──確かに、旅をしている者がモンスターに襲われるというのは、珍しいことではない。
 だが……いくらなんでも、よりにもよって、そんなタイミングで、そんな人を襲わなくてもいいではないか!
「それで、今──ロマリア国王が、急いで新しい合鍵を作らせているところなんだけど、まだ大分時間がかかるみたい……。」
「そう、だから、それなら一刻も早く、別の手段を見つけるべきだと思って、あたし、レヴァと一緒にアッサラームに来たのよ。」
 眉を曇らせてリィズに答えるレヴァに続けて口を割りながら、「これで私がレヴァを連れてアッサラームに来た理由が分かったでしょ?」と、ニッコリとティナが笑う。
 だからどうしてソコでアッサラームにくることになるのだと、シェーヌもリィズも疑問に思ったが、今はそれよりも、確認しなくてはいけないことが一つ。
「……………………大分時間がかかるって……どれくらいだよ?」
 ジロリ、とねめあげるように問いかけるシェーヌの鋭い眼光を受けて、なぜかフィスルは口もごりつつ……、
「………………………………半年くらい………………。」
 ボッソリ……零した。
 瞬間、
「ま──……っ、てるかっ!
 えぇいっ、こうなったら、ロマリアの商船に乗って、ポルトガに行くぞ、ポルトガにっ!!」」
 ガタンッ! と、大きな音を立ててシェーヌは椅子を蹴飛ばすように立ち上がると、バッ、と椅子の背もたれにかけていたマントを手にした。
 半年もこの大陸に足止めを食らうなんて、とんでもない!
 凛々しい表情に苛立ちを隠そうともせずに零すシェーヌに、これ以上彼を怒らせてはいけないと、うんうん、と頷いたフィスルとリィズであったが。
「船って……シェーヌ、船賃持ってるの?」
 小首を傾げるティナの一言は、残酷だった。
 さらに続けて、同じくこの大陸の出身であるレヴァも、眉をひそめて、小さく──、
「最近はモンスターのことがあるから、一人……1000Gは取られるみたいだよ……?」
 一般庶民には、単位が違う言葉を出されてしまった。
 思わず沈黙して、シェーヌは今目の前に居る頭数を数えてみた。
 全員で5千。
 正直な話、貯められない金額ではない。
 モンスターをバッタバッタと倒していけば、宝箱を落とすヤツもいるし、それを売っていけばなんとかなる金額でもある。
──が、しかし、5千貯めるのにかかる時間と、5千を浪費することを思うと、脳みその動きまで止まる。
「…………………………………………………………。
 …………………………………………………………ティナ。」
 懐事情を確認しつつ──シェーヌはキリリと表情を改めて、彼女を見下ろした。
「──で、お前、ポルトガの関所が閉じられているのを何とかする策があってここに来たみたいなことを言ったよな?
 具体的には、どういうことだ?」
 とりあえず、船に乗るのは最終手段だ。
 言外にそう告げるシェーヌの態度に──もちろん、懐事情を良く知るリィズもフィスルも、反論をするつもりは、まったく無かった。

*

 アッサラームの南西に位置する、世界で1,2を誇る広大な砂漠……イシス。
 その国には、世界一の美女と、世界で有数の宝が眠ると言われているため、トレジャーハンターや旅の冒険者が良く訪れるのだという。
 その「世界で有数の宝」の眠る場所──というのが、砂漠の中にポツンと目立って建つピラミッドである。
 すでに色々なトレジャーハンターが挑戦してきたという、有数の歴史を持つピラミッドは、同時に「王族の墓」という名称を持ち、死者である王族を守る「ミイラ」たちが、いまだに守り続けている宝も、多く存在するという。
 生還してきたトレジャーハンターたちは、自分たちが見ることが出来たのは、ほんの下層部分だけ──その上までは、到達できなかったのだと言う。
 つまり、残る「宝」は、それ相応の────そして伝説に語られる品々、というわけだろう。
「その中の一つに、魔法の鍵って言うのがあるのよ。
 誰も解いた事がない謎に包まれた場所に保管されているその鍵って言うのがね、大抵の鍵なら、どんなものでも開いちゃうって言う優れもの。」
「あと、黄金の爪という、武道家にとってはこの上ない最高の武器も治められてるって聞いてるけど……どちらも、見つけたことがある人はいないみたいだね。」
 物知り顔で語るティナに続けて、レヴァも当たり前のように語る。
 どうやら、イシス周辺のこの辺りでは、ごく当然のおとぎ話のように語られているらしい。
「へー……つぅか、そんなにスゴイもん、本当にあるのか?」
 マユツバくさい、と、顔を顰めるシェーヌには、
「けど、やってみる価値はあるでしょ!? お宝探しっ!!
 見つからなかったとしても、半年はお宝探しで楽しめるわよっ!!」
 グイッ、と、やる気満々でティナが顔を近づける。
──どうやら、彼女がやりたくてしょうがないだけのようである。
「イシスは、ここ……このアッサラームから南にある国だよ。
 どちらにしても、ポルトガの関所が開かないことには、俺達の行き先は、ココ以外にはないと思うけど──。」
 上手く、見つかったらいいね。
 ニッコリとレヴァに笑いかけられて、そうだな、とシェーヌも彼へ笑い返した。
 そして、ティナがメラメラと燃えるのを横目に、
「宝探しかぁ〜。」
 ────……やはり同じくらい、お宝探しを楽しみにしているシェーヌなのであった。


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