*真エンディングねたばれ
昔、むかしのお話です。
そのお城には、とても美しいお姫様が居ました。
ぬば玉の漆黒の髪、輝くサファイヤの瞳。
心優しく歌声の美しいそのお姫様を、国民のみならず、近隣諸国の皆がその美しさ、すばらしさを称えました。
ところが、そのお姫様の美しさを憎んだ魔導師が居ました。
魔導師はどうにかしてそのお姫様を、不幸のどん底に落とす方法はないだろうかと、色々と調べました。
ただ殺してしまうだけでは、あっけなさすぎる。
国を丸ごと滅ぼすには、魔導師の力がちょっと足りない。
もっともっと残忍で、お姫様の美しい心がゆがんでしまうような──そんな手ひどい呪いは無いのだろうか。
そんなある日のことです。
魔導師は、お姫様がいるお城に、とんでもない物が封印されているのを知るのでした。
その封印された物の名前は、「魔王の杖」。
それは、遠い遠い昔、7人の偉大な賢者によって封印されたと言われる魔王の封印を解くために必要な杖だったのです。
魔導師は、これに目をつけました。
この杖を持つ者は、魔王の力を得られると言う話です。
これを手に入れて、この国のせいで魔王が復活したとなれば、きっとお姫様の住む国は、他の国から攻撃を受けて、あっという間に滅んでしまうでしょう。そして美しいお姫様は、自分の無力さを嘆くのです。
なんてすばらしい考えなのだろうと魔導師は思いました。
そこで早速魔導師は、道化師のフリをしてお城に入り込むことにしました。
人柄の良い王様は、城の中に明るい笑い声をくれる道化師の来訪を、心より喜び、お姫様ともども、道化師を迎え入れました。
その夜のことです──、城の中で休んでいた道化師は、城が静かになるのを見計らって、コッソリと与えられた部屋を抜け出しました。
そして、昼間に兵士から聞き出したおいた「宝物庫」に入り込み──、厳重に守られた魔王の杖を、手にしたのです!
みるみるうちに魔導師の中に魔王の力が流れ込んできました。
まずは試しにと、魔導師が杖を一振りすれば、バチバチと空で雷が鳴りました。
それに喜んだ魔導師は、そのまま眠っているだろう美しいお姫様のところに行き、杖を使ってお姫様を醜い化け物に変えてやろうと思いました。
ところが、宝物庫を出ようとした先、異変に気づいたお姫様と王様と、バッタリ正面から出くわしてしまったのです。
魔導師の持っている杖に気づいた王様とお姫様は、魔導師を止めようとしましたが、今の魔王の杖を持っている魔導師にはてんで適いません。
それどころか、魔導師の杖の一振りで──なんということでしょう! お姫様は、それはそれは美しい白い馬に変えられてしまったのです!
「おや、おかしいな。醜い化け物になるはずだったのに。」
言いながら、魔導師が杖をもう一振りすると、今度は王様が、緑色の醜い蛙の化け物になってしまいました!
どうやら魔導師は、まだ上手く杖を使えないようです。
あまりのことに気絶してしまった王様とお姫様を置いて、魔導師はお城の外に出ました。
そしてお城に向かって、とどめとばかりに、魔導師が杖をもう一振りすると……巨大なお城が、見る見るうちに大きな茨によって、包まれてしまいました。
城の中に居る人も、みんな茨に変えられてしまったのです!
──そう、白い馬に変えられてしまったお姫様と、醜い蛙の化け物になってしまった王様以外は、みぃんな。
それに満足した魔導師は、杖の力をもっと使えるような場所を目指して、城を後にしました。
そのまま夜も更け──やがて日が明けました。
宝物庫で倒れていた王様とお姫様は目を覚まします。
けれど、お姫様の口から出るのは、ヒンヒンという馬の鳴き声ばかり。
王様は、かろうじて人間の言葉を喋れましたが、お姫様の瞳に映った顔は、まるで化け物のようでした。
「おおう……姫、姫なのか……? わしの可愛い姫……。」
「ひん……ひひーん……。」
2人はそうやって、自分たちの身に起きたことを確認して落ち込んでいましたが、そうもしていられません。
自分たちがこのような体にさせられということは、あの「道化師」によって、城の人々も何かさせられたに違いないからです。
2人は慌てて立ち上がり──姫はなれない馬の体に四苦八苦しながら、王様になんとか支えられるようにして宝物庫を出ました。
廊下は、真っ暗でした。
「こりゃどうしたことじゃ?」
もう朝になっていてもおかしくはないのに。
そして2人はすぐに気づきます。
このお城が、大きな茨によって、包まれてしまったのだということを。
「な……っ、なんということじゃっ!!」
驚いた王様とお姫様は、再びショックのあまり、その場に佇んでしまいました。
そのままどれくらいの時が過ぎたでしょうか──もしかしたら、ほんの少ししか経過していなかったのかもしれません。
何の物音もしない城の中に、やがて小さく……響くような音が聞こえました。
耳を澄ますと、その音は姫と王様を呼んでいる声でした。
2人はその声に、覚えがありました。
そうです──この城の兵士でり、姫の幼馴染でもある、それはそれは優秀な若き近衛兵の声でした。
王様が声に答えると、近衛兵はすぐにやってきました。
そして彼は、驚きのあまり動きを止めてしまったのです。
彼は、普段は冷静沈着で、勇猛果敢な近衛兵でした。常に姫と王様の身を守り、上司からも一目置かれている存在です。
その彼にしても、目の前の光景が信じられませんでした。
王様の声で話すカエルの化け物と、その傍に立つ見たこともないくらい美しい白い馬。
驚いて足を止める近衛兵に、王様は今までのことを必至で話しました。
お姫様もそれに頷くように叫びますが、残念ながらお姫様の口から出るのはヒンヒンという馬の鳴き声ばかり。
普通ならば、いくら近衛兵でも信じられなかったかもしれません。
けれど、城は茨に包まれ、宝物庫は開かれています。
目の前のカエルの化け物の声は王様の声で、美しい白い馬は、お姫様と同じ綺麗な黒い鬣を持ち、サファイヤの瞳をしています。
2人の目を見て、近衛兵の若者は、2人が王様とお姫様であることを確信しました。
サラサラサラ──と、そこまで一度も止まることも知らないように滑らせていた筆が、ふとそこで動きを止めた。
白い紙に広がる「ぷろっと」を見定めるようにグルーノは目を細めると、
「──……む、ダメじゃな……ココはやはり、もう少し、わしを活躍させるべきか……。
おお! そうじゃ、ここでトーポがイニスのポケットから飛び出して、馬に抱きつくというのはどうじゃろうっ! そして全身全霊を持って、二人が王と姫じゃと、イニスに訴えるのじゃっ!
──む、それはいい。そうしよう。」
あっという間に話の先を定めると、グルーノはさらに筆を滑らせて、先程書いた数行に横線を引いた。
そして、イザッ、と、トーポの活躍に筆を入れようとした瞬間。
コンコン。
軽くノックをする音が聞こえた。
ハッ、とグルーノは我に返ると、慌ててシュポンとその姿を変えた。
先程まで老人が座っていた椅子の上には、チョコン、と黒い鬣が愛らしい、ちょっぴり変わったネズミが立っていた。
そのまま椅子から飛び降りて、シュタタタタと扉の前まで走り──……はた、とトーポは気づいた。
このままでは、扉が開かれないということに!
「グルーノさん?」
声をかけられて、再びコンコンと扉を叩かれ、トーポは慌ててシュポンと再び元の姿に戻った。
「いやいや、うっかりいつもの癖で、トーポになってしまったわい……。」
もう正体はバレてるんだった。
いや、それどころか、竜の試練を全てクリアした孫のたっての願いで、グルーノは事情を知っている人間の前でだけは、元の竜神族の姿に戻ってもいいと言う許しまで頂いていたのである。
そう零しながら、コリコリと頬を掻きながら扉を開くと、そこには、先程書いていた「近衛兵」の青年が立っていた。
後ろからは、ひょっこりと顔を覗かせる黒い髪の美少女──これも先程書いていた「お姫さま」だ。
「おお、こりゃミーティア姫。このようなむさくるしい場所へわざわざ……。」
慌てて扉を大きく開くと、青年の後ろに続いた少女は、クスクスと楽しげに笑う。
「まぁ、グルーノさんったら。」
その愛らしい笑顔を見るためならば、命を惜しまずに炎の中へ突撃するわが孫──というのも、いいかもしれん。
ふとグルーノは、そんな創作意欲に駆られたが、残念ながら筆は机の上に置いたまま。今すぐにこの綺麗な笑顔を書き留められるわけではなかった。
「グルーノさん、こんな夜遅くにすみません。」
ミーティアは、胸の前で両手を組み合わせ、改めてグルーノを見ると、ほんの少し視線を落として──かすかに頬を赤らめてから、そ、と隣のイニスを見上げた。
イニスはミーティアの視線を受けて、コクリと頷くと──こちらも同じように照れた様子ではにかむように笑う。
そんな2人の仕草を見るだけで、グルーノは2人が何を報告しに来たのか悟った。
それと同時に、ようやくか……と思わないでもない。
「実は──その……私とイニスの結婚式なのですが…………。」
そこまで言って、さらに顔を赤くして俯くミーティアに、イニスもつられるように赤くなる。
そんな若々しい2人を見上げながら、グルーノは甘い微笑みを張り付かせる。
──手塩にかけて育てた娘は結局、相思相愛ではあったものの、未婚の母という形でイニスを生ませてしまったことになる。
そのことを後悔していないのなら、グルーノは今ここには居ない。
深く後悔し、そしてその自分たちのワガママに巻き込まれる形になった孫を思うからこそ、グルーノはこうして、イニスの傍にいることを選んだのだ。
「いつ話してくれるかと、ずっと待っておったが──そうか、ようやく決まったか。」
サザンビークの王子との「波乱万丈の結婚式」が終わり、2人がトロデーンに帰ってきたのが、もう一年以上も前の話になる。
様々な尾ひれはひれを生んだあの結婚式の顛末も、ようやく世間の口に上ることが無くなり始め──なにがあったのか、サザンビークとの国交も、無事に回復した。
もちろん、「なにがあったのか」は、グルーノも良く知っている。
何せその一部始終を、イニスのポケットの中から見ていたからである。
「あ、はい。とは言っても、まだ式自体は先のことになるんですけど……、とりあえずは、婚約、ということで。」
はんなりと、柔らかに姫と微笑みあうイニスに、グルーノは呆れたような溜息を、こっそりと飲み込んだ。
チャゴス王子との結婚式を壊しておいて、そこで姫と神に誓いキスまでしておいて──どう考えてもあれは、結婚式だったと思わないでもない──、あの波乱万丈の結婚式の後、トロデーンに帰ってきて正式な結婚式をするかと思いきや。
一年後に婚約!
まだ、婚約でしかない!
「今日、正式に日取りが決まりまして──、婚約披露の席には、ぜひ、グルーノさんにも……トーポとしてではなく、グルーノさんとして参加していただきたいと思っているんです。」
「なんと──それは…………。」
さて、竜神王がなんというやらと、顎に手を当てて考える風の仕草を見せるグルーノは──まさか、こういう話になるとは思っても居なかった。
正直を言えば、せっかくの孫の結婚式くらいは、この姿で堂々と彼の隣に在りたいと、思わないでもなかったが──そこは百歩譲って、タキシードのポケットにトーポとして潜り込むことを是が非にでも許してもらおうと思っていた次第だった。
それで我慢しようと──別の方面からは、全然我慢じゃないから、というツッコミを貰ったが──、思っていたというのに。
「竜神王には、さきほど会いに行ってきて、許しを貰ってきました。」
「! さ、さきほどっ!?」
驚いたように目を見開くグルーノに、ミーティアはイタズラが成功したような小さな笑みを浮かべると、はい、と大きく頷いた。
「夜遅くにご迷惑かと思ったのですが、どうしても最初に、グルーノさんにお教えしたくて。」
ね、とイニスと顔を見合わせて笑いあうミーティアに、グルーノはさらに驚いたように目を見張った。
そして、もう10年以上もの間、ずっと見守ってきたイニスとミーティアの2人を、ただマジマジと見つめた。
本当に小さくて、森の中で迷って、繋いだ手をしっかりと握り合いながら泣いていた二人が、当時と同じようにしっかりと手を重ねるように指先を繋ぎながら、間近で幸せそうに微笑みあう。
この光景を、多分ずっと、見たかったのだと思った。
身分だとか、種族だとか──そんなものに左右されずに、ただ幸せそうに微笑みあう……「ふたり」が。
「そうか──……そうか。」
呟いて、頷いて──グルーノは、かすかに目の端ににじみ出た涙をごまかすように激しく目を瞬きさせた。
それから、重なり合った2人の手に自分の手を重ねると、
「ありがとう──……。」
ただ、それだけを口にした。
なぜかそれ以上言う言葉は、何も浮かばなくて、視線を落とす。
自分のしわくちゃの手の下、幾多もの戦いを制してきた戦士の手と、世界中を駆け抜けた手が、しっかりと重ねあっている。
あれほどの辛い戦いと、悲しい戦いの中、2人のキズナは深まることはあれど、離れていくことは決してなかった。
掌を見つめて──グルーノは、キュ、と目を閉じた後、小さく息を吸った。
そうして、改めてイニスを見上げると、
「ほれ、イニス。もう夜も遅いぞ。姫さまをお部屋にお送りしてきなさい。」
送り狼にならんようにの、と、茶目っ気を入れてつけくわえると、2人はやっぱり揃って顔を真っ赤に染めた。
「グルーノさんっ。」
声を荒げるイニスたちの手を離し、さっさと行くようにと促すと、2人を部屋から閉め出した。
二間続きの部屋の向こう側で、イニスとミーティアがなにやらボソボソと話しているのが聞こえたが、そこで耳をそばだてていてはヤボというものだろう。
グルーノは素直にきびすを返し、隣の部屋から2人が出て行くのを待たずに、先程まで向かっていた机に歩み寄った。
まだ「祖父」と呼んでくれないイニスに、ちょっぴり物悲しさを覚えてはいるが──人の時間に換算しても、一緒に居られる時間は、本当にたくさんあるのだ。
そのうち──そう、もしかしたら、ひ孫が生まれる頃には、「おじいちゃん」と呼んでくれるかもしれない。
「よし……このグルーノ、その婚約発表までに、この盛大なお姫様と近衛兵の純愛紙芝居を、完成させてみえるぞいっ!」
グイ、と腕まくりをして、グルーノは机の上に放り出されていた筆を手に取ると、盛大な『暗黒神とのたたかい』の紙芝居を書き上げるために、やる気を出すのであった。
こうしてしばらくの間、トーポの姿が見えなかったりとか。
イニスに与えられた二間続きの一室のランプが、いつまでもともり続けていたりとか。
──そんな光景が見受けられたとか、どうとか。
全然お題の消化になってないような気のするストーリーですが。
まったく気にしません(←少しはしなさい)。
これが始めての主姫v(笑)
こんな風に、グルーノさんの紙芝居視点で「カリスマ」と「お色気」も書こうかな〜、とか思ってたのですが、あんまりにもあんまりかと思ったので(笑)。
↓こんな感じ。
*
「って、おいおい、グルーノさん。こりゃいくらなんでもないだろう?
なんだよ、この俺の顔はっ!」
「主人公よりも脇役が格好良かったらいかんじゃろう。ちょびっと細工させてもらったぞい。」
「ぅわ〜、グルーノさんって、絵が上手ですね。ヤンガスとトロデ王なんて、そっくりっ!」
「じゃろう、じゃろう。」
「ゼシカはこれでいいんでがすか?」
「は? 何がよ?」
「アハハハハハハ!! ゼシカ、お前、胸が異様に強調されてるぞ〜っ!!」
「って、ちょっと、グルーノさん〜っ!!」
*
素直にやめてみました(笑)。
私の個人的なミーティア設定↓
────泉にて
「ミーティア、お馬さんになって、初めて知ったことがあるんです。」
「……。」
「初めて知ったも何も、馬になること自体、ありえないことでげすからね。」
「なにもかもが初めてで──本当に大変だったでしょうに……。」
「あのね、イニス。ミーティアは本当に久し振りに、イニスの顔を見下ろせたの。
イニスがミーティアの前に跪いているのではなくて、本当にそのまま、歩いているとイニスの顔が上から見えるの。
それって、なんだかとても新鮮でした。」
「……──あ、いえ、でもそれでしたら、今までだって……。」
「乗馬や馬車とは違います。それに、かけっこをしても、今はミーティアが一番早いでしょう? ふふ……これは、お馬さんになったミーティアだけの特権ですね。」
「……姫…………。」
「おぉう……ミーティア──わしの可愛いミーティア。なんて不憫なんじゃ……おうおう。」
「っていうか……天然だよな、ミーティア姫。」
「あと、それと、お馬さんになったら、色々な動物とお話できるのかと思ったんですけど、そうでもなかったわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、トーポちゃんともお話できないし、お父様とも出来ないの。
やっぱり、お馬さんはお馬さん同士でしか、お話できないのね。
ミーティア、がっくりです。トーポちゃんとたくさんお話できると思っていたのに。」
「姫──……トーポもきっと、たくさん悲しがっていると思いますよ。」
「そう──思ってくれていると、いいんですけど。」
超天然希望☆(笑)
天然でちょっぴり毒もってたら最高です。めちゃ好みタイプ!(笑)
チャゴス王子に初対面時、「まぁ、そのおなかの中には、何か隠してますの? ネコちゃん?」とか素直に驚嘆して言ってほしいものです(殴)。