バレンタインに良くある光景〜解放軍編
1主人公:スイ=マクドール
スイとシーナの場合
「あ、シーナ。」
「あれ? スイ? 何やってんだよ、お前?」
「見てわかんない?」
「見た限りでは、お前が床に直接座って、何かを探してるようだけど……。」
「あ、そう見える? ならそれでいいや。」
「それでいいって……あのな……。」
「? なんだよ、シーナ。狭いんだから、隣に座るなよな。誰かに構って欲しいなら、向うにルックを待機させてあるから、あっちへ行けよ。」
「構って欲しいってわけじゃないんだけどな……ほら、俺も今日は忙しいし。」
「そ、じゃーね。」
「………………スイ、お前、こう、俺を会話をしようという気はないのか?」
「今忙しいの、僕も。」
「何か探してるなら、手伝うぜ?」
「探してない探してない。」
「……………………ん? あれ、ここから下が見えるんだな……。」
「いいから、向う行けってば。」
「あ、グレミオさん発見。」
「……………………………………………………。」
「それに、前にいるのって、カミーユだよなぁ……。」
「……………………………………………………。」
「親しそうだよな、二人とも。」
「……………………………………………………。」
「今日って、そう言えば、バレンタインだったよなぁ。……恋人同士の祭典。」
「シーナ? (にっこり)」
「…………………………なんか、スイさん、怖いんですけど?」
「余計な事を言ったという自覚はあるわけか……。──ところでシーナ? 今日、君は忙しいんだっけ?」
「あ、あー。そうそう、さぁて、そろそろ行かないと、俺を待ってるかわいこちゃんが……っ!」
がしっ!
「そう、それは残念だ。……今日は、女の子と一緒にいれないね。」
「………………………………す、すいません。あ、あのぉ、良かったら俺、あの二人の邪魔しに行ってこようか?」
「それはいいよ。すでにパーンに頼んであるから。」
「…………(こ、こいつ……っ!)。じゃ、俺は一体これから何を……?」
「………………今日一日、僕に付き合うってのは?」
「──────グレミオさんはいいのかよ?」
「……知らないっ!」
「………………………………。」
「ほらっ! 何やってるんだよっ! 行くよっ、シーナ!!」
「はいはい。……まぁ、可愛いというか、なんというか……なぁ……(溜め息)。」
ちらりと見やった先で、カミーユの思惑も知らず、今日作ったチョコレートの話を嬉々としてしているグレミオがいた。
ルックとスイの場合
「………………………………。スイ…………………………。」
「何?」
「さっきから、ずっとそこにいられると、邪魔なんだけど?」
「別に何もしてないから、いいだろ。ルックだっていつも言ってるじゃないか。黙ってれば、君も邪魔じゃないのにねって。」
「時と場合によるよ。──人を盾にしないでくれるかい?」
「なんで?」
「なんでって…………っていうか、とっくにばれてると思うよ……君が隠れてるの。」
「そんなの分かってるよっ! いちいち口にして言わなくてもいいよ。」
「じゃ、さっさとどっか行ってくれよ。いつまでも君にいられると、視線が集中してうっとおしいんだけど?」
「それくらい、いつものことだろ。我慢しろよ。」
「わがままなガキだね、君も。」
「お互い様だろ。僕の場合、ルックよりも性格悪くないだけ、可愛げあると思うけど?」
「──あーいえば、こう言う。」
「そーいえば、こう返って来る。まったくもって、きみといると退屈しないよ、って?」
「………………………………一度、仮死体験してみたいの?(にっこり)」
「あ、今ならお買い得v ソウルイーター一周の旅なんてどう? そう、たとえば、そこでバレリアからチョコレート貰って鼻の下伸ばしてるぐれ澪といっしょにvv ……とか?」
「目が笑ってないよ、目が。ったく、そんなに気になるなら、最初からくっついてればいいだろ。そしたら誰もグレミオさんに近づきゃしないよ。」
「それじゃ意味がないのっ!! 僕が側にいて、グレミオがチョコを受け取るはずないだろっ! 僕がいない間に、どれくらい受け取るかに意味があるんだからっ!」
「………………ああ、そう……それで、いつになったら僕の後ろから出てってくれるわけ?」
「………………グレミオが、こっちに来るまで。」
「──────(絶対、グレミオさん、睨んでるスイが怖くてこっちにこれないんだと思うんだけど)………………なんていうか、君ってほんと…………かわいいよねぇ…………。」
「ちょっと、今の毒があるんだけど?」
「当たり前だろ……あるように言ってるんだから。」
フリックとスイの場合
だだだだだだだだっ!!!!
「……? あれ、スイ、どうした……。」
ばさっ!
「ん……。」
がしっ!
「……だ……?????」
しーん………………
「………………おーい、スイー?」
「うるさい、話しかけるな。」
「掛けるなって……突然走ってきて、俺のマントの中に隠れられたら、そりゃ普通は話しかけるだろうが。」
「グレミオは話しかけないもん。」
「一緒にするなよ──無茶言うな、お前も。」
「いいから話しかけないでっ! 今、だいっじなところなんだからっ!」
「大事? 大事って、俺の背中でマントに包まって、抱き着いてることが大事なのか???」
「いいから黙ってろってばっ! ったく、しつこいと、今夜あたりキンバリーとジーンの部屋に、裸で放りこむよっ!?」
「────……すいません、お願いですから、何があったのか教えて下さい。」
「? なんだよ、シーナあたりなら、役得役得って言うのに、フリックは違うの?」
「ちょっと……あの二人はなぁ…………。」
「そぉーんなこと言っていいのかなぁ……とと、フリックで遊んでる暇はないんだ。」
「遊んでるってお前……。……スイ、バンダナが歪んでるぞ。」
「あ、そー。」
「………………(溜息)ったく、リーダーなんだから、もう少しまともな格好くらいしろよな。」
「──別に直してくれなくてもいいのに。」
「そう思うなら、俺の目の前からさっさと立ち去ってくれよ。気になるだろ。」
「ははーん、惚れたな?」
「──────────も、好きにしてくれ。」
(遠目からその様子を眺めて)
「…………どうも、面白くないですねぇ……。」
「?? グレミオさん? どうかしたんですか?」
「あ、いえいえ……どこまでお話しましたっけ? あ、そうそう、チョコレートを固めるときの注意でしたね。」
「はいっ! えへへ、すいません。わざわざ教えてもらっちゃってv やっぱり、味見してもらって良かったぁv」
「……そう、そうですね、さすがにあれをヒックス君にあげるのは──可哀想ですしね…………。」
ビクトールの場合
「バレンタインってのはいいもんだなっ! チョコを貰うのはちょいとごめんだが、アルコール入りってのがいいっ!」
「とーか言いながら、チョコレートの中に入ってるアルコールしか飲んでないの? さいってー。」
「ん? おう、スイじゃねぇか。どうしたんだ? 朝からずっとグレミオを追いかけてたんじゃねぇのかよ?(にやり)」
「追いかけてたよ。──フリックに構ってる間に、逃げられたけどさ。」
「さすがにあいつも、お前の殺気を感じたんだろうさ。……お前も食うか?」
「いらない。部屋に帰ったら、山積になってるから。」
「あ、そ。──で、お前なんでここに来たんだよ? グレミオ探しに行かねぇのか? このまま、行事にのっとって、どっかの女に攫われちまってもしらねぇぞ?」
「いいよ、そしたらこっちも浮気してやるから。」
「……お前、目が据わってる……。」
「あーあ、こんなことなら、グレミオのチョコレート、用意しておけば良かった。」
「なんだよ、作ってないのかぁ? そりゃダメだ。」
「ほんと、ビクトールの頭と顔ほどにダメだよね……。」
「そりゃどういう意味だ?」
「全滅ってこと。」
「……………………おまえなぁぁぁっ!!」
「頭に血をのぼらせてばっかりいると、脳の細胞が死ぬのが早くなるよ。」
「それがどうしたっ!?」
「ボケ進行も早くなるってことかな。」
「何っ!?」
「なぁーんて話、聞いたこともないけどね♪」
「…………スイ…………。」
「何ー?」
「さてはお前、俺相手に憂さ晴らししに来ただろうっ!!?」
「あっれぇぇぇ? 今ごろわかったの? ビクトールってば、おっくれってる♪」
クライブの場合
「………………………………。」
「ちっ、グレミオめっ。僕から逃げてるなっ!」
「………………………………?」
「ったく、逃げるなら逃げるで、行き先くらい言ってくれないと、僕も探しようがないじゃないかっ!」
「……………………?????」
「あー、やれやれ……。」
「………………………………スイ………………。」
「ん? 何、クライブ?」
「何でお前、愚痴を言いながら、当然のように俺の隣に座る?」
「決まってるじゃない。食堂に来たら、ちょーどクライブがいて、ちょーどご飯食べてたから。」
「つまり、腹が減っていたから、俺のものを横取りしようと言う算段か?」
「分かってるじゃない。ん、このコロッケ美味しいっ! アントニオ、腕をあげたねぇ。」
「しみじみしないで、さっさと向こうに行け(溜息)。」
「なんだよ、それ。クライブは僕が側にいて迷惑なの?」
「迷惑というか、邪魔というか、俺のものを食うなというか。」
「ははーん、さては、今日僕からチョコレートを貰ってないのを密かに気にしてるだろ。」
「いらん。」
「まぁそう言わずに。何が欲しいの? 今なら板チョコからアーモンドボールまで揃ってるよ。」
「思いっきり義理しかないだろうが。」
「そんなことないよっ! ちゃんと、100ポッチチョコもあるもんっ!」
「だから、そういうのを…………。……どっちにしてもチョコレートはいらん。」
「いらないの? ふぅーん……せっかくこの機会に実験ができると──……。」
「…………………………。」
「……? あれ、クライブ、もういいの、ご飯?」
「お前の隣で平気で食べていられるほど、俺も豪胆じゃないからな。」
「はぁ? 何それ? 別にこのご飯には何も入れないよ? だって今日は、チョコ無制限に配って実験爆発って言う日なのに。」
「意味不明に周りを怖がらせるようなことを言うな──ま、そのうち分かるだろう。」
「??????」
「…………影から覗きこんでいる──お前の親衛隊の恐ろしさというか……あっちで密かに覗いている、グレミオの視線の痛さとか──分かってくれると、嬉しいんだけどな(ぼそ)。」
ペシュメルガの場合
「やっほー、ペシュ。元気?」
「……………………………………。」
「あ、そう。この季節は寒い? そりゃそうでしょ。何こんなところにいるのさ。たまには中に入ったら? 入りたくないなら、焚き火でもしてやろうか? ちょっと待っててね、今クラウリーでも呼んで来て、最後の炎でもぶちかましてもらうから。」
がしっ!
「? え? 寒くないから、もういい? そうなの? …………じゃ、こうしててあげるね。これなら暖かいかも。」
「……………………………………。」
「うーん、鎧が冷たくて、僕の体温が伝わっているようには思えない。──たまにはこの鎧を脱いでやろうって気にはならないのかね?」
「……………………無茶を言うな。」
「そうかな? 僕の前でくらいはいいと思うけど──あ、それじゃ、ちょっとかがんでよ。ほら。」
「………………。」
「うわっ! 頬も冷たいよ。──ほんと、たまには中においでよ。誰かさんと言い、誰かさんと言い、ほんと、うちの軍って外にいるの好きな人が多いよね。」
「…………お前の手は、暖かいな…………。」
「うん? そりゃそうだよ。だって今、追いかけっこの途中だもん。」
「…………?」
「ちょっと小休止なんだ。──ね、ペシュ? 中で一緒にホットココアでも飲まない?」
「甘い物は……。」
「いいじゃない。今日くらい。あったまると思うよ? ──僕からの、バレンタインチョコってことで、さ?」
「バレンタイン──俺には、縁遠い言葉だ。」
「そうでもないよ? 僕は君にあげたいと思うもの。」
「……お前は、本当に変わっている。」
「だから、君は僕についてこようと思ったんでしょ? さ、ほら! 軍主命令。──ほんとはこう言うときに使いたくはないけどね。」
「……分かった。」
「…………ほんと、ぼっちゃんって、ところ構わずナンパしてる気がするんですよねぇ……。」
「あんた、そのストーカーみたいなの、いい加減止めたら?」
「おや、ひどいですね、クレオさん。さっきまでストーカーだったのは、ぼっちゃんの方だったんですよ?」
ヤム・クーとスイの場合
「あれ、どうしたんすか、こんなところに?」
「……ちっ、どこ行きやがった、あのやろう。」
「…………誰かお探しですか、スイさん?」
「あん? あれ、ヤム・クーじゃない。何してんの、こんな船着場で。」
「それはこっちの台詞っすよ。スイさんこそ何してるんすか?」
「ああ、探し人探し人。途中で巻かれちゃったみたいでさ。……ったく、こう言うときの逃げ足は速い。」
「……(苦笑)まぁ、ここで立ち話もなんですから、中にどうです?」
「あ、いいよ、別に。すぐにどっか探しに行くし。そういうヤム・クーこそ、小屋の中に入ったらどう? 別に釣りしてるわけでもないだろうに、なぁにこんなとこに突っ立ってんの?」
「……それで、物は相談なんすけど──一緒に中に入ってくれませんかね?」
「ふえ? ──あ、そっか、今日はバレンタインだったっけ。……中、貸しきり?」
「されると困るんすけど、まぁ、追い出されたというか。」
「大変だねぇ、ヤムヤムも。」
「……ヤムヤム???」
「よし、分かったっ! じゃ、僕が今からタイ・ホーとキンバリーに、一発いってやるよっ!」
「いや、別に兄貴が悪いわけでもないんすけど……。」
「今から僕とヤム・クーが貸しきるから、ヤルなら船の上でヤッテキナってねっ!」
「違うでしょうがっ!!!」
「え? 違うの? じゃ、一体どうしろと?」
「そういう、思いっきり的外れなのに、真剣なところが、俺も結構好きですよ、スイさん。」
「何疲れた顔して、口説き文句口にしてるのか、僕にはさっぱりわからない。うーん、まぁいいや。ちょっとそこで待ってて。
今キンバリーとタイ・ホーを説得してくるから。」
「って、スイさん!? ──何を説得してくれるのやら……。」
「ヤム・クーさん……。」
「うわぁっ!? って、あれ? グレミオさんじゃないすか。何頭からゴミ袋なんてかぶって……。」
「しぃっ! 私は今、ゴミ袋なんです。」
「は、はぁ……?」
「それよりもっ! 今っ! ぼっちゃんの事を口説いてましたねっ!?」
「え? ええっ!? してませんよっ!?」
「してたじゃないですかっ! いいですか、いくら今日がバレンタインだからって、この機に応じてぼっちゃんにちょっかいかけないでくださいねっ!!」
「そんなの、怖くてできないっすよ、普通は……。」
タイ・ホーとスイの場合
「やほー、相棒を小屋から追い出して、女房と畳は新しいほうがいいとかほざいてるタイ・ホーいる?」
「………………なんでぇっ! その唐突に現れて、変な言いぐさはっ!」
「……なぁんだ、服着てるじゃないか。」
「はぁ? なんのことだ……って、もしかして表でヤムのヤツにあったのか?」
「ヤムヤム? うん、会ったよ。そこで一人さびしくこの世をはかなんでた。さっき、ちょっと後ろ背中押してきたから、そろそろ冷たいトラン湖に浮いてる頃だと思われる。」
「止めろよ、馬鹿っ!」
「って、ちょっとあんたっ!? タイ・ホーっ! んもうっ! 飛び出してったじゃないか、スイっ!」
「僕としては、すんなりくっつくよりも、障害があったほうが燃えるだろうキンバリーに手を貸してるつもりなんだけど? 何か間違ってた、僕?」
「……ったく、良い根性してるね、あんたも。ところでスイ、あんた朝からずっと見えなかったようだけど、軍師さんが探してたよ。」
「えー……マッシュがぁぁぁぁぁ? まさかマッシュも、自分の分のチョコレートが欲しいとかほざいてないよね? ったく、いい年して情けない。」
「そういうあんたも、何朝からその辺うろうろしてたんだい?」
「……内緒。男にはね、やらなきゃいけないときってのがあるってことだよ。キンバリー?」
「なるほどね。よぉくわかったよ、スイ。それじゃ、あたしも、タイ・ホーを止めに行くかね。あの人のことだから、今ごろ湖に飛び込んでかねないからね。」
「いいじゃない。たまには頭冷やしたほうが。」
「綺麗な顔して、さらりと怖いこと言わないの。」
マッシュとスイの場合
「ハイ・ホー、ハイ・ホー、しっごとが好っきー♪ ハイ・ホ、ハイ・ホ、ハイ・ホ♪」
「そうやって仕事が好きだと歌ってるなら、仕事してください…………。」
「うわぁっ!? マッシュっ!? 何やってんだよ、こんな辺鄙なところでっ!」
「それはこっちの台詞ですよ。墓場でそんな場所違い時期違いの歌を歌ってる暇があるなら、仕事をしてくださいっ!」
「本日はバレンタインにつき、チョコを配るのがお仕事の軍主様です。ほらほら、道具袋もチョコでいっぱい。」
「見せなくてもいいです。──確かに、人付き合いには必要なことかもしれませんが、解放軍軍主としては、書類整理とか、はんこ押しとか、サイン書きとかも、ひっじょうに、重要なことなんですよっ!!」
「しょーがないなぁ、じゃ、今からキンバリー連れてくるから、彼女に偽造作成してもらっておいて。」
「〜〜〜スイッ!」
「今僕は忙しいのっ! 早くグレミオ見つけないといけないんだからっ!」
「……………………グレミオ殿でしたら、先ほど、執務室にお見えでしたよ。あなたをお探しのようでしたけど。」
「そういう見え見えの罠に引っ掛かるようなヤツが軍主やってたら、お前の仕事は大変だね、マッシュ。」
「………………口の減らない、ずるがしこいばかりの軍主様でも同じですよ、スイさま?」
「良かったじゃない? おかげで毎日刺激的で、さ。」
「──バレンタインのプレゼントに頂いた育毛剤……酸性の水を混ぜてましたよね? そういうことをしなくなったら、すばらしく素敵な軍主様とお呼びするんですけど。」
「ああ、あれねー、血行の促進にいいんだよぉ?」
「そういう嘘に騙されるような軍師だと、この軍の未来はないですね。」
「そりゃそうだ。あっはっはっは。で、本当にグレミオ見なかった?」
「………………見てませんよ。どうせ夕飯時になれば、厨房に姿をあらわすのではないですか?」
「それじゃぁ遅いのっ! もう、今ごろカミーユとかセイラとかに押し倒されてどっかのベッドに連れこまれてたら、この砦ごと飲み込んじゃうからねっ!」
「…………今すぐ、見つけて、あなたのお部屋に連れて行くように、兵に命じます。」
「でも、私事で兵を使うわけには行かないよ。」
「(私事で、真の紋章を使おうとしたくせに……)あなたがまじめに仕事をしてくださるのなら、それは十分一大事ですよ。」
「そう? それじゃ、おとなしく部屋で望遠鏡でも眺めながら、待ってようかなぁ?」
「だから、その間、仕事してくださいってば。」
パーンとスイの場合
「ひーまー。」
「…………ぼっちゃん、俺にハンコ押させてないで、ぼっちゃんも仕事してくださいよー。」
「だって、机に向かっても、グレミオの事が右から左から上から下から南南西から西南西から東南東から南南東から、北北東から、北北西から、西北西、東北東と、押し寄せて来るんだよ。」
「難しすぎてよくわかりませんが、そういうときは、シャットダウンするといいですよ。」
「そのために、こうして暇してるんじゃないか。」
「………………だから、署名してくださいって、マッシュ様も言ってたじゃないっすか。」
「やー。」
「………………ま、俺はチョコレートを食えるから、それでいいんですけどね。」
「あ、パーン。それ全部僕宛てに貰ったヤツなんだから、メッセージカードとかはちゃんとのけておいてよ?」
「分かってますって、いつものように、でしょ?」
「そうそう。あと、非常食用に、ベッドの脇にも隠しておこう。こうしておくと、時には暗殺者対策にもなる。」
「チョコレートがですか?」
「そ、いざってときに武器になるんだよ。」
「へぇ……そりゃ初耳ですね。俺も置いておこうかな?」
「使えるなら置いておけば? ──っと、グレミオ遅いなぁ……まだ見つからないのかな?」
「そういや、珍しいですね。──グレミオがバレンタインにぼっちゃんの側にいないの。」
「……………………。」
「毎年毎年、バレンタインは、ぼっちゃんの側にへばりついてるのに、今年は──ああ、あいつもそういうコトか?」
「パーン────今から死の指先食らうのと、冥府食らうのと、どっちがいい?」
「へっ!? え? って、どっちも一緒じゃぁ……っ!」
「────ああ、そうとも言うね…………。」
「……っ! あ、あーっ! お、俺もグレミオ探してきますねっ!!」」
「ったく、機嫌悪いのに、怒らせるなよな、あいつはっ!」
グレミオの場合
「ああ、ぼっちゃん。──やっとお顔が見れましたね。」
「………………なんで、お前…………ここに居るの?」
「なんでって、いつも通り、坊ちゃんのお部屋のドアの見張りです。」
「──────……………………あ、そう…………………………。」
「今お仕事ですか? それでは、後からお茶を持ってきますね。
いろいろチョコレートとか、チョコレート菓子とかありますけど、お茶請けはどうします?」
「……チョコレート。」
「──たくさんありますから、いろいろ見繕って来ましょうか?」
「そうじゃなくってっ!」
「………………。」
「グレミオが、作った、チョコレート……。」
「おや、気付いてましたか?」
「まだ、僕──貰ってない。」
「グレミオも、頂いてませんね。」
「それは! ──今日がバレンタインだって忘れてて──慌てて買いに行ったけど、義理とかしか残ってなくって…………。
いつもなら、グレミオが一番にチョコレートくれるのに、今日は──朝から顔も見せてくれなかったし……。」
「……昨日、ぼっちゃん、徹夜していたでしょう? だから、てっきり昼過ぎまで寝ていると思ってたんですよ。」
「グレミオ、気付いてくれないし。」
「……気付いてましたよ、ずっと。
でもね、グレミオが見るたびに、ぼっちゃんは、みなさんとイチャイチャしてましたしね。」
「イチャイチャ? は? 誰が?」
「…………(自覚ないんですね、この人は……もう)追いカケッコは、もうおしまいですか?」
「…………………………そう、だね。おしまい、かな?」
「なら、お部屋で待っててください? グレミオがぼっちゃんのために、腕によりをかけた、特製チョコレートをお持ちしますからっ!」
「……美味しい紅茶を淹れてね。」
「ええ。だから、ぼっちゃんは……。」
「わかってる。──仕事を終わらせろって言うんだろ?」
「はい、よくできました。」
これ、小説にすると長いんだろうなぁ……。で、最後はやっぱりそういうシーンで……(殴)終わるんだよ、うん。
単に、解放軍時代にグレミオがチョコレートを受け取ってるのを、坊が見ている話が描きたかったというか、それを見守る面々を書きたかったというか(笑)。
一応グレミオで終わり……かなぁ?
ブラウザのバックでお戻り下さい