並盛の二年女子の間で、最近噂の的なカップルがいる。
 いや、本当はカップルとは呼べないのだが、噂の中では【公然の秘密の恋人同士】になっているのだ。
 噂の発信源の少女曰く、
「それは、ほら、あれですよ。ツンデレって言うか〜、照れ隠しって言うか。
 だから、絶対ラブラブだってみせないんだけどっ、こう、にじみ出るラブオーって言うのがあるのよ〜!」

 この後のことは、なにを言っているのか、番記者にはよく解らなかったので割愛する。
 まぁ、何はともあれ、解ったことは一つ。
 今、注目されているこのカップルは、女子と一部男子に、異様なくらい注目されている……と言うことである。




ボンゴレリング DE 噂の的










 二人の熱愛発覚は、今から数日前に遡る。
 それは、体育の着替え中──野球部のとあるクラスメイトの一言から始まった。
「あっれー? 山本。おまえ、そんなの付けてたっけ?」
 素っ頓狂な声をあげる野球部員──仮にAとしよう。
 彼の言葉に、教室で着替えていた者が注目する。
 当の山本は、沢田と獄寺の方を向いていた顔を、振り返らせる。
「んー?」
 山本と話していた沢田たちの反応はなし。
 と言うより、獄寺は興味なさげに着替えたままで、沢田は不思議そうに目を瞬いて、山本とAを見比べるだけだった。
「ほら、それだよ! ペンダントっつうか……おまえ、そういうアクセサリーとかしなかったじゃん?」
 そう言いながらAが指さす先──むき出しの山本の胸には、なるほど、数日前には見なかったチェーンがぶらさがっていた。
 そんなのを付けてる並盛生なんて、獄寺くらいのものだと思っていたけど。
 一緒にいたら、移るものなのだろうか。
 いや、それでも、山本にネックレスは似合わない。
「ああ! これか!」
 尋ねるAに対し、ニッ、と笑みを見せて、山本が快活な声で答える。
 言いながら、くい、と指先でチェーンを引っかける。
 その指に隠れるように、チェーンの先に何かがぶら下がっているのがチラリと見えた──けれど、何がぶら下がっているのかは分からない。
「そうそう。それそれ。どうしたんだよ、突然洒落っ気なんて出してさ!」
 彼女でもできたのか? ──なんて、Aは笑いながらちゃかすが、その問いかけに反応したのは、むしろ、周りの男子だった。
 山本武と言えば、このクラスで1、2を争うもてる男だ。
 むしろ学校で五指に入るほどもてる、と言った方がいい位のモテ方だ。
 そんな男に彼女!
 それが事実だとしたら、どれほどの女子が嘆き──そうして、今まで振り向きもしなかった【他】へと目をくれることだろうか!
 思わず脳裏に、自分の好きな子の顔を描いた男どもが、思わず視線を山本の首元に注ぐ。
 そんな、期待を一心に背負ったクラスメイトの視線に気づかぬ様子で、ニカ、と好青年的山本スマイルを浮かべ、
「俺、野球するからさ、指輪つけないっつったら、チェーンくれたのな!」
 そのまま、チェーンの先を隠すように体操服を着込んでしまう。
 視線をその中に注ぎかけた面々は、そんな山本の回答に、それ、答えになってねぅしっ!──と心の中で突っ込むと同時、ふと気づいた。
 指輪つけないから……って、ことは──そのチェーンの先についているのは、もしかして?
「えっ! ってことは、おまえ……!?」
 気づいた番記者と同様、山本の言葉が示唆する意味に気づいたAが驚いたように目を見開いた──そのタイミングで、
「や……山本、その指輪、いつも付けてるの?」
 体操服を鈍くのろのろと着ていたツナが、そう言った。
 まさにみんなが聞きたいと思っていたことだった。
 思わず、「ダメツナでも、たまにはいいこと聞くな!」と、興味津々に教室内のほとんどの者がガッツポーズを取り、聞き耳を立てる。
 山本は、Aに向けていた顔をツナに戻すと、
「おー、なんか、肌身離さず持ってろって言われてな〜。」
 刹那、教室に走った空気は、なんとも形容しがたかった。
 肌身離さず!?
 指輪をっ!?
 な…なんて情熱的かつ独占欲の強い彼女なのだ!
 教室中がどよめいたそのタイミングで。
「ったりまえだろーが! 常に携帯してねぇと意味ねぇだろ!」
 すでに体操服に着替え終わっていた獄寺が、ジロリと下から根目付けるように睨みあげる。
 その眼光の鋭さたるや──思わず近くの席に居た男子が、自分に向けられたわけではないのに、ひぃっ、と悲鳴をあげて後ず去るほどだった。
 すぐ隣に居たツナも、心なし顔が引きつっている。
 けれど、その視線をまともに受けた山本は、さすがと言うべきか、鈍いと言うべきか。
 ニ、と笑顔を浮かべて獄寺を見下ろすと、
「だから、こうして身につけてっだろ! おまえが、そのままポケットに入れるなっつうからさ。」
「ポケットに入れっぱなしにしといたら、てめえのことだ。すぐ無くすに決まってんだろっ! もっと大事に丁寧に扱いやがれっ!」
 今にも舌打ちしそうな口調で毒づく獄寺に、山本は楽しそうに笑うと、
「おぅっ! 大事にするぜ、もちろんな!
 このチェーンも、サンキュな!」
 言うなり、山本は首から下げていたチェーンを軽く持ち上げて笑う。
 そのチェーンの先──ペンダントヘッドが、チラリと襟首から姿を現す。
 とたん、ハッ、と、全員が息を呑んだ。
 ちゃり、と小さく音を立てて姿を見せたチェーンの先についているのは、遠めにも分かる──確かに、指輪の形!
 妙にリアルに見えたその指輪に、どよどよっ、と再びザワメキがあがる。
 そんな周りに頓着せず──と言うか気づいていないのだろう。
 ツナが、山本の顔と獄寺の顔を見比べると、
「あれ? そのチェーンも、獄寺くんがあげたの?」
 鈍い男子生徒にまで、ハッ、とさせるようなことを聞いてくれたのだ!
 そのチェーン「も」!
 授業中の先生の話などはまるで聞いていない男子も、この単語だけは聞き逃さなかった。
 それってつまり……チェーン以外にも、獄寺から貰ったものがあると言うことで。
 今の状況をかんがみるに──いや、まさか、そんなはずは……っ!
 慌てて脳裏に浮かんだ考えを、必死で頭を振って否定した男子の、年頃の妄想癖を拡大させるかのような会話が、同じ教室内で繰り広げられてしまう。
「そそっ。」
「仕方なくっ……仕方なくっすよっ。十代目っ。」
「ははっ。そう 照れんなって、獄寺。」
「照れてねぇよっ……!」
────いつもの、ちょっと冷や冷やする掛け合いが始まるのを横に、一同の心に戦慄めいたものが流れた。
 この会話はアレではないだろうか……!
 そう! まさに、今流行りのツンデレな彼女との会話……!?
 いや、まさか、そんなはずはない。
 だって、獄寺だぞ? 誰彼かまわず睨み付け、山本にいつも噛みつくような言い方ばかりしている、そんな男が、山本にリングなどあげようはずがない!
 そうだ、きっと今のは国語の成績の悪い駄目ツナの、言い間違いに違いない、と。
 思考が停止仕掛けた一同が、無理矢理そんな結論で納得しようとした……まさにその瞬間、
「あれって──つ……ツンデレだよな……?」
 誰かがポツリと──言わなくていいことを呟いた。
 とたん、目に見えない空気が、カキンと凍る。
 脳裏に、照れ隠し満載の獄寺が、いつもの憎まれ口を叩きながら、山本にリングを放り投げている姿が、ありありと思い浮かんだ気がして、男子一同、必死で頭を抱える。
 ツンデレとか口にしてしまった生徒は、回りの男子から絶え間なく小突かれていた。
「でも、部活中とかはどうしてるの? 邪魔になるんじゃない?」
 たとえチェーンでも、普段つけなれていないと、とても気になるものだ。
 首を傾げて──実際、ツナも皆から突っ込まれないだけで、首からチェーンを提げている身だ。
 遅刻すると駆けている間も、首元で動くチェーンと指輪が気になってしょうがないと言うのに、野球で激しい動きをしている山本は、もっと気になってしょうがないのではないだろうか。
 そう尋ねるツナに、山本は、ははっと明るく笑うと、
「そりゃもちろん、部活中はカバンに入れてるぜっ!」
「ばっ、てめっ、だから、いつも身につけてろって言ってんだろーがっ!」
 とたん、噛み付くように怒鳴る獄寺が、山本の襟首を掴み揚げる。
 そんな彼に、あわあわと、ツナが慌てたように両手を軽くあげて、
「ご、獄寺くんっ。」
 と、止めようとする仕草を見せるが、獄寺が怖いのか、それ以上何を言うでもなく、制止を実行に移すこともなかった。
 ただ、右と左を見交わし、困ったように眉を落とすだけだ。
 なんて役に立たないダメツナ! ──と、思わず裏手で突っ込んだ一同に気づかぬまま、山本は、まぁまぁ、と両手で獄寺を押し留める。
「野球してる間に、うっかり傷つけちゃったり、どっかに落としたりするよりもマシだろー。
 それに、獄寺がチェーンくれたおかげで、カバンの中に入れてても、すぐに見つかるしな!」
「──……くっ……っ、ちっ、お前も少しは考えてんだな、野球ばかの癖に。」
 忌々しそうに、獄寺は大きく舌打ちすると、乱暴な手つきで山本の襟を突き放すように離した。
 その、獄寺の指に。
「──……。」
 番記者はうっかり、余計なものを見つけてしまった。
 ──見つけたくはなかった。
 見つけたくはなかったが、目に飛び込んできてしまった以上、凝視するしかなかった。
「あ、あははは…………はは……。」
 ツナが、思わず乾いた笑い声を零した──その刹那。

 キーンコーンカーンコーン……。

「ああっっ! まずい! もうチャイム鳴っちゃったよ!
 早く運動場に行かないと、先生に怒られちゃう!」
 鳴り響いた聞きなれたチャイムに、驚いたようにツナが顔を跳ね上げる。
 思わず見上げた時計は、すでにもう次の授業の開始時間を差していた。
「あ、本当っすね。」
 特に驚いた様子も慌てた様子もなく同意する獄寺に、ツナは慌てた様子で、
「は、早く行かないとっ!」
 呆然と立ち尽くす教室内のクラスメートを他所に、廊下に飛び出す。
「おっ、待てよ、ツナ!」
「十代目っ!」
 続けて、山本と獄寺も廊下へと飛び出していった。
 それを見て、
「あ、お……俺たちも、早く着替えないと……っ。」
 Aが、我に返ったかのように、慌ててまだ履いたままだった学生ズボンを脱ぎかける。
 その声に、そうだそうだ、と──同じように、着替え途中で動きを止めていた男子が、焦りながらシャツのボタンを外すのを再会したり、ベルトを抜いたりしている傍で。
 番記者は、動きを止めたまま、呆然と三人が消えたドアを見つめていた。
 その頭には、くっきりと──見てしまった光景が焼き付いていた。
「おい、何やってんだよ、先生が来るまでに運動場に出てないと、校庭走らされっぞ!」
 どん、と、隣に立っていた生徒Bが、肘でつついてくるのに、番記者は、あぁ──と、反応の遅い答えを返し、自分の脱ぎかけのズボンを見下ろした。
 そうして、のろのろと、気力のみでズボンに手をかけ……、ふ、と遠くを見るように視線を揺らした後、
「……なぁ。」
 耐え切れず、口火を切った。
 自分ひとりの胸に、とても仕舞ってはいけなかったのだ。
「なんだよっ!?」
 焦りながら、脱ぎ捨てたシャツをグルグルと巻いて、そうしながらズボンから足を引き抜いていた友人が、声を荒立てて問い返すのに。
 番記者は、ざわめく教室内に良く響く声で、爆弾を落としてみた。

「獄寺の右手に嵌ってた指輪さ──、山本の指輪と、同じヤツだったんだけど……。」

 ──ぴきん、と。
 空間が、凍りついた音が聞こえた気がした。
 着替え中の誰も彼もが、まるで右に倣ったかのように、動きを止める。
 何言ってるんだよ、と。
 笑い飛ばすには、しかし、先ほどの3人の会話が耳にこびりついていた。
 チェーンを山本にあげた獄寺。
 その理由が、指輪を肌身離さずつけていてもらうため。
 そうして、山本がチェーンに通している指輪と、同じ指輪をつけている獄寺。
「──……み、みみ……見間違いじゃ、ない、のか……?」
「新聞部の俺が、そう簡単に見間違うと思うか……?」
 もし、しょっちゅう見間違いなどしていたら、真実溢れる新聞など、書けるはずもない。
 そう断言しながら──あぁ、でも出来れば、見間違いだったら嬉しいな、と、番記者は思った。
 だって、あの獄寺と、山本が、同じ指輪を身につけているって──それって。
「ぺ……ペアリング?」
 ぼそ、と──誰かが呟いた瞬間。


「いっ……いやだぁぁあーっ!!!!!!!」


 そんな事実、知りたくなんてなかったんだーっ! ──といわんばかりに、教室中の誰もが、絶叫した。













 この日、ツナと山本、獄寺以外の男子生徒が、体育の授業に大幅に遅れたのは、言うまでもなく。
 どうしても気になった面々が、こっそりと、獄寺と山本の持っている指輪を、チラチラと確認してみた結果。
 確かに、獄寺の右手中指に嵌っている指輪と、山本のチェーンからぶら下がっている指輪は、同じ形をしているのだと断定することが出来た。
 ──これを本人たちに尋ねていたならば、「良く見ろっ、違うだろうがっ!」と獄寺からの怒りと共に、目に入るかと思うくらい強引に見せられていただろうが、残念ながら、ペアリングであることが真実だったらどうしよう、という恐怖により、決して本人たちに面と向かって尋ねられることはなかったため、誤解は誤解のまま、広まっていく一方で。
 一応、とばかりに、獄寺と山本のファンの女の子に聞いてみたところ、獄寺は普段から指輪をつけているが、基本的に日替わりに近かったのだが、あの右手中指の指輪だけは、数日前から毎日つけているのだと言うことが分かった。
 その日付を覚えていた女子と照らし合わせるに──山本がチェーンをつけてきた日と同じ日だった。
 更に言うならば、その日の数日前から、山本も獄寺も(ついでにツナも)学校を風邪で休んでいた。どうやら、皆で遊びに行った先で、まとめて風邪をもらってきた、とのことだったが。
 その後、同じ日に出席してきたことと言い……怪しい。
「きっと、その数日の間に、二人の間に何かあったのよーっ!」
「キャーっ! 何かって、ナニかしらーっ!!!」
 男子同士で、額をつき合わせて、コソコソとそんな話をしていたら──なぜか、その席に、同じクラスの女子が数人、紛れ込んでいた。
 そうして、番記者が分からない世界に黄色い悲鳴をあげて、キャァキャァとお互いを小突きあいながら、顔を赤く染めて、うっとり顔だ。
「きっとアレよ、アレ! くだらないことでケンカしちゃって、獄寺クンが雨の中、表に飛び出して行っちゃったのよ!」
「それを武が追いかけたのねーっ! で、公園かどっかで追いついて、そのまま雨の中で、痴話ケンカが始まるのねっ!」
「その後、和解して、煙るような雨の中、抱き合う二人……きゃーっ!!」
 ばんばんばんっ、と机を叩いて、女子数名は、男子顔負けの妄想繰り広げ、更なる世界観を広げていく。
「それじゃ、あの指輪は、その後の仲直りの証ってことかしらっ!?」
「そうよっ、きっとそうよ! 雨に打たれたから、二人そろって風邪を引いちゃったのねーっ!」
 ──その辺りで、ちょっと男子生徒が一人、恐る恐る手をあげて、
「……でもさ、確か雨の日って、あの二人が学校休んで、一週間かそれくらい後じゃなかったっけ?」
 なんか都合が合わなくないか? ──と。
 そう提言してみたが、妄想の世界に繰り出した女子の脳みそは、都合の悪い設定を全く無視して、
「この指輪を、俺だと思って、肌身離さず持ってろっ! ──だなんて、ロマンチック〜♪」
 ──誰もそんなこと、一言も言っていない。
 けれど、女子の中では、そういうことになっていた。
「俺よりも野球が大事なのかよ! とか言って、言い争いした結果、あのチェーンをあげることで譲ってあげたのよね、隼人はっ!」
 ──獄寺もそんなことは言っていない。
 けど、女子の中では……以下略。
「あぁんっ、もー、隼人ったら、素直じゃないんだからーっ!!」
 バンバンバンっ!
 再び悶えるように机を叩く女子たちを前に、こっそり噂話をして真実を追究していた男子たちは、もう、ついていけなくなった。
 自分たちの情報から、どんどんとかけ離れて行く女子の妄想を前に、
「……獄寺と山本って、つ……付き合ってたんだっけ?」
「あー……そうみたいだなー……。」
 脳みそが侵されてしまったのか、もう、最初の「疑惑」を通り越して、頭の中に、決定事項として叩き込まれてしまった。








 こうして、番記者が、はた、と気づいたときには。
 二人は、公然の秘密のカップル、ということになっていたのであった。
 本人たちの意思は、全く無視されて。










「──……な……ナニ、これ……((((;゜Д゜))) ガクガクブルブル。」
 ぼと、と。
 ツナは思わず、持っていた薄いノートのような物を、机に落とした。
 それを手にしたのは、本当に偶然だった。
 移動教室で、音楽室に移動したときに座った机の中に、前のクラスの子が忘れたらしいノートが入っていたのだ。
 何気なく手にとってクラスと名前を確認しようと思ったのだが、そのノートの表紙には、何もかかれていなかった。
 もしかしたら、楽譜か何かなのかもしれないし、新しく買ったばかりのノートなのかもしれない。
 中を見たら、何か分かるかな、と思って。
 ──ノートなんていうのは、基本的に黒板の写し書きでしかないから、中味を見てもいいだろうと、そう気楽に考えての行動だった。
 が、しかし。
 ぺらり、と捲った瞬間、ツナは、それを見たことを公開した。
 最初の一ページ目は白紙だった。
 けれど、その二ページ目には、絵が描かれていた。
 鉛筆で書かれたらしいその絵は、どこかで見た顔をデフォルメしたような姿だった。
「あれ、これ、獄寺君?」
 毎日良く見ている顔だから、すぐに気づいた。
「へー、すごい、似てる似顔絵だなー。」
 最初は、そうとしか思わなかったのだ。
 きっと、獄寺のファンの美術部か何かの子が、獄寺を模写したのだろう、と。
 もてる人は違うなぁ、と、己の身と比較して、ツナは乾いた笑いを、はは、と零しながら、何気に次ページを捲ってみた。
 すると、そこは、コマ割になっていた。
 鉛筆でラフのように人物や背景、そしてセリフまで入っている。
「……、あ、れ?」
 この時点で、何かがおかしい……何かがおかしいのだと、気づけば良かったのだ。
 ツナの超直感も告げていたのだ。──これ以上はマズイ、と。
 けれど、好奇心には勝てなかった。
 獄寺に良く似た人が出てくる漫画。どうやら素人が──おそらく、この授業の前に授業を受けていたクラスの子が、自分で書いた漫画なのだろう。漫画とすら呼べないほどラフスケッチではあったが、きちんとストーリーになっている。
 見る人が見れば、「あ、それ、同人誌のネームね♪」と言うところだが、漫画好きのツナも、さすがにそんなことは分からない。
「獄寺君をモデルにした漫画なの、かな?」
 でも、普段の獄寺君の行動を思えば、彼を漫画の主人公にするっていうのは──ちょっと、倫理的にどうなのだろう。
 少し遠い目をしながら、それでもツナは、ページをペラペラと捲ってしまった。
 そう、捲ってしまったのだ。
 ──そうして。
 若干14歳の少年には、あまりに刺激が強すぎるページに行き当たってしまったのである。
 今の今まで、ラフでしかなかった絵が、なぜか、その刺激の強いページのところだけ、しっかりと念入りに描かれていた。
 ──っていうか。
「な……っ、ナニコレーっ!!!!????」
 授業中だと言うのも忘れ、ノートを取り落としたシーンに戻った後──ツナは、絶叫と共に頭を抱え、立ち上がってしまった。
「どうしたの、沢田君っ!」
 とたんに、厳しい表情で、ピアノの前から顔をあげる音楽教師。
 続けて、
「いかがされましたか、十代目っ!?」
 がたんっ、と、少し前の席で立ち上がる、獄寺の姿。
「ツナ?」
 さらに、獄寺の斜め後ろの席から、こちらを不思議そうに伺い見る山本の姿。
 その二人を交互に見たツナは。
「──……あ…………ぃ……い、いいいいいい、いえっ、なっ……なんでもありませんーっ!!! ちょ、ちょっと寝ぼけてただけですっっっっ。」
 ブンブンと赤い顔を真横にフリ、両手を必死で振り、そう叫ぶのが精一杯だった。
 がたんっ、と慌てて椅子に腰掛け──そして、机の上にノートが広げっぱなしになっているのを見て、慌ててその上に自分の楽譜を置いて隠す。
 そんなツナに、音楽教師が何かブツブツ言っていたが、もう、頭には入ってこなかった。
 心配そうな表情の獄寺と山本に、大丈夫だと言いたげに笑いかけようとするが──二人の顔を見るたびに、二人の特徴を掴んだデフォルメ顔のイラストが、くんずほぐれつする姿が浮かんできて……顔が、引きつった。
 そんなツナに、二人は不審そうな顔を隠そうともしなかったが、また後で、というような仕草を見せて、元のように前を見てくれた。
 ツナはそれに、ほ、と胸を撫で下ろしながらも──困惑した表情を隠せず、赤くなった頬を両手で押さえながら……はぁぁぁ、と重い溜息を零した。
 零さずにはいられなかった。

──だって。

「……なんなんだよ、これぇぇぇぇぇ……。」
 今度は、誰にも聞こえないように小さい声で呟きながら、楽譜の下からチラリと覗く──並盛中の二年腐女子の間で、【山獄】の愛称で通じる世界のラフ漫画を見下ろし、ツナは、今度という今度は、頭を抱えたくなった。





「まだ14歳が書いてるのに、18禁本とは、これまたおかしな話だな。」




 リボーンが居たら、そんなことを言ってくるかもしれないなー──なんて、現実逃避をしながら。





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ということで、開幕でやんすv ボンゴレリングで噂の的v
もうネタは、そのまんまですな!!(大笑)