ガタガタガタガタガタッ……ドゴッ!!
「うひゃぁっ!!」
 上下左右に激しく揺れる馬車の中……何かに乗り上げたような衝撃とともに、車輪が跳ね上がる。
 思わずしがみついていた幌に突っ込みかけたトルネコのズボンを、グイッ、と掴み揚げてドンドンと揺れる床に落として、
「……くっ。」
 ドグッ──と、滑ってきた荷物に足を打たれて、小さく呻き声を噛み殺した。
 なんというか──全くもって、凶暴な運転の仕方だった。
 視界は絶えず歪み、荷物は馬車から転げ落ちていかないのが不思議なくらいに、ゴロゴロとあたりを転げまわっている。
 自分たちもその荷物の中の一つになった気持ちで、ただひたすらにしがみついている以外、やることはなかった。
 時折、車輪が何かを弾く衝撃が走る。そのたびに、馬車の中はまさにもみくちゃになった。
「──もぅっ、すこし……っ、あんっ、ぜんに……、できないの、か……っ!」
 舌を噛みそうになって、そのたびに歯を食いしばろうとする。けれど、すぐにやってくる大きな衝撃を前に、その努力も水泡に帰してしまう。
 黙って奥歯を噛み締め続けるのが正しいと分かっているのだが、それでも悪態をつかずにはいられなかったライアンの言葉は、小さい唸り声のようにしか聞こえず、ガタタンッ、と揺れた馬車の騒音によってかき消された。
 後方の幌からみえる後ろの景色は、驚くほど早く流れて行っている。その中には、乱暴に折れた枝や、轢かれたモンスターの体や、ふっとばされたらしい体があった。
 この後を見た人間が居たらきっと、何があったのだろうかと、そう驚くことは間違いないだろう。
 ──そして、過酷なまでの衝撃を耐えているこの馬車もまた……次の街に到着したら、整備する必要があるだろう。
 どごっっ、がごんっ!!
 再び大きく何かに乗り上げる音と衝撃に、慌てて男3人は、手近なものに捕まった。
 マーニャの乱暴なことこの上ない運転に、最初の時点で、三人は慌てて命綱を巻いている。
 だから、馬車から放り出されても、置いていかれることはない──ぶつかり、ひきずられることはあるだろうが。
 それを癒してくれる癒し手は、御者席で、真空の刃を放ち続けている。とてもじゃないが、馬車から落とされれば……「無事」にはすまないに違いない。
 この場合、いっそ、命綱をつけていないほうが、安全なのかもしれない……そう思うほどの、強引かつむちゃくちゃな運転だった。
 そもそも、馬車がようやく通れるほどの獣道に近い道を、強引に抜けること事態が間違っているのだ。
 どうしてこんな強行突破になったのか、さっぱり分からない。
「ミーちゃん! そこでもう一発バギマっ!」
 男三人が、荷物と一緒になってもみくちゃにされているというのに、馬車の御者席に座っている美人姉妹は、この荒々しさを物ともしていない。
 マーニャに関しては、片足まで立てている始末だ。良くソレで、バランスが取れるものである。
 ピシィッ、と、パトリシアを手綱で叱咤しながら、マーニャはガクガク揺れる前方を指し示す。
 その声を聞いて、同じく御者席で絶妙なバランスを取りながら前を睨みつけていたミネアが、
「分かってるわ……っ! バギマっ!!!」
 姉の依頼にこたえて、すかさず真空の刃をつむぎだす。
 良くもまぁ、こんな只中で、呪文を詠唱できるものだ。
 ジプシーの姉妹に対する認識が、2ランクほど変化した瞬間であった。
「あぁっ、もうっ、邪魔臭いわねっ! イオラでも唱えてやろうかしら!!」
「こっちまで巻き添え食うじゃないの、それじゃ。」
 バギマで倒されたモンスターだか木を飛び越えた馬車が、衝撃でガコンガコンと揺れる。
 後輪が地面に付いた瞬間の上下のゆれは、頭を幌の上にぶつけてしまいそうに酷かった。
 まるで体ごとシェイカーに振り込まれたみたいだと、うんざりしながら男三人が、それでも黙っていれば……というよりも、黙らざるを得ない状況に、必死に堪えていれば──。

「……! 見えたっ! いたっ、ユーリルだわっ!」
「その先に、アリーナとクリフトさんも居ます!」

 障害物をものともせず、先に立って走っていった若者たちの姿を──ようやく、二人は捉えることが出来たのであった。