話しかけている口の動きまで見える。
────気持ちいいだろ?
 楽しげな口調だ。
 それに答えるのは、顔に当たる風の強さに辟易した様子の青年──銀色の髪を肩まで流して、それを思うままに風になぶられている。
「理解に苦しむな。」
 鼻先まで覆うマントの襟に口を押し付けて、ヴィンセントがポツリと呟くと、その声が聞えたのか、少し離れた場所で日向ぼっこをして転がっていた男から返答があった。
「んぁ? なんか言ったか、ヴィンセント?」
 途端、先ほどまでの聞くに堪えないいびきが鳴りを潜めた。
 ムクリと起き上がる気配に、ヴィンセントが視線をやれば、思う存分腹いっぱい食べての、幸せな昼寝の名残を残した顔つきで、男は大きく伸びをしてあくびを盛大に零していたところだった。
「いや──特に何もない。」
 んー、と気持ちよさげな声をあげて、男──バレットは、透き通るような青空を見上げて、もう一度大きな欠伸を漏らした。
 それから、コキ、と首を鳴らして、周りを見回す。
 心地良い眠さを招くような微風に目を細めながら、バレットは鼻先に感じた甘い香に、お、と目を瞬かせる。
 グルリと首を回せば、シエラ号をこの丘に停めた理由の一つ──森の少し手前に広がる花畑が見えた。
 そこでは、バレットの最愛の娘と、彼女の年若いボーイフレンド、二人の保護者的存在の娘、そして「なぜか今回のピクニックに参加している思念体」が二人ほど座っている。
 女性陣は全員頭に花冠を乗せて、みな笑顔で楽しそうだ。
 バレットは幼い頬にいっぱいの笑顔を見せるマリンを見ると、でれ、と口元を緩ませて、顎髭を擦りあげながら、
「ああしてると、マリンは、お姫様みたいだな〜。」
「……………………────────。」
 ヴィンセントは久しぶりの親バカっぷりを見せ付けるバレットに、あえてコメントは返さず、無言で正面へと視線を移した。
 煌々と輝く太陽のふもとで、シエラ号の頭で風と戦っていた二人の人影が、地面を指差して、空中へと身を躍らせるのが見えた。
 これが生身に普通の人間がしでかしたことなら、「おいおい」と思うところだが──決して止めない──、黒髪と銀髪の二人組みともなれば、止める必要すらない。
 何せあのシエラ号の上に乗って高いところを満喫していたのは、煙とバカ……ではなく、思念体だからである。
 そのまま無言で見守っていると、真っ先に地面に降り立った黒髪──ザックスは、シエラ号から少し離れたところで広げられた弁当の傍で、ぼんやりと座っているクラウドの方へと一直線に走っていった。
 クラウドはというと、食い散らかされた弁当たちの中で、ぼんやりと空を眺めているようだった。
 せっかくクラウドのためにティファとエアリスが楽しげに取り分けていた「クラウド用弁当」にも、手をつけていない様子だった。代わりに、クラウドの隣に座っている銀髪の青年が、バスケットの中からサンドイッチを取り出して、クラウドに差し向けては、己の口に運んでいるのが見える。
「──……なんだ、食ってるじゃないか。」
 思わず、と言った具合に零したヴィンセントに、んぁ? と、バレットが気の抜けた声をかけてくる。
「なにが? ……あぁ、クラウドか?」
 がりがり、と後頭部を掻きながら視線を転じるバレットが、軽く目を細めるのに、ヴィンセントは緩くかぶりを振る。
「いや──カダージュだ。」
 答えながら、クラウドの横手に座る青年の姿を顎でしゃくってやれば、バレットは鼻の頭に皺を寄せて、その場で胡坐をかいて口元を大きくゆがめてくれた。
「なんでぇ……、俺が食うかって聞いたときにゃ、食わねぇって答えたくせに、クラウドが誘ったら食うのかよ、あいつらは。」
「──……さぁ、どうだろうな。」
 不満だ、と顔にアリアリと書くバレットは、クラウドのことを認めているくせに、未だに時々、子供みたいにこうしてクラウドにライバル意識を抱くような発言をすることがある。
 その理由が「目に入れても痛くないと思っている娘が、クラウドにこの上もなく懐いている」と言うことから来ていることは、仲間内では公然すぎて、今更突っ込むことでもないのだが。
「そもそも、あいつらぁ、飯なんて食わなくてもいいんだろーが?」
「本人たちもそう言っていたが──味は分かるらしいぞ。エアリスとザックスが、そう言って、食べてただろう?」
 カダージュが幾つめになるか分からないサンドイッチに食いつく横で、飛空挺から飛び降りてきたザックスが、クラウドに飛び掛っているのが見えた。
 そのまま地面に突っ伏すかと思いきや、クラウドはそれをなんとか堪えているのを見ると、なかなかクラウドもこらえ性が出てきたようだと、ヴィンセントは妙なところで感心してみる。
「あいつらは食べすぎだ。」
 うぅ、と呻くように呟いたバレットが、何を思い出しているのか分からないでもなかったので、あえてヴィンセントはその独り言のような呟きに答えることはしなかった。
 何せ、草原に広げられたたくさんの弁当群に、真っ先に手をつけたのは、エアリスだったのだ。
「自然は、美味しく、ライフストリームに、還元しなくっちゃね。」
 そう言ったかと思うやいなや、ニッコリ笑顔で、ザックスともども、バクバクと食べてくれた。
 ダイエットの心配をしなくて良くなった上に、満腹感もない二人は、遠慮も呵責もなかった。
 あまりにステキな食べっぷりに、シドがストップをかけて、
「食べなくてもいいなら、食べなきゃ生きていけない俺らに譲れ、頼むから。」
 と言ってしまったくらいだ。
 ヴィンセントなどは、あの食いっぷりを見ているだけでも胸焼けがしてきたくらいだが、そうではない者も居た。
「……カダージュが興味を持ったのは、以外だったな。」
「あー? ……あぁ、アレな……。」
 ポツリ、と零したヴィンセントの視線の先では、いつの間にかシドの後ろに回っていたヤズーの手を握って、ザックスが何か叫んでいるところだった。
 何をしたのかは知らないが、別に刃物が飛び出てはいないから、くだらないことでもあったのだろう。
 そんなやり取りを、カダージュはサンドイッチに噛み付いたまま、見つめている。
「私は、エアリスたちの食いっぷりを見て、胸焼けがしたんだが──アレで興味を持つとは、思いも寄らなかった。」
 思念体は良く分からん。
 そうボソリと続けるヴィンセントに、俺も良くわからねぇな、とバレットが低く笑って同意した。
 どこか楽しげな様子を宿すバレットの笑い声に、チラリ、とヴィンセントは視線を落とす。
 バレットは、胡坐をかいた膝の上に肘を突いて、ノンビリと頬杖を付きながら、クラウドたちの方を楽しげに見ていたが、フイに顎を上げて、
「おっ。ヤズーも一緒になって飯を食うつもりみたいだぜ。」
 喉でクツクツと笑うような口調で、ニヤニヤと口元を緩める。
 「飯」というイミすら理解していなかった「子供」達が、新しいことに興味を持ったことが面白くてしょうがない──そんな響きの声だった。
 バレットに促されるようにしてヴィンセントが視線をやった先では、ヤズーがザックスとクラウドに挟まれるようにして、腰を落としているところだった。
「……それは別にいいんだが──。」
 カダージュが手にしているサンドイッチを指差して、それは何だと不思議そうに尋ねているヤズーに向けて、カダージュが何か答えてから、クラウドに向けてサンドイッチを差し出す。クラウドがそれをチラリと一瞥すると同時、弾けるようにザックスが大笑いを始めた。
 花畑からも楽しそうな笑い声、飛空挺のふもとからも楽しそうなザックスの爆笑。
 とても愉快なピクニックの様相をグルリと見回してから、ヴィンセントは小首を傾げると、チラリと太陽が傾いてる位置を確かめて、
「──……もうすぐオヤツの時間なのに、今、飯を食っていて、いいのだろうか?」
 ノンビリと、小首を傾げて、そんなことを呟いた。
「あぁ? なんだ、もうそんな時間か。」
 昼食の後はオヤツ。
 それは、あの旅の最中、ティファとエアリスとユフィが取り決めた「女性陣」のお楽しみの時間だ。
 今回のピクニックにも当然、オヤツの時間はある。
「──ちっ、ったく、カダージュたちが食うなら、オヤツも取り合いになるんじゃねぇのか?」
 立ち上がりながら文句を零すバレットに、ヴィンセントが面白いことを聞いたと言いたげに片方の眉を上げる。
「なんだ、バレット、珍しくお前も食べる気か?」
「今回はなぁっ、マリンがクッキーを焼いてくれたんだよ、クッキーをっ!」
「──……あぁ、そうか。」
 左の拳を握り締めて、右のバルカンを上下に振って──頼むから暴発はさせてくれるなよと思いながら、ヴィンセントが呆れた目でそう呟いた瞬間。
 がさ──がさがさがさ……っ。
 背後で鳴った茂みの音に、はっ、とバレットとヴィンセントの手が腰に、腕にとそれぞれ伸びる先。
「何っ! なになに! おやつの時間、まだだよねっ!!? だーれが私のケーキ、食べたってっ!!?」
 ガサガサッ! とばかりに、ユフィが飛び出してきた。
 頭にも服にも、ハッパをつけて、そのまま彼女はヴィンセントのマントを引っつかむと、
「ヴィンセント! エアリスもザックスの野郎も、ユフィちゃんのケーキは食べてないだろうなっ!!?」
 ぐぐっ、と、鬼気迫った表情で、ヴィンセントの赤い目を睨みつけてくる。
 その、食い物の恨みは恐ろしいとばかりの形相に、ヴィンセントはフラリと一歩後ろに下がりながら、
「……いや、クッキーじゃないのか?」
 バレットに向けてチラリと視線をやるが、すぐにユフィの手によって顔と視線を引き戻され、
「ケーキだってばっ!!」
 怒鳴るように叫ばれる。
 そんなことを言われても、今日のオヤツの中身など、ヴィンセントは知らない。
 何せオヤツというのは、ティファいわく「今日のオヤツが何か分からないから、楽しみなのよ!」ということで、直前まで伏せられているのが通常だからだ。
「まだオヤツの時間は始まってないぞぉ、ユフィ。」
 今にもオヤツの代わりにヴィンセントに喰らいつきそうなユフィに、バレットがヒラリと手を振って教える。
 その言葉に、なんだ、とユフィはアッサリとヴィンセントのマントを放り出す。
「エアリスやザックスに食べられるって思って、急いで帰ってきたんだよ、あたし。」
 彼女は、腰に手を当てながらニッパリと笑い、グルリと見回した周辺が、自分が出て行ったときと何も変わってないのに気付いて、満足げな笑みを零す。
「レッドXIIIとケット・シーはどうした?」
 ユフィに引っ張られたマントを直しながら、彼女と一緒に森の中へ冒険に行った仲間の名を口にすれば、
「もうすぐ来るんじゃない? あたし、上走ってきたから、わかんない。」
 気のない調子で、ヒョイ、とユフィが肩を竦める。
「上? ってなんだよ?」
 いぶかしげに問いかけてくるバレットに、彼女は肩ごしに振り返り、
「木の上。下は獣道ばっかでごちゃごちゃしてるから、あたし、枝を飛び渡ってきたの。」
 指先でクイ、と天を指し示した後、クラウド達の方へと歩き出しながら──、
「あぁーっ! なんだよっ、カダージュやヤズーが食べてるじゃん!! あいつらもオヤツをたかる気だなーっ!」
 ダッ、とばかりに、地面を蹴って走り出した。
 その、本人いわく「女らしさがにじみ出てきた」お子ちゃまじみた背中を見送りながら──……、
「あいつが戻ってくると、とたんに賑やかになるぜ。」
 やれやれ、と笑いながら、バレットもまた、クラウド達のほうへと歩き出しながら、ヴィンセントを促した。











 何度も繰り返すようだが、そもそも、思念体は飯など食わない。
 味はするが、食べても血と肉となるわけではなく、たんにライフストリームに還ってしまうだけで、イミがあるわけでもない。
 そのため、最初から思念体であるカダージュたちには、「ご飯を食べる」などと言った知識は、全くと言っていいほど無かった。
 生きるために人間が物を口にしなくてはいけないということは知っていたが、それは自分たちには全く関係ないことだと思っていた。
 しかし、同じ思念体であるエアリスやザックスは、食べる。
 それも、見ているコッチが胸焼けを覚えそうなほど、豪快に食べてくれる。
 みるみるうちに減っていった弁当の数に、「人間ってのは面倒くせぇんだな」と言う反応を示したのはロッズ。「コレって、ご飯をリユニオンしてるってこと?」と首を傾げていたのはヤズー。ちなみにヤズーの台詞に、飯食ってるときに気色悪いこと言うなと叫んでいたのはシドである。
 そして、何も言わずにその光景をただひたすらに見つめていたカダージュが、何も言わずに行動に移したのが、クラウドとユフィ以外の全員が、ようやく食べることに満足したときであった。
 残っているのは、飛空挺酔いのユフィとクラウドの分。
 ユフィは、元気が出てきたから森へ行ってくると、自分の分を包んでもらって、レッドXIIIとケット・シーと一緒に、駆け出して行った。
 クラウドがそれを見送って、ようやくピクニックシートの上へと移動した時と見計らって、カダージュも、彼の隣に腰を落とした。
 最初クラウドは、なぜカダージュが自分の隣に腰を落とすのか、全く理解していなかったようだが、彼はそれを気にすることはなかった。
 クラウドの横に座り、先ほどまで自分が見ていたことを思い出しながら、目の前のバスケットを開き──その中に入っている塊を、じ、と見つめ……おもむろに、クラウドの顔を見上げると、
「兄さん、コレは何だ?」
 そう尋ねた。
 ────……こうして、冒頭のシーンに戻るわけである。
 どうしてカダージュが弁当に興味を持ったのかは、全く分からない。
 疑問は尽きないが、あの三兄弟のすることに疑問を抱いていては、日が暮れて夜更けになって朝がきてしまう。
 まだ酔いが頭の中に残っているおかげで、食欲がわいてこないクラウドの目の前で、カダージュは自分専用にしてしまったバスケットのサンドイッチを、次々に平らげて行っている。
 本当に、一体どうしてそうなってしまったのかは分からないが──このまま停めないでいたらきっと、サンドイッチが全部無くなるまで、彼は食い続けることだろう。……まぁ、それほど量が残っているわけではないが。
 パクパクとサンドイッチに食いついているカダージュを見て、ザックスはニヤニヤと笑みを押し殺しきれない様子で笑っている。
 そんなザックスを、クラウドは呆れたように一瞥した後、自分用に取り分けられた皿を、のろのろと引寄せる。
 いい加減食べないと、帰りの飛空挺の旅がきつくなるのは、目に見えて分かっていた。
 消化してから何時間後に乗るのがいいんだったっけ? と思い出そうとしてみるが、ぼんやりとした頭では何も思い浮かばない。
「…………カダージュ、何を食べてるんだ?」
 そんなクラウドとザックスに挟まれた形で腰を落としていたヤズーは、右手に巻きつけられたタオルを、手持ち無沙汰にいじりながら首を傾げて、長男を見上げる。
 その目は、人間のように物を食べる兄を、不思議がっている色が浮かんでいた。
 カダージュは、ニ、と口元に笑みを刻みながらヤズーを見上げた後、
「サンドイッチだ。」
 当然だろう、というように目を細めて笑う。
 その顔がまた、子憎たらしいくらいにセフィロスに似ていて、それを正面から見た形になったザックスは、プッ、と、小さく噴出した。
──なんでその反応になるんだ。
 思わず胡乱げな視線になったクラウドが、ザックスを軽く睨みつけると同時、カダージュが持っているサンドイッチを彼に向けて突きつけてくる。
「兄さん、これは何?」
「────…………コロッケ。」
 チラリと一瞥して、クラウドは、何度目になるか分からない返答をしてやった。
 とたん、ザックスが、堪えきれないように盛大に吹いた。
「ぶは──……っ、なっ、なんだよクラウド、お前、さっきからココでボーッとしてると思ったら、んな説明なんてやってたのかっ!?」
 必死で声を漏らすまいと、笑いを漏らすまいとしているようだが、頬と口と腹の辺りが痙攣しているのが、見え見えだ。
 少し油断をすれば、ザックスはそのまま腹を抱えて大笑いに笑い出すことだろう。
 クラウドは、白い肌を軽く赤色に染めて、憮然と口をゆがめると、
「うるさい。ザックスと煙みたいに高いところが好きなわけじゃないんだ。」
 つん、と顎を逸らして、イヤミのようにとげとげしく言ってやれば。
「飛空挺の上に乗るのは、男のロマンだろ!」
 グッ、と拳を握って、ザックスが堂々と胸を張る。
 そのどこがロマンだと、クラウドが突っ込もうとするよりも早く、
「ロマンだ。」
 うん、と、重々しい感じに同意する声が、すぐ左手から返ってきた。
 視線をやれば、ヤズーがいつの間にか両手にサンドイッチを握り締め、ザックスの言葉に同意を示しながら、かぷ、とサンドイッチに噛み付いていた。
 さらに、
「おっ、分かるねぇ、兄さん。やっぱ、空は男のロマンだよなーっ!!」
 ばしぃっ、と膝を叩きながら、同意する空の男の声が逆隣から飛んできて。
「おうともよ!」
 ザックスが、シドに手を伸ばして、男同士握手などしだす。
 それを見て、ヤズーは手に握ったサンドイッチを見て、二人が熱く交し合う手を見て──パクリとサンドイッチを口で咥えながら、自分も手を伸ばして、握手の中に加わってみたりしてくれる。
 ──……いや、だからな、お前ら…………。
 頭痛を覚えた気がして、クラウドが眉と米神のあたりを揺らす。
 さらに、そんなクラウドの神経を逆撫でするように、コロッケのサンドイッチを最後まで美味しく頂いたカダージュが、
「──……そうなのか、兄さん?」
 真剣な顔で、尋ねてくる。
「────……いや、二人の会話は、噛み合っているようで噛み合ってないから気にするな。」
 緩く、力なくかぶりを振った後、クラウドはふと自分の隣に座るヤズーへと視線を移した。
 ヤズーは、モグモグとサンドイッチを唇の力だけで挟みながら、上下に熱く揺れる握手に参加していた。
 ザックスとシドは、空のすばらしさについて、第三者が聞いていたら、果てしなく平行線にしか思えない会話を見事に交し合ってる。
 クラウドは無言でその握手地点からヤズーの手を引き剥がすと、
「ヤズー、お前も食べるなら、ソッチに参加するな、食事に集中しろ。」
 何度目になるか分からない溜息を、もう一度深々と零してみせた。
 この後クラウドは、土煙を回せて走りこんでくるユフィの姿を見つけ、ますます気が滅入ることになる。











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