「ねぇ、兄さん。コレ、何?」
そう言いながら、捧げるように青年が手にしたサンドイッチを、ぐい、と目の前に押し付けてくる。
先日、「眼に悪い」と言って、ティファとエアリスによって付けられたお花の形のピンで前髪が止められている。それを見るたび、クラウドは思わず遠い目をしたくなるのだが──もう少し前髪が伸びるまでの辛抱だと、そのたびに己に言い聞かせる。
そのお花のピンのおかげで、青年は今、初対面のときよりもずっと女めいて──いや、あどけなく見えた。
獲物を狙うような鋭い眼差しはなりを潜め、煙るような銀髪を揺らして、ニコニコと口元に笑みを刻んで見上げてくる青年の──その、あどけない表情と同じくらいにあどけない台詞に、クラウドは溜息を零したくなる気分とともに、差し出されたサンドイッチを一瞥した。
白いパンとこげ茶色のパンの両面で挟まれたサンドイッチ──コレが何かと尋ねてくる理由が聞きたいくらいに、ごく普通のサンドイッチだ。
朝からティファが、セブンスヘブンの厨房で、せっせとこしらえた「ピクニックのお弁当」の一つ。
物資と食料があまり手に入らない「旧ミッドガル」内で、「運び屋」の特権でさまざまな材料を手に出来るクラウドが同じ家に住んでいるからこそ出来る、「豪華」なお弁当だ。
「──……卵とハムとレタスのサンドイッチだ。」
一瞥した黄色と白、覗くピンク色と緑色の鮮やかさは、誰が見てもそれ以外には見えない。
そう思いながら、溜息交じりにクラウドが答えると、青年は、へー、と驚いたように声を上げて、両手でサンドイッチを握り締め、マジマジと自分の目の前に掲げる。
それから彼は、ニッコリと微笑んで──これがまた、精神年齢さえ考えなかったら、老若男女問わず魅入られるよう綺麗な微笑み方で、やっぱりクラウドの口から零れるのは溜息ばかりだ──、パックリと、形良い口を開いてサンドイッチに噛み付く。
そのまま、もぐもぐと口を動かせた後、青年は目を瞬かせて、みるみるうちに瞳を開かせると、驚いたような顔で手にしたサンドイッチを見下ろした。
「不v議な味がする……。」
呆然と独り言のように呟いたかと思うと、青年はそのまま、二口目、三口目と、休む間もなくパクパクとサンドイッチを口に放り込み、勢い良く飲み込む。
「──────………………。」
その仕草から、「不v議な味=美味しい」というイミなのだろうと理解して、クラウドは立てた膝で頬杖をついた体勢のまま、何度目か分からない溜息を零す。
一気にサンドイッチを食べきった青年は、キラキラと目を輝かせて、近くに置きざりにされているバスケットへと視線を向ける。
一面に広がる濃厚な緑の芝生の上に、チョコンと乗せられたバスケットの中には、まだ半分以上中身が残るサンドイッチが詰め込まれている。
色とりどりの具がつめられたソレを覗き込んで、次は何を食べようかと考えいるらしい青年の顔は、どう見ても見た目よりもずっと幼い子供のソレで。
クラウドは、新たにツナとトマトのサンドイッチを持ち上げた青年を一瞥してから、空を見上げた。
二年以上前のミッドガルと違い、見上げた空をさえぎる物は何もない──視界に映るのは、真っ青な青空。
ゆったりと流れる白い雲を視線で追えば、視界の隅に青空と雲には似合うような似合わないような……無骨な鉄の塊が映る。
顔ごと背けるようにして視線をそらせば、先日見たばかりの新型「シエラ号」が、どっかりと地面に鎮座しているのが見えた。
そして、そこに乗っていた乗客はといえば──……。
「兄さん、コレは、何?」
ツナとトマトのサンドイッチを、また目の前へと突きつけてくる青年の声に、クラウドはシエラ号から地面へと向けていた視線を、強引に彼のほうへと戻した。
初めて会った時には、怜悧でアンバランスな表情しか見受けられなかったはずの青年の顔には、子供じみた幼さが満面に浮かんでいる。
突き出したサンドイッチには、ティファ特製のマヨネーズが掛かったツナとトマトのおいしそうな色と匂い。
「ツナとトマト。」
どうしてこいつらは、食べ物の名前も知らないのだろうと、うんざりした調子で答えてやると、彼は先ほどと同じようにニッコリ笑って、パックリとサンドイッチに食いつく。
その仕草を見ていると──……なんだか、溜息ばかりが零れてくる。
その顔ばかりを見ていると、なんだか憂鬱になってくる気がして、クラウドは視線をずらして青年の肩越しに見える向こう側へと顔をむけた。
一面に広がる芝生の一角に聳えるのは、ここに来るのに使った「足」であるシエラ号だ。
その足元から離れたココには、パーティでもするのかと思うくらいの量がある「お弁当」が広げられている。
ほとんど食い散らかされたお弁当の残りは、現在目の前に座る青年の胃袋に消えている最中である。
少し離れたところでは、花畑が広がっていて、花冠を作っている面々が座り込んでいた。
マリンは、頭に花冠を載せて、両手に白い花を摘みながら、明るい笑顔で隣のデンゼルの顔を覗きこんでいるようだ。
どうやらデンゼルは、なかなか思うように花冠が出来ないようで、イライラしているようだった。うまく形にならない花の歪んだ冠を差し出して、拗ねたように唇を尖らせるデンゼルに、ティファと、そのティファの隣に座る娘は、お互いに顔を見合わせながら、穏やかな表情で細い手を伸ばす。
そのまま、デンゼルの手を導くようにティファが花の茎を示せば、彼女の隣に座っていた娘が、軽やかな笑い声を上げながら、つみあげた優しい桃色の花を、そ、とデンゼルの耳元に挿す。
とたん、デンゼルが抗議をするように顔を上げるのに、ティファと娘は──茶色の髪の女は、弾けたように笑い出した。
つられたようにマリンも、くすくすと口元に手を当てて笑う。
そんなマリンの頭から、ぽとり、と花冠が落ちて、あ、と、マリンが目を見開くと同時、隣から伸びてきた白い手にソレは受け止められ、ぽすん、とマリンの頭の上に乗せられた。
マリンが見上げた先には、4人の輪の中央に座っていた男の、少しだけ不器用な笑顔。
短い髪を指先でピンと跳ねてから、男は自分の片膝の上に乗せられていた花冠を持ち上げて、それをさらにマリンの頭の上に乗せた──つもりだったのだけど、大きな花冠は、小さなマリンの頭をすり抜けて、そのまま彼女の肩まで落ちてしまう。
アレ、と、戸惑うように目をしばたいて、唇をゆがめる男の情けない顔に、ティファとエアリスが視線を合わせたのが分かった。
そのまま、くすくすと息のあった微笑み合いを見せる二人の娘に、デンゼルも笑いを堪えるのに必�で──……男は、ますます顔をゆがめて唇を引き絞る。
その自信に満ちた笑みを認めて、あれあれ、とエアリスは目を瞬かせた後、
「デンゼル、協力なライバル、出現だね。」
にんまり、と目元を綻ばせて、面白くなさそうな顔をしているデンゼルに向かって囁き、つんつん、と彼を肘でつついてみた。
とたん、デンゼルは頬を赤く染めて、
「だっ、誰がだよ! 俺、別にロッズなんて、相手にしてないぜ。」
可愛らしくないことを呟いて──どう見ても、無理をしているようにしか見えない台詞と声に、あれあれ、とエアリスがさらに突付こうとした瞬間、
「相手してない……だとぉ?」
低く──凄んだような声で、ロッズが目を厳しい色に染める。
外見に反して子供の我慢も出来ないロッズの拳が、グ、と握り締められ、マリンがハッと口元に手を当てた瞬間──……。
ゴンッ!
「ロッズ、静かにしなさい。」
問答無用で、ロッズの隣に座っていたティファの肘が、彼の頭の上に翌ソた。
ゴン、というよりも、メキ、といったほうが正しいようなティファの攻撃に、ロッズの顎がガクンと一段下がったのは──遠目から見ていたクラウドにも、本当に良く、見えた。
あの一角では、すでにもう力関係が決まってしまっている。
ティファの攻撃を受けたロッズは、一瞬で首り熕めて、ティファの顔を伺い見るようにチラリと見上げた後、憮然とした表情を隠そうともしないまま、それでも。
「……ロッズ、返事は?」
「──……はい、ティファかあさん。」
ジロリと睨み揚げてきた娘の言葉に、しょんぼり俯いた。
初めてこの力関係を見たときには、シドとバレット、エアリスたちが爆笑したものだが、今となっては特に珍しい光景ではない。
──クラウドはそう思うと同時、その光景を「珍しい光景ではない」と思ってしまう自分に、うんざり感を覚えた。
何がどうなって、こうなってしまっているのか、クラウドは未だに分かっていない。
ただ、ある日ふと気付いたら、自分たちの周りに、思念体が普通に溢れていたのだ。
しかも、クラウドの回りにいるのは、順応力がありすぎる仲間達ばかりであった。
数ヶ月前までは、こんなメンツで暢気にピクニックに来る予定なんて、絶対に、ありえなかったのに──……。
「…………一体、何がどうなって、こんな状況になるんだ…………。」
自分ひとりばかりが、いつまでもずるずる悩んでいるような気がしてきた。
この悩みも、ずるずる引きずりすぎたら、削れて軽くなっていくのだろうか、と現実逃避ぎみに思うと同時、削れて軽くなっても困るような気もした。
そんな風に、一瞬、遠い目をしたクラウドの目の前に、
「兄さん、コレは、何?」
キラキラキラ、と目を輝かせた──セフィロスに良く似oη翠の瞳を喜びの色いっぱいに広げたカダージュが、新たなサンドイッチを差し出す。
「──……チキンだ。チキンとキャベツ。」
なんでこんなことになってるんだ、本当に、と。
クラウドが思うと同時、カダージュは楽しそうにそれにかじりつく。
ティファ特製の厚いテリヤキチキンは、先ほどまで食べていた物と同じ調子でかじりついては噛み切れない。──シドやバレット、レッドXIIIやユフィたちのために、わざわざ厚めに作ってあるからだ。
カダージュは、浮ナ止まったチキンに、不v議そうに目を瞬かせて、それからもぐもぐと必�に口の中に放り込みはじめる。
「ぷっ……くくくく……っ。」
間近から、笑い声が上がった。
必�で堪えるような、篭った笑い声に、クラウドは不審そうに視線を向けて、そこに転がっていたシドが、こちらに背を向けて、腹を抱えて身をよじっているのを見つけた。
「……──なんだよ、それ。」
ますます憮然としてクラウドe゚ノみつけると、シドはヒラヒラと手を振りながら、のんびりと上半身を起こした。
「随分と懐かれてるじゃねぇかよ?」
言いながらシドは、ゥ分の懐からタバコを取り出して、慣れた仕草でソレに火をつけた。
そのまま、すぅ──と肺一杯にタバコを吸い込んだシドが、ぷはぁっ、と丸い煙を吐く。
「懐かれてるって……あのなぁ……。」
クラウドは、本当に何度目になるか分からない溜息を、どっぷりと、地面に吐き捨てる。
そんまま、髪をかきあげようとして──背後から近づいてくる足音に気付いて、ハ、と顔をあげると同時、
「くっらっうっどっ!」
がばっ!!
背後から、強烈なGが掛かった。
思わず、前のめりになる体を必死でとどめながら、クラウドは自分の首にギュゥと回った手の平に手を当てた。──己の首よりも少し太い日に焼けた二の腕には、イヤというくらいに覚えがあった。
「なぁーに、湿気たツラしてんだよ。
溜息がつくたびに、幸せが逃げるって、母ちゃんに教えてもらわなかったのか? ん?」
にんまり、という表現が似合う笑みを口元に浮かべて、グリグリと頭を抱え込まれて、クラウドはバカ力の男の腕を引き剥がそうと、腕先に力を込める。
「は、なせ──……っ、ザックス……っ!」
地面につけた足に力を込めて、ぐぐ、とザックスの腕を無理矢理に引き剥がすと、ザックスはそれには興味を払わず、新たなサンドイッチに視線を移しているカダージュに視線を止めた。
なんとかザックスの拘束から逃れたクラウドが、はぁ、と溜息を零すと同時、ザックスはふたたびクラウドの体を引寄せて、
「おい、クラウド! ティファちゃんが作ってくれた弁当、ぜんぜん残ってないじゃないか!」
「──………………。」
こりゃダメだといわんばかりに、クラウドの頭をかき抱く男に、クラウドは諦めの溜息を一つ。
腹が立つくらいにたくましい腕をペシリと叩いてから、頭ごしに親友を見上げてやった。
「まだ残ってるだろ、そことかそこのバスケットに。」
「ソレは、お前の分にって、エアリス達が残したやつだろー。俺の分だよ、俺の分。」
指差した先には、可愛らしいおむすびと、幾種類かのおかず。──タコさんウィンナーだとかウサギりんごだとか、ティファがマリンやデンゼルのために頑張ったと思われる可愛らしいおかずが、弁当箱の中に並んでいる。
クラウドとユフィが、乗り物酔いで食べ物を食べる気力がなかったため、ティファたちが二人のためにより分けて残しておいてくれた分であった。
ユフィは、乗り物酔いが回復するや否や、そのお弁当を持って、颯爽とレッドXIIIを伴って森の中へ探検だと駆け込んでいったから、残っているのはクラウドの食べ物だけだ。
後は、カダージュが先ほどから食べている、「彼」用にとりわけられたサンドイッチくらいか。
「なんだよ、あっと言う間になくなっちまったな。」
クラウドを思う存分締め付けた後、ぽいとばかりに解放して、ザックスはその場に胡坐を掻きながら呟く。
そんなザックスに、シドがプカァと煙を吹き捨てて、
「おいおい、ソルジャーさんよ、あんたが食べ過ぎてるんだよ。」
「そうだ、ザックスは食べすぎだ。」
シドの呆れた口調に、コクリ、と頷いて非難するように相槌を打つのはカダージュだ。
その手には新しいサンドイッチが握られているのだが──クラウドからすれば、カダージュも十分食べすぎの領域のような気がする。何せ、二人前は入っていたサンドイッチのバスケットを、彼は一人占めしているのだから。
「いやー、久々の美味い飯だから、ついつい食べすぎちゃうんだよ。ほら、俺ら、満腹中枢壊れてるし?」
「──……ザックスが満腹中枢を知ってるとは驚きだ。」
ザックスのバカ力からようやく解放されたクラウドは、首をコキリと鳴らしながら、イヤミ半分に彼をチラリと睨みあげてやる。
「なにーっ!? おい、クラウドっ、ちょっとそりゃ、ひどくねぇか!?」
「どこが。」
言い返してやって、クラウドは小さく笑った。
ザックスの拗ねたような──年よりも幼いように見える仕草に、笑い声が零れた。
「昔からあんた、大食いだったけどさ、今はもっとひどいぜ。
そのうち、腹が膨れてハイデッカーみたいになるぞ。」
突付くように笑って言ってやれば、ザックスが心底イヤそうな顔で自分の腹を抱える。
「うげ……あんなのと一緒にするなよ、俺の鍛え上げられた腹筋を。」
「はははは、ま、クラウドの細っこい腰と一緒にしちゃいけねぇな。
おまえさんは、もう少し太らないとな。」
美味そうにタバコを吸ったシドからからかうような視線をチラリと貰って、クラウドは憮然と口を歪める。
ジロリ、とシドり゚ノみ挙げると、彼はヒョイと肩り熕めてジリジリと灰を積もらせ始めたタバコを指先でツマミあげ、そのままトンと灰を落とそうとした刹那。
「タバコは健康に悪い──。」
上から降ってきた声と影に、灰ごとタバコを握りつぶされた。
ジュゥゥ──……と、鈍い音が立ち、タバコの黄色い屑が白い手からほろほろと零れる。
独特の匂いがするタバコの煙に混じって、肉が焼けるような匂いがした。
いつのまにかシドの後ろに立っていた青年は、握りこんだソレの匂いに眉を寄せながら、掌を握ったまま、シドを見下ろす。
「って──おいおい、タバコをじかに握りこむやつがあるか!」
慌ててザックスが立ち上がり、かすかに立ち込める煙に顔を厳しくさせながら、青年の手首を掴んだ。
そのザックスの仕草に、彼はその手を払いのけようとしたが、怒ったように心配する彼の覇気に当たってか、何も言わず、唇を歪めただけだった。
「ゆっくり手を開けよ。」
「大丈夫だよ。」
憮然とした表情の青年は、気遣われることに慣れていないのか、体をかすかに揺らしてみせた。
まだ節ばってもいない、女のようにきれいな指先を、ザックスが慎重に開くと、その白い掌には、握りつぶされて形がいびつになっているタバコが乗っていた。すでに火は消えていたが、火がついていたと思われる辺りに、くすんだような赤黒い跡が付いていた。
思わず、思いっきり良く顔り蹊めて、
「根性焼きじゃあるまいし、クッキリだぞ、ったく。
ヤズー、お前もガキじゃないんだから、タバコが熱いってことくらい、いい加減覚えろ。」
青年の掌から、パパッと軽い動作でタバコの屑を払いのけると、ザックスは彼に手を開かせたまま、クラウドを振り返る。
「ケアル、掛けてやってくれ。」
「そんなことしなくても、ほうっておけば直る。」
気遣われることに全くなれて居ないのか、ヤズーは居心地悪げに首をすくめて、ザックスの手から自分の手を抜き取ろうとする。
けれど、元ソルジャーを誇るバカ力は、そう簡単に手を自由にさせてはくれない。
ザックスはそんなヤズーをチラリを見下ろして、
「根性焼きは跡が残るんだよ、跡がな。」
口元を歪めて笑ってそう言った瞬間、
「さすが経験者は言うことが違うな。」
クラウドが荷物の中を探りながら、感心したような声をあげる。
思わずザックスは、マテリアを探しているらしいクラウドのツンツンとがった頭をジットリと見やり、
「その経験者は俺じゃなくってお前だろーが。」
「──だったか?」
首を傾げて振り向く彼に、ザックスはますます呆れたような表情を向けた。
「ヤなこと思い出させるなよ。」
眉を寄せて、クラウドは荷物から手を引き抜くと、シドへと視線を向けて、
「シド、あんた、マテリアは?」
「全部ユフィが持ち歩いてるんじゃねぇか? ──っと、あぁ、シエラ号にもあったかな?」
しょうがねぇ、と小さく呟いて、シドは自分の腰に差していた小さな水筒を取上げると、ヒョイと身軽に起き上がり、キャップをはずしながら、
「タバコは高熱なんだぜ、閧ナ握りこむのは感心しねぇな。」
ヤズーの掌に、どぽどぽと透明な液体を振りかける。
ム、と広がるアルコールの匂いに、ヤズーが顔をしかめる。
「ったく、もったいねぇが、しょーがねぇな。」
顔をしかめっ面にしたまま、シドは酒で消毒を終えた手のひらをしげしげと眺めてから、首にかけていたタオルを外す。
そのまま乱雑な仕草で、グルリとヤズーの手のひらを包み込み、キュ、と手の甲で軽く縛ってやった。
「これでよし。」
ヤズーはその一連の動作を、不思議そうに見た後、シドの顔をマジマジと見上げる。
カダージュよりも長い銀色の髪が、サラサラと白い頬を掠めた。
「あんた、タバコは健康に悪いって、知ってるのかい?」
「──へいへい、ガキのいるところじゃ、遠慮してやるよ。」
「ありがとう」の代わりの言葉に、冷たい響きを持った言葉が返って来る。
思わずカチンと来る言い方だが──普段、ヤズーのこの口調を聞いて、ロッズと彼はだいたいケンカに及ぶ。ちなみにその場合、ことを片付けるのは長男(?)のカダージュではなく、ニッコリ笑顔装備のエアリスではあることは、周知の事実だ。
「ガキじゃないよ、ロッズじゃあるまいし。」
「ガキだろ、二歳児どもが。」
ケッ、とシドははき捨てるように言うが、その口元も目元も笑っていた。
ヤズーはそんなシドを見下ろして、自分の右手にグルグル巻かれたタオルを見下ろして、不可解気に目を細めた後、ザックスを見上げた。
「そのガキの前では禁煙だぜ、シド。」
クシャクシャとヤズーの髪を掻き撫でながら、ザックスはシドが再びタバコに手を伸ばそうとしているのを一足早く止めた。
そんな彼の言葉に、シドは不満そうに片目を眇めたが、特に何か言うわけでもなく、ヒョイ、と肩を竦める。
「しゃーねーなぁ、マリンもデンゼルもあっちに居るから、ようやく吸えると思ったのによ。」
クシャ、とタバコを握り締めるようにして、シドはそれを己の懐にしまいなおした。
+++ BACK +++
>>>