炎の英雄ネタが一番下に書き下ろされております。
幻想3ネタばれ要注意〜。
2主「スイさん、ずっるーいっ! ずるいずるいずるいです」
坊「誰も一言も、『金額に見合った情報をやる』とは言ってないじゃないか。」
フッチ「いえ、言ってませんけど──ていうか、あの……僕の質問に関しては、聞いてくださらないんですか、スイさん?」
坊「ん? んー……何か聞きたいことってあるの? だって僕、幻想3には名前しか出てないんだよ?」
2主「あ、それです、それ! アップルさんから聞いたんですけど、劇の台本が出来ているそうですね、僕とスイさんの。」
坊「ああ、あの、『英雄を駆逐しよう計画』! どうしてか分からないけど、あの劇を見てもなお、ミルイヒのファンが増えないのが、非常に残念だと思っているよ、僕は。」
フッチ「……………………え………………? って…………あの……………………。
あの、台本…………? もしかして………………?」
坊「ミルイヒを口車に乗せるのは、凄く簡単だったよ(朗らか)。」
フッチ「………………………………。」
坊「さ、これでフッチの質問にも答えたし、そろそろ帰るとしようっと♪ 今日はグレミオのシチューの日〜♪」
2主「って、スイさん、スイさんーっ!? 今日は一緒に、キャロまで行ってくれる約束じゃ…………っ! あ、あーあーあーあー……早い……早すぎる……っ!
隙を見せたら帰っちゃうところ、ほーんと、15年前とちっとも変わってないよ……うう。」
フッチ「あはははは……苦労してますね、リオさん。
結局、あの……1万ポッチ、もっていかれたようですけど?」
2主「んー……あれはいいの、どーせシュウに必要経費だって落とさせるからー。
ちぇー……スイさんの年齢なんて、僕だって知ってるやーい……ブツブツ。」
フッチ「──……。」
フッチ「えーっと……なんで僕、呼ばれたんでしょうか?」
シーナ「まぁまぁ♪ ごまかし用の人数は多いほうがいいって言うじゃんか。」
ルック「ああ……単細胞の考えそうなことだ。」
ヒックス「えーと……それで、リーダーさん? 非常事態とのコトでしたけど……?」
2主「そう! 皆……それも、元々解放軍に参加していた男性諸君に集まっていただいたのは、他でもない!」
フリック「この面子が集まると、ロクなコトねぇんだけどな。」
ビクトール「お前には、特にな(にやり)。」
2主「そう! それは、マクドールさんが、誰にチョコをあげるのか、知っている人を教えてほしいんだっ!!」
一同「…………………………。」
ルック「…………馬鹿サル……。」
2主「皆なら、知っていると思うんだけど、今年はマクドールさん、チョコを上げる人が増えたらしくって……そこで、その競争相手が誰なのか、探りを入れてみようと思う。」
シーナ「…………お前なー…………。」
ルック「直接聞けばいいだろ、そんなの。」
2主「そんなの、怖くて聞けるわけないじゃないか!」
ということで、皆さん、マクドールさんのチョコリストを持っている人を、探してくださいっ!」
フッチ「………………って…………そんなの……一人しかいないと思うんですけど…………。」
ビクトール「だろーな。」
フリック「同感。」
2主「(聞いてない)さぁ、リスト探しに出発出発ーっ!」
フリック「いや、だから一人しか居ないわけだから、行く先って言ったら決まってるだろーがよ…………。」
2主「ということで! グレミオさんっ! スイさんが誰にあげるのか、教えてほしいんです!」
グレミオ「ということで……って、来るなり早々、どうなさったんですか、皆さんおそろいで? あ、そうそう、いいお茶が入ったんですよー。今お入れしますね〜。」
2主「え、本当ですかー!? わーい♪ グレミオさんのお茶、おいしいんだよねー。」
ルック「こら、そこのサル。」
シーナ「って、グレミオにスイの大勢いる義理チョコの相手を聞くんじゃなかったのかよ!」
ビクトール「が、グレミオのお茶とお茶菓子の魅力は大きいな。」
2主「はっ! そうだった! あやうくグレミオさんの策略に引っかかるところだったよ……っ!」
フッチ「え? 今の、策略なんですか?」
グレミオ「ちょうど、バレンタインの試作品のケーキも仕上がったんですよ〜。味見してくださいますか?」
2主「じゃ、そういうことで皆! グレミオさんから話を聞くのは、チョコケーキを食べながらっていうことで!」
シーナ「意義なしっ!」
ヒックス「…………えーっと…………いいんでしょうか、これで?」
フリック「いつものことだろ…………。」
ルック「あ、グレミオさん、僕のお茶には砂糖入れないでね。」
シーナ「てめ……いつのまにさっさと座ってやがる…………。」
ルック「行動が遅い人間に、とやかく言われたくないね。」
グレミオ「はーい、それじゃ、皆さん、ソファに座って、待っててくださいね〜。」
ヒックス「あ、は、はい!」
こぽこぽこぽこぽ……
グレミオ「ぼっちゃんの、義理チョコリスト……ですか?」
2主「はいっ! ……んーっ、おいしいーっ、幸せーっ!」
シーナ「あ〜、こういうの食うと、他でケーキとか食べれなくなるよなー。」
フッチ「でも、シーナさんは、女の人から貰ったら、どんなものでも食べちゃうじゃないですか。」
シーナ「あれは別だろ、別。」
ルック「所詮ただの色情魔だからね、シーナは。」
シーナ「…………っ。」
フリック「……ま、とにかくさ、グレミオ? わりぃけど、リスト作って、2主に渡してやってくれねぇか?」
グレミオ「はぁ……用意してあるのを書き写してさしあげますけど……そんなもの、一体どうするつもりなんですか?」
2主「もちろん、訪問するんですっ!」
シーナ「そうそう、訪問して、片っ端からぶっ飛ばして、スイからもらえないようにする、と(笑)。」
グレミオ「(←聞いてない)……あっ! もしかして、2主君たち、ぼっちゃんがチョコを配るのを手伝ってくださるんですかっ!?」
きっと、ぼっちゃんも喜びますよ〜。」
フリック「え? おい、誰がそんなこと言った!?」
グレミオ「クレオさーん、パーンさーん! 2主君たちが、明日、手伝ってくれるそうですよーっ!」
2主「え、え、え……って、あの……、グレミオさぁんっ!?」
ビクトール「あ、このクッキーもうめぇ。」
ヒックス「あ、ほんとだ。」
シーナ「って、そんな事言ってる場合じゃねぇだろ?」
ルック「……んの、馬鹿サル……っ。」
2主「って、ええええっ!? ぼ、僕が悪いのっ!?」
フリック「こりゃ……今夜はココに泊まるの決定だな……。」
2主「うーん……なんだかんだと、グレミオさんに引き止められて、気づけばもう明日がバレンタイン本番じゃないか。」
ビクトール「飯が美味かったから、俺は満足だけどな。さーて、そろそろ帰るか、フリック?」
フリック「は? 明日、スイがチョコを配るのを手伝ってくんだろう?」
ビクトール「馬鹿言え。せっかくタダでウィスキーボンボンをもらえる日に、なんで本居地を空けなきゃいけねぇんだよ。
レオナはなんだかんだ言って、そういうのはくれるしなー。」
フリック「呆れたヤツだな……。」
ビクトール「おい、シーナ、フッチ。お前ら、明日配り終えたら、俺んとこに連絡くれよ。」
フッチ「え? それはいいですけど……。」
シーナ「なんでだよ、おっさん?」
ビクトール「その後、グレミオのブランデー入りチョコケーキを貰いにくる。」
フリック「………………っ、お、お前なぁっ。」
2主「だ、ダメですよーっ! そんなことしたら、僕たちの分が無くなるじゃないですかーっ!」
ヒックス「あの……ぼ、僕、帰ってもいいですか? 明日は、テンガアールと約束しているので……。」
2主「何!? じゃ、ヒックスは、スイさんからのチョコがいらないっていうのっ!?」
ヒックス「え、いや、それは──その…………っ。」
フリック「…………はー……………………って、ルック、お前、何してるんだよ?」
ルック「付き合ってられないから帰るんだよ。」
シーナ「とか何とか言って、今日までココに居たじゃないかよ、お前ら。」
ルック「………………明日は、あいつが居るわけじゃないのに、どうしてココに居なきゃいけないのさ?」
シーナ「……お、まえなぁっ!」
坊「ちょっと、みんな? 揃ってる??」
2主「まっ、マクドールさんっ!」
坊「お風呂空いたから、入っておいでよ。」
2主「…………マクドールさんのお風呂の後…………vv」
フリック「────…………(←ちょっと眩暈がした)あのな……2主……。」
ヒックス「あ、は、はい! あ、あの……マクドールさん…………、僕、明日なんですけど……。」
坊「ん? ああ、ヒックスはテンガアールとの約束があるんだろう? 分かってるよ……グレミオには僕から言っておくから。」
ヒックス「ハイ……すみません。」
坊「ううん──あ、そうだ。明日、悪いけど、ついでにテンガアールに持っていってもらえるかな?」
ヒックス「? 何をですか?」
坊「チョコレート。」
2主・フリック・ビクトール・シーナ・ルック・ヒックス「……………………っ!!!???」
坊「昨日、ヒックスが帰ってこないから、明日は絶対に帰るように言ってくれっていう手紙を貰ってね。
その中に、チョコが入ってたから──ちょっと早いけどって。」
ヒックス「…………テンガアール……素早い…………。」
2主「そ、その手があったのか……っ(愕然)。」
坊「──あ、それと、ルック。」
ルック「?」
坊「お風呂から上がったら、後で部屋に来てよ。」
ルック「…………また、なんで?」
2主「……っ。」
坊「なんでって……自分が本を探しておいてくれって言ったんじゃないか。見つかったから、見にきてって言ってるんじゃないか。」
ルック「────…………あ、そう。」
シーナ「………………俺も、一緒に行ってもいいか?」
2主「あっ、ずるいっ! 僕も! 僕も行きたいですっ!!」
坊「? いや、別にルックに本貸すだけだからさ??」
ルック「………………今日結局帰れないじゃないか……。」
坊「それじゃ、グレミオ、行ってくるよ。」
グレミオ「はい、お気をつけて、ぼっちゃん。2主君たちも、頑張ってくださいね。」
2主「はーいっ! よしっ、頑張って、配るフリをして残すぞーっ!」
シーナ「つぅか、なんかミミチイような気がするんだよな……俺。」
ルック「いまさら気づいたのかい? 馬鹿だね……。」
フッチ「って、ルック、お前、行かないのか?」
ルック「誰が? 何のために?」
2主「よし、ライバルは減ったっ!」
坊「何してるのさ、さっさと行くよ。」
シーナ「へいへい。きちんと荷物もちをさせていただきますよ。」
坊「最初は、レパントのところだな。真っ先に行かないと、拗ねるからなー、あいつ。」
シーナ「うう……息子として、それはなんだかなさけねぇぜ……オヤジ……。」
2主「僕は最後でもいいですよー。」
坊「あ、そうそう、ルック。」
ルック「…………。」
坊「留守番するなら、覚悟しておいたほうがいいよ。」
ルック「?」
坊「埋もれて墓場になるかと思うほどの、チョコ山の応対が、待ってるから(さわやかな笑顔)。」
ルック「……! じゃ、そういうことで。」
グレミオ「さー、ルック君っ! はりきって、今朝早くに届いた分の処理から始めましょうかっ!」
ルック「って、誰も手伝うなんて言ってないっ!」
坊「それじゃ、いってきまーっす!」
グレミオ「はい、ぼっちゃん、気をつけていってらっしゃい!」
2主「うう……疲れた……まさか、トラン共和国を一周することになるなんて、思わなかったよ。」
シーナ「あー……帰りの空の袋が、すんげー重く感じたぜ……つぅか、1日で国を一周するとはなー……。」
フッチ「しかも、歩きで……信じられない。」
フリック「ありゃ、歩きつぅか──……ははは……。」
ビクトール「結局、チョコの袋は空になっちまったよなぁ、2主?」
2主「う……だって、子供とかから奪うわけにはいかないじゃんか……マクドールさんもマクドールさんで、今回は戦争孤児の慰問訪問だって、言ってくれたらよかったのに。」
シーナ「しょーがねぇなー……今年はチョコ無しってことか。」
ルック「………………。」
グレミオ「はーい、みなさん、昨日はお疲れ様でしたー! 真夜中までありがとうございました!」
坊「グレミオと作ったんだ、皆で分けて食べてね。──一日遅いけど、いつもありがとう。」
グレミオ「さ、どうぞ。腕によりをかけたチョコレートケーキです!」
2主「……う……お、おいしそうだけど……。」
シーナ「なんつぅか、嬉しいけど……。」
フッチ「うわー、おいしそー………………だけど…………。」
ルック「…………これは、ギリなのか、ただの労働のお礼なのか、微妙だね…………。」
フリック「それを言うなって。」
ビクトール「ま、なんでも食えたらいいさ。」
ダイジェストっぽい感じ。
ヒューゴ「……あれ、珍しいな。」
スイ「どうかした?」
ヒューゴ「あ、うん。ほら、見える? エッジさんが、珍しく怒鳴ってるから。」
スイ「………………ああしてると、まるで一人漫才みたいだよね。」
ヒューゴ「……っ、あ、そうか。スイは知らないんだったっけ?
エッジさんが持っている剣は、しゃべるんですよ、実は。」
スイ「うん、知ってる。」
ヒューゴ「え──……(エッジさんから聞いたのかな?)。」
スイ「でも、なんだか凄い剣幕だけど、大丈夫なのかな?(星辰剣、怒ると手がつけられないからなー……また戦うのは、ご免だよ、まったく)」
ヒューゴ「そうですね。止めてきたほうがいいかもしれない。」
スイ「ヒューゴ、あまり近づかない方がいいよ? 危険だし。」
ヒューゴ「え、でも、いつもエッジさん、あの剣のこと、アッサリと扱っているんだよ?
なのに、何か今の雰囲気は険悪っぽいし──そういうときは、第三者が入ったほうがいいだろ?」
星辰剣『そんなに言うなら、自分の目で確かめてくればいいだろうがっ!』
スイ「……──てっ、まさかソッチかっ!? まずいっ!」
ヒューゴ「え……っ!? 何っ。雷!??」
スイ「ヒューゴっ、どいてっ!」
ヒューゴ「え? って、スイ!? ちょっと、スイ……っ!」
エッジ「…………っ!? くっ、……なんだ、この波動は……っ!? 押さえ切れない……!!」
スイ「星辰剣っ! 止めろ……っ。」
エッジ「……っ。」
ヒューゴ「スイ! エッジさんっ!」
スイ「………………穴が広がる……っ!! ダメだ……っ、巻き込まれ…………っ!?」
エッジ「くぅっ──何が……おきて……っ!?」
ヒューゴ「スイ!!」
星辰剣『……っ、バカなことをする……っ。もう、止められんぞ、スイ=マクドール!!』
スイ「……分かってるに決まってるだろ! くそっ、エッジ君っ、手を離してっ!」
エッジ「……なこと、言われても……っ。」
スイ「──……っ。」
どんっ!
エッジ「……っ、あ……っ。」
スイ「星辰剣! 後で、必ず道を開けよっ!!」
星辰剣『努力しよう。』
ヒューゴ「スイ! エッジさんっ!?」
ぎゅぅぉんっ!
スイ「…………〜〜くそっ! 帰ってきたら覚えてろよ……、星辰剣……っ。」
星辰剣『………………すまん。』
ヒューゴ「スイ! スイっ!? 何……何が起きてるんだ!?」
エッジ「………………消えた…………?」
ひゅぅおぉぉぉぉー………………。
スイ「…………別に、どこに飛ばされようとも、なんでもいいけど……問題は、ココがどこで、いつで、そして──紋章も宿してなければ、武器も持ってないっていう己の状況だよな………………。」
見渡す限りの草原。遠くに連なる山脈。かすかに鼻腔を擽るのは、砂の匂い。
スイ「さて……とりあえず、昔はウロウロしていたら、次元の穴が出てきたけど。
いつまでウロウロしてればいいのか──っていうか……その前に、命の危機?」
そのそこかしこから、殺気にも似た気配を感じる。
チラリ、と見えたのは──見たこともないモンスター達。
未来か、過去か、現在か。
どこの土地なのかすらも分からない場所で──唯一分かるのは、方角だけといったところだろう。
スイ「…………ここで、ソウルイーターを使うのは……無謀、だし、危険……だよなぁ…………。」
ココが過去の世界であったのなら、同時に同じ紋章が二つ存在することになってしまう。
その状態では右手の紋章が開放できないことは、過去──300年前の世界に旅立ったときに経験済みだった。
未来の世界であったとしても、同じことが言えるはずだ。
と、なると。
スイ「素手で戦うとか、そういうしゃれにならない事態は避けたいところだけど。」
それしかないのだろうなと、半ば自棄を覚えつつ、心の中で星辰剣に悪態づく。
せめてココがどこなのかさえ分かっていたら、逃げるという選択肢も使えただろうに──と、そう思った瞬間。
どごぉぉぉぉんっ!!!
激音と共に、まばゆいばかりの光が炸裂した。
それは、瞬く間に周囲に群がっていたモンスターを蹴散らしていく。
スイ「……雷の紋章……っ!? いや──それにしては、強い……っ。」
目に痛い輝きから目を庇い、眇めた視線の向こう──断絶魔が広がる中、一人の男の影が見える。
長身の男は、裾の長いコートを無造作に羽織、それを風になびかせていた。
その男の姿には、見覚えがあった。
スイ「……ゲド、さん……っ。」
どこか安堵して呼びかける。
しかし、片目の男はそれに答えることなく、無言で一瞥をくれるだけ。
ゲド「……………………。」
スイ「────。」
どこか違和感を感じながら首を傾げるスイへと、ゲドが目を細めた。
ゲド「……………………無事か。」
スイ「ありがとうございます。助かりました……星辰剣に飛ばされてしまって……ココがどこかも分からなくて、困っていたんです。
でも、ゲドさんとあえて良かった。あなたが居るということは、別世界に飛ばされたという、最悪の可能性は無いわけですし。」
ゲド「……………………。」
眉を潜めるゲドの様子に、先ほどから抱いていた懸念が──形になったような気がした。
スイ「? ゲドさん?」
ゲド「…………お前……何者だ…………? なぜ俺の名を知る?」
スイ「…………………………!」
瞬間、悟らざるをえなかった。
ココは、彼と自分がまだ出会っていない世界。
けれど、彼が「例の紋章を宿している事実がある世界」。
自分が居た世界よりも、100年以内の……過去。
スイ「そういう……展開かよ。」
やはり、ココが、現代の──別の場所、という可能性は無かったか、と、どこかゲンナリしながら思う。
スイ「……せめて、それほど時をさかのぼってなければいいけど──(でも、星辰剣、ソウルイーターの記憶を呼んだか何かして、昔は300年前に飛ばしてくれたからな……)。」
ゲド「…………………………。」
いぶかしげにスイを見つめるゲドに、スイはどう説明していいやらと、溜息を零しながら視線を逸らす。
その先──ゲドの雷の紋章により、駆逐されたモンスターたちの向こうから、駆け寄ってくる人影が二つあった。
?「ゲド! 大丈夫か!?」
?「派手にやったな……。」
ゲド「………………遅い。」
眉を顰めて叱咤するゲドに駆け寄る人。
スイ「……っ。」
そこに居たのは、彼といつも行動している十二小隊ではなく──見知らぬ顔。
一人はスイの外見よりも2つ3つばかり年嵩の青年。
一人は、ゲドよりも少し若いくらいの男。
どちらも──そして3人揃えば、違和感を感じるほどに不似合い。
なのに、それぞれがもつ印象が酷く似通っていた。
?「──人が居たのか……。」
驚いたように目を見張るのは、短い金の髪の男。がっしりとした体格の上に、動きやすい長衣を纏っている。
涼しげな目元が印象的な男だ。
?「おい、あんた、口は利けるか? どこから来たんだ? 見たところ、そんな無用心な格好で……一人のようだが。」
スイをぶしつけに覗き込んでくるのは、3人の中で一番年下の青年。
黒い髪と、白い羽根。
その服装は、見たことがあった。
──そうだ。
スイ「…………ほのおの…………えいゆう………………。」
ビュッデヒュッケ城の、図書室にある本には、その彼の絵姿が、描かれていたのだ。
呆然と呟いたスイの言葉に、彼は軽く目を見張った。
?「…………ゲド、お前、また厄介な物を拾ってきたようだな。」
がしり、と太い指で髪を掻き乱す金の髪の男の呟きに、ゲドは不快げに鼻を鳴らすと、
ゲド「……アルトほどじゃないだろう?」
そう、忌々しげに呟いて見せた。
アルト「俺は、拾ってきてるワケじゃないぜ? 向こうが勝手に俺を祭り上げてくれただけだからさ。」
にやり、と笑う「アルト」──その名は、歴史書から失われた…………英雄の名前だった。
スイ「…………右手の紋章は使えない……たぶん、この世界にはまだテッドが生きているからだと……………………。
今の時代の紋章術では、一人に一つの紋章しか宿せない。武器に紋章を宿すことが精一杯。
………………………………………………僕は、足手まといでしかない…………………………………………。
せめて、平和な時代に飛ばされたなら、良かっただろうに──どうしてよりにもよって、炎の英雄の時代………………それも、ハルモニアとの戦いの真っ只中に落としてくれるかな、あの夜の紋章は……っ!
おかげで、ここから離れるわけにも行かない、下手な説明もできない、右手の手袋も離せない──冗談にもならない。」
自分がハルモニアに捕まるわけもいかない。
この時代に詳しいわけでもない。
グラスランドの歴史として、ココで50年前──つまり、スイが今居る時代だが──に起きた出来事は頭の中にははいっていたが、一人でココに残って生き残れるわけじゃない。
今の自分は、武器も紋章も使えない、ただの子供なのだから。
だから。
アルト「来いよ。俺はアルト。──真なる炎の紋章の、継承者だ。」
ためらいもなく右手を掲げて宣言してみせる男の差し出した手を。
取るしか、なかったのだけど………………。
────────いつの世も、天魁星の持つ瞳は、どれほど人を魅了することなのだろうか……………………と。
サナ「スイ! ほら見て、綺麗でしょう!? グラスランドには、こういう土地がまだたくさんあるの。
私たちは──この大地を失いたくない。
だから、戦うのよ………………、戦わなくては、いけないの。」
目を輝かせる娘の、凛々しい表情に宿る悲しさを、見過ごせるほど幼いわけじゃない。
アルト「別に、俺はグラスランドのために戦うわけじゃない。
ただ、自分の信念にしたがっているだけさ。
その結果として、この紋章を宿している。
それだけだ。」
口にしながら皮肉げに笑む目元を、見て見ぬふりできる程度には、大人。
スイ「……その紋章が重いと、そう感じることはないの?」
ひゅんっ、と、棒をしならせる男を見上げると、彼は少し驚いたように目を見張って──それから、笑った。
アルト「今の俺の枷になる程度にはな。
でも、これは一生の枷じゃない。
俺は、ずっとコイツと付き合っていくつもりはないからな。」
スイ「────………………。」
アルト「俺には、過ぎた力だ──ワイアットやゲドのように、俺はこいつを…………押さえ込むことが出来ない。
一生、かかっても。」
スイ「……………………………………。」
アルト「英雄なんてものは、一瞬の閃光であればいい。
そうだろう? スイ?」
スイ「僕には……答えられないな。」
アルト「……。」
スイ「だって、アルト? 僕たちにとって、人生の中でほんのひと時でしかないと、そう『覚悟』を決めた時間だったのだとしても。
人々の心には、一生残り続ける。
英雄として、救い主として、裏切り者として、────人殺しとして。」
アルト「ああ、そうだな。それの方が、多分、重いな。」
今まで、同じ年頃の天魁星と、同じ目線で話したことはなかった。
だからかもしれない。
それだからこそなのかもしれない。
彼の抱える孤独と、彼の抱える苦しさと、彼の抱える前向きであろうと自分を律する姿勢が。
アルト「でも、俺にはサナが居る。」
そう言い切るその盲目的なまでの──悲しさが。
スイ「君は、可哀想な人だけど──たぶんきっと、幸せになれる人だ。」
ワイアット「お前が来てから、アルトが時々考えこむようになった……あんた、何をあいつに言ってる?
あんたも、何か事情があるんだろう? その年で、その目は──俺たちに似ている。」
彼の手助けになれたらと、アルトが持つ武器を手にして一度だけ、彼の背を守って戦った。
その瞬間、回りに生まれたあの羨望と嫉妬を、痛く…………同時に、誇らしいと思った自分を、否定しなくてはいけない。
スイ「そう、かな? ──それはきっと、僕が…………戦争で父を失ったからだと思う。
辛くて、悲しくて……たくさんの死を、見てきたから。
だから、おんなじなんだと……思うよ。」
ワイアット「…………………………。」
長く生きる人の勘を、騙せるつもりはない。
けど、右手のことは内密に。
この世界に自分は、居ない人間なのだから。
だから。
スイ「誰よりも何よりも愛した人がそばに居てくれれば、きっと、凄く幸せなんだと思う。
そう思うから、アルトは戦うんでしょう? 愛した人を守るために。──その人の笑顔を、見ていたいと思う自分のために。
…………………………それって、すごく幸せで、痛くて…………ずるいよね。」
ワイアットは、その言葉を、誰よりも愛していた父を亡くした少年の言葉として受け取ったのかどうなのか、まるで分からなかったけど。
その日から、彼はスイを決して戦場に近づけようとはしなかった。
サナ「スイ……ダメよ、今は、外出禁止中。」
スイ「サナ。」
サナ「さぁ、ご飯を食べましょう? 今日のスープは、腕によりをかけたんだから。」
スイ「食べたい気分じゃないんだけどな。」
サナ「それは私も同じよ。今ごろアルトたちが戦っていると思ったら、食べれるものも食べれなくなるわ。
でも、食べなきゃダメなの。
彼らが帰ってきたとき、私達は笑顔で出迎えないとダメだから。
彼らが勝っても負けても、私達は、彼らの心の支えにならないとだめなのだから。
だから、食べましょう? おなか一杯になれば幸せになれるわ……ほんの少しでもね。
その幸せを掴み取れば、後はこっちのもの! ──それを大切に心の中に広げて……そうしたら、ほら。」
ニッコリと、花綻ぶように微笑む。
サナ「笑顔になるでしょう?」
ああ……と、気付く。
自分が戦場で先陣を切っている頃には心の片隅にとめることはあっても、深く思うことはなかったこと。
彼らもまた戦っている。
その気持ちは、いつも胸の中にあったけど。
スイ「……サナたちは、すごいね…………。」
サナ「あら、どうして?」
スイ「だって……笑える力をどこからでも引き出せるんだもん。」
サナ「幸せは、些細なことから大きなことまで、毎日どこにでも転がってるのよ。
私達は、その中から、幸せを選びくみ上げていくだけ。
こんな世の中だから……みんな、そうやって戦っているから、だから、少しでも笑顔で居ましょう?
幸せを、見逃さないように。
戦いの中の彼らが、幸せを見落とさないように。」
待っていることは、辛くて厳しい。
けれど、帰ってきてくれる人が居ることは、嬉しい。
こうして、僕を待っていた人も居たのだろうか?
──目を閉じれば、浮かび上がるのは、もう長い月日顔を見せていない昔馴染みの仲間たちの顔。
嗚呼………………幸せだったね。
だから僕は、生きていくことを選んだんだ。
ゲド「……………………アルトは…………お前に惹かれている……………………。」
スイ「…………………………。」
ゲド「──お前は……受け入れることが、できるのか?」
スイ「………………………………………………僕は……………………待っている、人が………………居る。」
ゲド「──だろうな。」
スイ「でも、彼には……サナも居るし、ワイアットも、ゲドも居る。」
ゲド「あいつは、仲間よりも一人の人間を選ぶ。そういうヤツだ。
……あいつは、お前を選びたがっている。
それは、お前も気付いているんだろう? スイ?」
スイ「──……っ。」
ゲド「そして……お前も…………。」
スイ「……っ! …………………………ぼく、は………………っ。」
黙っていることがある。
いえないことがある。
それでも誰も聞かない。
それでも誰も触れない。
──好きだと、そう言えば、何もかもが変わると、そう言うの?
ゲド「お前とアルトの問題だ。──だが、時が近づいている。それを肝に銘じておけ。」
スイ「────ゲドは…………優しいから………………だから、時々、すごく……痛い。」
掌を見つめて、慟哭する青年の身体を、必死に抱きとめるのが精一杯だった。
湧き出てくる力を、暴走する力を──ただ、必死で抱きしめてやるのが精一杯だった。
アルト「……っ、俺は……炎の英雄と呼ばれているけど…………でも、俺の力では………………っ。」
スイ「…………テッド……テッド、力を貸して……お願い、今だけ…………。
わが右手に宿りし紋章よ、生と死の紋章よ! 僕に……力を……っ!」
こんな時ばかり、祈りが届いてほしいと、そう願いのは…………罪でしょうか?
それでも、全身全霊をかけて祈った。
…………これで…………すべてが、終わると。
そう、知っていたけれども。
アルト「なぁ、スイ? 俺が、この紋章と戦って、戦い続けて──そうしたら、その末に、お前ともう一度会うことが出来るのかな?」
スイ「さぁ……どうかな?」
アルト「……でも俺は、この紋章と付き合うつもりはないけどさ。」
スイ「……僕に、会いたくないんだ?」
アルト「それが、どれほど遠い未来でも、近い未来でも、この紋章さえあれば、俺は不老だから──たぶん、頑張り続ければお前と会えるんだろうな。」
スイ「……かもね。」
アルト「でも、俺はお前に会いに行かない。」
スイ「…………。」
アルト「俺は、遠い未来に居るお前を求めて行き続けるよりも、お前のことを忘れて、新しい恋に生きるほうがいい。」
スイ「…………。」
アルト「俺には、そういう生き方しか出来ない。」
スイ「…………うん、知ってる。」
アルト「──それにお前は、今からの世界を俺と共に生きようと言っても、生きてはくれないだろうしな。」
スイ「うん、そうだね。」
アルト「…………。」
スイ「僕も、君も──譲れないものがあるから。」
アルト「ああ…………ったく、お互いに、難儀な性格だよなぁ?」
スイ「そうだね。──でも。」
アルト「ん?」
スイ「僕は未来……君の意志を継ぐ者と出会うよ。──きっと。」
アルト「……………………そして、そいつに惚れちまうのか?」
スイ「さぁ、それはどうだろう? 君が新しい恋をするように、僕も新しい恋をする。
でも──その気持ちは。」
アルト「……。」
スイ「この思いとは、まるで別のものだから。」
アルト「ああ──そうだな。それは、俺も同じだ。
この世界で、お前が持つ紋章と同じ紋章を身につけているヤツを見かけても、俺がソイツに惚れるとは限らないしな。」
スイ「そういうこと──ああ、なんだ、やっぱりアルト、決めてるんじゃん。」
アルト「当たり前だろ? ……俺にはやっぱり、荷が勝ちすぎる代物だよ。
──何よりも俺は……永遠なんて信じてない。」
スイ「僕は信じてるよ。えいえん。」
アルト「……嘘付け。」
スイ「信じる。君が持つこの紋章に、君のすべてが刻み込まれている──君が思ったこと、君が抱いた傷、君が望んだこと。
それを、未来、君の意志を受け継ぐ者が受け継ぐ──そうやって、少しずつ積み重ねられていく。
その末で、この紋章を受け継いだ人が………………運命を、変えていけたらしい。」
アルト「……お前は、それを見ていくのか?」
スイ「さぁ、どうだろう? その頃には、新しい恋に生きてるかもね!」
アルト「まー、俺は俺で? 色々考えていることもあるわけだし?
────絶対、そうそう早く見つからないように隠してやるからな。」
スイ「どうだろ? どーせ、ワイアットやゲドやサナ辺りには、しっかりちゃっかりばれてると思うけど。」
アルト「ゲドは許してくれないだろうさ。だから、俺の紋章を探すことなんて、絶対ありえない。」
スイ「分かっててやるんだ?」
アルト「当然。俺は……愛に生きる。人に愛されて生きる。人を愛して生きる。ともに……生きていきたい。」
スイ「さびしがりやめ。」
アルト「だって、しょうがないだろ? お前が一緒に生きてくれないんだから。」
スイ「だって、しょうがないだろ? 僕は、帰りたいんだから。」
額をあわせて笑いあう。
そんな些細な幸せが……嬉しくて、悲しくて。
ジンバ「お前に会って、アルトは真の紋章を封印することを、決意したのかもしれない。」
ゲド「……あいつは、逃げたんだ。
──未来、待ち続けた未来……お前と会うことを恐れて。」
スイ「違うよ。
アルトは常に自由だった。自由を求めていた。人を愛していた。愛することを知っていた。
愛されることも、知っていた。
──ただ、それだけ。
それだけなんだよ。
そして僕は──そんな彼だから愛した。
それはきっと、君達と同じだと思うけど?」
そして今、彼の意思を継ぐ者が隣に居る。
彼に似た瞳を持ち、彼と同じように希望を抱き。
けれど、彼とは似て非なる人が。
スイ「昔…………すごく好きだった人が居た。
彼とともに生きることを望まなかったといえば嘘になるけど。
でも。
──彼と僕とじゃ、価値観が違ったから、一緒に生きてはいけなかったんだ。」
そう、微笑んで笑えることの出来る……恋をした。
THE END
──なんかこういうぼっちゃんと炎の英雄ってどうでしょう?
ちょっとヒュー坊入ってるんですが(笑)。
お互い、好きなんだけど、サバけてるんです。
関係的には、坊の方が一応年上なのですが(ほら、年齢的に……笑)、年の近い友人感覚です。
リオに対する「お兄さん」「先輩」姿勢の無い状態で、年上だからと気を使うこともなく、テッドに近い感覚で、同じ目線で語れる人。
同じ時代に生きていたら、いいライバルか戦友になったことでしょう。
そして多分、同じ時代に生きていたら、バカップル間違いなしです(笑)。
すみません、うちの炎の英雄、こんなおちゃらけた人になっちゃいました。
まだイメージ固まってないので、とりあえずですけど。
アルト「なーなー、スイ、まだ仕事おわんねぇのかよ?」
スイ「うっるさいなー、たまには静かにおとなしくしてられないの? 言っておくけど、僕が仕事するね、って仕事始めてから、たったの1時間も経ってないんだよ!?」
アルト「つまり、俺はもう1時間もお前に触れてないってことじゃないか。」
スイ「…………バカ? ……もう、やってらんない。」
アルト「なー、スイー。もうそろそろ休憩にしよーぜ。」
スイ「時々本気で思うけど、ゲドとかワイアットとか、絶対、君に関して迷惑をこうむっていたと思うね。」
アルト「そうでもないぜ? 俺、ちゃんと公式の場では、いい男演じてたもん。」
スイ「ああ、役者ってヤツか。」
アルト「そうそう。で、スイ? 仕事は終わったか?」
スイ「終わるか、このやろう……っ! 人の仕事の邪魔をしておいて、良く言うよ、まったく。
たまには真面目に仕事をしないと、僕たち、一緒に旅する資金がなくなっちゃうんだよ?
それとも何? 君の昔取った杵柄で、夜盗でもしろってこと?」
アルト「ああ、そりゃ無理だ。この辺りにはハルモニアも来ないからな。」
スイ「………………なら、あと2時間は僕を一人にしておいて。」
アルト「んなことしたら、俺が暇じゃん。」
スイ「──ああ、じゃ、暇じゃないようにしてあげようかー? ほーら、一瞬痛いのさえ我慢したら、すーぐに気持ちよく、お仲間に会えちゃうよー??」
アルト「待て、スイ、お前、笑顔で右手の手袋を脱ぐな。」
スイ「恋人の右掌、見るの、ひっさしぶりー、って喜んで、いつものように右手の甲にキスしてくれてもいいんだよ? アールト?」
アルト「…………うーわー…………俺、たしかにお前の右手の甲にキスするのはスキだけどさー、今にも食っちゃいます風に赤く輝いているのに飲まれる趣味はないっつぅかなんつぅか。
──俺としては、食われるよりも、お前を食いたかったり?」
スイ「──────────……………………………………わが左手に宿りし紋章よ、炎を司りし情熱の………………。」
アルト「こらっ! こらこらこらこらっ! いくら俺が元真なる炎の紋章の主だからって、火の体性ついてるからって、さすがにお前の魔力で烈火の紋章を、そ・れ・も、真面目に唱えてぶちかますような特大級のものをくらったら、死んじまうだろーがっ!?」
スイ「なら、その軽薄な口を閉じろ、この女好き!!」
アルト「それは誤解だぞ、スイ? 俺は女好きなんじゃなくって。」
スイ「分かってる! 分かってるから黙ってて。」
アルト「なんだ、分かってるのか。なら2時間黙っててやるから、とっとと仕事終わらせてくれよ。」
スイ「………………………………………………。」
アルト「スーイ? 俺、そんなに忍耐強くないからな? 早く終わらせないと、無理矢理押し倒すぞ?」
スイ「──……まったく、ほんとに、なんていうか、もー…………君が子供に還るのは、サナの前だけじゃなかったのかよ……っ、ったく。」
アルト「しょーがないじゃん。サナが、お前にだけは許すって言ってくれたんだからさ。」
スイ「あー……のしつけて返しとけば良かった。ちっ、あの選択は、一生に一度の不手際だな、まったく。」
アルト「あはははは、しょーがないしょうがない。だって俺って、お前にとったらそれほど魅力的だったってことじゃーん?」
スイ「言ってろ。」
アルト「ハイハイ♪ じゃ、お前が仕事終わるまでの間、どれだけ俺がお前を愛しているか朗読してやろう!」
スイ「…………旅の日記を朗読したら、窓から放り出すからな。」
スイの右手の甲に、好きだからとキスできるのは──特別何かの意味もなく口付けられるのは、彼だけ。
なんとなく、そんな感じ。
お互いに遠慮もなく言い合える関係。