寝姿拝見レポート




 

キーファ「おっしゃーっ! 今日も気分爽快元気だなっ、と。」
マリベル「うるさい。」
キーファ「おう、マリベル。遅かったじゃねぇか。」
マリベル「レディを真夜中に呼び付けて、始めに言う台詞がそれ? あんたの女の扱いも、たかが知れてるわね。
 だから、長続きしないのよ。」
キーファ「お前に言われたくないね。」
マリベル「こんなところで話し込んでるのも冗談じゃないわね。朝になったら、あたしとあんたが付き合ってるだなんて噂が流れるなんて、冗談じゃないわよ、本当。
 さっさと用件を言いなさいよ。」
キーファ「俺だってなぁ、最近は”散歩”に出ることは許されたとは言え、夜中に抜け出すのは、あいかわらず大変なんだぜ?」
マリベル「それはこっちも同じよ。ただでさえでも、パパもママも、あたしが冒険に出るのを面白く思ってないのに、夜中に、こんな目立つ場所であんたと会ってたなんて知れたら、次の冒険もお預けだわ。」
キーファ「あー、そうだなー。お前も一応、女だもんなー。」
マリベル「ええ、そうね。仮とはいえ、キーファが王子様って名前ついてるのと同じね。」
キーファ「それは俺もそう思う。やっぱ、俺、王子って柄じゃねぇもんなー。」
マリベル「ないわね。あたし、冒険に出れて良かったと思うの。」
キーファ「なんだよ、突然?」
マリベル「王子様っていうのが、”こういうの”だけじゃないって、知ったからってことよ。」
キーファ「あん?」
マリベル「わからないんだったらそれでいいわ。で? 本題は何? わざわざあたしを呼び出したのは、愛の告白でもするつもり?」
キーファ「俺が? お前に?」
マリベル「そう。冒険の中、あたしの可愛らしさに気付いたとか――なわけないか。あんたの腐った目じゃ、あたしの魅力なんてわかんないでしょうしね。」
キーファ「へいへい。外見だけは可愛い、可愛い。」
マリベル「失礼な男ね、その言い方っ。で?」
キーファ「ん?」
マリベル「で、一体何の用事かって聞いてるのよ。あんた、アルスに似てボケになったんじゃないのっ!?」
キーファ「ああ、そうそう。今日はだなっ! 寝姿の日なんだっ!!」
マリベル「………………………………はぁ?」
キーファ「見えるか、あれ。」
マリベル「カメラじゃないの? ――って、まさか、寝姿拝見レポートっ!? ちょっと、冗談じゃないわよっ! 乙女の肌にはね、睡眠不足は天敵なのよっ!? 何を好き好んで、冒険と冒険の合間の、きっちょうなお休みに、こんなことしなきゃいけないわけっ!?
 付き合ってられないっ! 相棒には、ガボでもアルスでも呼べばっ!? あんた、アルスとツーカーの仲でしょうがっ!」
キーファ「だってしょうがねぇじゃん。今日のターゲット、アルスなんだから、さ。」
マリベル「…………あんなの見て、何の特があるの?」
キーファ「えー? 結構面白そうだと思うけどなぁ。
 俺さ、いっつもアルスよりも先に寝ちまうし、起きるのは俺のが早いけど、じっくり寝顔なんて見たことないしさー。」
マリベル「だから、見てどうすんのよ、そんなもの。どうせ、ボケーって、幸せそうな顔で寝てんのよ。
 はい、お終い。これで終わり。じゃーね。」
キーファ「ってちょっと待てよ、マリベルっ! まだ何にも始まってないだろうがっ!」
マリベル「あたしの中では終わってるの。
 そもそも今更じゃない。アルスとあたしはねぇ、一緒にお風呂だって入ったことあるのよっ!? 毎日毎日、別の部屋取れって言ってるのに、宿でも同じ部屋っ! 一体何が面白くて、アルスの寝顔なんてみたいのよっ!?」
キーファ「寝顔じゃないだろ、寝姿ってのはさ。」
マリベル「あんたの寝顔も、相当面白くなかったけど……って、何よ、寝顔じゃないって?」
キーファ「そりゃもちろん、寝顔じゃなくって、寝姿拝見レポートてのはなぁ!
 寝ている奴の寝言を聞いたり、無理矢理起こして、寝ぼけてる所へ、普段では答えてくれないような事を質問して回答してもらうっ! これが醍醐味なんだよっ!」
マリベル「……………………………………(目から鱗)。あんた、さっすが色物王子ね。」
キーファ「お褒めに預かり、光栄です。姫君?」
マリベル「鳥頭の馬鹿王子かと思ってたけど、たまには面白い発言も出来るじゃないの。
 ふふん、面白そうだから、乗ってあげてもいいわよ。」
キーファ「素直じゃねぇなぁ。
 ま、いいけどさ。じゃ、アルスの家に行くぜ、マリベルっ!」
マリベル「言っとくけど、あたしに変なことしたら、許さないからねっ! メラじゃすまないんだからっ!」
キーファ「しないって、んなの。俺は、どっかの武器屋の息子みたいに、趣味が悪くないんだぜ。」
マリベル「ああーら、どこの人の事を言ってるのかしら? そういう台詞は、女にモテてから言ってくださる? 悪餓鬼王子?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

キーファ「しっかし、フィッシュベルってさぁ、家に鍵かける風習ないのな。」
マリベル「ちょっと、一まとめにしないでくれる? ちゃんと私の家は掛けてるわよ。
 そこらの家と違って、盗られると困るものだってあるんだから。」
キーファ「アルスの家だってそうだろうが。」
マリベル「どこに?」
キーファ「俺らが冒険で得てきた奴、ぜーんぶアルスが持ってるだろ。」
マリベル「……っ! そうね、その事を失念してたわ。私ともあろう者がっ! 鍵付けさせないと……っ!」
キーファ「とはいうものの、この家で一番怖いのは、盗人よりもホンダラさんなんだろうけどな。さすがに人の家に盗みには入ってないみたいだけど、ここは、ホンダラさんにとって、他人の家じゃないしなー。」
マリベル「大丈夫でしょ。あの人に、物の価値が分かるとは思えないし、何より、アルスがいないときは、マーレさんがいるじゃない? あの二人、天敵なのよ。」
キーファ「へぇ、そりゃ知らなかった。でもま、念には念を入れて、金庫でも設置しとくか? ほら、ホンダラさんさー、すごい聖水だって持ってたし、案外物の価値が分かる人なのかも?」
マリベル「まっさかぁ。偶然でしょ、偶然。それに、すごい聖水も何も、あれ、虹の入り江の水だって聞いたわよ。」
キーファ「なんだ、そんなオチか。――って、あそこの水って、凄いんだなぁ。俺、良く飲んでるぜ、あの水。」
マリベル「これで王子っていうんだから、王子の定義が間違ってるとしか思えないわ……うちの国。」
キーファ「っとと、マーレさんが寝てる。静かにしないとな。」
マリベル「ちょっと、キーファ。あんた先に縄はしご上ってよね。」
キーファ「え? 俺?」
マリベル「あたりまえでしょっ!」
キーファ「いっつも、レディファーストとかうるさいくせに……よっこいしょ。」
マリベル「じじくさい掛け声かけないでしょ――ったく、あたしは、今日、スカートの下、履いてないんだから……っ。それくらい別れってんのよ、このトンマ……っ。」
キーファ「あー? なんか言ったか?」
マリベル「なんにも?」
キーファ「んー……暗いなぁ。」
マリベル「当たり前でしょ。……それにしても、アルスのくせに、生意気な部屋よねっ!」
キーファ「どこが?」
マリベル「部屋が広いわ。」
キーファ「それだけじゃねぇか。ま、でも広いのは良いぜ。」
マリベル「はいはい。さぁってと。あー、寝てる寝てる。」
キーファ「あいかわらず暑そうな寝方だなぁ。」
マリベル「なんでこう、頭から布団を被るかなぁ? 見てるこっちが汗掻きそうだわ。」
アルス「…………すぅすぅ…………。」
キーファ「起きるまでこのままだしな、こいつ。寝相がいいんだな。」
マリベル「それに、あんたと違って、寝息も穏やかよね。いびきもかかないし。」
キーファ「え? 俺、いびきかいてるか?」
マリベル「そうね、朝の鶏の声には負けるけどね。」
キーファ「じゃ、これからは鶏にも負けないように頑張ってみるか。」
マリベル「するな。さて、布団を剥ぐわよ。」
キーファ「まぁ、待て待て。まずは、カメラを布団の中に潜り込ませることからやってみよーっ!」
マリベル「はぁぁ?」
キーファ「寝姿っていうのはな、普通の状態でやってもつまらないんだよ。」
マリベル「勝手にしてちょうだい。」
キーファ「よし、さっそく足から潜るぞっ! 行くぞ、カメラ! ついてこいっ!」
マリベル「最低な男ね、あんたって。」
キーファ「うーん。やっぱアルスのベッドはこう、固いよなぁ。」
マリベル「そりゃそうでしょ。自分の所のベッドと一緒にしないでちょうだい。」
キーファ「ちょっと音でるなぁ……んー………………んん?」
マリベル「ちょっとキーファ。変な場所で止まらないでよ。いかがわしいことしてるって疑うわよ。」
キーファ「これ…………?」
マリベル「今日の見出しはこれね。グランエスタード王子、キーファ・グランの隠された真実っ! 幼なじみの親友へのほのかな恋心っ! ――あら、なかなか良い感じね。」
キーファ「…………つぅぅっ!!!」
マリベル「何っ!? いかがわしいことして、蹴られたのっ!? 噛まれたのっ!!?(なんだかとっても嬉しそう)」
キーファ「つっ、痛っ! 痛いってっ!!」
 がばりっ、と起き上がったシーツから、キーファの身体が飛び出す。
マリベル「ちょっと、うるさいわよっ! アルスが起きたら……っ。」
キーファ「なんか噛み付かれたぞっ!? ――って……っ。」
マリベル「が、ガボーっ!!!!? ちょっと、なんでガボがアルスのベッドの中にいるのよっ!!?」
ガボ「…………がう…………? んー?? あれぇぇ、なんだ、キーファかー。おいら、てっきり骨付き肉かと思ったぞ。」
キーファ「骨付き……って、お前…………。」
マリベル「そりゃさぞかしまずい肉だったでしょうね。」
ガボ「おう。しょっぱかったぞ。」
キーファ「……………………で、なんでお前、アルスのベッドに入ってるんだ?」
マリベル「そうよそうよ。あんた、きこりのおじさんところに行ったんじゃなかったの?」
ガボ「? あれ? そういやなんでおいら、ここに居るんだ? 下で、アルスの母ちゃんの料理を食ってたはずなのに。」
キーファ「ははーん。食った後、寝たんだな。」
マリベル「まさにそのとおりね。で、アルスが、ここまで運んで、一緒に寝たと。」
キーファ「さすがの俺でも分かる推理だな。」
マリベル「いつものことでしょ。いつもの。
 ったく、まぁいいわよ。ガボ、ちょっとおとなしくしてなさいね。」
ガボ「ふあぁぁぁぁ。まだ眠いぞ。」
キーファ「おう、終わったらどれだけでも寝てていいから、とりあえず床の上に居てくれ。」
ガボ「………………(何か下に敷くものを捜してみる。ちょうど良いところに布が置いてあったので、それを引き寄せる)。おう、それじゃ、寝てるぞ。」
マリベル「そうね、そうしてくれ……って、あんたっ! 何の上に寝てるのっ!!!!!!」
キーファ「おわっ! マリベルっ。声が大きいっ!」
ガボ「うわっ! 何すんだよ、マリベルっ!」
マリベル「その布……それがなんだかしってるの? ええ、この野生児っ!!」
ガボ「え? これか? ぼろきれ?」
マリベル「っっ、これは、あたしの、新しい防具でしょうがーっ!!!! 絹のドレスよ、絹のドレスっ!!!!!」
キーファ「あ? 暗くて良く分かんねぇけど――あ、ほんとだな。マリベルの防具だ。」
ガボ「すまねぇ、マリベル……。」
マリベル「それで済むかーっ!!!!!!」
キーファ「マリベルっ! 声が大きいってばっ!!」
アルス「…………んん……ん……………………? ……………………はぅ? ――――何、起きてんの、みんな?」
ガボ「お、アルス。」
マリベル「やっと起きたの、この愚図っ!」
キーファ「そうじゃなくってっ!」
アルス「何かあったの?」
ガボ「おう、マリベルが怒ってるぞ。」
マリベル「誰のせいだと思ってんのーっ!!」
キーファ「だぁぁっ! 騒がしくすると、マーレさんが起きるだろうがっ!!」
アルス「かあさん…………? あれ? ここ、宿じゃない……。」
マリベル「ぼけぼけね、あんたっ!」
アルス「――――――僕の部屋? ……なんで、みんな、ここにいるの?」
マリベル「それこそまさに、愚問というやつねっ!」
キーファ「………………もう、好きにしてくれ。」
ガボ「なぁなぁ、アルスっ! おいら、腹減ったぞっ!」
マリベル「そういえば、あたしもお腹空いたわね……アルス、なんかないの?」
キーファ「太るぞ。」
マリベル「ああーら、そういうことをいうのは、このお口かしらぁ?」
キーファ「ひひゃいひひゃ……っ!」
アルス「(寝ぼけ眼をこすりつつ)下に、母さんが作ったつくだにが残ってるから、食べる?」
キーファ「喰うっ!」
ガボ「おうっ!!」
マリベル「二人ともっ! うるさいと、マーレさんが起きるでしょっ!」
キーファ「………………………………。」
ガボ「あ、すまねぇ。」
アルス「…………それじゃ、みんなで、砂浜で食べようか? ね?」
マリベル「なんでわざわざ――といいたいとこだけど、しょうがないわよね。
 じゃ、先に行って待ってるから。」
アルス「うん。」
キーファ「結局夜食会になるのな。」
アルス「…………うん?」
キーファ「なんでもねぇよ。ほら、行こうぜ。」
アルス「うん。」



マリベル「アルスーっ! はーやーくーっ!!」
ガボ「うぉぉーんっ!」
アルス「だから、母さん起きるってば…………(^_^;)。」