その人は、いつだってやさしく微笑み、いつだってやさしく受け止めてくれた。
悲しみも、憎しみも、寂しさも──激情のその全てを、いつも受け止めてくれた。
始めは穏やかな感情だった。
一緒に居るだけで、ホッとして、楽しくて。
当たり前のように背中を合わせて座った。
背を反らして笑いながら伸びをすると、こつん、と後ろ頭がぶつかった。
触れた髪と髪がくすぐったくて、小さく笑った。
「クリフト? 今日の夕飯、シチューが食べたい。」
「──……作ったらいいじゃないですか、美味しいシチュー。」
あわせた背中が彼の声に伴うように揺れる。
背中ごしに響く心地よい声に、そのまま体重を預けると、向こうの体が軽く沈んだのが分かった。
「えーっ、作ってくれないのかよ?」
その沈んだ体に、更に体重をかけるようにして空を仰いだ。
後ろの彼と同じ「青」の色──けれど、彼のよりもずっと淡い青い空。
それは、毎日微妙に色は違うけど、どこへ行っても同じ空。
「作ってくれないのか、って──今日の夕飯当番はユーリルじゃないですか。」
思い切り良く体を伸ばして笑うと、背中で押しつぶされた青年は、
「………………どうでもいいですけど、重いんですから、のしかからないでください──っ。」
そう、小さく説教してくれた。
その苦い声すらも、どこか楽しくて、笑った。
「いいじゃーん、少しくらい。」
「ユーリルはっ、筋肉がしっかりとしているから、重いんです!!」
命を預けられる仲間で、友人で。
「クリフトは、ほんっと、体力ないなー……こないだの体力検査で、ミネアに負けてなかったか?」
「…………気のせいです。」
きっぱりはっきりと言い切り、クリフトはそのまま膝にうつぶせるようにしてため息を零した。
「まったくもぅ……。」
そのまま、心地よい日差しの下で、文句を言いながらも振り払おうとしない。
そんな彼の些細なやさしさが嬉しくて、甘えたくなる。
彼は、甘やかすのがうまい。
多分きっとそれは、彼がずっと長い間片思いしてきた少女の面倒を、見続けてきたからなのだろうけど。
「じゃ、退いてやるから、今日の夕飯当番手伝ってよ。」
その甘さに甘えるようにそう強請ると、
「それはあなたのためになりませんから、ダメですよ。」
幼馴染の少女の言い分はいつもハイハイと聞く癖に、自分にだけはきっぱりと断ってくれる。
それが、なんだかむかつかないわけじゃなかったけど、
「ケチ。」
──お互いに、言いたいことを言い合える関係は、なんだか良いじゃないかと、そう、思った。
「そういう問題じゃないでしょうが?」
呆れたように言い返す青年は、彼女の前で見せる取り繕ったような表情も、いつも良き人であろうとする顔も、何もかもを引き剥がして接してくれる。
同じ年頃の、同性の友人。
最初は、気が合わないかもしれないと、少し思ったこともあったけど。
「そう言う問題だよ。」
今は……それも遠い過去──。
一面に広がる薄紅色に染まる空。
その色を、「桜色」というのだと、教えてもらった。
ヒラリヒラリと舞う花びらが、どこか儚くて、視線を奪われる。
なんと表現したらいいのだろう、この儚さに目を奪われ、思考すら奪われる、この思いを。
「……嫌いかも、僕。」
舞い散るその儚さが、なぜか胸に痛かったから。
夢を、見ていた。
それは、幸せだった頃の夢だ。
当たり前のように季節が巡り、当たり前のように来年もやってくると疑わなかった春の光景。
空からは暖かな日差しが照りつけ、地上には華やかでありながらも素朴な花々が絨毯のように広がっていた。
春になると、森の中に入り、山菜や苺を取ってくる。
それを母が料理して、隣から手を差し出しては、ダメでしょ、と笑いながら手を叩かれる。
たくさんの苺の上に、一緒に作ってもらった苺のソースをたっぷりと掛けて、それをもっていつもの待ち合わせの場所へ。
そうすると、そこでシンシアが笑って待っていてくれる。
今日の昼食は、彼女の手作りのサンドイッチ。
春になると、いつもそうやって二人で花畑の中央で、小さなピクニックをするのだ。
笑いながら食べあっていると、師匠や先生が、からかいながら通り過ぎていく。
小さく舌を出したシンシアが、そんな彼らに何か一言二言かけて、小さく拳を突き上げる。
その動作すら楽しくて、思わず笑い声を上げたら、シンシアは拗ねたように唇を尖らせるのだ。
──毎年、恒例の行事。
当たり前のように繰り返されてきた、春の満開の時期に約束する。
「ピクニックはいつにする?」
来年もきっと、そうやって一緒にピクニックをするのだと信じて疑わなかった。
昨日の次は今日になり、今日の次は明日になり──いつか村を出てみたいと思ったことはあったけれど、それでも村を捨てるつもりなどはなかった。
まさか、あんな形で村を捨てる羽目になるなんて思っても見なかった。
──ずきん、と胸に走った動揺に、グラリ、と眼の前の光景が歪んだ。
「ユーリル?」
夢の中だというのに……これは夢だとわかっているのに、鮮明に聞こえるシンシアの声。
その声に、ハッ、と視線を前に向けると、不思議そうな顔をしたシンシアが、手に大きな花冠を持って首を傾げていた。
その頬に、ふわりと飛んできたテントウムシが止まる。
ユーリルは小さく笑って、その彼女の柔らかな頬に手を伸ばした。
「シンシア、動かないで。」
そう笑いながら、いつものように指先で彼女の頬に触れようとする。
けれど、その手は何時までたっても彼女の頬に触れない。
あれ、と──小さく呟いて、ユーリルは眉を寄せた。
「シンシア、動かないでってば。」
手が届かないのは、彼女が悪戯心で動いたからなのだと思った。
だから、ユーリルは少し拗ねたような色を含めてそう彼女に言ったのだけれど、彼女はただ淡く笑うだけで何も言わなかった。
「シンシア?」
小さく、幼馴染の名前を呟く。
けれど彼女はただ淡く微笑むばかり。
その笑顔が、ふ、と──あの日の彼女の笑顔と重なって見えて。
「──……シンシアっ!」
とっさに、叫んだ。
伸ばした手の平は、やはりシンシアの頬には触れない。
それどころか、シンシアの体がドンドン遠ざかっていく。
辺りの映像は遠く向こうへと追いやられていき、ただ彼女は微笑み──そして自分は、置き去りにされていく。
「──ヤ、だ──……っ。」
小さく、叫ぶ。
イヤだ、と、頭を振る。
けど、意識はそれを許してくれなかった。
シンシアの姿が遠ざかるほど、意識が浮上していくのを感じた。
ドンドン体が重さを増していき、遠く離れたシンシアの姿は、豆粒のように小さくなり──暗闇に包まれて消えた。
瞬間、全身を襲った感情の名を、ユーリルはなんと表現していいのかわからなかった。
喉が震え、体が震えた。
胸が凍りつくかと思うほど冷ややかな色に貫かれ、ゾワリと肌があわ立った。
「──イヤだ……っ。」
目を閉じる。
このままこの幸福な夢に浸っていたいと、全身が叫んでいた。
でも、それでも。
「……………………っ。」
現実は、否応なく襲ってくる。
眼の前が真っ暗になり、痺れるような眠気が頭の片隅に残った。
閉じた瞼の向こうから、明るい色が滲み出てきている。
それを感じてしまえば、もう意識は夢の中にはないと、認めてしまうしかなかった。
ココ、は。
現実の世界。
ココは。
「──────…………。」
目が、ボンヤリと開いた。
それと共に、感覚が戻ってくる。
焦点が合わない視界の眼の前には、何か黒いものが見える。
「……………………?」
ボンヤリと目を眼の前のものに当てていると、すぐに視界はクリアになり、黒いものだと思っていたのが、実は深い緑色なのだと気づいた。
けれど、目覚めたばかりでボケた頭では、それが何なのかまでは理解できなかった。
横に約20センチ、縦に5センチほど。更にその両端から15センチほどの羽根のようなものが出ている。
モンスターかと思ってみたが、殺気はまるで感じなかったし、それどころかなんだか眠気が増してくるほど心地よい。
頭の後ろは、少し固いけれど心地よい枕が置かれているようだ。
投げ出した手足に触れている感触は、芝生か草木か。
──というよりも、僕は眠る前まで、何をしていたんだっただろう?
今更ながら、その事実に気づいて、ユーリルは眉を寄せた。
ボンヤリと眼の前のものを見上げながら、記憶を掘り返す。
その視界の隅を、ヒラリ、と何かが漂った。
ハ、と、それを追うように視線を横に転じた。
けれど、視界には何も捕らえることはできない。
何だろうと、ぼんやりと同じ辺りを見つめていると、すぐにソレは再び舞い降りてきた。
ヒラリ、と……風に舞いながらゆれ落ちてきたそれは、白に近い桃色の──「桜色」の、小さな花びらだった。
それを認めた瞬間、ユーリルの脳裏が一気にクリアになる。
そうだ──思い出した。
これは、「桜」だ。
春になると、満開になるという木。花びらだけで埋め尽くされた、キレイな──けれど、背筋が震えるほど儚い色を宿す桜の木。
怖いほどキレイなその花の下で、「花見」をしようと言うことになって、みんなで一緒に来たはずだ。
ひらり、ひらり、とゆっくりと舞い落ちる花びら。
そのさまがまた怖いくらいにキレイで、ゾッとした。
「────────。」
そうだ、みんなで一緒に花見をした。
桜の木の下で見上げた桜のあまりの美しさに──あまりの怖さに、背筋が凍りそうになって、眩暈すら覚えた。
それでも、みんなと一緒に木の下に座って、笑って酒を飲み交わしていたのだ。
……寝ちゃってたのかな、僕?
あの桜の下で寝てしまったから、僕は、あんな夢を見たのかな?
視線をまた上に戻す。
それとともに、パラリ、と聞きなれない音が聞こえた。
その音が何なのか理解できずに、ユーリルは眉を顰めて、自分のすぐ目の前にあるものを睨みつける。
羽根みたいなものだと思っていたものが、何なのか──その時、初めて気づいた。
「────…………クリフト?」
小さく、名を呼んだ。
中央の板のような部分には、本の題名が入っている──そう、本の背表紙だ。
さらに、その両端についていた羽根だと思っていたのは、本の表紙と裏表紙。
表紙にも、背表紙に入っているのと同じ題名が入っている。
その題名を見た瞬間、こんな本を読むのはクリフト以外にありえないと、ユーリルはそう思った。
自分の真上の視界を塞いでいる形になっている本を、呆然と見上げる。
宗教学。
この間、サントハイムの自室に行ったときに、読みかけだった本を持ってきたと言っていた「ソレ」だ。
最近ずっと宿の部屋でも読んでいた覚えがあるソレは、最初の頃と正反対のページ数になっている。もう今夜辺り読み終えることは間違いないだろう。
ペラリ。
また小さな音がして──それがページをめくる音だと、ユーリルはすぐに理解できた。
それと同時に、真剣な顔で本を見下ろしているクリフトの顔がアリアリと思い浮かんで、ユーリルはかすかに微笑を浮かべる。
その頬が、少し強張った気がして──ユーリルは、小さく吐息を零し、グルリと体を横にひねった。
今度は視界に本以外の光景が見えた。
先ほど花びらを見たのと同じ光景──透き通るような空色と、眼下に広がる町並み。
あの町並が、自分たちが昨日到着した宿場町なのは確かだろう。
自分たちが花見の場所に選んだのは、宿場町を見下ろせる丘の上にある桜だった。
三本ほど並んで咲いていたソレの下で、なんだかんだでドンちゃん騒ぎになって。
「………………。」
ごろり、と再び寝返りを打った。
もう一度視界に本が見える。
本しか見えない。
宗教学。
本の上に広がる桜色の木も、その本を持っているだろう持ち主の顔も見えない。
なんだかつまらなくて、ユーリルは手を上に伸ばして、その本の背をなぞろうとした。
その瞬間。
パタン。
不意に、本が閉じた。
アレ、と瞬いた目を開いた瞬間、飛び込んできたのは、空の代わりに薄紅色の天井と──満開の微笑み。
「起きてたんですか、ユーリル?」
柔らかな微笑みを向けられて、ユーリルも小さく笑い返す。
「本、読まなくてもいいのか?」
その本を取り除こうとしていた手を戻しながら尋ねると、クリフトはゆるくかぶりを振ってユーリルを見下ろす。
「退屈しのぎをしていただけですから。
ご気分はどうですか?」
「──覚め方はあんまり良くなかったけど。」
軽く肩を竦めるように答えて、ユーリルはそのままゴロリと横を向いた。
懐くように、スリ、と頬を擦らせると、クリフトの体がビクンと震えたのが頬ごしにわかった。
チラリ、と片目だけで見上げると、居心地悪そうに唇をゆがめているのが見える。
「枕が気持ちイイから、もう一眠りしてもいいかなー、って思ってるところ。」
意地悪く口元に笑みを浮かべて見上げて見せると、クリフトは一瞬目を細めて──パチン、と軽くユーリルの額を叩いた。
「起きたのなら、さっさと降りてください。──脚、しびれるんですから。」
憮然としたクリフトの言葉に、小さく笑いながら、ユーリルは腕を彼の腰に回して、ギュ、とわざとらしくしがみ付いた。
「ヤ。」
「ユーリル。」
眉を顰めるクリフトに、だって、とユーリルは続けた。
「なんだか、人肌が恋しいんだよ。」
スリ、と、もう一度頬を摺り寄せて、甘えるように呟く。
今度は、クリフトは体を震わせることもなく、無言でユーリルのその仕草を受け入れた。
そして、小さく溜息を零したかと思うと、本を脇に置いて──ポン、とユーリルの頭の上に手を置いた。
「クリフト?」
しがみ付いたまま、チラリ、と視線を上げると、
「お酒を飲むと、あなたは絡み上戸になりますよね。」
サラリ、と指をユーリルの髪に絡めた。
その指先が心地よくて、ユーリルはウトリ、と目を緩ませる。
「僕、酒を飲んで寝ちゃってたわけ?」
みんなと花見だと宴会をしていたのは記憶している。
けれど、酒を飲んで、マーニャが踊りながら歌い出して、トルネコが腹踊りをしだして──その後の記憶が無かった。
「いえ──。」
クリフトは苦笑をにじませる。
「ミネアさんが、お酒に酔ってラリホーマを唱えたんです。」
「………………あぁ……そりゃ、記憶もないよな。」
きっと、強烈な眠気に襲われてしまって、後はそのままグッスリ寝込んでしまったのだろう。
「ライアンさんが、ユーリルを別の場所に移した方がいいでしょうとおっしゃってくださったので、コチラへ運んできたんですよ。あのままあの場所に寝かせていると、マーニャさんにナニをされるかわかりませんでしたしね。」
サラリ、と髪を撫でるクリフトの手に心地よさを覚えながら、ユーリルはこのまま寝てしまいそうな気配を振り切りながら、クリフトに笑いかけた。
「悪かったな、クリフト。ずっとこうしててくれたんだ?」
まだみんなが花見をしているのなら、ソッチへ移動しようか、と。
名残惜しく思いながら、両手を地面について起き上がろうとする。
けれど、ほかならないクリフトによって、額を抑え込まれるようにしてグイ、と膝の上に頭を戻された。
ぽすん、と軽い音を立てて膝の上に頭を落としたユーリルは、アレ、と目を瞬いた。
静かに微笑みながら見下ろしてくるクリフトの顔と、その更に上に見渡せる桜色の花。
儚いまでの白さを強く残した桜色の花に、一瞬眩暈を覚えた。
儚くて、弱弱しくて、どこか痛い。
なんだかその色に吸い込まれてしまいそうで、怖くてユーリルは強く目を閉じた。
そのユーリルの髪を、ただひたすら優しく撫でるクリフトの手が心地よくて──そろり、と再び目を開いた。
「花見はしてます。」
また再び開いたユーリルの空色の瞳に、ニッコリと微笑みかけて、クリフトは、ほら、と自分の耳元に手を当てた。
「聞こえてくるでしょう? 少し離れたところに居ますよ、皆さん。」
それを見て、ユーリルも真似るように耳を澄ませてみた。
そうすると、先ほどまで聞こえなかったのが不思議なくらい、はっきりとした笑い声が聞こえた。
「あれは、マーニャの笑い声だな……。」
一際高く聞こえる甲高い声は、確かに聞き覚えのある女性のものだ。
きっと、ライアンの親切によってココに隔離されなかったら、自分は今ごろ、寝ているのをいいことに、マーニャによって散々遊ばれたに違いない──もちろん、ラリホーマを掛けるくらい酔ったミネアや、酒の入ったアリーナまで絡んでくるのは間違いがなかった。
「けど、もうしばらく……ここでゆっくり休みましょう。」
戻ったらライアンにお礼を言おうと、そう思っていたユーリルに、静かにクリフトは笑ってみせた。
「え──いいのか?」
見上げてくるユーリルの不思議そうな顔を見下ろし、コクリ、とクリフトは頷いた。
「お酒の席に付き合うのは、少しくらいがちょうどいいですから。
私としては、もうしばらく抜けていれらる方が嬉しいです。」
言いながら、彼はユーリルの髪を撫でながら、自分をまっすぐに見上げてくる少年に顔を見下ろした。
「──それに……イヤなら、無理に付き合わなくてもいいんですよ?」
「……………………イヤだなんて、なんでそう思うんだよ?」
驚いたように目を見開いて聞くと、クリフトは眉を寄せてみせた。
「桜、あんまり嬉しそうに見上げてはなかったでしょう?
お嫌いなのかな、と思って。」
少し遠慮がちに言われた台詞に、ますます驚いて──それと同じくらい、嬉しさがこみ上げてきて、ユーリルは口元を緩めて笑った。
誰も気づくことはないと思っていた。
誰にも気づかれないようにしていたつもりだった。
でも。
「──────………………嫌いなわけじゃないよ?
嫌いだったら、花見なんてしない。」
ほかの誰でもないクリフトは、きちんと気づいていてくれた。
「そうですか?」
それでも、不審そうに尋ねてくるクリフトに頷いて、ユーリルは一度目を閉じた。
「うん。──ただ。」
一瞬、脳裏をよぎるのは、夢の中──遠く遠く揺れていくシンシアの姿。
咲き乱れる花畑と、シンシアの頬に止まるテントウムシ。
ツキン、と痛みを覚えて、知らず手を伸ばした先。
無意識に伸ばした手の平を、ソ、と握り締めてくれる暖かさがあった。
ハッ、と、驚いたように目を開けると、心配そうな色を宿したクリフトが、ソ、とユーリルの手を握り締めてくれていた。
唐突に右手が熱くなって──握られた手の平が熱さを覚えて、ユーリルは泣きそうな思いを必死に堪えて、小さく笑った。
「ちょっと、怖かっただけ。」
泣きそうな顔だと……クリフトは握りとめたユーリルの手の平を持ち上げ、自分の頬に当てた。
どこか冷たくなった指先に、ぬくもりを与えるように頬を寄せる。
ひんやりと冷たい爪先に、軽く眉を寄せるクリフトに、ユーリルはホロリと唇を解くようにして笑った。
「だから、もう少し……僕も、こうして居たい。」
手の平に当てられた頬と、手の甲に当てられた手の平と。
その両方が暖かくて──染み入るように暖かくて。
「いい? クリフト?」
甘えているとわかっていて、そう尋ねた。
そして、もちろん。
「どうぞ、いくらでも──あなたが、それで少しでも楽になれるというのなら。」
クリフトが、それを断ることは、ない。
安堵に頬を緩ませて、ユーリルはクリフトに笑いかけた。
たわいない話をした。
その間、ずっとクリフトは髪を撫でてくれていた。
その優しさが──なんだか心地よくて。
気づいたら、空から降る桜色の花びらが、気にならなくなっていた。
ヒラリ、ヒラリと舞う桜色の花びらを見上げて──あぁ、キレイだな、って。
そう、口にしていた。
新しい春の色は、毎年、咲き続けていくものなのだと──初めて、気づいた。
ほのぼのですよね☆
なんだか消化不良になってしまいましたが、書きたかったシーンは書いたのでおしまいです〜(笑)。
いいんです、膝枕に萌えていただけですからっ!(笑)
勇クリはマイナーカップリングすぎるので、あんまり仲間が居ないので、つい自分で見たいシチュエーションは書いてしまいますね〜。
書きたいネタはあるのですが、なんだかつい二の足を踏んでしまってます(笑)。