「私、あなたのことは好きよ、ロザリー。」
 微笑む。
 それは、本当。
 少し驚いたように目を見開いて──それでも嬉しそうに頬をほころばせる彼女は、大好き。
 やさしくて、きれいで、おだやかで……私が持っていないものをすべて持っているような、そんなステキな女性。
「でも……ピサロのことは、嫌い。」
「──……っ。」
 目を見開き、悲しげに瞳を揺らす彼女に、リラは苦い笑みを刻んで──それでも、続けた。
「ロザリーには悪いけど……私、彼を許すことは、一生……できないと、思うの。
 だから……ゴメンなさい。
 ──私とピサロに仲良くするようになんて……決して、言わないでほしいの。」

 この言葉が、自分の思いをとめるために吐き捨てたものなのか。
 彼に愛される彼女への、ただの暴言のためにしたものなのか。

──自分ですら理解できないのが、大嫌い。



 人は、恋をすると、綺麗になるものじゃ……なかったの?


***



「……リラ。」
 声を聞くと、ピクリと体が震える。
 けれどそれは、すぐに冷えた心が覆いかぶさるように、ただ静かで冷徹な感情にとってかわった。
 振り返った先で、闇を身に纏い、従えるように立つ……夜の王。
 銀色に輝く髪と、病的なほど白い肌が、くっきりと闇夜に浮いて見えた。
「何の用かしら?」
「──わたしを、嫌いだと……そうロザリーに言ったそうだな。」
 冷ややかな視線を宿す男の言葉に、一瞬チクリと走ったのは、きっとロザリーを傷つけてしまったことへの罪悪。
 それ以上でもそれ以下でもない。
──ありえるはずが、ない。
「ええ、言ったわ。だって本当のことじゃない。」
 なんでもないことのように続けて、微笑みかけた。
 そんなリラに、ピサロは鼻先で小さく笑って、
「……はっ、そうだな──お前はわたしを一生憎み続けるのだろうな。」
 皮肉げに続けた。
 その物言いに、リラはス、と目を眇めて、彼をにらみつける。
「──……そう望んだのは、あなただわ。
 王であるあなたは、分かっているのでしょう? 自分が奪った命の分だけ、憎まれることを。」
「──憎むことと、嫌うことは……また違う。」
 ザ、と、小さな音がして、彼が足を踏み出したのが分かった。
 近づいてくる男を睨みながら、無言でリラは彼の先を促す。
 そのリラの目の前に立ちどまり、彼はシャラリと髪を揺らすと、
「──うそつきだな、リラ?」
「な……にを……っ。」
 ふ、と掠めたのは──日に透ける、銀色の、髪。
「────…………っ。」
 男の匂いが、した。
 目の前で、ひらめく……閉じることもしない、輝く冷たい瞳。
「なら、コレでお前は、わたしを嫌うか?」
 触れた唇が離れるなり、口元に笑みを刻む男のいいように、びりっ、と、全身が帯電するのを感じた。
「──……ふ……ざけ…………っ。」
 本能の赴くままに、いかづちが飛び出しそうになるのをグ、と堪えて……リラは手の平を翻す。

パシ……ィンッ

「──あなたなんて、最初っから……初めて会ったときから、ずっと……大っきらいだわっ!!」
 叩きつけるように、叫ぶ。
 瞳と声に力を込めて──ただ、叫んだ。
「……はっ、それこそ、望むところだな。」
 叩かれた後を手で撫でることもせず、ただほのかに赤くはれたそこをそのままに、男は冷ややかに告げた。
 無言で唇をかみ締めるリラを見下ろし、彼はさらに氷を含ませた声で、続ける。
「わたしは、お前たちと馴れ合うつもりはない。
 ただ、目的のために手を組んだだけだ。
 そのことを……忘れるな。」

突きつけられる、刺。

「──だから……だいっきらいだって…………言ってるじゃ…………ないの……………………っ。」


なのに。

触れた唇が、温かく、柔らかかったなんて想う自分に……。


虫唾が、走る。


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