──長く信じていた真実が、開けた瞬間。
 この想いが憎しみに変わったらいいと──そう、思った。

 バカみたい。
 そうなったら「いい」なんて思っている時点で、あたし。


「………………もう…………遅いんじゃないの………………っ。」







「これは、リラが好きに使いなさい。」
 ほら、と、つっけんどんに手渡された花。
 可憐で美しい、はかない……けれど、偉大なる力を秘めた花。
 見上げた先で、マーニャが、照れたように苦笑を浮かべていた。
 見つめる先で、誰もが頷いてくれる。
 誰もが、彼女が「誰」に使うのは、疑っては居なかった。
 彼女が幸せだった頃、彼女の傍に居てくれた娘を生き返らせるに違いないと、そう思っていた。
 だって彼女は、ずっとその形見を、持ち続けていたのだから。
 なのに、リラは、花を見下ろして──こう、呟く。
「──……愛する人の声は、届くのかな…………?」
 誰にも聞こえないように、小さく、小さく──、
「……ゴメンね。」
 誰にともなく、小さく呟き──リラは、その花を抱きしめた。
 ホロリ、と零れる涙が、誰のために流したものなのか、リラ自身、わからなかった。
 それを瞬き一つで消し、リラは前を向いて微笑んだ。
「わたし──ロザリーヒルに行きたい。」
 哀しい思いで死ぬ人は、もう、見たくない。
──ううん。
 もしかしたら私──……彼を、この手で殺すのが…………怖いと、そう思っているのかもしれない。
 だから、最後まで、あがき続きたいと、そう思っているのかもしれない。
 ロザリーさんが生き返ったから、デスピサロが正気に戻るなんて、わからないのに。
 正気に戻ったら戻ったで、どうなるかなんて、火を見るよりも明らかなのに。
「……ゴメンね。」
 もう一度小さく呟いた言葉の先が、誰に向けられたものなのか、リラ自身、分からなかった。
 シンシアか、それとも──自分にか。



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