ギィ……と、重い音を立てて箱が開く。
その中身は──空っぽ、だった。
「ヘンリー…………〜。」
思いっきり脱力して、僕は跪いた膝の上に突っ伏した。
なんていうか、なんていうか……もぅっ、何も、こんな手の込んだ嫌がらせをしなくてもいいじゃないかっ!
なんていうんだ、僕はっ!? 王太后様の部屋を突っ切って、この部屋に入ってきたのに、何も手にせずに戻るのか、僕はっ!?
──まぁ、いいけど。
「……ヘンリー、らしいけどなぁ……。」
まったく、と──苦い笑みを貼り付けて、僕は宝箱を元のように蓋しなおそうとして……アレ、と、気づいた。
暗い宝箱の底──何かが見えたような気がした。
実は、ごくゴマ粒のようなオルゴールとかじゃないのかな?
そう思って覗いた先で、僕は、見慣れた……親友の字を、見つけた。
昔、開いた宝箱の底。
そこに刻まれた文字は、どう考えても真新しいソレで。
「…………ヘンリー………………。」
僕は、なんだか、泣きたいような──そんな気持ちになった。
「っていうか、ヘンリー──君、僕がイツか来る日のために、わざわざ……王太后様の目を盗んで、ココで字を刻んだりとか…………してたの?」
誰も答えないとわかっていながら、宝箱に向かって呟き──僕は、ふっ、とその光景を想像した瞬間。
「…………プッ…………っ。」
宝箱に突っ伏して、僕は笑いを必死に堪えた。
まったく、もぅ──っ、どう考えても、来るかこないかわからない僕のために、こんなところにこんなものを刻む方が、恥ずかしいじゃないかっ、まったく!
そう思いながら、きっちりと宝箱を蓋して、さて、と僕は立ち上がり……王太后様が居る部屋を見て、はた、と動きを止めた。
──もしかして、もしかしなくても。
わざわざこんなものを、王太后様の部屋の奥の宝箱に刻んだのって…………っ。
「僕にも恥をかかせようと言う魂胆じゃないだろうな……まったく。」
「お探しのものは見つかったかえ?」
ゆったりとした口調で尋ねてくれた王太后には、手ぶらのまま、ニッコリ笑ってこう答えた。
「ええ──予想以上の贈り物を頂きましたよ。」
本当……ヘンリーには、いつも、驚かせられるよね。
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