「バレンタインデーの、もう一つのお話」
3 覚悟を決めてみました。
即効性はない、とヒルダは言っていた。
なら、効果が出る前に家に帰ろうとも思った。そうすれば、後は自室で悶々とするだけで済む。
──が。
そう思うと同時、すぐにその先の展開は読めた。
同じように自室で悶々状態になった男鹿が、アランドロンで転送されてくるか、こっちが男鹿の部屋に転送されるか、だ。
アランドロンは、自分のチョコのせいでそうなったといわれれば、喜んで転送の手伝いを申し出てくれるだろう。
うん、想像できる。というか実現しそう。
正直、いい案は浮かばなかった。
呆然としている間に、美咲が風呂から出てきて、次入ってらっしゃい、といわれて──促がされるまま、うんうん悩みながら風呂に入っていたのだが。
あぁ、おかげで、ヒルダと美咲の後という嬉し恥ずかしの展開なのに、全然堪能できなかった。
風呂に入れば、熱も冷めるかもしれない、という気持ちもあった。
けれど、効果は全くなかった。
いや、それどころか、なんていうか……、風呂に入らなかったらよかった、と思うくらい、体が火照ってしまっていた。
風呂に入った分だけ血行のめぐりが良くなって、媚薬が回ってしまったのかもしれない。
そう思うくらい、体が火照っている。体が温まれば温まるほど、体内の熱があがっていくような気すらする。
風呂から上がった直後なんて、バスタオルで体を拭くたび、痺れるような感覚が走り始めるくらいだ。
正直、真剣にマズイ状況だった。
もし、これが男鹿の家でなかったら、そのまま部屋に飛び込んで衝動に身を任せてしまっていたかもしれないくらい、体が高ぶりかけていた。
自分がコレだけ効果が出ているのだ。
なら、古市よりもたくさんケーキを食べていた男鹿は、もっと酷い状況になっているかもしれない。
今頃は部屋に戻っているだろう男鹿を思いながら、古市はソロソロと廊下を歩く。
途中出くわした男鹿の父親に、顔が赤いよ、と指摘されて、あははは、と笑って誤魔化す。
「ちょ、ちょっとのぼせちゃったみたいで。」
と笑いながら手を振った瞬間、手首で擦れた服の感覚に、ぞくぞくっ、と言い知れない快感が走った。
思わず声が漏れそうになるのを、必死で堪える。
そんな古市に、男鹿父は気付かない様子で、
「お風呂熱かったかい? 美咲は熱めのお湯が好きだからなぁ。」
あははは、と笑って、次は俺が入るから、辰巳にはもうちょっと後にするように伝えておいてくれ、と頼まれる。
古市はソレに頷いて、それじゃ、と頭を下げる。
その拍子に、服が肌に擦れて──それがまるで、男鹿の節くれた掌が色を持って肌をなでているかのような感触のようで、古市は甘い吐息を漏らしそうになる。
──何、コレ?
明るい電灯に照らされる廊下の──階段までの距離や、男鹿の部屋までの距離が、居様に長く感じる。
息があがり、熱が体の中で渦巻いている。
腰がジンジン疼き、スウェットの中で緩く勃ちあがりかけているのが分かる。
はぁ、と、吐息を零しながら、古市はヨロヨロと階段を登る。
一段、一段──登るたびに、甘い痺れが肌をすべり、ブルリと体が震えた。
「な、んだよぉ、これ……ぇ……。」
零れた声が甘い色を宿している。
鼻にかかったその声に、古市は羞恥と背徳感を覚える。
だって、まだ触られてもいないのに──何もしていないのに、なのに、体が淫らに震えてしまう。
服が肌に触れないように、ゆっくりと。
いつもは気にならない髪の感触すら、愛撫めいて感じる。そのかすかな感触は、男鹿の吐息を肌で感じたときのよう。
階段を上がって男鹿の部屋に近づくたび、体がどんどん熱くなっていって、頭の中がグルグルした。
服が擦れる──もっと触れて。
息が上がる……お願い、キスして。
「……──っ。」
やだ、と思うのに、頭の中で夜のひそやかな闇が回り巡る。
こんなのおかしいと思うのに、ちょっとでも気を抜いたら、階段の途中で座り込んで、そのまま自分で自分を慰めだしてしまいそうだ。
そんな、男鹿の家で。美咲だってヒルダだって通るかもしれない、見るかもしれない場所で。
そんな恥ずかしいこと、絶対にできない。
その一心で手すりに縋りつくようにして、必死に階段をあがりきる。
その頃には、動いたこともあってか、もう腰がガクガクになっていた。
もう、立ってすらいられない。
ガクリとその場に膝を付いて、古市は半ば這うようにして男鹿の部屋の前に着く。
その動きで、ますます体が火照り、ジンジンと痛いほどの熱が腰に集る。
「……、男鹿……ぁ……。」
早く、と、急いた気持ちで閉じた男鹿の部屋のドアを握る。
指先が震える。息が熱い。冷え切った廊下は寒いはずなのに、火照った体は冷める様子もない。
必死で力の入らない手に力を込めて、かちゃ、とドアを開ければ──キィ、と開いたドアの向こうには、廊下以上に明るい照明が付いていた。
まぶしい部屋の中、男鹿はベッドの上で寝転がりながら漫画を読んでいる。ベル坊はヒルダが連れているのか、今は見当たらなかった。
その様子は、あまりにもいつもの男鹿と同じで、あれ、と違和感を覚えた。
──だって、男鹿も、チョコ、食べたはずなのに。
風呂に入ったせいで効果が早く出たのだとしても、それでも男鹿もあれだけ食べていたのだから、ちょっとくらい効果が出ていてもおかしくないのに。
古市は、はぁ、と、甘い声が漏れそうになるのを必死で堪えながら、熱い吐息を零す。
冷えた廊下で零したソレは、白い湯気のように立ち上っては消えていく。
どう、しよう。
どくん、どくん、と心臓の音が、妙なくらい近い。
ぎゅ、と胸の前で掌を握り締めれば、きゅん、と胸がうずいた。
風呂上りだからではなく、熱が欲しくて、刺激が欲しくて、ぷっくりと服を押し上げるようにして胸の先が立っている。
そこを、指で押して、擦って、摘まんで──いつものように、緩く歯を立てるようにして甘く噛んで欲しい。
強烈な願望に襲われて、ダメだ、と古市は緩く頭を揺らす。
漫画の本に熱中している男鹿は、古市に全然気付いていない。
なら、と、古市は熱い息の下で思う。
──あぁ、なら。
逃げて、しまおうか?
自分はこんなに、はしたないくらい欲情しているのに、男鹿は見たところ素だ。
その横顔を見れば分かる。アイツは、まだ全然熱を篭らせてはいない。
そんな相手を前に、ここまでしとどに乱れた体を見せるなんて、絶対に出来ない。
こんな乱れた自分を──たとえ媚薬のせいだとしても、男鹿に触れられてもいないのに、すでにパンツの中がグショグショになっているような状況を、知られたくない、と思った。
もう、歩けるレベルじゃないのは分かっている。
けど、それでも自分には、自室に帰る方法が残されている。
ごくん、と、ツバを飲み込み、どこもかしこも熱に侵された体を必死で宥めるように、両腕で己の体を抱きしめながら、
「……ア、アラン、ド……。」
こんな状態の自分を一瞬で自室へと運んでくれるだろう男の名を、口にしようとした瞬間だった。
「……古市? 何やってんだ、んなとこで? 風邪引くぞ。」
男鹿が、呆けたような、いぶかしげな顔でベッドの上から声をかけてきたのは。
びくん、と、体が小さく跳ね上がる。
男鹿が自分の名を呼んだ瞬間、全身に走ったのは歓喜と羞恥とおびえだった。
もう、隠しようもないくらい硬くなった息子の先から、とろりとした液体が漏れるのが分かる。
ちょっとでも脚を動かしたら、パンツの中でいやらしい音がたちそうで、古市は眉を寄せて唇を震わせる。
ドアを薄く開きながらも、まるで廊下から動こうとしない古市に、男鹿は不思議そうに首を傾げる。
「古市、どーした? のぼせたのかよ?」
ひょい、と身軽にベッドから降りてきた男鹿の様子は、いつもと何ら変わりない。拍子抜けするほどいつもどおりで──今の古市には、落胆するほど、彼には欲の色がない。
「……や……っ、ま、……って、おがぁ……っ。」
来るな、といいたかったのに、必死で振り絞った声は、濡れて甘えた色を宿していた。
古市は、咄嗟に目を閉じた。
思わず、男鹿の脚が止まる。
男鹿が、どんな顔をして自分を見下ろしているのか、見なくても分かった。
驚いた顔をして、古市の顔を凝視しているのだ。
痛いほどの視線を頭に感じた。
けど、驚きたいのは古市のほうだった。
──なんだ、今の声。まるで、情事の最中にねだっているかのような、そんなエロイ声だった。
出した自分の方が、ビックリするような。
「ふる、いち……?」
そろ、と1歩脚を踏み出してくる男鹿に、ダメだ、と古市は頭を振る。
しゃら、と揺れた髪が、ペタリと額や頬に張り付く。
濡れた髪から伝う雫が頬から顎に滴り、そのじれったい感触に、体が小さく震えた。
はぁ、と、甘い吐息が唇から零れる。
その色に、その意味に、男鹿が気付かないはずがなかった。
そろり、と、男鹿が近づいてくる。
ダメだ、と古市は思う。
こんな姿──こんな、自分だけ欲情した姿なんて、見られたくない。
自分だけが欲情していることなんて、今日が初めてというわけではない。
男鹿の何気ない仕草に、ドキッとして、古市から誘ったことだって、一度や二度じゃない。
そんなときは、「色」を濃厚にしたキスやふれあいをして、男鹿をその気にさせていた。
けど──、今日のコレは、違う。全然違う。
切羽詰っているくらい、古市に余裕が全くないのだ。
男鹿に触れられたら、それだけでイッてしまいそうなくらい、体に熱が篭っている。触れられたところから、ぐずぐずに崩れて溶けてしまいそうなくらい、体がうずいている。
そんな自分を……、まるで淫乱な獣のような自分を、見て欲しくなかった。
「……古市。」
息を詰らせたような声で、男鹿が古市の名を呼ぶ。
心配しているような、なのに、その中には、間違えようもない熱が篭っている。
それに気付いたから、そろり、と古市は瞼を開いた。
睫を震わせながら双眸を開ければ、ジンワリと視界が歪んでいた。涙が滲んでいたのだろう。
ゆっくりと瞬きをさせながら顔をあげる──その仕草にも、熱が走り回るようで、ギュ、と腕を掴む掌に力を込めた。
とろり、と熱に潤んだ瞳が、男鹿の顔を捉える。
赤く染まった頬、切なげに寄せられた眉、薄く淫らに開いた濡れた唇からは、熱い吐息が零れ、いつになく赤い舌が誘うように歯の向こう側に見えた。
いつもはしっかりとドライヤーで乾かしてからしか男鹿の部屋にやってこない古市が、今日ばかりはまだ髪をしっとりと濡らしたままだ。
その髪から伝う雫が、顎から落ちて、ぽとんと鎖骨に触れた。
とたん、
「──……んぁっ……。」
ふるり、と古市が体を震わせて、目を閉じて甘く啼く。
その声も、仕草も、表情も、男鹿には見覚えがあった。
「……や……、ぁ、…………お、が……、みない、で…………。」
ふるふる、と力なく頭を揺らすその仕草も、良く知っている。
ぽろり、と涙がこぼれ、古市は濡れた双眸で男鹿を見上げる。
情欲に濡れたその瞳に、ただ自分だけが映っている。
そう思った瞬間、男鹿はその赤く染まった頬に、手を伸ばしていた。
両手で頬を包み、いや、と顔をよじろうとする古市の顔に近づく。
そして、迷うことなく、その柔らかで甘い唇を、奪った。
「んぅ……っ。」
触れて、摺り合わせて、開いていた口内にすぐに舌を差し込む。
吐息も声も何もかも、すべてを奪いつくすほどの荒々しさで、古市の咥内を荒らした。
急くように古市の胸元へ掌を滑らせれば、びくびくと震える細い体が、掌へ胸を押し付けるように擦り寄ってくる。
風呂上りに寝巻き代わりに身につけたスウェットを捲り上げ、素肌に触れる。
風呂上りだからだとは思えないほど熱い肌は、しっとりと湿っていて、甘い匂いがした。
「ん……ふぁ……っ、おが……っ。ぁ……。」
恥ずかしがるように指先を震わせながら、それでも古市は男鹿の首に腕を回す。
もっと、とねだるように体をくねらせ、脚を開く。
その間に膝を進めて、キスを深くしながら右手で古市の背中をなぞり、そのまま下着と肌の間に掌を滑らせる。
腰骨を掌で撫でると、太ももがビクリと震えた。
「……あ……っ、や……っ、そこ、ダメぇ……っ。」
キスの合間に漏れる言葉は、もっと、と言っているようにしか聞こえない。
もっと触れて、キスして。──早く、と。
古市の熱が唇から、掌から、体から伝わってきて、やべぇ、と男鹿は小さく呟く。
いつも以上に、ジン、と走る熱が早い。
一気に硬度を持ち始めた息子が、股間でその存在を強調し始める。
体の熱がグルグルと腹の中で回って、それらが全てソコへ集っているかのようだった。
ぺろり、と唇を舌で舐めれば、古市が顔を寄せて自らの舌で男鹿のソレに触れる。
舌先を右から左へとなぞるように動いて、そのまま舌を絡め、自分の口の中へと導く。
古市の細い腰を自分のほうにグッと引き寄せれば、互いの固くなったものの先端が触れ合う。
途端、電流が走ったかのような衝撃とともに、
「……ぁ……っ、ダメぇぇぇ……っ。」
古市が、背筋を撓らせてイッた。
くぅっ、と奥歯を必死で噛み締めて、声を押し下ろした古市の顔は、恐ろしいほど色香に満ちていた。
ああ、と開いた唇からは唾液が零れ、トロンと熱を持った瞳から涙がこぼれる。
その瞬間キュ、と閉まった尻肉に掌を挟まれた形になった男鹿は、ごくん、とツバを飲み込んだ。
はぁ、はぁ、と荒く息を吐く古市のソコは、出したばかりなのに、まだ張り詰めている。
ズボンの上からでもはっきりと分かる濡れた染みに──先端の滴り具合に、男鹿の頭の中が熱でクラクラした。
「…………ぉ、がぁ……、……もっと……。」
囁くような声で、ひそやかにねだる古市の濡れた声に、男鹿はニヤリと笑みを浮かべる。
雄の色が濃厚に出たその眼差しに、古市は笑みを浮かべる。
壮絶なまでの笑みに、男鹿はゾクゾクするのを覚えた。
「いいぜ、もっとくれてやる。」
お前が、イヤって言っても、もう遅いかんな。
耳元に囁いて、ねっとりと舐めてやれば、古市がギュと抱きついてくる。
男鹿はいつになく積極的な恋人を抱き上げて、存分に愛し合うために、柔らかなベッドの上に移動するのであった。
ぱたん、と後ろ脚で蹴って締めたドアの向こう側は、しん、と冷える空気が残されるばかり。
ドアを一つ隔てた男鹿の部屋では、朝方まで濃厚な熱い空気が部屋中を覆いつくすのであった。
4 あ、そーいえば、チョコ使うの忘れた
古市の家から分けてもらってきた「粉チョコ」の入ったビンを、ベッドサイドから取り上げる。
何度もイってトロトロになった古市が、胸で荒く息をしながら男鹿を見上げる。
白い肌を紅潮させて、いたる所にキスマークを落として。
胸まで白濁した液を飛ばしたその姿は、奮いつきたくなるほど色っぽい。
くったりと力を抜いてベッドに横たわったままの古市は、脚をしどけなく開いたまま──つい先ほどまで男鹿を受け入れていた場所を、惜しむことなく男鹿の視線に晒しだしている。
呼吸をするたび、秘部からたっぷりと注ぎ込まれた精液が零れていく様が、酷くエロイ。
それを見下ろしながら、男鹿は粉チョコを古市の体の上で軽くゆすった。
ぱらぱら、と音もなく落ちていくチョコが、白い古市の体に触れた瞬間、とろ、と溶け始める。
「──……んぁ……、な、に……?」
粉でしかない物が肌に触れても感じないだろうに、チョコが溶けていくのは分かるのだろうか、唇を震わせて眉を寄せる。
掌で男鹿が落とした物を掬い上げて──その茶色い色に気づいた瞬間、古市は、あ、と声をあげた。
コレは、そう──チョコだ、と。
さらさらさら、と男鹿の手から落とされるチョコは、見る見るうちに古市の体を覆っていく。
それが触れた瞬間から、とろとろと溶けていく。
「男鹿……っ、なにを……──っ。……んやぁっ……。」
止めようとするのだけれど、肌を伝う感覚に、未だ敏感すぎるくらい敏感な体は、びくびくと快楽を追ってしまう。
あぁ、と腰を上げて、くねらせるような仕草になる古市に、めっちゃエロイ、と、男鹿は空になったビンをベッド下に放り投げる。
そして、掌で茶色く染まった古市の腹を撫でると、ベッタリと付いたチョコと精液を掬い上げて──ペロリ、と、舐めた。
白と茶色の入り混じったソレが、男鹿の赤い舌の中に消えていくのを、古市はつぶさに見つめる。
「あまい。」
「そ、りゃ……、チョコ、だもん。」
上ずった声で答える古市に、そーだよな、と男鹿は笑って顔を伏せる。
指に残ったチョコを、古市の赤く濡れた──存分に可愛がってやった乳首に塗りつけると、ひっ、と小さな悲鳴があがって、腰が跳ねた。
グリグリと捏ねくりまわしながら、溶けたチョコを舐めてやれば、古市が甘く鳴き始める。
「あ……っ、ん……ぁ……っ…………。」
もう片手で腹に溜まったチョコを掬って、今度はその手を下へ──。
茂みの中で自己を主張するソレは、すでにもう張り詰めていて、先端からはトロトロといやらしい汁をたっぷりと垂らしていた。
「古市くん、やーらしー。」
指先で擦りながら、チョコを汁に混ぜ込んでいけば、チュクチュクと音が鳴る。
「……やっ……、男鹿、の……、せいだろ……っ。」
ばか、と熱と涙が混じった目で軽く睨みつけてくる顔が、虐めたくなるくらい可愛い。
「反抗的だな、お前。」
にー、と笑えば、古市はキュと眉を寄せて、顔を赤く染める。
乳首を摘んでいた手に力を込めてひねり上げながら、もう片方の乳首に甘く噛み付いてやる。
更に留めとばかりに指先で鈴口をグリグリ刺激してやれば、古市はあっけなくイッた。
「……ぃやぁぁっ!!」
ふる、と力なく振られた髪が、パサリとシーツを打つ。
力なく射精された精液に、あれ、もう量がすくねーな、と男鹿が笑えば、その刺激に古市が腿を震わせる。
「も──……っ、ねが……っ、ゆるして……。」
涙交じりにそう願う古市に、でもさ、と男鹿は笑った。
「お前のココは、そうは言ってねーぞ?」
ほら、と、力を無くしたように見える──でもまだ芯を残して緩く硬くなるソコを掌で包み、強弱をつけて握りこむようにしながら、つつ、と手を下にずらす。
そうして、その奥で淫らにひくついていた場所へと指先を触れさせれば、ソコは男鹿を待っていたかのように、いやらしい水音を立てる。
「ほら、触っただけなのに、こんなに蠢いてるじゃねーか。」
「──……っ。」
ひゅ、と息を呑む古市の顔が、羞恥に染まる。
その目の中に、間違えようのない欲情の色がみえる。
その証拠に、古市の物は、確かな固さを持ち始めていた。
「な、俺が欲しいんだろ? 言えよ、古市。」
なぁ、と、子供のようにねだる男鹿に、ばか、と舌たらずに唇を尖らせながら、古市はそれでも、観念したように目じりを赤く染めて答えた。
「……おがの、…………ちょうだい?」
──これはだって、媚薬のせいだから。
5 結論。
「もうっ、あれはだから、媚薬が入ってからだって言ってるだろっ!」
古市の体の上にチョコを綺麗に舐め取って、かいがいしく後片付けをした翌朝。
朝から上機嫌で、またやろーな、とかのたまう彼氏に枕を投げつけながら、古市は絶対あのチョコは二度と食わない、と宣言する。
もうヤだ。
なんだあの醜態。なんだあの一歩手前のギリギリ状態!
下手していたら、古市はあんなヤバイ状態を美咲や男鹿父に見られてしまっていたのだ。
それを思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
しかも、あんなに何度も何度も男鹿の手で容易くイカされて──あぁ、思いだすだけでも、穴に入りたいくらいに恥ずかしい。
シーツに突っ伏してグリグリと額をベッドに押し付ける古市の横手では、男鹿がシャツとズボン姿のまま、ベッドサイドに腰掛けて、へーへー、と気のない返事を返す。
「んなこと言ったって、俺はなんともなかったんだぞ?」
「だから、そりゃあれだよ! 魔界製のだから、ベル坊の親のお前には効かなかったんだって!」
あぁ、もう、ほんと、穴があったら入りたい。
何あれ? もうヤだ。
布団を頭まで引っかぶって、もう俺は今日はココから出ない、と宣言する古市に、学校いかねーのか、と男鹿が聞いてくる。
行かない、というか──腰が痛くて立てないのに、いけるはずがない。
むっつりと黙り込んでいると、男鹿も黙ったまま、ぽすん、とベッドに頭を預ける。
しばらくそうした後、しぶしぶ古市は顔を出すと、
「お前、学校いかねーの?」
「あー? お前がいかないんなら、行ってもしょーがねーじゃん。」
「いやいや、行けよ。学生の本分は勉強だぞ。」
俺が行かないなら行かないって、それ、どんな理由よ?
と、呆れた気持ちで男鹿のほうに寝返りを打てば、今朝方まで酷使していた腰が、ずきんと痛みを訴えた。
うう、ここまで腰が痛いのって、初めて以来かもしれねぇ、とぼやきながら、古市は腰に手を当てる。
ジンワリと温かい手が当ると、なぜか痛みが和らぐ気がするから不思議だ。
「えー……、あ、そだ、古市、朝飯代わりにチョコ食うか?」
「いや、だからな……っアレは媚薬が……、………………って、ア…………ああああっ!!!」
とんでもない事実に気付いて、がばっ! と古市は起き上がる。──と同時に、言い知れない痛みが走って、はうっ、とベッドに顎から落ちた。
お前、何やってんの、という男鹿の声を右から左に聞き流し、古市は震える手で男鹿へと手を伸ばすと、
「お、男鹿……っ、ちょ、俺の携帯取って。」
「あぁ? なんで?」
「ほのかに……、あのケーキ食うなって言わねぇと──あいつが、こんななったら、ヤバい。」
いや、もしかして、もう遅いかもしれない。
うっわー、と、中学生の妹には早すぎる&刺激が強すぎるかもしれない展開に、頭痛どころか眩暈すら覚えた。
どうしよう……わ、ほんとどうしよう。
あれか? ラミアに頼んで記憶を消してもらう薬とか打ったほうがいいの? やっぱあれっきゃない??
などと、グルグル回る頭でそう思ったときだった。
バンッ!
「安心しろ、あれはウソだ。」
世にもすばらしいナイスバディを持つ悪魔が、片手に魔王さまを抱きかかえて入ってきた。
昨夜、ヒルダと一緒に寝たらしいベル坊は、一晩ぶりの男鹿を見るなり、嬉しそうに笑って両手を伸ばしてくる。
ヒルダはそんな彼を、恭しい手つきで男鹿に差しだし、男鹿はなれた手つきでベル坊を持ち上げると自分の膝の上に落とした。
「ウソって、なにがだ?」
イマイチ分かっていない男鹿に対し、古市はカポン、と口を開いてヒルダを見上げる。
「ひ……ひひ、ヒルダさん? 今、なんて?」
「あのチョコが媚薬というのはウソだと言った。」
あれは、正真正銘、単なるチョコだ。悪魔が食おうと人間が食おうと、何の効果もない。
はっきりきっぱり表情も変えずにそういったヒルダに、古市の頭は真っ白になる。
え、だって、でも、昨日の夜……風呂上りにあんなことに……???
と脳裏を駆け巡るのは、思い出すも恥ずかしい事実だ。
媚薬のせいで体が熱くなっていると思ったから、男鹿の物にも喜んでしゃぶりついたし、いやらしい言葉も口にしたし、上になって腰だって振ったりしたし……っていうか、媚薬のせいじゃなかったら、どうしてアアなると言うのだっ!?
「や、だって、昨日の夜……っ! 俺、確かに……っ!!」
パクパクと口を開け閉めしながら、必死で言う古市に、うむ、とヒルダは頷くと、
「思い込みの効果というヤツだな。貴様は前から、そういうのには弱いと思っておったのだ。」
案の定だったな、と悪魔の笑みでもって断言してくれるヒルダに、ええええーっ、と古市は叫んだ。
反論したくてベッドを叩いてみたが、その拍子に走った腰への衝撃にうずくまってしまったため、言葉にはならなかった。
悶絶する古市のつむじを見下ろしながら、ヒルダは淡々と説明する。
「昨日はバレンタインだっただろう? お前にだけチョコをやって男鹿にやらんのは可哀想かと思ってな。──これでも一応ぼっちゃまの親だからな。
まぁ、そういうわけで、あれが私からのバレンタインプレゼントというわけだな。チョコではなかったが、こやつにはそのほうが嬉しいだろう?」
突っ込みたいことは、正直、いくつもあった。
お前にだけチョコをやって、っていうか、あれ、チョコに数えるんですか? アランドロンからのチョコを横流ししてくれただけっすよね? あれも1個に数えちゃうのっ!?
いや、もらえるならもらえるで嬉しいんですけどねっ!? でもねっ?
だからって、ヒルダさんからの男鹿へのバレンタインが、俺って、なんかおかしくないっすかっ!!!??
「はぁ? お前が俺になんかくれたか?」
「昨夜、ぼっちゃまを預かったのも、それが理由だ。
おかげで楽しめたろう?」
素で分かっていないらしい男鹿はとにかく、古市は赤くなったり青くなったりで、パクパクと口を動かすばかりだ。
「バレンタインは、恋人たちの祭典だからな。」
これでいいのだろう、と。
しれっとした顔で言う悪魔に、古市はもう、何も言い返せなくて──グッタリと、ベッドに突っ伏すしかなかったのであった。