ある日、日本の沢田家にやってきたイタリアの超一流ヒットマンは、こう言った。
「俺は、家庭教師ヒットマン・リボーン。
お前を、イタリアンマフィア【ボンゴレファミリー】の10代目ボスにするために、日本にやってきたんだ。」
ついこの間中学に上がったばかりの、何も知らない綱吉は、そんなことをのたまう1歳児くらいの赤ん坊を前に、始めは何も信じなかった。
けれど、その超一流のヒットマンだと言う赤ん坊が言うことは、本当だったのだ。
スパルタとしか言えないようなしごきを受け、勉強ダメ・スポーツダメ・人望ナシ・──の、ナシとダメばかりで出来ているかと思うような、通称【ダメツナ】も、見る見るうちにボスらしく……………………、は、今のところ、まったくと言っていいくらい、なっては居なかった。
そんな、いつもと同じような、ある朝のことであった。
「おい、ツナ、起きろ。」
がちゃんっ、と、哀しいかな……聞きなれてしまった撃鉄の音を聞いて、ビクリっ、と綱吉は目を覚ました。
柔らかで暖かなベッドの中で、パチリと目を覚まして飛び起きれば、枕元に小さな影が一つ。
見やれば、いつもの黒い帽子にスーツ姿の赤ん坊が一人、緑色の拳銃の銃口を綱吉の米神に押し付けて、見下ろしていた。
「りりり……リボーンっ! な、何やってんだよっ!」
慌てて、ずりずり、と壁際まで尻で下がりながら、上ずった声で問いかければ、リボーンはバカな質問をするとばかりに、眉を軽くあげた。
そして、銃口をあげて綱吉の顔に標準を合わせなおすと、
「とっとと起きろ、ダメツナ。
今日からおめぇがやらなきゃいけないことを説明するからな。」
そう、えらそうにのたまってくれた。
「なっ、何勝手なこと言ってるんだよっ!?
だいたい、今日は日曜日だろっ!? 俺、昨日、寝たの遅かったんだから、もう少し寝かせてくれよっ!」
ぎゅ、とへたれ眉毛を眉間に寄せて、拗ねたように睨み揚げる綱吉の顔を見上げながら、リボーンは無表情の影で思う。
ヘタレで情けなくて泣き虫でのろまで根性ナシの癖に。
こいつは、俺を怖がってるくせに、怖がらねぇ。
平気で口答えまでしやがる。
大物なのか、バカなのか。
ま、──その両方なんだろうけどな。
「遅くまでゲームをしていたのが悪い。
グダグダ言うな、とっとと着替えろ。」
ドキュンッ、と。
一発威嚇のために放てば、耳元スレスレのところを通り過ぎた弾丸が、背後の壁に突き刺さる。
とたん、ビビッ、と両肩を跳ねさせた綱吉が、白目を剥いて、口をぽっかり開ける。
そんな恐怖の表情を見せる綱吉に良く聞こえるように、再び音を立てて撃鉄を起こすと、
「二度はいわねぇぞ。起きねぇと……どうなるか分かってんだろうな?」
チャキ、と、銃口を再び鼻先に向ければ、綱吉は両手を顔の横に上げて、
「わわ、分かったよ! すぐに着替えてお前の話を聞くからっ!
だから、その銃を下げてくれよっ!!」
必死で、泣きそうな顔でそう懇願してきた。
これが、殺しの相手だったなら、そんなことは決して聞かない。
けれど、相手は殺す相手でもなければ、どうでもいい邪魔な人間でもない。
一応こんなのでも、カワイイ教え子なのだ。
リボーンは、ちっ、と小さく舌打ちすると──これも綱吉に見せるためのパフォーマンスだが、ぞぞーっ、と顔を青くさせた彼を見るに、効果的ではあったらしい──手の中の銃を、緑色のカメレオンの姿に戻す。
そうして、カメレオンを帽子の縁に戻すと、ベッドサイドに腰を落として、
「だったら、早く着替えろよ。
──俺の気が変わらねぇうちにな。」
最後にドスを聞かせるように肩越しに振り返り念を押してやった。
別に、わざわざ着替えさせる必要はないのだが、今からすることは、重要な話しだ。
これから綱吉がボンゴレ10代目として、もっと力をつけていくには、避けては通れない道なのである。
──特に、面倒なことに、目の前のボンゴレ10代目候補(というより、ほぼ確定だが)は、リボーンの前の教え子と同様、「人を助けるために」力を発揮するタイプのようだった。
前の教え子である青年も、泣き虫でのろまで愚図で頭が悪かったが、それでも元々マフィアの跡取りということもあり、新たな情報を与えることはなかったし、すでに守りたいと思うための部下も持っていた。──父が部下として従えていた人たちではあったが、彼らはあの青年をボスとして慕っていたから、何も問題はない。部下も青年も両想いで、家庭教師としては面倒が省けて嬉しかったくらいだ。
けれど、目の前の綱吉は、生まれたときから一般人だ。
母親は普通の主婦で、父親は出奔して長く、ほとんど母子二人で暮らしていると言っても過言ではない。
そんな彼が、守りたい、命にかけても助けたい、と思う人間は、片手の平でも有り余るくらいしかない。
あえて言うなら、母親と片思いの相手である笹川京子だけだ。それも京子に至っては、まともに話したことすらない──本当に根性ナシの片思いの相手でしかない。
でも──それでは、ダメなのだ。
人を守るために力を発揮するタイプのボスには──だからこそ、心から守りたいと思う部下が、必要になってくる。
綱吉は、正直な話、まだまだボスとしては半人前以下──卵というのもおこがましい状態だ。このまま続けていても、たとえ老人になっても、彼は10代目になれないだろう。
だから、部下が必要なのだ。
彼が守りたいと思い、彼が力をつけたいと、そう思う対象として──信頼できる部下が。
もちろん、部下を作るのは彼だけのためではない。
ファミリーの結束のためにも必要なものだ。
「ちと予定よりも早いが、しょうがねぇ。
ツナが先のステップに進むためには、とにかく、ツナが信頼できる部下が必要だからな。」
九代目の部下ではなく──ツナだけの部下を持たないと、あの巨大な組織ボンゴレの中で、ツナは孤立無援になるだろう。
いくら九代目の命令でも、いくら高名なリボーンが鍛えたと言っても、その程度のネームバリューでやっていけるような、生易しい世界じゃないのだ。
イタリアンマフィアというのは。
そうして、歴史が古いからこそ、何も知らない一般人出身のジャッポーネを、相手も受け入れてはくれないだろう。
だから、マフィアの世界で地位を確立するためには、10代目としての箔と実量ももちろんのことだが、信頼できる「自分だけの部下」が必要なのだ。
元々リボーンは、ツナのためだけの部下、を、この日本で探すつもりではいた。
けれど、予定では、もう少しツナが10代目らしく──せめて、今よりも毛が生えた程度にならないと、進められないだろうと思っていた計画ではあった。
「だが、しょーがねぇな。ツナが、ディーノと同じタイプなんだからよ。」
ほんと、面倒くさい生徒だ。
小さくぼやきながら、リボーンは、慌てて着替えている──あまりに慌てすぎて、シャツのボタンをかけ違えている──ツナをチラリと見上げて、す、と目深に帽子をかぶって溜息を零した。
「──で、リボーン、話って何なんだよ。」
着替え終わった綱吉は、自室の机の前に胡坐を掻いて腰を落とし、対角に座るリボーンを見下ろした。
リボーンは、片手にエスプレッソの入ったカップを手に、チラリと綱吉を見上げる。
そうして、簡潔に一言。
「従者を持て、ツナ。」
ジロリ、と下から根目上げられて、綱吉は聞きなれないその言葉に、きょとん、と目を瞬く。
「……は? 従者? ……何だよ、それ?」
そういえば──最近流行りのロールプレイングゲームの主人公が、そんなのを連れていたような気がする。
とは言えど、綱吉はゲームが好きだが、頭を使うロールプレイングゲーム類は、あまり得意ではない。
やったことないから分からないけど──っていうか、従者、って、なんだっけ?
呆けた頭で、軽く首を傾げる綱吉に、はぁ、とリボーンはこれ見よがしに溜息を零す。
「従者と言ったら従者だ。
代々、マフィアのボスになるべく素質を持った人間──マギステル・マギ(偉大なボス)には、従者って言うもんがいるんだ。」
この間(無理やり)読ませた「マフィア大全」に書いてあっただろう。
まったく、本当にバカだな、ツナは。
そう言いたげに呆れた口調で説明するリボーンに、少しムッとして、綱吉は眉間に皺を寄せる。
「だから俺は、マギステルマギとか言うのにはならないって、いつも言って……。」
「その従者って言うのは、お前を守護し、お前の力になるって言うヤツのことだ。契約を結んで、お前の唯一無二の──たった一人だけのパートナーになる。」
いつものように言いかけた綱吉の言葉を、強引に遮って、リボーンは強く言い放つ。
その言葉に、綱吉はますます渋い顔をしてみせたが、すぐにリボーンが言っている内容を理解して、ぱっ、と頬に朱を散らす。
「契約って……、……え? 俺のパートナーって……なんかそれ、け、けけ、結婚、みたい……、っていうか。」
途端におどおどしだす綱吉に、ガキだな、とリボーンは鼻で軽く笑い飛ばしながら、に、と口元に笑みを浮かべる。
「そうだ、日本で言うところの、正妻ってヤツだな。それを探すんだ。」
──正しくは、微妙に違うのだが、今の時代はそういう風に使われているから、間違いではない。
それに……従者を探すと言うのは、それと同じくらいに大事なことなのだ。
「せ、せ、正妻……っ!? ──って、ええええーっ!!!
なっ、何言ってるんだよ、リボーンっ! お、俺、まだ13だぞっ!?
け、結婚なんて、ま、まだ早いよっ!」
顔を真っ赤に染めて、ブンブンと頭を振りながら両手を広げて前に突き出す。
恥ずかしいのか、耳や首筋まで赤く染まっていた。
──一体、誰の姿を脳裏に描いたのやら、と、リボーンは呆れた心地で、かちん、と手にした銃を綱吉の目の前に突きつける。
「慌てるな、ダメツナっ! 誰もお前に結婚しろなんて言ってねぇだろ。」
視界に映った黒い銃口に、途端に慌てて口を両手で押さえて──真っ青になる綱吉に、戟鉄をあげているかどうかの区別もつかねぇのか、と叱咤しそうになったが、今はその話ではなく……先に従者の件を話しておかなくてはいけないだろうと、喉元までこみ上げた叱咤を飲み込んでおいた。
「だ、だって今、従者持てってっ。」
「言ったけどな、話は最後まで聞け。」
くるん、と小さな指先で銃を手の中でまわすと、リボーンはそれを元のようにカメレオンの姿に戻すと、綱吉の顔を真っ直ぐに見上げる。
「従者って言うのは、本来は、そのままんま、主──ボスの手となり足となり、心身ともに無二のパートナーである、って言う意味だったんだ。
けどな、心身ともに──って言う条件があるために、今じゃ、主のパートナー……結婚相手、って言うことになっちまったわけだな。」
時に、下種じみた意味でも使われることがあるがな、と。
その最後の余計な一言だけは心に秘めたままで、幼い赤ん坊の姿をした一流の殺し屋は、薄ら寒い笑みを口元に浮かべる。
けれど、綱吉は、そんなリボーンの笑顔には目もくれず、どこか遠くを見つめる瞳で、彼が口にした言葉を繰り返す。
「心身ともに、無二のパートナー……。」
その白い頬が、どことなく赤く染まっているのを見るに、「俺だったら……京子ちゃん……ほわわん。」などと思っていることは、容易に想像が出来た。
──あぁ、これくらいのガキって言うのは、そうやって1度きりの恋や愛なんていうのを夢見る年頃なのだ。
けれど、初恋が実るなんていうのは、それこそ万に1つの可能性しかなく──それが永続性を持つかどうかとなると、万に1つも怪しいくらいの低確率だ。
笹川京子と言う娘も、悪くはない。
悪くはないが、だからと、今から「たった一人」と決められても困るのだ。
自分たちの世界の「従者」と、一般人の結婚や唯一無二のパートナーとは、ワケが違う。
リボーンは、帽子の縁を、くい、と銃口で押し上げると、
「だもんで、ただ一人を選ぶわけだが、そんな簡単に一生にただ一人なんて見つかるわけねぇ。」
浮かれ気分の綱吉に釘を刺すように、少し声の口調を厳しくさせて、下から根目上げるように低く凄む。
とたん、殺気にも似た気配を感じたのか、綱吉がピクンと肩を震わせて、喉を軽く上下させて、こちらに意識を戻したのが分かった。
──鈍すぎるってわけじゃぁ、ねぇようだな。
ニヤリ、と笑みを刻みながら、リボーンは、ほんの少し口調を和らげてやった。
「そこで、契約の前段階って言うのが存在する。」
「契約の前段階……っていうかその前に、契約って何なんだよ?」
少しは興味をそそられたのだろうか、綱吉は、眉をひそめながら、意味がわからない、と軽く唇を尖らせる。
子供じみたその仕草を冷徹な目で見返しながら、リボーンは足を組みかえながら説明してやる。
とにかく、簡潔に。小僧にも分かるように、分かりやすく。
「マフィア世界の婚姻届みたいなもんだぞ。
契約を交わしたら、二人は何があっても離れたりしねぇ。
遠くに居ても、ドコに居ても、二人は常に結ばれ続ける──唯一無二の主と従者の関係だ。」
正しく言えば、全く違う。
従者と主は、あくまでも主従関係だ。
結ばれる、とか言う表現を使ったが、それでも主と従であることは違わない。
今は、その辺りの境界があいまいになりつつあるが──それもこれも、従者の契約=一生はなれないパートナー契約、という意味に捉えられつつあるからだが──、古から契約とは、命をかけて主を守りぬくという意味が込められていた。
とは言うものの、今もそのような意味で契約を結ぶのは──ボンゴレくらいのものだろうが。
「……ぅ、ぅわ……っ、な、なんかそれ、スゴイ……ロマンチックって言うか……怖いっていうか……。」
リボーンの、愛の告白のような熱烈な表現に、ぽー、と頬を赤く染めながら、綱吉は照れたように頭を掻く。
美味い具合に「怖いものじゃない」という思い込みを植えつけられたかと思ったが、さすがはブラッドオブボンゴレの主とでも言おうか。
直感で、「怖い」と言うのを感じ取ったらしい。
──弱虫だからか、妙にそういう恐怖をそそる物に対して、直感が良く働くようだ。
けれど、これくらいの直感能力なら、リボーンは口先三寸で丸め込める。
「けど、普通、お付き合いの期間もねぇのに、婚姻届なんて出せるわけねぇだろ? 初めて付き合うって決めた相手が、唯一無二とは限らねぇ。」
「そ、それはそうだろうけど。」
「そこで、裏道ってぇのが存在する。」
戸惑いながらも同意を返してくれたのを狙って、リボーンは、更に言葉を重ねた。
「婚姻届を出す前に、仮契約って言うのを交わして、お試しでパートナー契約って言うのを結べるんだ。」
「え、と……、婚約とか、そういう感じのこと、かな?」
なんとなく気恥ずかしくて、視線を泳がせながら、綱吉が口もごりながらそう言えば、リボーンはシニカルな笑みを浮かべた。
「婚約というよりも、お付き合いって言うところだな。複数の人間と仮契約を結ぶことも出来るしな。」
「それ、二股とか言わないかっ!?」
思わずギョッとして、綱吉が顔を跳ね上げれば、リボーンはヒョイと眉を上げてみせる。
「何言ってるんだ、マフィアなんて、正妻のほかに愛人が居て当然だろうが。」
俺だって居るんだぞ、と、当然のように告げるリボーンに、綱吉はマジマジと小さな赤ん坊の帽子を見下ろした。
──俺だっているって……だから、お前、まだ赤ん坊だろうよ……。
コイツ、本当に意味がわかって言っているのか? ──と、疑いの目になる綱吉の頭を、スパコン、と勢い良く叩く。
「い、いてっ!」
「うるさいぞ、ツナ。とにかく黙って聞け。」
ジロリ、と無表情に睨み揚げる家庭教師に、びくぅっ、と綱吉は肩を震わし、
「わ、わかったよ!」
慌てたように、今更ながらにその場に正座して、背中を真っ直ぐに──真面目に話を聞く体勢になってみた。
その視線は若干、やる気なさげに俯いていたが。
リボーンはそれに、少し不満そうに片方の眉をあげたが、今はこれで十分かと思ったのか、ふん、と鼻を一つ鳴らして、話の続きに移った。
「だから、本契約を交わした相手を正妻に、仮契約を続行している愛人に──なんていう裏道も、いくらでも使えるんだぞ。」
「………………く、腐ってるよ……、マフィアって……。」
「マフィアはモテるんだぞ。」
にやり、と、口元を笑みの形に歪めるリボーンに、「そんなの嬉しくないよ……」と、綱吉は、ガックリと肩を落とす。
「まぁ、お前にまだ正妻だの愛人だのは早いから、それはコッチに置いておいてだな。」
とん、と、小さな手の平で空気を脇に置くような仕草をしてみせたリボーンに、ツナは心の中で激しく裏手で突っ込んでみた。
っていや、お前にも、正妻だとか愛人だとか、早いからっ!!!
──でもリボーンが怖いから、口に出しては言えない。
「今のお前に必要なのは、とにかく、従者と仮契約を結ぶことだ。
仮契約を結ぶと、結んだ相手は仮にじゃあるけど、お前の従者になる。正式契約に比べて制限はあるが、それでも、同じように本人の潜在能力が引き出されて、いろんな能力が使えるようになるんだぞ。」
「いろんな能力って……。」
綱吉の頭に浮かんだのは、足が速くなるだとか、暗記が得意になるとか──そういう、誰かの特技ばかりだった。
それはそれで、便利そうだけど……それで、一体、どうするというのだろう??
聞きながら、頭の中にハテナマークが一杯飛び散っている綱吉に、リボーンは少しだけ噛み砕いて説明してやる。
──まったく、ディーノの時もそうだったけど、それよりもタチの悪いくらいに理解力の悪いバカ弟子だ。
「具体的に言うとな、テレパシーで会話が出来るようになったり、お前の呼び出しに、テレポートみたいに応じれるようになったりな。」
「ちょ……超能力が使えちゃうのかっ!?」
それは、想像だにしなかった!!
まさか、マギステルマギ(マフィアのボス)になるだけで、超能力使いになれるとは!
思いも寄らないところで飛んできた、別の意味での非日常的展開に、綱吉は思わず、目をキラキラさせた。
頭に浮かぶのは、いけないことばかりだ。
例えば、テスト中、分からない問題を、こっそりテレパシーで教えてもらったりとか。
例えば、遅刻しそうなときに、学校まで瞬間移動とか!
いい! それ最高!
そんな力が使えるなら、マフィアのボスもいいかもしれない──あ、いやいや、それはさすがに、ちょっと早まってるかなー、なんて。
と、てへ、と自分の考えに苦笑を抱いた──その瞬間、
「他にも、その従者の潜在能力に見合った武器を、簡単に呼び出したり使えるようになったりするんだぞ。」
「……非日常的展開キターっ!!!」
リボーンの当たり前のように続いた説明に、綱吉は思わず絶叫した。
「ぶ、武器って……武器ってお前っ!」
それ、どこのRPGの世界の出来事ですかーっ!?
あまりに非日常的な──一般家庭で言う「武器」と言えば、ハサミとかカッターナイフとか包丁とかのことですか? あ、後、金属バットもイケるかも?? みたいな状態の中で。
綱吉の脳裏に浮かんだのは、つい今朝も額に押し付けられた記憶も新しい、リボーンの本物の銃の存在だった。
あれを? あれを、簡単に呼び出せるようになるって??
そんなの──そんなの、物凄くヤバくないかーっ!?
「それに、従者の能力もアップするぞ。
お前の死ぬ気の炎の力を受信して、エネルギーに変換して、足が速くなったり、飛躍的に跳べるようになったり、──ま、お前の死ぬ気モードの状態に近くなるって感じだな。」
「……は、はぁ……。」
なんだか、良くわからない単語がたくさん混じっていて、綱吉は眉を寄せながら、生返事を返す。
リボーンは、そんな綱吉を見ると、はぁ、とあからさまに残念そうな溜息を零した。
──まったく、本当にバカな生徒だな。
そう思っていたが、無表情のリボーンの表情に表れることはなかった。
代わりにリボーンは、綱吉を見上げて、
「ま、とにかく、やってみれば分かるぞ。
ツナ、とりあえずお前、6人と仮契約を結んで来い。」
きっぱりはっきり、そう「課題」を出した。
途端、
「──……は、はぁっ!!!? なっ、なんだよ、それっ!?」
っていうか、なんでそういう流れになるわけっ!?
話がついていけない、と両手を床につけて身を乗り出す綱吉の膝小僧を、リボーンは軽く蹴り飛ばす。
「いいから、とっととやれ。」
「あ、あたっ!! や、やれってお前っ。」
慌てて膝をさすって後ず去りした綱吉に、ジャキン、とリボーンは銃口を向けた。
とたん、更にズサッ、と尻ごと下がる綱吉に、リボーンは、ニ、と口元をゆがめると、
「いいか、6人だぞ。1人でも少なかったら、俺がゆるさねぇ。」
「お前がかよ! っていうか、6人どころか1人だって無理だよっ!」
綱吉は、両手を広げて絶叫してみせる。
そうだ──絶対に無理だ。
だって、従者って、「従者」だろっ!?
この自分を──、
「ダメツナの俺なんかの従者っていうか……パートナーになってくれるヤツなんて居ないだろっ! 普通っ!」
自分で叫びながら、情けないと思ってはいたが──けど、それは真実だ。
真実だけれども。
なんだか、言っていて泣けてきた。
じんわりと目じりに涙が浮かんでくるのを感じながら、綱吉は更にリボーンに「無理だ」と訴えるように叫ぶ。
「しかも、マフィアとか、なんかワケわかんねぇしっ!」
一体、リボーンがこの家に来てから、何回こうして叫んだことだろうか。
それでも──どれだけ叫んでも。
「大丈夫だ、安心しろ。
さすがに一人目は、難しいだろうと思ったからな、こっちで用意してやったぞ。」
「え、えええーっ?」
綱吉の心の叫びも、口に出した叫びも、1度もリボーンに届いたことはなかったのだけれども。
「とっとと、そいつと契約を交わして来い、ツナ。」
「って、いらないよ、そんなの!」
ぶんぶんっ、と頭を振っては見るものの──鬼の家庭教師であるリボーンが、それを許してくれるはずもなく。
「いいか、ダメツナ。
契約を交わし終えるまで、帰ってくるんじゃねぇぞ。」
びりっ、と。
痛いほどの──とは言うものの、リボーンが本気で殺気を飛ばしたら、綱吉は気絶してしまうことは間違いなかったし、トラウマになることも確定だったから──、圧力を綱吉に向けて放ちながら、リボーンは、見た目は変わらないまま、
「帰ってきたら……分かってるだろうな?」
向けた銃の撃鉄を、かちん、と、あげた。
──とたん。
「ひぃぃーっ!!!!! わ、わ、分かったよ、やるよっ!!!!」
慌てて綱吉は、その場から立ち上がると、ベッドサイドに置き去りにしておいたカバンを引っつかむと、そのまま外へと飛び出していった。
それをリボーンは無言で見送った後、「やれやれ、手のかかる弟子だ」と呟いた後。
「……とは言ったものの。
あいつを部下に出来るかどうかは、ツナ、お前の努力次第だぞ。」
少しシリアスな声音で、そう呟いた。
今頃、ボンゴレのチャーター機でこちらに向かっている──「ツナの第一の従者候補」を、脳裏に思い描きながら。
設定編終わりー♪
強引に、「偉大なる魔法使い(マギステルマギ)」を、「偉大なるマフィアボス(マギステルマギ)」にしてみました。ゴッドファーザーみたいなもんだと思ってください。
従者との契約は、もちろん、「あれ」なので(大爆笑)、BL設定になるんですよねvv てへvv
あー……楽しかったー。
とりあえず、6人分の契約話のプロットは出来てるので、きちんと7話くらいまでは更新したいと思われます。