坊「女の子ってさ、恋をすると、蕾から花びらが開くみたいに、綺麗になるよね。」
グレミオ「おや、ぼっちゃん? それは誰のお話ですか? まさか、カスミさんだとか言いませんよねぇ?」
坊「? なんでそこでカスミが出てくるの? っていうか、グレミオ、どーして右手に包丁を持ってるのさ?」
グレミオ「いえ、別に(ニッコリ)、ただ、料理をしていただけですから。」
坊「ふぅん? いや……今日、同盟軍でテンガアールと会ってさ。」
グレミオ「ああ、テンガアールさん。ヒックス君とは仲良くしてましたか?」
坊「うん、相変わらず、訓練だとか言って、いじめみたいなことしてた。」
グレミオ「ああ、それはそれは。仲が良くて結構ですよね。」
坊「それでね、テンガが、3年前に比べて、性格は変わってないけど、凄く綺麗になってたから。
なんか、雰囲気とか、そういうのも。……あと、メグが悔しがるほど、肌も綺麗だったな……。
だからさ、やっぱり、女の子って恋をすると綺麗になるなって思ってさ。」
グレミオ「そうですねー……でも、ぼっちゃん? 恋をして変わるのは、女の子だけじゃないんですよ?」
坊「その説で行くと、シーナはいつも美形だということになってしまうよ、グレ?」
グレミオ「……シーナ君は知りませんけど──グレミオにとって、ぼっちゃんは毎日可愛らしくて、お綺麗になられていきますからね。」
坊「…………/////っっ、な、なななっ。」
グレミオ「ほら、そういうお顔も……すごく可愛らしい。」
ちゅっ。
坊「ン……っ。
そ、それじゃ……グレも、いっつも、綺麗?」
グレミオ「クスクス……そうですね、私は毎日ぼっちゃんにメロメロですからね──そうなるかもしれませんね。」
クレオ「二人とも──いちゃつくなら、リビング外で頼むよ。」
パーン「……3年ぶりに帰ってきて以来っていうもの、だんだんと遠慮がなくなってるなー、あの二人。」
クレオ「きっと、旅先でもあんな感じだったんだよ、あの二人は。」
パーン「なるほどなるほど。……良かったな、俺、旅先で二人に会わなくって!」
クレオ「──ああ、なるほど。」
坊「グレミオは、一番綺麗だし、格好いいよ?」
グレミオ「それはぼっちゃんですよ……グレミオにとって、やはり一番ぼっちゃんが可愛らしく、お綺麗です。」
坊「男が可愛いって言われても嬉しくない!」
グレミオ「そうですか? いつも喜んでいらっしゃると思いましたけど……まぁ、いつとは言いませんけど。」
坊「…………!!! グレミオっ!!」
クレオ「だから、いちゃつくならリビング外………………………………パーン。」
パーン「ん、なんだ、クレオ?」
クレオ「……行くよ。」
パーン「んぁ? ──あ、………………あー…………了解。」
クレオ「ったく、毎日毎日……ぼっちゃんも、グレミオには甘すぎるってこと、ちゃんと言って置かないと!」
パーン「男は甘くすると付け上がるからなー。」
クレオ「あんたが言うな。」
2主「僕の運命の人は、もう! そのものずばり! マクドールさんです!!」
ルック「ああ、君の人生観が変わった相手ね。」
シーナ「あー、お前の人生が狂わされた相手な。」
2主「…………どーして二人とも、あえてそういう表現するかなー?
僕がいう運命っていうのは、一生を共にするって意味に決まってるじゃないか。」
ルック「アイツの右手の中で?」
シーナ「あははははは……ってルック、お前、それはさすがに洒落にならねぇぞ?」
2主「……う……でも、マクドールさんの場合、そこまでしないと、一生一緒にいれないかも……。」
ルック「ああ……でも、君みたいなまずそうなのは、いくら悪食のヤツでも、食わないか。」
シーナ「………………ああ……どうしよう……俺、この中に入ってけねぇ。」
2主「むぅっ! それを言うなら、ルックだってダメだと思うけど! 真の紋章持ってるし!」
ルック「馬鹿じゃない、君? 誰かの中に在るなんてのは、鳥肌立つくらいご免だね。」
坊「……へぇー……そっか、ルックって、受けなんだ……。(ぼそ)」
2主「…………っ!? まままま、マクドールさんっ!?」
シーナ「お前……いつのまにっ!」
坊「……やぁ、三人とも。こんな場所で、昼間から、なかなか朗らかな会話をしてくれちゃって…………どうしてくれようか…………(ぼそっ)。」
シーナ「はぅっ、お前っ、背後っ! 背後にブラックオーラが……っ!!」
ルック「ちょっと……──誰が、何だって?」
坊「ルックが、総受けなんだって話。
モテモテでよかったね、ルック。で、今日のお相手は、シーナ? 2主?」
2主「マクドールさんのお相手なら、今日、今すぐにでも!!」
シーナ「ばかっ! 俺とお前がルックの相手に間違われてんだよっ!」
2主「いたっ、殴らなくてもいいじゃないかー! 僕だって分かってるもん!
──っていうか、マクドールさん? どうして今の会話を聞いていたのなら、ルックが受けだなんて思うんですか??
僕、どれだけ綺麗な顔していても、これだけどす黒い人を抱く趣味はないですよー?」
シーナ「なら、コイツはどうなるんだよ?」
2主「マクドールさんは、清廉潔白の優しくて綺麗で格好いい、僕の希望です!!」
坊「いや、だって、誰かの中に在るのが嫌だってルックがいうから(笑)。」
2主「????? え。だから、何…………???」
シーナ「………………ああ…………なんだ…………本気でわかんねぇのかよ………………(汗)。」
ルック「…………そういう意味じゃないと分かっていながら──まだ言うか?」
ごごごごごっ、と、ルックの背後から暗雲が……っ!
坊「ま、冗談は置いておくとして──。」
ひらり、と見事なまでの変わり身を見せて、
坊「あのさ、君たち。」
3名「……。」
坊「僕は、愛しい人の魂を封じるよりも、大切な人と時を歩むほうが幸せだと思うから──。
冗談でも、僕の右手に一生住むなんて言うのは、止めてくれるかな?」
ルック「…………。」
2主「……な、なんだか天然に素面で口説かれてる気がするのは、気のせいかな?」
シーナ「……なんか、今、直撃来た気がするのも、気のせいかな?」
坊「……? なんか三人とも、顔が赤いよ……????」
シーナ「…………直撃なんだよ、だから。」
2主「うう……マクドールさんっ、一生ついてきますぅぅーっ!!」
ルック「…………バカ。」
スイ「明日は子供の日か。」
クレオ「とは言っても、この家には関係のない話ですけどね……クスクス。」
グレミオ「クレオさんが、嫁き遅れてなかったら、縁があったかもしれませんねぇ……。」
ぼごっ!(←容赦なし)
クレオ「明日は、グレッグミンスターでもお祭りをするそうですから、良かったらリオ君と一緒に回ってみたらどうですか、ぼっちゃん?」
スイ「グレミオー? グレ? 生きてる??」
グレミオ「ふ、ふひゃい……。」
クレオ「屋台も出るみたいですし、そうそう、パレードもあるらしいですよ。」
スイ「そのパレードに参加しなくてもいいなら、お祭りにも出たいけど──。」
グレミオ「いいですねぇ……ぼっちゃんがパレードに参加! ハッ! そうと決まったら、早速衣装を縫わないとっ!!」
げしっ!
スイ「参加しないって言ってるだろっ! どうせ同じパレードに参加するなら、5月1日の日に、参加してるよ!
……英雄の部屋を撤去しろ、ってね。」
クレオ「ご安心ください、ぼっちゃん? パレードは、有志の子供達による鼓笛隊とかだそうですから。」
スイ「ああ、なら安心だ。それなら、リオとナナミを誘って、行って見ようかな?」
クレオ「ええ、ぜひそうなさるといいかと思いますよ。きっと、二人も良い気分転換になるでしょうから。」
スイ「うん、そうだね……それじゃ、今日きたら、聞いてみるよ。
まぁ、二人に時間が空いていたら、だけどね。」
グレミオ「大丈夫ですよ、ぼっちゃん。
きっと、何がなんでも空けてきて下さると思いますから!
そうと決まれば、グレミオも腕をふるって、お弁当を作りますからね!!」
スイ「うん、楽しみにしてるよ、グレミオ。」
グレミオ「はい、ぼっちゃん!!」
クレオ「……って、だから、屋台が出るから……お弁当は要らないんじゃ………………?」
グレミオ・坊「…………あ。」
────翌日、子供の日。
リオ「わーっ! すっごーい! 僕、これだけ大規模のお祭りって、見たの初めてです!」
ナナミ「リオ! しっかりお姉ちゃんの手を握ってるのよ! じゃないと、迷子になっちゃうからねっ!」
リオ「…………って、ナナミ! そういいながら、スイさんの手を握ってるんだよ!」
スイ「え? いや、迷子になると困るから……って、ナナミが。」
ナナミ「大丈夫大丈夫、リオと繋ぐ手は、コッチだから。」
リオ「……しかも、どうしてさり気にスイさんと繋ぐ手の方は、手袋脱いでるの!? ずるいー!」
ナナミ「え、なんのことかしら??」
スイ「ああ、ごめん。僕が手袋脱いでないから……。」(←理由になってません)
リオ「──……それじゃ、スイさん、ナナミ、行きましょう!」
がしっ。と、問答無用でスイのもう片手を繋ぐリオ。
スイ「……え、でも、リオはナナミと手を繋ぐんじゃ……。」
リオ「こうすれば、僕もナナミも絶対、迷子になりませんから!」
ナナミ「リオっ! スイさんが動きにくいでしょ!」
リオ「その分僕が動くからいいのーっ!」
スイ「…………え? いや、それはちょっと違うような…………。」
リオ「ナナミ、行くよ! このために、わざわざシュウから小遣いせしめとってきたんだから!」
ナナミ「んっ、分かってるわっ!」
スイ「って、二人とも、聞いてる?」
リオ「いざゆかん! 栄光の地へっ!」
ナナミ「美味しくて珍しい物、絶対ゲットよ、リオ!!」
リオ「よしっ! って、あ! あれ食べたいっ!」
ナナミ「えっ? 突然見つけたの、リオったら! ──あっ、あれ何かな!?」
スイ「いたっ、いたたたっ、痛いってば二人とも! そんな同時に左右から引っ張らないでよ。」
リオ「すみません、スイさん! ナナミ、その手、いい加減離したほうがいいんじゃないかな?」
ナナミ「なぁーによー? それはリオの方でしょー? ほら、お姉ちゃんが手を繋いであげるから、スイさんの腕を放してあげてよ。」
リオ「えっ、ナナミの手ー?」
ナナミ「! 何、その嫌そうな顔はーっ!!」
スイ「──……二人とも、僕を挟んで喧嘩しないでね?」
リオ・ナナミ「すみません! スイさんっ!!」
リオ「じゃ、ナナミ、ドッチを先に見るか、じゃんけんね。」
ナナミ「よーしっ! それじゃ、最初はグーからね!」
スイ「………………で、えーっと……僕の手を離すっていう選択肢は無いわけ? ──汗も掻いてきたし、一度放してほしいんだけど。」
リオ・ナナミ「最初はグー!」
スイ「あ、シーナ。」
リオ「じゃんけん……シィナァっ!!?」
ナナミ「違うよ、リオ! じゃんけんぽいだってば!」
スイ「シーナ!」
シーナ「……おー、お前らも来てたのかよ? この人ごみの中、良くそれで歩けるなぁ……。」
スイ「──なぜか人が避けて通るから、それは平気なんだけど。
でも珍しいね、シーナがこんな日に、ココに居るなんて。」
リオ「ナンパ?」
ナナミ「あ、ほんと、シーナ君だ。やほー。」
シーナ「やほー、ナナミちゃんv
女の子と楽しく回りたいよなー、やっぱ、こういうのは。
それを思えば、お前もリオも、うらやましいぜ、ほーんと……はは。」
スイ「──……なるほど、その分だと、レパントに無理矢理連れ戻されたってトコロ?」
シーナ「………………痛いところつくなよ、くそ。」
スイ「やっぱりそうなんじゃないか。ま、シーナが一人でこの辺りうろついてる理由って言えば、ほとんどが、『ナンパ』か、『レパントに連れ出された』か、『金の無心にきた』しかないしね。」
シーナ「お前な…………。
んま、別に抜け出してきて、適当に祭り楽しんでるからいいんだけど──ってリオ、お前、こういう時にどうしてメグとかアップルとか連れて来てないんだよ?」
リオ「一緒だったよ? 今日、お祭りだからグレッグミンスターに行くって言ったら、みんな大喜びでついてきてくれたもん。」
シーナ「うそっ、マジ!? で、今どこに居るんだよっ!?」
リオ「さぁ?」
シーナ「さぁって、お前な……隠し立てするとタメにならないぜ?」
ナナミ「そういうんじゃないのよ、シーナ君。なんか着いた途端に、自動解散になっちゃって。」
リオ「そうそう。ま、僕も僕で、邪魔者は居なくなったしと、そのままスイさん所に行ったから、どこに行ったのか分からないんだ、僕らも。」
ナナミ「夜の待ち合わせ場所は決めたから、夜になったら会えるとは思うけど?」
シーナ「夜って……たぶん、メインの後だよなー……。」
スイ「え、そうなんだ? メグたちも来てたの?
寄ってくれたら、お茶くらい出したのに──ってまぁ、メグの場合は、絶対にジュッポを探しに行ったに違いないんだろうけど。」
ナナミ「ジュッポさんって、メグちゃんのオジサンって人ですよね!?」
シーナ「うん、そうそう。今回の仕掛け花火とかに手を貸したらしいな。あと、からくり時計も公開するらしいから、後で行こうぜ、ナナミちゃん♪」
リオ「うわーっ、そうなんだ! スイさん、ぜひ、二人で!」
スイ「あ、ご免。そのからくり時計、ルックと見るって約束してるから。」
リオ「え、ルック!? でも、祭りに誘ったら、そんなくだらない物に行くのは、祭りバカくらいだって言ってましたよ??」
スイ「ルックはこういう場所は嫌いだから……でも、からくり時計は凄い逸品だから、見に来るって言ってたから、一緒に特等席に連れて行ってくれるっていうからさ。」
ナナミ「スイさん! そのジュッポさんって、会えるかな!?」
スイ「え? ……たぶん、からくり時計の時に、説明役に出てくると思うけど──どうして?」
ナナミ「ぜひ、見たいんです! メグちゃんが、リオに似てるって言ってたから!」
シーナ「…………いや、それは……見ないほうが…………。」
スイ「ああ、それなら、シーナに連れて行ってもらうといいよ。こう見えてシーナは、一応黄金宮殿内で顔パスだから。」
シーナ「って、そりゃお前もだろー!?」
スイ「いや、僕はルックと約束あるし、グレにも手土産を買って帰るという約束してるから。」
リオ「それじゃ、ナナミ! スイさんのことは僕に任せて、シーナに変なところ連れ込まれないように、行ってらっしゃい!」
ナナミ「なぁに言ってるのよ! リオも一緒に来るのよ!?」
リオ「え……いや、僕はだって、スイさんとルックを二人きりにさせないって言う使命がっ!」
シーナ「それを言うなら俺にもその使命がっ!」
スイ「いってらっしゃーい!」
ナナミ「さ、いくわよ、二人ともーっ!!」
シーナ・リオ「「えええええーっ!」」
リオ「ちょっとナナミ! 放してよ〜! せっかくの、せっかくのスイさんとのデート〜〜!」
シーナ「そりゃ俺も同じだっつぅの! 何が楽しくて、んなジュッポの顔なんて見に行かなくちゃいけないんだよ!」
ナナミ「なぁーによ? 二人とも、私が相手じゃ不満だって言うの!?」
シーナ「とんでもない! とんでもないけど────スイと屋台めぐりは、もったいないことをしたなぁー、とか思っただけ。」
リオ「くぅぅぅーっ! ────…………! あ、そうだ、シーナ!」
シーナ「あん?」
リオ「……あのさ、そのルックが行きそうな特等席に、心当たりないの!?」
シーナ「──────………………なるほど……な。」
スイ「絶景かな、絶景かな。…あ、グレミオから貰ったお弁当、食べる?」
ルック「それはいいけど──キミ、あれが気にならないのかい?」
スイ「あれ? ……うーん、そうだな。
僕たち、スカート穿いてなくて良かったね。」
ルック「…………………キミに聞いた僕が馬鹿だったよ。」
シーナ「って、うわっ、リオ! てめぇ、足を引っ張るんじゃねぇよ!」
リオ「だって落ちちゃうじゃないですかー!」
シーナ「だったら、上ってこなかったらいいだろうが!」
ナナミ「シーナ君! リオ〜! 危ないから、降りておいでよ〜! ココからでも、からくり時計はよく見えるよー!?」
リオ「その窓からじゃ、スイさんと一緒に見れないから、駄目なんだってば! だから!」
シーナ「お前、ナナミちゃんを一人残してくるなよなー。今からでも間に合う。戻れ。」
リオ「シーナこそ、ナナミと一緒に見たいって言ってたくせに、どーして屋根を上ってるんだよ!」
シーナ「スイがルックに連れられて上に居るからに決まってるだろーがよ。」
リオ「だったら、僕も行きますー! だって、ルックとシーナと一緒になんてできないもん!」
シーナ「って、おわっ! お前、だから足を引っ張るなって言ってるだろーが!」
スイ「ふたりともー! 早く上にこないと、始まっちゃうよー?」
ルック「…………結局、呼ぶわけか。」
スイ「え? だって、ルックは小食だから、お弁当、空にならないだろ?」
ルック「・…………。」
スイ「うーん、あの分だと間に合いそうにないし……ナナミが可哀想だな………………。」
ルック「……………………。」
スイ「……………………。」
ルック「…………っっ、なんで、わざとらしく胸の前で手を組んで、僕を見ているんだい、君はっ!」
スイ「ルック…………。お弁当が残ると、グレミオが、凄く可哀想じゃないか。」
ルック「……………………僕の知ったことじゃない。」
スイ「そういわずに……ね、ルック、お願いvvv」
ルック「……………………めんどくさい。」
スイ「それじゃ、しょうがないな。シーナとリオを、突き落とすか。」
ルック「──……っ!?」
スイ「上から人が降って来たら──それも、大統領の息子と隣国の軍主が降って来たなんてことになったら、この催し、中止になっちゃうよねぇ?
ルック、せっかく楽しみにしてたのに。
まー、僕は、後で権限使って、ジュッポに見せてもらうけどー??」
ルック「こっの、……ワガママ魔王……っ。」
スイ「ルックほどでもないけどね。」
シーナ「おっ、始まった始まった! いやー、しかしルック、お前良く、こんな穴場見つけたよなー?」
リオ「っていうか、ルックじゃないと見つけられなかったと思う。」
ナナミ「うん、ホント! 良く見えるね! えへへ。」
スイ「よかったね、ナナミも一緒に見れて。」
ナナミ「スイさんのおかげですよー。」
ルック「…………君をココに連れてきたのは、僕なんだけど?」
リオ「スイさんが頼まなかったら、絶対連れてこなかったくせにー。」
ルック「当たり前だろ? 狭苦しい。」
シーナ「あ、それじゃしょうがないな。スイ。」
スイ「ん? 何?」
シーナ「狭いらしいから、お前俺の膝の上に来いよ。」
リオ「!」
ルック「……っ。」
ナナミ「……………………っっっっ。」
スイ「イヤ。」(アッサリ)
シーナ「即答かよ!」
リオ「だったら、僕の膝に、ぜひ!」
ナナミ「ハイハイ! じゃ、私が膝枕しますから!!」
ルック「ナナミ──君、それじゃ余計に狭苦しくなるって、その脳みそで理解してる?」
スイ「────…………(なんでみんなそんなに目が血走ってるんだろーと思いつつ)じゃ、中間を取って。」
シーナ「とって?」
スイ「僕だけポールの上で見るよ。」
ルック「…………って、旗を掲げている。」
シーナ「ポールの先端の、小さな丸い?」
リオ「ああああ、危ないですよ! スイさん!!」
スイ「平気平気。小さい頃から慣れてるから。」
ナナミ「え、慣れてるって……。」
スイ「落ちてもルックが居るしさ。──じゃ、皆、ここで広々と楽しんでていいから。」
スルスルスルスル──。
リオ「は、早い……っ。」
シーナ「……………………。」
ルック「……余計なことを言うから……この、バカどもが。」
リオ・シーナ・ナナミ「…………ぐさっ。」
スイ「絶景かな、絶景かなー! うーん、煙と○○は高いところが好きっていうけど、まさにそんな感じ。
でも、……グレミオとレパントには見つからないようにしないとね……。」
ネタバレ含みます
──ルック坊編
アルベルト「あ……この店にもあるんだな。」
ユーバー「……ふん、くだらんな。」
セラ「でも、中々に緻密な細工で……のろいをかけるのには向いていますね──効果があるかどうかは分かりませんが。」
アルベルト「こういうのが士気を煽るのに向いていると思うのが、シーザーの幼いところというか──な。」
ユーバー「──行くぞ。」
セラ「……ルック様。」
ルック「………………。」
アルベルト「おや、あなたのような方でも、気になりますか? このような土産物を?」
セラ「──……アルベルト。」
ルック「いや──。」
ユーバー「ふん。」
セラ「確かに、この辺りでは珍しいほど精密な細工ではありますが……何を模したものなのでしょうね?
炎の英雄と、ゼクセンの騎士団長、カラヤの少年と、傭兵隊の小隊長までは分かりますけど。」
アルベルト「この顔はハルモニアで見たことがありますね──確か、ササライ神官長の手飼いの犬が、こんな顔だったかと。」
ユーバー「────……。」
セラ「残る二対は……。」
ルック「……店主、これを。」
店員「はい、トランの英雄フィギュア、箱ごとお買い上げですね♪ ありがとうございまーっす。」
セラ「る、ルック様っ!?」
アルベルト「……っ、な、なぜ、そのような無駄なお金を……っ!?」
ルック「……買い占めておかないと、後でうちの嫁が怖い。」
セラ「……よ、嫁…………?」
ルック「君達も、自分たちが寝ている宿屋ごと飲まれるのは、たまったものじゃないだろう?」
ユーバー「ふ……っ、確かに──あの紋章に逆らうのは、愚者だな。
店主、半額、俺が持とう。」
ルック「──悪いね。」
セラ「……なにが……何がこの方をこれほどまでに追い詰めていると……そういうのでしょうか。」
アルベルト「──なぜか過去の古傷が痛むような気がする……宿が全焼…………ああ、過去にもあったような……?」
ルック「…………アルベルト──それはおそらく。」
アルベルト「?」
ルック「君がトラン周辺にすんでいたときに起きた、現実だ。」
ユーバー「トラウマというヤツだな……ふ。」
セラ「……?」
ルック「うらむなら、実の祖父を恨むんだな。」
アルベルト「…………一体、何を知っていると…………というか…………なぜ英雄フィギュア………………?」
たぶん、その謎は一生解けない(笑)。
──主坊編
リオ「あっ! 見つけたーっ! ぅわーっ! 良かったっ! まだたくさんあるや!
んもー、デュナンではなんでか売ってないから、探すのに苦労しちゃったよー。」
ジョウイ「リオ……恥ずかしいから、もう少しボリューム落とそうよ。
──って、うわっ、リオのも売られてるじゃないか。」
リオ「うん、そーだよ? って、あれ? ジョウイは知らなかったっけ? ジュドさんがね、3割増くらい男前にしてくれたって言ってた。」
ジョウイ「──それは笑っていいことなのか、どーなのか、非常に悩むところだね。
ところでリオ? 他にも何体か売られてるけど? 英雄好きなら、炎の英雄は手に入れておいたほうがいいんじゃないかな?」
リオ「トランの英雄以外は興味ないから、いらない。」
ジョウイ「いや、カモフラージュに持っていたほうがいいんじゃないかな? ほら、スイさんに持っていることを知られたら、大変だろ?
そういうときに、『僕が買ったのは、炎の英雄です』って言い切れるし。」
リオ「〜そ、そっかー! さっすがジョウイ! 年の功は違うねーっ!」
ジョウイ「って、一つしか違わないじゃないか、僕もリオも。」
リオ「よし、それで行こう、うん。」
?「何がそれで行くって?」
リオ「だから、ジョウイ案で…………って…………今の………………。」
ジョウイ「………………声………………?」
──振り返り、ヒュッ、と喉を鳴らす二人。
リオ「……え、……あ、いや、その……っていうか、なんでここに!?」
ジョウイ「いや、今から炎の英雄フィギュアを買おうって話をしてたんです。」
スイ「ナナミが教えてくれてね──で、二人とも?」
リオ「な、なんで手袋を脱ごうとしてるんですか? スイさん……?」
ジョウイ「そ、そーですよ! 僕は、ほら、このゲドさんとか言う人のフィギュアなんか、書こうかなー、と思ったりなんかして。」
リオ「うわー、ジョウイ、ルカ=ブライトのお稚児さんだって言われてただけあって、おじさん好みだねー、ほんと。」
ジョウイ「……って、リオ! それはあんまりにも酷いよ!?」
スイ「────二人とも?」
リオ・ジョウイ「は、はい……。」
スイ「……炎の英雄フィギュアは──全部をセットで買わないと、ついてこないおまけ特典だって──知ってたかい?」
ジョウイ「…………っ!!」
リオ「え、あ、いや────し、知りませんでしたっ!」
スイ「そう、それは良かった。
それじゃ……心置きなく。」
『焦土』
ちゅっどぉぉぉぉぉーんっ!!!!!
リオ「ぅわーんっ! スイさんの意地悪ぅぅぅぅーっ!!!」
ジョウイ「……っていうか…………ていうか……店ごとふっ飛ばすか、本気でーっ!」
スイ「やぁ、これでこの店のフィギュアも、跡形も無くなって、良かったね(笑顔)。」
リオ「くぅぅぅーっ! いいもんっ、次の店で……っ。」
ひゅんっ!
リオ「ぅひゃっ。こ、棍…………?」
スイ「…………なんだって、リオ?」
ジョウイ「リオ!!」
リオ「す、スイ、さぁん?」
スイ「……君、警告、見なかったのかい?」
リオ「け、けいこく?」
スイ「そう──英雄個人を知っている人物の購入を禁ずる……という、警告を。」
ジョウイ「えっ、そんなものが書いてあったんですか!?」
スイ「ああ──裏契約書に(朗らかな微笑み)。」
リオ「……………………っっっ。」
一体、このフィギュア作成のイツの段階から、この人は裏の手を回していたのだろう?
ふとそう思うジョウイとリオであった。
──グレ坊編
グレミオ「何々? ココに名前と住所と年齢を書いて……と。」
スイ「ぐーれーみーおーっ!」
グレミオ「わわっ! ぼっちゃん! いつも言ってますけど、書き物をしているときに圧し掛かってきちゃダメですよ!」
スイ「だって、こうしないと構ってくれないじゃん、グレは。
で、何書いてるのさ?」
グレミオ「ええ、ちょっと通販をしようと思って。」
スイ「旅から旅の生活で、通販をしようとは、見下げた根性だ。」
グレミオ「いえいえ、グレッグミンスターのお屋敷に届けてもらえばいいだけですから。そのために、ちゃーんとクレオさんにもお手紙を出して、『ココに置いてください』ってお願いしたんです。」
スイ「置く? 何を??」
グレミオ「これを。」
スイ「……………………………………。」
グレミオ「やっぱり、グレミオの部屋に一体は入りますし、厨房にも一体欲しいですよねー。
トランではなぜか販売しないらしいので、こういう手段でも使わないと、クレオさんもパーンさんも見ることができないと思うんですよ。
そうそう、きっと、マリーさんも欲しがると思いますから、一体余分に買っておかないと。
そうすると、普段用と保管用と予備用で、3体ずつは必要ですから、部屋と厨房とクレオさんとパーンさんとテオ様とマリーさんで……。」
スイ「ちょっと待て。」
グレミオ「ぐぇっ! 首っ、ぼっちゃん、首っ。」
スイ「お前、丸してあるのって、僕のフィギュアにだけだぞ?」
グレミオ「も、もちろんですよ! ぼっちゃんのフィギュア以外、何を買うっていうんですか!」
スイ「────………………グレミオ?」
グレミオ「はい?」
スイ「僕が、こういうの嫌いだってこと、知ってるよな?」
グレミオ「はい。ですから、ぼっちゃん用は買ってませんよ?」
スイ「いや、そーじゃなくって。」
グレミオ「あ! ──いやですねぇ、ぼっちゃん。そんなやきもち焼かなくても、フィギュアよりも本物のぼっちゃんの方が、大事に決まってるじゃないですか。」
スイ「──いや、だから、そーじゃなくって。」
グレミオ「テオ様のお墓にも、お供えするんですよ。ぼっちゃんがこんなに立派になりましたって。」
スイ「いや、だからさ……。」
グレミオ「グレミオも、いつもぼっちゃんがお傍にいるようで、嬉しい限りです。」
スイ「だから……。」
グレミオ「これで、ぼっちゃんがグレミオを置いて旅に出て行って、寂しい思いをしても、少しは紛らわされればいいんですけどね。」
スイ「……………………。」
グレミオ「ねぇ、ぼっちゃん?」
スイ「う……………………。」
グレミオ「ぼっちゃん?」
スイ「………………グレの意地悪…………。」
グレミオ「? 何がですか、ぼっちゃん? グレミオ個人は、本物のぼっちゃんがいらっしゃるから、持ち歩いたりしませんよー?」
スイ「そーゆー意味じゃなくって…………んもー……お前、本気でっ。」
グレミオ「はい?」
スイ「──────………………大好き………………。」
きゅむっ。
グレミオ「? ???? …………クスクス。
グレミオも、ぼっちゃんが大好きですよvv」
スイ「グレだけだからね……っ、許すのはっ!」
グレミオ「はいvv」
──ヒュー坊編。
ルシア「ヒューゴ。あんた、何体欲しい?」
ヒューゴ「むぐむぐ…………ごくん。…………何が?」
ルシア「あんたの人形。」
ヒューゴ「……ぐはっ! げほげほげほっ! な、なんてもの広げてるんだよ!」
ルシア「『英雄フィギュア勢ぞろい広告』。あのリオのフィギュアまで売られてるっていうのが解せないけど、うちの息子のはとりあえず買っておかなきゃダメだろうと思ってね。
で、あんたは幾つ欲しい?」
ヒューゴ「い、いらない! っていうか、買わないでよ、母さんっ!?」
ルシア「おや、それじゃぁ何かい、ヒューゴ? あんたは、赤の他人が息子のフィギュアを持っているというのに、実の母である私が持っていちゃいけないとでも言うのかい?」
ヒューゴ「そう!」
ルシア「…………可愛くない息子に育ったねぇ。ったく、数年前までは、怖い夢を見たといっては寝床に入ってきて、嫌いな食べ物を見たといっては軍曹に泣き付いて、弓が上手くいかないといっては、アイラに八つ当たりしてたのに。」
ヒューゴ「わーわーわーっ! 何年も前の話だろ、それは! そーゆーことを、スイの前で言わないでよ!!」
スイ「ルシア、ルシア。僕、ヒューゴのと、ゲドさんの買うから、二体分で幾ら?」
ルシア「………………あんた、居たの?」
スイ「さっきからヒューゴと背中あわせて座ってたじゃないか。」
ルシア「ああ、そうか……小さいから、まるで気付かなかったよ。」
スイ「ルシアの息子ほど小さいつもりはないけど?」
ヒューゴ「……ぐさっ…………す、スイ、酷い…………っ。」
スイ「あ、ごめんごめん。ヒューゴのフィギュアの売上に貢献するから、勘弁してよ、ね?」
ヒューゴ「買わなくてもいい!」
ルシア・スイ「どーして?」
ヒューゴ「──……っ(この二人は……っ)、だいたい、偽者なんか買わなくても、母さんにもスイにも、本物の俺がココに居るだろ!?」
ルシア「それはそうだけどねぇ……ここまで上出来に出来てるのを、買わないなんて、親バカの名が廃るだろう?」
ヒューゴ「廃って来い!」
スイ「──……やだなぁ、ヒューゴ? 僕には本物のヒューゴが居るから、僕の知り合いに、ヒューゴのことを知ってもらうために、送るんじゃないか。」
ヒューゴ「────…………っっ。」
ルシア「────……なるほど、そういう口説き文句が……って、いつも言ってると思うが、トランの英雄! あんた、人の息子をたぶらかすのはやめてもらえるかい?
口説くのは、リオやジョウイ殿だけで十分だろうに。」
スイ「ね。ヒューゴ?」
ルシア「だから聞けってば。」
ヒューゴ「──…………あ、う…………ず、ずるい……それじゃ、反対できないじゃん……。」
スイ「あ、ルシア? 知り合いの吸血鬼が、購入すると思うから、ナッシュさんのも買っておいて。」
ルシア「それじゃ、ヒューゴ? あんたは、スイのフィギュアを買ったらいいじゃないか。後、クリスのフィギュアはどうせボルス辺りが買うし、…………リオのフィギュアを誰かに買わせれば、もれなく炎の英雄フィギュアがついてくるってワケだね。──て、リオのフィギュアなんて買う人居るのかねぇ? ああ、上手く口で言いくるめれば、メイミ辺りが買うかね──一応命の恩人っぽいことを言っていたし。」
ヒューゴ「スイ、の……フィギュア…………?」
スイ「────…………誰が、何を買うって?」
ルシア「いいじゃないか、別に、それくらい。」
スイ「まさか買わないよね、ヒューゴ? だって、自分のを買うのも嫌がってたんだし。
君には、本物の僕が居ることだし?」
ヒューゴ「…………うっ、う………………………………。
…………………………で、でも…………欲しいかも……………………。」
ルシア「────…………。」
スイ「──────……………………(にっこり)。」
ルシア「英雄! あんた、顔が笑ってるけど、オーラが笑ってない!」
ヒューゴ「って、何っ。なんで、右手が光ってるの!?」
スイ「………………いや、一度、体と心に思い知らせたほうがいいかな、って…………右手が疼くんだよ(笑顔)。」
坊「……また今日も雨ぇ?」
グレミオ「雨ですねぇ……これでは、洗濯物も乾きませんし、お布団も干せませんし、食べ物はすぐにダメになってしますねぇ。」
坊「昔はさぁ……こうして雨の日が続いても、退屈ってことは無かったよなぁ?」
グレミオ「そりゃ、ぼっちゃんは雨の日でも楽しそうにお出かけになられて、泥んこになって帰って来ましたからね。」
坊「そうそう、雨に濡れた後のお風呂って、気持いいんだよねー。」
グレミオ「あっはっはっはっは…………ぼっちゃん?」
坊「──しないよ、この年になってまで。」
グレミオ「当然です、旅の空の下ならとにかく、お邸に帰ってきてまで、雨の日にずぶぬれになんて冗談じゃありませんよ?」
坊「いいじゃないか、濡れるのは僕なんだから?」
グレミオ「ぼっちゃんが雨の中、飛び出して行くのに、どうしてグレミオがおとなしく屋敷の中で待っているなんて思うんですか?」
坊「……ああ、そうか、うん、そうだな……。」
グレミオ「今日は、リオ君達が迎えに来ても、外出は禁止ですよ?」
坊「ちゃんと傘とタオルも持って行くよ。」
グレミオ「戦闘中に、傘さして戦えるなら、どうぞ?」
坊「意地悪だなぁ……。
でも、リオは来ないと思うな。」
グレミオ「そうですか?」
坊「うん──向こうの軍師さんも、大分過保護みたいだからさ……来れないよ、きっと。」
グレミオ「その、過保護な大人に、素直に従ってくれるような軍主さん達なら、胃クスリなんてものが、軍師さまの部屋に飾られることはないんでしょうね。」
坊「ああ、それじゃ無理だね。」
グレミオ「…………ああ、ほら、ぼっちゃん。噂をすれば……ですね。」
坊「……残念。ぬれねずみ決定だ。」
グレミオ「そう思うなら、口元の微笑みを……消してくださいね、ぼっちゃん?」
坊「笑ってるかな、僕は?」
グレミオ「ええ、笑われておりますよ……ひどく、楽しそうに……ね。」
坊「あははは。そりゃゴメンゴメン。
やっぱり僕……雨の日に、表に出るのは好きみたいだ。」
グレミオ「…………分かってますよ。
昔から、そうですからね…………。」
スイ「そうだっけ?」
グレミオ「ええ、そうですよ。──ですから私は……雨の日が嫌いなんです。」
スイ「……グレ?」
グレミオ「雨が……逃げていったあなたの足跡も匂いも姿も…………消してしまいますから。」
スイ「いつも、ちゃんと戻ってきたじゃないか。」
グレミオ「それでも……怖いくらいに、あなたが愛しい…………。」
リオ「一人だけじゃ、人は、幸せになれない…………。」
ジョウイ「幸せにならなくてもいい……僕は、幸せになろうとは思わない。
ただ…………幸せになってほしいと、願うだけ。」
ナナミ「幸せになろうよ……みんなで! 幸せに、なろうよ!
笑っていればいい! 笑いたい! ただ、それだけなの!
ただ私は…………あの頃の生活を、取り戻したい……ただ、それだけなのに………………っ。」
「どうして人は戦うのか……その意味を、考えたことなんてなかった。
戦うのは、愚かだと、そう思っていたときもあった。
けど、戦わなくてはいけないときがあると──そう、知った。
力で、信念を、貫くことを……………………。
ただ、忘れないで…………、意味のない戦いだけは、してはいけない。
覚悟のない戦いは、自分に同意する全ての者を、不幸に陥れるのだと。」
ルック「戦いの果てにあるのが、幸せだと──なんてバカなことばかり。」
リオ「……ただ、僕は…………守りたかっただけなのに。」
ナナミ「ただ、私は、笑って欲しかっただけ。
だから、私は笑うの。笑わなければ、幸せが……どんどん遠く行ってしまいそうだと、そう思ったから。」
ジョウイ「………………………………間違いと、正しいことと。
信念が崩れたとき、瑕が出来る。
僕に、したがってくれた者に、多くの場所に。
────────────それでも僕は、生きていく?」
※※※※※※※※
リオ「……目が覚めたら、何もかも、終わっていればいいのに………………。」
スイ「何? 寝ぼけているの、リオ?」
リオ「──スイ、さん……? あれ? ……いつ、こっちに?」
スイ「ついさっき。シュウ殿が、今日はもう部屋に戻ってるって言ってたから、帰る前に顔だけ覗かせようかと思ったんだけど……。
こういうときの勘は、今でも鈍ってないんだな……。」
リオ「? 何が、ですか?」
スイ「いや……なんでもないよ。気にせず眠っておいで。僕は、もう行くから。」
リオ「──……っ!」
スイ「………………リオ、放して?」
リオ「──……あ、す、すみません……なんか、まだ、夢の中に……いるみたいで。」
スイ「うん、みたいだね。まだ目が寝ぼけてる。焦点あってないよ? もう少し寝たら?」
リオ「え、あ、はい──…………。」
スイ「………………寝るまで、そばに居てあげるから……。」
リオ「……………………はい。」
スイ「だから、ゆっくりお休み……。」
「──きっと、また悪夢にうなされて、現と夢をさまようだろうと分かっているけど。
──────…………僕の手では、君の夢を救うことはできないから……ごめんね。
そばに居てあげることはできない。
僕の手は………………君の悪夢を増長させることはしても、癒してあげることは──しないから…………。」
ビクトール「なんだ、もう帰るのかよ? てっきり俺は、お前がリオに捕まってると思ったから、こーしてわざわざレオナに頼んで、酒まで持ってきたっていうのによ。」
スイ「ビクトール……疲れている子供に、お酒を勧める気だったの? ったく、君と違ってリオの肝臓は、まだまだ健康なんだからね。」
ビクトール「どういう意味だよ、そりゃ。それを言うなら、俺の肝臓は丈夫だってことだろうが。」
スイ「………………その腹で、そう言う?」
ビクトール「──! おっまえもフリックみたいなこと言うんじゃねぇよ! ったく。
で、リオはどうした? 寝てるのか?」
スイ「うん、今さっき、眠ったところ。
──良かったら、ビクトールがあの手を握って、彼が起きるまでそばに居てやってよ。」
ビクトール「俺が、手を握って、傍に〜!? ──柄じゃねぇよ。お前がやればいいじゃねぇか。
あいつ、お前にはトコトン懐いているんだしさ。」
スイ「──……僕じゃ……悪夢を見せるばかりさ。」
ビクトール「────…………んなことねぇだろ?」
スイ「……………………。」
ビクトール「現にリオの奴、寝たんだろう? お前の前で、お前の手を握り締めて。」
スイ「……………………。」
ビクトール「なら、お前はそれだけ心を許され、それだけあいつの支えになってるってことさ。
──わりぃけど、俺はお前が居ないのなら、リオの部屋には行かないぜ。」
スイ「薄情な男だなぁ、拾った子供の面倒くらい最後まで見ろよ。」
ビクトール「うっせぇ! 面倒みてやりたいのは山々だけどなぁ、しょうがねぇだろ?
アイツ、あれ以来──俺たちが居ると、寝れないんだからさ。」
スイ「………………夢を…………見るから?」
ビクトール「ああ、その辺りはお前の方が詳しいだろうさ。
夢を……うなされて起きるから、だろうよ……俺たちに、見せようとしない。
だから、俺が行けばアイツは起きる。
──はっ、昔のお前を見ているみたいだ。
最も、あの頃のお前よりも、リオは弱ってる分だけ可愛げがあるけどな。」
スイ「………………大切な人を喪うのは、自分自身の命を失うことよりも、悲しいことだから……。
リオは、腹心の部下をも失ったから、余計だろうね……。」
ビクトール「ついててやれよ、スイ……頼むから。」
スイ「──────────────。」
ビクトール「俺たち大人は、汚ねぇよな……お前たちに、いつも辛い選択をさせてる。」
スイ「それでも……選んだのは僕たちだ。
…………僕たち、なんだよ…………ビクトール。」
ビクトール「────…………ぁぁ…………。」
幻想3ネタバレアリ
シリアス。題材の通りバッドエンディングが題材。
「テッドが好きだった花。」
「テッドが好きだった色。」
「テッドが好きだった言葉。」
「テッドが好きだった景色。」
「テッドが好きだった味。」
「テッドが好きだった人。」
「テッドが好きだった音。」
「テッドが好きだった形。」
「テッドが好きだった動物。」
「テッドが好きだった………………たくさんのもの。」
300年という月日の果て。
彼はそれでも、
「好き」
という言葉を、知っていた。
それは、奇跡なのでしょうか?
それとも……?
1主人公:ルイス=マクドール
2主人公:アーシェ
ヒラリヒラリと舞う風の、音もなく優しい感触に、ああ、と、胸が打たれる痛みを覚える。
風が一瞬凍りついたように感じたのは、ピリリと痛む右手が何かを訴えたからだ。
ふと視線を落とした先で、擦り切れた手袋に包まれた紋章が、クッキリと手袋越しにその存在感を訴えていた。
赤々と輝く色に、ボンヤリと光をなくしていた瞳に、力が戻っていくのを感じた。
ジャリ──と、土を掴む。
不意に指先に触れた土の、冷たく湿った感触や、突き刺すような空気の冷ややかさが現実味を帯びてきて、ブルリと体が震えた。
ひゅぅ……と、喉を通る呼吸が、どこか遠くに感じていた。
体が生きることを放棄しているような気がして、自然と瞼が重くなる。
そんな、中で──この廃墟に積もる瓦礫を踏みしめる、小さな音が聞こえた。。
その主を……知っている。
「………………久し振りだね。」
表情がぎこちなく動いて、微笑を上らせる。
どれくらいぶりにか喉を通った言葉は、どこか枯れて聞こえた。
思ったよりも小さな声は、この廃墟を駆け巡る風の音に掻き消されるかと思ったが、そうではなかったのか……それとも、だからこそ聞こえたのか。
ジャリ──と、ブーツで瓦礫のかけらを踏みしめた少年は、無言で顔を上げた。
どれくらい前にココにたどり着いたのかは分からない。
ただ、空間を彷徨うように視線が漂い──一点で止まった後、詰めていた息を吐き出したのが分かった。
それは、安堵と苦痛と苦味を含んだ……優しい溜息。
吐息を短く零して、廃墟に踏み込んだ少年は、壁に背を預けて無表情に微笑を上らせる「少年」を見下ろした。
いつからココに座っているのか分からない相手は、風の残像に緩く髪を揺らしていた。
お互いに、ヒタリと視線を交し合う。
どこか緊迫した空気が一瞬だけ流れ、けれどそれはすぐに風に乱されるように掻き消えた。
「お久し振りです──15年ぶりになりますか?」
先にココに辿り着いていた少年とは違い、彼はすんなりと言葉を発した。
まだ幼さの残る声……けれど、そこに宿る重みは、どちらも濃厚で重厚。
「そう、だね……もうそんなになるか。」
彼の右手の平で、淡く明滅する紋章が、お互いの紋章を強く意識しているようだった。
まるでそれが──自分を呼んでいるようだと思って──バカみたいだと目を細める。
「ええ、それほどになります。」
「世俗には疎くてね……デュナンの現大統領は、テレ-ズ=ワイズメルだと聞いたけど。」
右掌をなでさする仕草は、随分久し振りに行うものだった。
その仕草を無言で見つめて、少年は相手の問いかけに頷く。
「だいぶ昔に、大統領制に変更したんです。戦争が終わって……一つの国にまとめるという方針から、トランのように共和国制に変えて──思ったよりも時間がかかったんですけど。」
「噂には聞いた。」
「この近辺では、だいぶ噂になったらしいですから。」
静かに語る──かつて王という枷をはめ込まれていた少年は、顎を逸らすようにして空を見上げた。
広がるのは、空虚にも近い…………あおい空。
「いや──……君が、聖者様と呼ばれていることを。」
「………………………………力は、正邪ですけどね。」
皮肉るように呟くと、彼はその言い方にも、皮肉にも興味がないような様子で、掠れた声で呟く。
「使い方次第だよ、何もかも。」
──答えは、軽いように聞こえるだけで……ずしりと肩にのしかかる。
「…………………………………………そう、ですね。」
そのまま、二人の間に沈黙が下りた。
もともと少年は無口で、親しい人ともあまりしゃべることはなかった。
変わって、王という名をもっていた少年もまた──座についてからは、あまり口を開くことがなくなった。
無邪気だったころを知っている相手を前にしても、重い口は簡単には開かない。
少年もまた、知っていたからだ。
目の前に座る人の噂を────…………獣を食らう闇の噂を。
「……さて、僕はもう行こう。」
「もう?」
15年ぶりの再会だと言うのに、随分あっけないものだと──そう思いはするが、めまぐるしく巡った月日は遠く……まだ自分たちに残された月日は長すぎるのだということを思えば、こんなたわいのない再会が、これからも積み重なっていくのだろうと……、引き止めることはしない。
「会いたい人がいるから。」
かすかに口元に上った相手の微笑をものめずらしげに見つめ、少年は首を傾げる。
「炎の英雄ですか?」
この辺りで聞く名と言えば、それくらいだと……「聖者様」と呼ばれて久しい少年が首を傾げると、世俗から遠く離れた身である少年は、ゆるくかぶりを振って否定する。
「……いや……興味がない……この国の行く末も、ここに生きる人達の意思で変わっていくだけの話だ。」
「……………………。」
「僕が興味があるのは。」
そこで、一度言葉を区切って。
彼──……かつて赤月帝国を滅ぼした英雄、「ルイス=マクドール」は、昏い色を宿していた瞳に、強く鋭い光を乗せて、ヒタリ、と前を見据えた。
その先には、いまだ積み重ねられた瓦礫が……ある。
「ココから消えた、風の紋章の行方だけ……。」
同じように、少年も──デュナンの英雄と呼ばれている、「アーシェ」も、ルイスの視線を追い、呟く。
「……………………自由に、なれたんでしょうか?」
そこに含まれた声色を的確に読み取り、ルイスは感情の宿らない目をアーシェに向けた。
かつて、……彼に問い掛けたように。
「……君は、自由に憧れている?」
「────……僕、は………………。」
少しだけ笑って、昔、「自由って、何なのでしょうね」……そう答えた少年。
今は、答えを出すことはなく、ただ切なく揺れる眼差しを空に飛ばしている。
そんな彼に──当時、答えなかった答えを、くれてやる。
「僕は、自由になるくらいなら、世界なんて滅びてしまえばいいと思うよ。」
「────!」
息を呑む気配がした。
そんな相手に、淡々と──表情も変えずにルイスは瓦礫を見つめる。
辺りに吹く風が、その瓦礫の周囲を緩く……力なく漂っていた。
──まるで、なごりを惜しむように。
「300年生きたら、変わるかもしれないし、そうじゃないかもしれないけど……。
今は、そう思う。」
「…………。」
ギリ、と、アーシェの拳が握り締められる。
つらそうに……悲しそうに目を歪ませる彼を、優しい子供だと思った。
──今も昔もまったく変わらない物なんて、どこにもない。
でも。
「けど、実行はしない。
僕は、300年も生きてはいないし、世界の何も見てはいないから。」
少しずつ変わっていったとしても、本質が変質するものだとは、決め付けられてはいないから。
「もしかしたら300年後、僕は世界のすべてを見て、再びこう思うかもしれないから。」
「?」
「──世界が、好きだと……。」
唇から零れた瞬間、──なんて嘘臭いのだろうと、ルイスは吐き気にも似た感覚を覚えた。
それでも……なぜだろう。
口にした瞬間、甘酸っぱいせつなさも同時にこみ上げてくるのだ。
それはきっと。
自分を生み出したこの世界を、──あの幸せな日々を、少しでも愛しいと思う心が、自分の中にあるからだ。
「好き、だから……なくしたくないから……この道を選ぶことも、あると?」
アーシェが、泣きそうな声で呟く。
──君は、昔も今も優しい人。
「好きだから──最後まで足掻こうと。」
その形は、違うかも──しれないけど。
「────………………僕はそれじゃ、未来、どう思うんでしょうか。」
「今、君の心にあるのは?」
「──わかりません。」
胸に手を当てても答えはでない。
だから、緩く被りを振って答える。
「僕は──こう思う自分が憎くて仕方がないと思うときもあるけれど、やはりそれでも、思うよ。
後悔をしたくないと、後悔はしてはいけないと、そう思っていた。
でも、君と会って、後悔してもいいのではないかと思うようになった。
今、僕は、後悔をしても──昨日の自分に負けても、いつか、未来……気が遠くなるほどの長い月の果て、生きていて良かったと、世界を愛せてよかったと、そう思えばいいと思う。
今の僕を生み出してくれたすべてを愛し、今の自分があることを、今の自分を生み出した過去すべてを、愛しいと思えればと。
辛いことも、悲しいことも──なにもかも。」
「ああ、それは……一番辛くて、難しいことですね。
僕には、考えることも…………したくない。」
アーシェは、羨望にも似た眼差しをルイスに向けた。
世捨て人のような生活を送っていて、忘れ去られることを望んでいる彼だけど。
それでもやはり……彼の中にある魂は、輝きは……なんて眩しく優しいものなのか。
「そう思うことも、あるさ──僕らには、長い月日が待っている。」
「ええ、そうですね……それが、僕の罪。」
「……罪だと、まだ?」
一瞬、ルイスの目に労わりの光が見えたのを認めて、アーシェは小さく笑った。
泣きそうな顔で笑うのは、きっともう……彼の前でだけだ。
「…………自由に、なれて…………本当に、幸せなのでしょうか?」
「幸せ、だろう?」
問い掛ける声に、それでもアーシェは望む答えを返せない。
自分は自由だ。
王という枷からも、死という枷からも、老いるという営みからも解放された。
それでも──それが本当に、幸せなこと?
「──。」
自分はまだ、答えを出すことが出来ない。
出すことが出来ない以上、死ぬわけにはいかない。死を選ぶわけにはいかない。
そう思えば──不意に、うらやましいような気がしてたまらなかった。
「最期に、望むものを知り、手にすることができた。
それはもしかしたら、本当に……心から望む物ではなかったかもしれないけれど。
でも。」
「最期に、自分が本当に望むことを行える人は少ない。」
言葉の先を奪って、アーシェは小さく笑って彼を見やった。
「…………僕と君が、彼に出会いさえしなかったら、彼はこんな人生を歩んでなかったと、君はそう思ってる?」
そんなアーシェを見返して、ルイスが静かに尋ねる。
その言葉は──たぶん、彼の運命を共有した自分たちにとって、とても、重い、言葉。
「──わかりません。………………でも……生きていてほしいと、そう、思っていたのは、本当です。」
「君は、やはり、優しいね、アーシェ。」
「──────……………………っ。」
久し振りに、名前を呼ばれて、どくん、と心臓が鳴った。
誰にも名前を告げずに歩んできた中、名前を呼ばれたのは……何年ぶりになるか。
「やさしいよ。」
続いた言葉に、アーシェは今度こそ何もこたえられなくなって、きゅ、と手を握り締めた。
──聞き返すことはできなかった。
なら、ルイスさんは?
ルイスさんは──生きていてほしいと、そうは思わなかったのですか、と。
決して、聞き返すことなんて、できなかった。
そうして、知るのだ。
うらやましいと思うことも。
ずるいと思うことも。
痛いと思うことも。
悲しいと思うことも。
こうして、僕達は、生きていかねばならないのだということも。
あなたが300年なら、僕は一体何年を区切りにするんでしょうね…………?
未完成構想曲。
バッドエンディングな1と2と3が題材。
最終決戦後、最終決戦の舞台にて。