「こい」
「ぜったい、馬鹿でしょ、あんた。」
ぴしり、と形良い指先を突きつけられて、少年はキョトンと目を瞬かせた。
良く日に焼けた肌が健康児であることを示す――けれど、体は華奢で、漁師の村の子供にしては、浮いていた。
そんな少年よりもさらに華奢な少女は、良く手入れしている巻き毛を掻きあげて、馬鹿にしたように鼻先で笑った。
幼馴染の少女のそんな態度が、何を示しているのかさっぱり分からず……眉を顰めながら首をかしげる。
「……僕、何かしたっけ?」
「――はっ、始末に終えないくらい、馬鹿。」
すぐさま返って来る明らかな嘲笑に、彼は憤りを覚えるどころか、ますます困惑の表情を浮かべる。
幼馴染の、顔は綺麗な少女が、「こう」なのはいつものことで、少年はそんな彼女の態度に良く慣れていた。だからこそ、別に馬鹿にされても怒りはしない。相手の少女もそれが分かっていたからこそ、さらに言葉を重ねた。
「自分の胸に手を当てて、よぉっく考えてみなさいよ? 言っておくけど、分からない、なんて言ってたら、そのうち痛い目見るんだから。」
下から睨みあげるように見つめられて、大きな瞳を見返す。
分からない、なんて言っていたら、痛い目を見る?
自分は一体何をしたというのだろう?
昔と違って彼女は自分達と遊ぶことは無くなった。いつのまにか、娘然として、城下では「ちょっときつくてわがままな――でも綺麗で可愛いお嬢さん」だと言われているらしい。
少し前までは、自分とキーファと一緒に、泥だらけになって遊んでいたのに。
そんな彼女と会うのは、朝と夕方――もしくは夜くらいのものになって、ずいぶんになる。
その少しの間に、彼女に何かした覚えはないし、彼女に弱みを握られた覚えも――ないというわけではないけど、こんな風に言われる覚えはないのだ。
「――マリベル……ほんとに、わからないんだけど。」
困惑をアリアリと顔に表せて、彼女におずおずと口にした瞬間、少女は片眉だけを上げて、唇の両端を吊り上げて笑った。
あでやかに見える微笑は、城下の男に見せたら、「なんて綺麗で可愛い微笑みだろう」と口をそろえて言うのだろうけど、少年にしてみたら昔そのままのおてんば少女の微笑みだった。
「そう、分からないの。だったら、分からせてあげるだけだわ、アルス。」
当然のことのように告げるマリベルに、じりり、とアルスが後退しようとするけれども、彼女はそれを許さない。
すばやく腕を彼に絡めると、体を預けるように肩口に頭を置く。
まるで恋人にするような仕草のそれに、彼女の髪から甘い香りがした。
年頃の少女めいた雰囲気に、ドキドキする――いや、そのドキドキはきっと、キーファが城内の女性に感じる「やっぱ美人に声かけられると、ドキドキするよなーっ。」という、ドキドキとは違う。
どちらかというと、今から怒られるような気がするなー、という類のドキドキであった。
神様に祈るように両手を組み合わせかけたアルスの手を、きゅ、と握りつぶして、マリベルは優しく微笑む。優しく見えるだけで、目が笑っていないけれども。
「あんた――キーファと何してんの?」
「――……。」
来た、とアルスは声には出さずに思った。
けれど、何とかそれを顔に出さないように勤めつつ――勤めてはいるのだが、現実にはさっぱりだったのだけど――マリベルに引きつった微笑を浮かべる。
「何って、いつもみたいに、相変わらず、だよ? 北の岬に行ったり、森の中でハンティングしたりとか、泳いだりとか。」
「……………………。」
じろ、と睨みつける目が、怖い。
しっかりと握られた腕に感じる少女の柔らかな体が、怖い。
普通の女の子の体っていうのは、親友が言うところには、「やわらかくて、いいにおいがして、ドキドキするもの」のはずなのだけど、マリベルのそれは、やわらかくて、いいにおいがして、そして、怖い。
「そう……ハンティングしたり、泳いだり――ね。」
繰り返す彼女は、獲物を射るような目でアルスを見上げる。
「で、どこで?」
「ど、どこって?」
「どこで、それをやってるの?」
「いいいい、いつものとおり、森の中、だけど?」
声がひっくり返っていることに気づきつつも、アルスはそれを直すことが出来なかった。
もともと嘘は苦手だし、すぐに顔に出るというのが回りの意見であった。
特にマリベルは、人の心に聡くあるから、アルスの感情の変化には妙なくらいに鋭いのだ。キーファとアルスが単純なのだというのだけど、超常現象ではないかと思うくらいの的中率なのだ。
マリベルはさらに目を据わらせると、面白くもなさそうに唇を舐める。
「森の中、ね――それが、禁足地の森じゃないことを祈るのみだけど。」
「――……っ。」
ぎくり、と強張った体に、マリベルは当然気づいただろう。おそらくはそのために、体を密着させたのだろうから。
マリベルは、正直なアルスの体に嘆息を零すと、
「隠し事なんかしてないで、さっさと吐きなさいよ? あんたとキーファが、あたしに隠れてコソコソしてること、とおの昔に気づいてるんだから。
姑息にも、あたしが外せない用があるときに、行動してるみたいだけど、それだって、いつまでも続けると思わないことね。」
ほら、と指先でアルスの顎を捉える。
くい、と上に向かせる仕草は、アルスよりも体の小さいマリベルには無意味な行動に違いないのだけど、どうしてかアルスには精神的な苦痛を与えることが出来た。
「あ、あのね……マリベル?」
「何よ?」
「僕とキーファは、別にそんな場所に踏み入れてなんかないし。」
「じゃ、どこに踏み入ってるわけ? 村から出た様子もないのに、村のどこ探してもいなかったり、なのに日暮れ前になると、村を当たり前のように出て行く馬鹿王子――あんたたち、あたしに内緒で、何してるわけっ!? キリキリ吐きなさいっ!!」
顎を捉えた指先が、いつのまにか両手に変わり、さらに言葉の後半にはアルスの首をしめるような形になっていた。
「ぐぅ……ちょ……ちょっと……まままま、まりべ……っ。」
「あたしだってね、退屈な日常を送るなんてうんざりなのよ、うんざりっ! あんたたちだけ面白いことをしようなんて、冗談じゃないわよっ!? 小さい頃、いじめっ子からかばってやったのは誰だと思ってんの、ええ、アルスっ!? あんたはあたしの子分みたいなもんなんだから、あたしに黙ってることがあるのは、冗談でも許せないわねっ!」
「くるし……苦しいってば……っ。」
「いいっ、アルスっ!? 私のものは、私のもの、あんたのものも、あたしのものなのっ!!」
「わ……わけわかんない……。」
顔を白黒させながら、マリベルの華奢な手首を掴むのだが、興奮しているらしいマリベルの手首を離すことは、まったくできなかった。
というか、首を締められている為、力が入らないのが原因である。
こんなやり取りをフィッシュベルの村の中央――浜辺で堂々とやっているのだから、目にとめた村人が止めてくれればいいのだが、人々にとっては「いつものこと」であった。そのため、ほほえましい表情で見つめてはくれたが、止めようとはしてくれなかった。
「っていうかね、いいかげんゲロっちゃわないと、こっちもこっちで考えがあるんだからねっ!」
「ゲロって……マリベル、言葉が汚い……。」
これで、現時点、屋敷で作法の勉強をしているのだというから、うそ臭いと言ったらありゃしない。
「あんた達二人が、二人っきりで一目のつかないところでしていること――王様にばらすわよ。」
首を締める手の力を緩め、間近でささやくマリベルの目は、暗いくらいに真剣であった。
「……って……。」
げほっ、と小さく咳き込んだアルスを締め上げる手を緩めたものの、彼を離すことなく、マリベルは冷たい目で――脅す目で続ける。
「人様にはいえないようなこと――してるって言うわよ。」
「ひ、人様には、いえないこと……って……???」
確かに、自分達がしていることは、人様にはいえない。
だって、この島の禁忌とされる禁足地で、冒険をしているのだから。あそこの謎を解き明かそうとしているのだから。
「こないだ、ホンダラさんに聞いたの。あんたの、ろくでもない叔父さんからね。」
言葉の端々に毒が見え隠れしているのは、彼女が叔父を嫌っているからか、それとも自分が知らないことをあの人が知っていたことか――おそらくは後者であろうけど――。
「お、おじさんから?」
あの人の言うことは、うさんくさいと……というか、憎めないどうしようもない男だから始末に終えないと、そう言っていたマリベルが、よりにもよってホンダラの言うことを信用するとは、一体どういう話なのだろう?
叔父さんにとって、僕とキーファのことは、金のネタにもならないことのはずだ。ただ、いつも口にしているのは、「お前も王子の友達ならよ、俺に城内で楽に稼げる仕事でも紹介してもらってくれよ。たとえばよ、王子の部屋で、王子の身代わりに寝てるだけの仕事とか。」という、非常にくだらないことくらいである。良く考えなくても、そんなことをして、一体誰が給料を払うのか、という疑問にぶち当たるはずだが、叔父は一向にそこに考えが至らないあたり、愛しい馬鹿とでも言おうか――……。
「そうよ。
禁足地――王家の墓のある場所に、虹色に輝く入り江があるって、あんた、知ってる?」
「あ……。」
思わずマリベルの言葉に呟きがもれたのは、体が咄嗟に反応してしまったためであった。
浮かんでくるのは、水の音に導かれるように進んだ先にあった入り江のこと。
乱反射して虹色に輝く湖面は、なぜか潜った中にまで続いていて、とても綺麗だった。
良くキーファと行くあそこのことは、マリベルには内緒にしていたのだけど――一応禁足地の一部なわけだし。
「……やっぱり知ってるのね。ってことは、行ったこと、あるわけだ……虹の入り江だなんて、古い歴史書にしか載ってないのに、知ってるってことは。」
ふぅん、と胡乱げな目つきで睨みあげるマリベルに、慌てて自分の口を覆うのだけど、そんなことで許してくれるような少女ではない。
彼女は、アルスの首から、凶暴な手を離すと、ふん、と憤りを紛らわせるように息をついた。
「ホンダラさんが、あそこであんたたちを見たそうなのよ。」
「おっ、おじさん、あんなところまで来てたのっ!?」
咄嗟に叫んでしまったことに、あっ、と短く続いた叫びは、マリベルの大仰なため息にかき消される。
彼女は、やってられない、とばかりにヒラヒラと手を振ると、
「やっぱり本当なんだ?」
くい、と顎を突き出すようにしてアルスを睨みあげる。
その目を見た瞬間、アルスはあきらめたような目を浮かべた。
「う……う…………の、ノーコメントっていうのは?」
「なし。――っていうか、今日の私はね、どうしてあんたたちがそこに居るのか、ってことよりも、聞きたいことがあるのよ。」
ちょっとホッとしたらしい顔を浮かべるアルスに、けど、とマリベルは低く続ける。
「もちろん、それについては、今度聞きだすつもりだけどね――まぁ、そうじゃなくって…………アルス。」
マリベルの両手が、しっかりとアルスの肩を掴む。
其のときになって、再びアルスは気づく。
さっきの間に逃げていればよかったのに、また逃げられないようになってしまっている、と。
アルスは天然だとみんなが口にして言うけれど、これでは否定など出来なかった。
マリベルはそんな愛しき、愛すべき幼馴染を下から必死で見上げて――微笑を浮かべて見せた。
綺麗で綺麗で可愛い笑みは、アルスの背筋に冷たい物を走らせる。
「アールス? 虹の入り江で、キーファと一緒に居たのよね?」
「え、えーっと――そ、それは……。」
「それで、キーファと……。」
ぎりり、と肩に爪が食い込んで、アルスが片目をゆがめた瞬間、まるで地獄の底から響くように、マリベルが声を出す。
「やることやってたって、ほんと?」
「…………………………………………………………………………は?」
二人の間に流れた沈黙は、とても長かった。
長い沈黙の後、こぼれたアルスの間の抜けた声は、浜辺の打ち寄せた波音に消えた。
ごごごごごごごご――……と、うごめく地面の音が聞こえるくらいの表情で、マリベルがアルスに問いを重ねる。
「白い砂浜に、アルスが押し倒されて、その腹の上にキーファが乗りかかっていて、キーファの手がアルスの服を乱していて、アルスはそれに抵抗すらしてなくて、キーファはそれをいいことに、アルスの服の中に手を突っ込んでて、アルスはアルスで、キーファの服を脱がそうとしてたって、ほんとっ!!?」
「…………………………は?」
再び呟いた自分の声は、なんて間が抜けているのだろうと思うくらい、抜けていたと思う。
けど、鬼神に近い表情になったマリベルは、そんなアルスに気づかず、切羽詰ったような目をアルスに向けた。
「そりゃねっ、昔からあんたたちは、怪しい怪しいとは思ってたけど、あたしは、幼馴染として、親友だと――親友なんだって、信じようとしてきたわっ!! たとえ、普通親兄弟でも滅多にしないでしょうがっ、と突っ込みたいような、お休みのキスとか、おはようのキスとかしてたとしても、朝会った挨拶が、抱きしめあうのから始まっていようとも、また明日、って別れるときも、いいかげんにしろよ、あんたら、ってくらい、見詰め合っていてもっ!! あたしは、あたしは――あんたたちは、親友だって……その間には、何にもないんだって信じようと思っていたのっ! そう、そう思ったからこそ、たとえあんた達が二人っきりで、あたしに内緒で何かしてようと、ナニかしてることはないって――そう、そう信じようとしてたのにっ!!
なにも、なにも、あたしが居ない場所でやることないでしょうっ!? ていうか、なんであたしの前でやってくれないのっ!? どうして見つけたのが、昔からの幼馴染のあたしじゃなくって、ホンダラさんなのっ!? 普通、そういうシーンを見つけるのは、あたしでしょ、あたしっ!? 親友同士だと信じていた幼馴染二人が、実は自分に隠れて秘密基地で秘め事をしていたっ! その事実に驚きながらも目が離さず、そして一人悶々と悩む美少女っ! それが普通でしょ、普通じゃないのっ!? なのになんで、なんであんたの叔父さんから、『おいおい、アルスがキーファ王子とそういう関係だなんて、俺も知らなかったぜ。これでアルスが女なら、俺も王族と姻戚ってことで、いい思いできたのになー。』とか言われなきゃいけないわけっ!? ああん!? それとこれと言うのも、あんたがキーファと、恋人同士になったってことを、あたしに一言も言わないからよーっ!!!!!」
ぜぇぜぇ、と、言うだけ言って大きく息を吐くマリベルを、呆然と――呆然と、アルスは見つめた。
何を言われたのかわからず、アルスはゆっくりと首をかしげる。
つまり、順番に言われたことを思い返すと――……。
「………………えーっと…………マリベル…………僕とキーファが……何?」
頭の中では処理しきれず、やっぱり何を言われたのか分からないアルスが、戸惑うように首をかしげた瞬間。
「アルスっ!!!」
間近から、マリベルじゃない女性の声が聞こえた。
あれ、とそちらに目を向けると、いつのまにか自分とマリベルを囲うように、フィッシュベルの女性達が集まっていた。
どうやら、マリベルとアルスの掛け合いを見守ってくれていたらしい。
その彼女達の目には、マリベルの狂気とも思える感情と同じ光が宿っていた。
「……な、何?」
身の危険を感じたアルスの手を、がしり、と最近結婚したばかりの新婚さんが握り締める。
「アルス――私達は、あなた達の味方よ。」
「み、みかた?」
いやな予感がしてならないアルスの勘は、正しい。
ただしいのだけど、一体何からこうなったのか分かっていない天然さでは、意味がなかった。
「ええ。私達は、そんなことで差別したりなんかしないわっ。いいえ、それどころか、やっぱりそうだったのね、と、そう思っているくらいよっ!!」
「そうよね。うんうん。そうじゃないかって思ってたんだよ、あたしも。」
「そうそう。ただの友人にしては、親密すぎるもんね、アルスも王子も。」
「あんたたちだったら、何があったとしても、不思議はないわ。」
口々に言い合う女性達を、アルスはわけがわからない状態で見回し――当惑の表情を広げ、情けない顔でマリベルを見下ろす。
「マリベル――一体…………何なの?」
けど、マリベルはそれに答えてはくれない。
ただ、憮然とした表情で、
「ちっ、やっぱり皆、考えることは一緒か。」
などと呟いている。
「ねぇ……みんな、何の話してるわけっ!?」
アルスが悲鳴に近い声をあげても、マリベルはそれを綺麗に無視してみせる。
回りの女性も女性で、
「やっぱり、アルスは受けだと思うのよね。」
「分かる分かるっ。やっぱり、キーファ王子が、強引に引っ張っていくのよねーっ!!」
「って、ちょっとまって、ちょっとまってよ、皆っ!? 虹の入り江ってことは、二人ともいっつも……ってことよねっ!?」
「きゃーっ!!! 若いっていいわねぇっ!!」
「やだよぉ、もう、最近の子はぁっ。」
きゃっきゃっ、と黄色い悲鳴をあげながら、アルスには不可解なことで盛り上がっている。
アルスはマリベルと、女性陣とを見比べて――何が何だか分からない、とかぶりを振ったときである。
「おーい、アルスっ!!」
声が、飛んできた。
それも、タイミングの悪い――悪すぎるタイミングで。
けど、アルスは悪いタイミングとは思わず、天の助けとばかりに、自分の名を呼んだ相手を振り仰いだ。
浜辺よりも一段高い場所に立ち、手を振っている青年は、いつもと同じように明るい笑顔を浮かべている。
「キーファっ!!」
待ち望んでいた、とばかりに嬉々とした声をあげるアルスに、女性達の顔がますますうれしそうになる。
そして、彼女達はさも当然であるかのように、アルスの前からキーファへ向けて、道を開けた。
アルスは、これでここから逃げれるとばかりに、急いでその場を飛び出す。
マリベルはそれを見送り、だからあんたは馬鹿だって言うのよ、と小さく呟く。
「よ、アルス。何やってたんだよ、ご婦人方に囲まれて?」
からかうような口調のキーファに、彼のそばに慌てて駆け寄ったアルスは、それどころじゃなかったんだから、と軽く膨れてみせる。
そんな彼に、一段高い場所から手を差し伸べるキーファ。アルスは、当然のようにキーファの手を取った。
瞬間、女性達が小さく悲鳴をあげる。
キーファは軽く手に力を込めて、アルスを自分の場所まで引き上げる。
「良かった、キーファが来てくれて……。」
「ん? 何かあったのかよ?」
「あったっていうか……よく、わかんないんだけど。」
言いながら、ちらり、と背後を振り返るように浜辺に突っ立っている女性たちを振り返ると、彼女達は何が楽しいのか、うれしそうに手を振ってくれた。
「がんばるのよ、アルスっ!」
「キーファ王子は、体力だけがとりえだからねっ!!」
その声援に、キーファはワケが分からないとばかりに、頭を掻く。
「ま、そりゃ俺は、体力が自慢だけどさ……???」
「……ね、わけがわからないでしょ?」
小首をかしげるアルスに、キーファも頷くが、すぐに意識を転換させると、
「それよりも、アルスっ! 今日は、あっちに行こうぜ。すっげぇイイモン見せてやるっ。」
「うんっ。」
アルス手を握って、そのまま村の出口向けて、二人揃って駆け出した。
それを見送りながら、やっぱり叫びあうのは。
「イイモンですって、イイモンっ!」
「そりゃぁ、若いからねぇ。」
「やだもう、奥さんったらっ!」
ちょっと大人な会話をする女性達だった。
マリベルは、冷めた目を正面に向けた後――ちっ、と無作法にも舌打ちする。
それから、髪を掻き揚げると。
「しまったわ。結局、なんで虹の入り江に行っていたのか聞くのを忘れたわ。」
小さくそうぼやいて見せた。