「バラモス退治」という、果てしなく先の長い……そして謎の多い旅の、最初の一歩を踏み出したばかりの「勇者様ご一行」は、アッサラームの町で合流した「カザーブの武道家」のティナとレヴァという二人組みをパーティに加え、とりあえずアッサラームで情報収集をしたのだが……。
「世界を旅して回るのに必要な船は、ココ、ポルトガで手に入る……んだよな、ティナ?」
「ええ、そう。この大陸で造船をしているのは、ポルトガだけ……それも、国王の許可がなければ、購入することも作ることもできないの。」
だから、本当はアッサラームじゃなくって、ポルトガに向かいたかったんだけど──と、ティナはそこで溜息を一つ。
「どうも、今は閉鎖してるみたいなの。」
「閉鎖?」
まさか、何かあったのかと、そう眉を曇らせるシェーヌに、それは違うと、レヴァがかぶりを振る。
「閉鎖の原因は──ロマリア国王が、『王冠』を盗まれたからだから……今、何か起きているわけじゃないと思うよ。」
「……カンダタが他所の国に逃げないように、真っ先にポルトガとの関所を閉めたということですね?」
事情を理解したリィズが、なるほど、と頷く。
そんな彼にレヴァは頷いて、自分とティナを覗き込んでいる面々──このロマリアから遥か南東の島からやってきたという、アリアハン大陸の住民を順番に見やると、机の上に広げていた世界地図の一角を指先で示した。
「そう……見てくれれば分かるんだけど──ロマリアから他の大陸へ船移動するためには、どうしてもポルトガを通らないといけない。他に港は無いしね。」
クルリ、と丸を打たれた区域が、今、シェーヌ達が居る地域だ。
ロマリア半島から北にカザーブ、ノアニール、エルフの里。
後は小さな村が各地にある程度で、他に移動できそうな場所はない。
そのままずれて、橋を渡って川を挟んだ向かい側──アッサラーム領域に入り、その南に広がる広大な砂漠。東側は絶壁の山脈に断絶され、とてもではないが人の手で上ることは不可能だという。
「アッサラーム川は、ネクロゴンドの近くを通る危険性から、今は使われてないし、ロマリアの内海を使う商船は、『ポルトガ』『ロマリア』『アッサラーム西岸』の三箇所しか止まらないし、燃料の関係とかで、必ずロマリアには停泊するようになってる。──これをチェックすれば、カンダタ兄さんも、外には逃げられない。
もちろん、アッサラーム方面の橋にも人を配置したらイイワケだしね。」
そうやって、カンダタを「シャンパーニの塔」に釘付けにして、他へと行かないようにしていたのだ、と語るレヴァに、うんうん、とシェーヌは頬杖で頷いて、
「で、ソレは分かったけどさ、なら、もう閉鎖は解かれてるんだろ?」
そう──ずばり、と切り出すのだが。
なぜか、そのシェーヌの問いかけには、フィスルとティナとレヴァの三人が、視線を逸らした。
シェーヌとリィズの二人が、ノアニールで「謎の眠り病事件」を解決していた間、二人と別行動を取っていた面々である。
「……閉鎖が解かれてたら、わざわざアッサラームに来ないわよ……私、シェーヌ達のことをポルトガで待ってるつもりだったのよ?」
「…………て、どうして関所が解かれてないんですかっ!?」
驚いたように眼を見張るリィズに、うん、と「事情を知っている三人」は、大きく頷いた。
フィスルとティナは、ロマリアに王冠を届けに行ったときに、直接国王から話を聞いている──厳密に言うと、フィスルが少しばかり「国王様」をしていたので、知ってしまったとも言う。
そしてレヴァは、カザーブの村で旅立ちの準備をしているところをティナに拉致され、そのままアッサラームに連れ去られた最中に、彼女から事情を聞いている。
「関所を封じた鍵って、普段は王城に保管されてるのよ。そうしないと意味がないから……。
で、それを、馬車で王城に運んでた人がね…………。」
「モンスターに襲われて……行方不明なんだそーだ。」
フィスルが「臨時国王」になって、最初の大事件がそれだった──と、うんざりした顔で吐き捨てるフィスルに、愕然とリィズが眼を見張る。
「行方不明って……鍵ごと、ですよねっ!?
予備とかは無いんですかっ!?」
「無い。」
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