最後に補給のために立ち寄った村を出て、南に3日くらい馬車を走らせたときのことだった。
 手綱を握っていたマーニャが、不意に小さく声をあげたかと思うと、馬車がガクンと大きく揺れて──転倒した。
 すわ、モンスターの来襲かと、馬車が転倒する直前、身軽に飛び出したアリーナに続き、ユーリルも外に飛び出す。
 転倒した馬車の幌から転がり落ちるようにトルネコとライアンが飛び出てきて、ブライとミネアをかばった形で、クリフトが地面に背中を打ちつけるのが見えた。
 その彼の腕に引き寄せられたブライもミネアも、地面をゴロゴロと転がりながら、すぐさま体勢を整えて立ち上がる。
 誰もが、馬車の転倒をモンスターの襲撃だと、疑ってもいなかった。
 にも関わらず。
「あいたたた……んもーっ! 誰よ、馬車道のど真ん中に石なんて積み上げたのはっ!!」
 とっさに手綱を放し、御者席から放り出される形になったマーニャは、地面で打ちつけた背中を摩りながら、暢気に文句を言っていた。
 見事に怪我一つなく地面に降り立つことに成功したアリーナとユーリルが、鋭く辺りを見回すが──能天気なマーニャの態度が表すように、辺りにモンスターらしい陰は見当たらなかった。
 転倒した馬車を引いていたパトリシアが、興奮して高らかに鳴くのに、慌ててトルネコとライアンが飛びついて止めている。
 見た限り、何か起きているのだと聞けば、パトリシアがいなないている、としか答えられないような状況であった。
「────……マーニャ? 何が起きたの?」
 不思議そうに首を傾げるアリーナに、は? と、マーニャは長い髪を後ろに流しながら、首を傾げる。
「何がって、だから、石が積み上げられてたのよ。」
 ほら、と彼女が指し示す先──馬車がガクンと揺れた辺りに、小さな石がたくさん散らばっているのが見えた。
 ユーリルは軽く眉を寄せ、その近くに立ち寄る。
「モンスターの悪戯か何か……か?」
 馬車の通る大きな道に、このようなものを積み上げるなど、大事故に繋がるほどの危なさだ。
 しかも、ちょうど馬車の轍の跡がついている上に積み上げられている辺り、悪質だ。
「なんでこんな悪戯をするのかしら!」
 眉を顰めて、アリーナもユーリルの隣に立った。
 慌てて気づいてパトリシアの手綱を引いたのだろうが、間に合わず、思いっきり車輪で踏んでしまった、というところだろう。
「大丈夫ですか、皆さん、お怪我は?」
 頭を打ったらしいクリフトが、額に手を当てながら、ゆっくりと起き上がる。
 そんなクリフトに、ユーリルは顔を顰めて見せた。
「クリフトの方こそ、血が出てるよ? ホイミしようか?」
 額に当てた手の甲から、血が滴っている。
 すりむいただけのようだが、血が溢れてきて手首に滴るほどの深さだ。
「……あぁ、これくらいなら平気です。それよりも、馬車とパトリシアはどうですか?」
 すぐに手の平を下にして、滴る血が袖の中に入らないようにしながら、クリフトは眉を寄せて、ようやく落ち着いたらしいパトリシアの隣を立つライアンとトルネコに視線を移す。
 体中についた土埃を落としながら立ち上がり、マーニャが忌々しげに舌打ちする。
「ったく、迷惑だったらありゃしないわ! ミネア、おじいちゃん、大丈夫?」
「私は平気よ、姉さん。」
「わしも何とかのう。姫様は──さすがじゃの。」
 お互いの身の安全を確認し終えて、クリフトはそこでようやく自分の怪我を癒しはじめる。
 ユーリルはそんな彼を不満そうに見つめたが、すぐに表情を改めて、馬車を見ているライアンの元へと駆け寄った。
 渋い顔をして車輪止めを弄っているライアンを見た瞬間、予感は覚えていた。
「──壊れてる?」
 だから、そう短く聞いた。
 そして、それに返ってきたのは、想像通りの──小さな頷きだった。
「あぁ、走れることは走れるとは思うが──修理に出せる町が見つかるまで、全員、歩きになりそうだ。」
「それも、重い荷物を持って、ですね。」
 向こう側の車輪の様子を確認したトルネコの台詞に、ええええーっ、と、マーニャが盛大に声を零す。
「ソレって、馬車が重みに耐えられないってことですか?」
 怪我を癒した手をそのままに、厳しい顔つきで尋ねるクリフトに、あぁ、とライアンは頷き、仕方がないと、溜息を零した。
「次の町まで、後、半日。
 ──歩くか。」
 ソレしか方法はないか、と。
 どこかうんざりした気持ちを隠せずに呟くユーリルの台詞に、もちろん、愚痴は零せど、反対できるはずも無い。
 馬車が横転して、誰も大きな怪我をしていなかったことだけでも感謝すべきことなのだ。
「──……年寄りをこき使うのぉ、まったく。」
「大丈夫よ、じい! 歩き疲れたら、私が背負ってあげるから!」
「姫様──嬉しいお言葉じゃが……、姫様にそのような事はさせられません。」
 疲れたように溜息を零して、ブライはカツンと杖をついた。
「ま、久し振りに健康的に歩くかっ! 踊り子の命は、足だもんね、足!」
「それ以上太くなっても知らないから……。」
「なんですって、ミネアっ!?」
──馬車の中でも、馬車の外でも、騒がしいのはいつもと変わらず。
 唯一の救いは、今日の天気はとてもいい、ということくらい、であった。
 しかも、ぽかぽか日和の春の日差しが心地よい昼下がりである。
「これで冬とか夏だったら、たまんないって所だけど。」
 とりあえず、まだ運はいい方なのかな、と。
 そう空を見上げながら呟くユーリルに、ライアンは小さく笑って同意した。
「いや、まったく──この分なら、すぐに町にも着きましょう。」
 久し振りに地面を踏みしめて歩く旅は、8人のいつもの騒々しさも相まって、ちょっとしたハイキングのような雰囲気を醸し出していた。












花満開


















 町に着いて、馬車を修理に出したところ、磨耗した部品の交換などもあわせて、修理に一週間は掛かるといわれてしまった。
 それでも、超特急仕上げ、なのだそうだ。
 そこで突然降って沸いた、「一週間の休日」。
 特に何かすることもない一同は、とりあえず1日目は、宿で寝て過ごすことにした。
 そして、明けて2日目。
「よし! 今日は町の中の散策に、レッツゴーっ!!」
「こんな小さな宿場町で、一体何を見るのよ?」
 そもそも、見て回るような要素がある町なんて、世界各地に数えるほどしかないのだ。
 観光地ですらない小さな宿場町には、体を休め、食材などを補給する以外の用途は見当たらない。
 元気良くそう宣言したアリーナに、マーニャは怠惰にイスに凭れながら、呆れたように尋ねた。
 そんな彼女に、アリーナはその質問を待っていたとばかりに、ニッコリと明るく笑った。
「もちろん、花見の下見っ!!」
 嬉しそうに全開にほころんだ微笑に、イスの背に反り返って顎を天井向けて、サカサマにアリーナを見つめていたマーニャは、そのままポカンと口を大きく開いた。
「────…………はなみぃ?」
 何を言うのだろうと、眉を寄せる彼女に、うん、とアリーナはウキウキした顔で頷いた。
「昨日ね、クリフトと一緒に宿のロビーでトランプしてたら、宿屋のおじさんが教えてくれたの♪
 町外れの公園は、今が桜の盛りなんですって!」
 昨日といえば、久し振りに歩きつかれた脚で辿り着いたため、ダラダラと自堕落に過ごしたいたときのことだ。
 そういえば、アリーナとユーリルとクリフトだけは、教会に行くだの、昼食を食べに行くだの、なんだかんだと部屋に居なかったような覚えがある。
「あんた、トランプなんてしてたの?」
「そう、楽しかったわよ。
 ね、それよりも、マーニャ! みんなで明日、花見に行きましょうよ!」
 無邪気に笑うお姫様に、あー……、と力なく呟いてから、マーニャは額に手を当てて、それからスックリと上半身を起こした。
 寝すぎでイマイチすっきりしない頭をコンコンと軽く拳で叩きながら、花見、ねぇ……と口の中で小さく呟く。
 その言葉を口にした瞬間、脳裏に浮かんだのは咲き乱れる花の中、空から降り注ぐ健康的なお日様。その下で広げるピクニックシートとお弁当。
「────…………うーん……たまにはいいわねぇ。」
 そういう、健康的な「お花見」も。
「これで酒でもあれば、最高! なんだけどね。」
 さすがにソレは、クリフトやミネアが許してくれないだろうと、アハハハ、とマーニャは笑いながら、イスを大きく軋ませて、ヒョイ、と床に降り立った。
 そんなマーニャに、キョトンとアリーナは目を瞬いて首を傾げた。
「え、お酒はダメなの? 甘酒くらいなら用意してくれると思うわよ?」
「甘酒なんて、酒に入らないじゃないのー──って、なんでピクニックに甘酒が出てくるのよ?」
 眉を寄せて問い返すマーニャに、ますますアリーナは首を傾げる。
「は? ピクニック??」
 確かに、近くの公園に行くというだけなら、「ピクニック」といえなくもない。
 そうは思うけれど、今回のメインは「花を見る」ことなのだから、ピクニックではないと思う。
 不思議そうなアリーナに、マーニャは、まさかこのお姫様はピクニックも知らないのかと、呆れた心地でイスの背もたれに片腕を乗せて、彼女の顔を見上げた。
「────…………公園に花畑があるから、ソコで花を見ながらご飯を食べるんでしょう、だから?」
 しかし、マーニャのその声に驚いたのはアリーナの方だった。
「違うわよ?」
「違う?」
 どういうことだと眉を寄せるマーニャに、アリーナは大きく頷くと、
「花見って言うのはね、木に咲いた花の下で、お花を見ながら、お弁当を食べたり、飲んだり、ゲームしたりするのよ。」
 そう自慢げに言って笑った。
「──とは言っても、私も宿のおじさんに聞いただけだから、詳しくは知らないんだけど、でも、楽しそうでしょ?」
 ウキウキとした笑顔でそう笑うアリーナに、マーニャは顎に手を当てて、なるほど、と頷いて見せた。
 つまり、花の下で「宴会」をするわけだ。
 それを「花見」と言うとは知らなかったが、キレイに咲いた花の下で「バーベキュー」や「宴会」をするのは、モンバーバラに居たころにも何度かしたことがあるから、知っている。
 それなら、私の性にも合っているわと、マーニャは明るい笑顔を浮かべた。
「私もサントハイムに居るころに『お花見』はしたことがあったけど、そんな楽しそうなものではなかったわ。」
「お堅苦しいお城なら、そーなんでしょーね。」
 マーニャは背を反らして、大きく伸びをしてから、ヒョイ、と長い脚を床に下ろした。
 そして、アリーナを見やると、ニッコリとあでやかに笑んで見せた。
「その花見の下見、一緒に行くわよ、もちろん。」















「────…………それで、花見は明日じゃなかったんですか?」
 呆れたように尋ねるクリフトの目の前には、キレイに並べられたいくつもの箱。
 その箱のどの中にも、彩りもキレイないい匂いのする食べ物が詰まっている。
 隙間を埋めていくように、クリフトは左手に持った皿に盛られた食べ物を、右手の菜箸で摘み上げては、彩りよく詰め込んでいく。
 見る見るうちに、眼の前に置かれた重箱の中身は敷き詰められていき、後は蓋を待つだけの状態になる。
 そのお重が並べられているテーブルに頬杖を着いて座りながら、アリーナはニコニコとクリフトを見上げる。
「そのつもりだったんだけど、一緒に下見に行ったら、場所が取れちゃったの。今、ブライとマーニャが丘の上で待ってるわ。」
「そうそう。で、トルネコさんとライアンさんはお酒とジュースを買出しに行ってるんだ。」
 同じようにテーブルに積まれていく美味しそうなお重を見つめていたユーリルも、ニッコリと相好を崩して笑った。
 二人揃って満面の微笑を浮かべて言われては、もともと今日やるつもりで下見に行ったのではないか、と思えてしまうほどだった。
「ちょうど丘の上でね、町が見下ろせる最高の場所なんだけど、桜が3本しか生えていないから、団体客一組さまだけに開放するのよ。」
「そうそう、で、ちょうど行ったら、その抽選会みたいなのやってて、それを見事にマーニャが射止めてくれてっ!」
 興奮した具合に、アリーナとユーリルが説明してくれる内容に、頭に三角巾を被って「おつまみ」の作成に精を出していたミネアが、心底嫌そうな顔で振り返った。
「姉さんが射止めたっ!? 一体ナニをしたの、姉さんはっ!?」
 ミネアの心を理解するほど人の心の機微に敏感なわけではないユーリルは、ミネアの悲鳴にアッサリと頷いて、アリーナに同意を求める。
「すごかったよな?」
「うん、すごかったわ。踊りであっと言う間なんだもの。」
 そして、アリーナもニッコリと笑って同意をしめす。
 彼女が口にした内容に、クリフトが眉を寄せる。
「……踊りで、あっと言う間? 抽選会じゃなかったんですか?」
 その、いぶかしげなクリフトの台詞に、ミネアはパッチンと音を立てて額を叩いた。
「姉さんったら……またやったのね……っ。」
 手の平の下で、苦痛に歪むミネアの顔をチラリと見てしまったら、「やったって……ナニが具体的に起きたのですか」なんてコトを聞くに聞けず、クリフトは開きかけていた口を無理矢理閉ざした。
 ミネアは、かすかに頬を紅潮させた後──はぁ、と重く溜息を零して、ゆるくかぶりを振った。
「まぁ、いいわ──過ぎたことだもの……まったく、あんな恥ずかしい踊りを人様の前で見せるなんて……っ。」
「でも、そのおかげで、あの場所の占領権をゲットできたんだし、感謝しようぜ、ミネア♪」
 上機嫌でユーリルは重箱の中身に手を伸ばそうとして──ペチリ、とクリフトの手に手の甲を叩かれる。
「──その占領権ですけど、何時までなんですか? 急がないといけませんよね?」
 ようやく湯気が治まった重箱を積みかさねて蓋をして行きながら、クリフトが尋ねる。
「私たちの時間は、お昼過ぎから夕方までだから、まだ時間はあるわよ。」
 アリーナもウキウキさを隠せない状態で、クリフトに明るく答えてくれた。
「すっごくいい時間ですね。」
 驚いたように目を瞬くクリフトに、うん、とユーリルは頷いた。
「やっぱ、マーニャの踊りはすごいってことだよな。」
 無邪気な──ある意味無邪気すぎる笑顔でそう自慢げに呟いてくれたユーリルに、実の妹であるミネアとしては、なんとも複雑な心境だった。
 確かに姉を褒められれば嬉しい。彼女の踊りが天下一品の素晴らしいものだと言うことも知っている──何せ、一時期はそれで食べていたほどだ。
「…………………………ソレは認めるわ。」
 しかし、マーニャの場合、「踊り」に対するプロ意識をしっかりと持っているくせに、自分の趣味の領域でもソレをたやすく使ってしまうという、やや困った一面もあった。
 そのおかげで、助かったことも一度や二度ではないが。
 だからと言って。
「──確かに姉さんの踊りはプロ級だけど、色仕掛けにしか見えないような踊りは、やっぱり妹としては、見て楽しいものじゃないわ……っ。」
 今まで一体、その「色仕掛けの踊り」で、どれほどのイタイケな商売人たちを陥落させてきたのか。
 ──お金がないときとか、寝る場所がないときとか、そういう風に困ったときには、本当に助かったけれども。
 それをしているときの、この身内としての居たたまれない気持ちと、恥ずかしさを、姉は何度言ってもわかってはくれないのだ。
「そう? 別にアレはアレですごいから、いいと思うけどな、僕は。」
 クリフトが手際よくお重の準備を進めていくのを、嬉しそうに眺めながらユーリルはミネアを見上げた。
 ミネアは、そんなユーリルになんともいえない顔をして──ただ苦い笑みを刻んで何も言わなかった。
「マーニャ、とってもキレイだったわよ。あっと言う間に、ライバルたちは降参してたもの。
 でも、桜の下を奪い合う戦いが、本当に力勝負だったら、私の出番だったのに……。」
 少しだけ悔しそうな色を込めて呟くアリーナに、ソレはソレで問題があると、クリフトは小さく吐息を零した。
 やっぱり──花見の下見に行くという彼女達に、自分も着いていけば良かった。
 ミネアもクリフトも、同時に同じコトを思ったのだけど──もうすでに最高の花見の場所をゲットしてしまったというのなら、遅すぎる後悔なのは、間違いなかった。













 町のはずれにある公園は、見事なほど桜色に染まっていた。
 ユーリル、アリーナ、クリフト、ミネアの4人は、それぞれ両手にたっぷり入ったお重やタッパーを抱えながら、その鮮やかなまでの薄紅の花の中を、公園の向こうにある丘に向けて歩いていく。
 時折思い出したかのように、ヒラリ、ヒラリ──と落ちてくる桜の花びらの下で、すでに酔っ払い集団と化した人々が、底抜けに明るい声をあげていた。
 顔を真っ赤にした酔っ払いは、そこかしこの酒場で見かける酔っ払いと、何か違うようには見えない。
 違うことといえば、気持ち良さそうに青空の下で──正しくは眩暈がしそうなほどきれいな桜の下で、タガが外れている、ということくらいだ。
「────…………お酒の匂いがする。」
 両手に持った重箱の入った風呂敷を持ち直しながら、ゲンナリとクリフトは呟く。
 見事なまでの桜の花だというのに、その中に強く酒の匂いが混じっている。
 その匂いだけでクラクラ来ているクリフトに比べ、残り三人は丘に近づくにつれ、ドンドンと足取りが軽やかになっていっているようであった。
「キレイね……本当に。」
 目を輝かせて、ミネアは桜色の花びらを見上げる。
 ヒラリ、と舞ってきた柔らかな花びらが、自分の持つタッパーの上に舞い降りてきたのを認めて、ユルリ……と唇をほころばせた。
 その隣を、ピョンピョンと跳ねるようにアリーナが軽やかに駆けていく。
「ココまで見回して桜色ってワケじゃないけれど、丘の上の桜もすっごくキレイよ!
 小さな丘で、三本しか桜は咲いてないんだけど、その三本ともがすっごく大きいの! それを占領できるのよ。」
 すごいわよね、と──花も恥らうような愛らしい笑顔を浮かべて、そう笑って見せたアリーナが、重い重箱を両手に持ったまま、グルリ、と一回転をした。
 ヒラリ、と纏っていたマントが翻り、彼女はそのまま、ピョン、とまた丘に向けて駆け出していった。
「アリーナ様っ、走られると危ないですよっ!?」
 慌ててクリフトが声を掛けるが、すでに前へ走り去っていこうとしていたアリーナは、ブンブンと重箱を持った手を振って、
「大丈夫ーっ! ほら、早く、早く!」
 明るく笑い声を上げながら、再び前へと走り出す。
 そんな彼女に、ミネアは小さく笑い声をあげてみせた。
「──もう、アリーナったら、アレじゃ、お弁当が偏っちゃうじゃないの。」
「危ないって言っているのに……。」
 もう、と、小さく呟いて、クリフトは先へと走っていくアリーナを追いかけようとして──ふ、と、違和感に脚を止めた。
 何かがいつもと違う。
 そんな気がして、視線をグルリとずらした先──ゆっくりとミネアに合わせて歩きながら、なぜか地面を睨みながら歩くユーリルの姿に気づいた。
「……ユーリル?」
 いつもなら。
 明るくはしゃぐアリーナに負けじと、飛び出していくはずの少年が、重箱を重そうに両腕から垂らして歩いていた。
「どうしました、まさか重箱が重い……なんてことはないですよね?」
 いぶかしげに眉を寄せて尋ねたクリフトに、ユーリルはハッとしたように視線を上げて──それから、目をパチパチと瞬いた。
「──────…………は、ナニが?」
「何って……だから、今日は珍しくはしゃいでませんから、どうかしたのかな、って。」
 不思議そうに聞いてくるユーリルに、それはコッチが聞きたい台詞だと、クリフトが眉を寄せて尋ねると、あぁ、とユーリルは小さく笑った。
「はしゃいだら、せっかくのお弁当が歪んじゃうじゃん。だから、丁寧に運んでるんだよ。」
 ほら、と重箱を掲げ上げかけて──それが斜めになってしまって、慌ててユーリルはその重箱を元の高さに戻した。
 そして、再び慎重に脚を運び始める。
「だから、目的地に着くまで僕に話し掛けるのは禁止だからな。」
 チラリ、と横目でクリフトを睨みつけたかと思うと、再びユーリルはじっくりと地面を睨みつけるようにして歩き出した。
 その、慎重といえば慎重な重い足取りに、
「──……ユーリルったら…………。」
 ミネアが、どこか楽しそうな雰囲気を込めた声で、くすくすと笑った。
 そして顔をあげれば、
「クリフト、ユーリル、ミネアーっ! 早く、早くっ!!」
 公園の向こう側の出口にたって、アリーナが手を振って笑っていた。
 その向こう──桜色の景色が晴れた先が、今日のお花見の場所。

















NEXT DATE?




…………すみません、花見まで行きませんでした(笑)。
NEXT DATE? になっているのは、宴会が見たい〜v って言う方が一人でもいらっしゃったら、続く……かもしれない、というためです。
最低でもマーニャには踊ってもらわないといけないし(笑)、アリーナには酔っ払って岩を割ってもらわないといけないし(笑)、ミネアには脱いでもらわないといけない(大笑)、ユーリルには寝てもらわなくちゃいけないし、クリフトには後片付けをしてもらって、ブライさんには桜を○○○て頂かなくてはなりません。
…………なんかすごいギャグになりそうだなぁ……続きは。


何はともあれ、桜にはまだ早いですが……スプリングハズカム! です♪