ピンクバナナムース

ピンクバナナムース
フランボワーズとバナナのムース。



幻想水滸伝1 BEFORE ソニア→テオ

「ほんのりと優しい色」







ソニア「……うん、なかなかキレイに出来たじゃないか。」
スイ「おー、なかなかキレイに出来たじゃないか。」
ソニア「私にしては、なかなかのものだわ、うん。」
スイ「そーだね、失敗作の山を思えば、なんでクッキー一つ作るのに、あんなに失敗するんだとか、あんなに焼け焦げるんだとか、あんなに生焼けになるんだとか色々突っ込みはあると思うけど、キレイにできてよかったね!」
ソニア「本当だわ、後はこれをラッピングして、テオ様に…………。」
スイ「父上の好みは、こっちのバター風味よりも、リキュールを入れたほうが好みだと思うよ。」
ソニア「……って、スイ!! おっ、お前、一体いつからそこに居たんだ……っ!!!?」
スイ「ソニア様が、三回目の天板を交換して、黒こげになった炭を見下ろして溜息を零しながら、『愛情があればなんとかなるに違いないと思っていたが、愛情がありすぎると、こうも焦げるものなのか……』なんて真剣な顔で呟いてた頃。」
ソニア「──……っ!!!///// き……聞いていたのか、あ、ああああ、アレをっ!!!?」
スイ「ちなみにその後、四回目に生焼けになったときには、『私の愛情のどこが足りないというのっ!?』ってヒステリー起こしてたよね!」
ソニア「そ、そこまで見ていたなら、なぜ声をかけないんだ、お前はっ!!!」
スイ「えー、だって真剣に料理作ってる人を邪魔しちゃいけませんよ、って、グレミオから教育されてるもん、僕。」
ソニア「そっ、それと、勝手に入ってきて、人が料理をしているのを見ているのとは違うでしょう!?」
スイ「違いません。というか、いつでも自由に入ってきていいのよ、って言ってくれたのはソニアさまじゃないですか。
 ところでそのクッキー、そんな風に握ってると、潰れるよ?」
ソニア「──……はっ!!? ……あ、ああっ! 二十五回目にしてようやくキレイに焼けたクッキーがっ!!!」
スイ「そのうちの23回のクッキーの末路が、どうなったのか、僕は知っている……っていうか、この台所、香ばしい匂い通り越して、苦いよね。」
ソニア「──……う。」
スイ「だから、握ってると潰れるよ、父上への愛情クッキー。」
ソニア「! ……こ、これは……いいんだ。
 これは……私が食べたいために、焼いたクッキーなんだから!」
スイ「……今更、何を言うのかと思ったら……25回も焼いてる最中に、さんざん『テオ様は喜んでくれるだろうか……』だとか、『テオ様の好みは、やっぱり普通のクッキーではダメなのだろうか』だとか、『あぁ……テオ様……』だとか呟いて……。」
げしっ!

ソニア「貴方、本当に、一体いつからそうやって聞いてたのっ!!?」
スイ「だから、ソニアが三回目の天板を……。」
ソニア「っていうか、だったら、どうしてソレが三回目の天板だって分かってるんだ!!」
スイ「──……ん、こほん。まぁそういうわけで、この失敗クッキーの山とか山とか山、僕が貰っていってもいい?」
ソニア「……ごまかすなっ!! あなたまさか、家に帰ってから、その失敗作を、私がテオ様のために作ったんだとか言って、テオ様に渡すつもりじゃないでしょうね!?」
スイ「しないよー、そんなこと。
 それにソニア様は、そっちの──潰れかけてるけど、ちゃんと焼けたほうを、父上にあげるんでしょ?」
ソニア「……ぐっ……い、いや、だからこれは……その、形も悪いし…………それに美味しいとも限らないし…………、もごもご。」
スイ「材料の配分はあってたし、混ぜ方にも特に問題はなかったみたいだから、美味しいと思うよ。……ほら。」
ヒョイパク。

ソニア「って、スイ! それはテオ様の……っ!」
スイ「ために焼いたクッキーを、ソニア様が握りつぶした欠片でーっす。
 ……ん、美味しい。」
ソニア「……本当か?」
スイ「本当、本当。
 ちょうど父上も、仕事から帰って来たばかりで疲れてるだろうから、コレを差し入れしてあげたら? 疲れたときには甘い物が欲しくなるんでしょ?」
ソニア「──………………はぁ、どうしてあなたにそんなことを言われなくちゃいけないのかしらね、ほんとに。」
スイ「後押ししないと、いつまでもグチグチとクッキー焼きなおして、材料無駄にするだけのくせに……。」
ソニア「何か、言ったのは、この口か……っ!!」
スイ「そう、このお口〜。
 ってまぁ、冗談はそのくらいにしておいて、本当にこの失敗の山、貰っていててもいい?」
ソニア「──…………嫌がらせではなくて?」
スイ「うん。焦げたのは肥料にして、生焼けのは、グレミオになんとか形にしてもらうの。潰してタルト生地とかにならないかなー、って思って。固すぎるのも、砕いたらレアチーズの土台になると思うし。」
ソニア「…………………………。」
スイ「失敗作でも、ソニア様の愛情が入ってるなら、使ってやらなくっちゃもったいないもんね。」
ソニア「スイ……お前………………。」
スイ「いやー、でも、さっすがソニア様だよね! まさかここまで失敗作が出来るなんてねー、ほんと、ビックリしたよ。」
ソニア「…………………………。」
スイ「どのくらい失敗作を作るんだろうと見てたら、もー、次から次へと百面相でスゴイんだもん。これが天下の五将軍だって言うんだから、天下もひっくり返りそう。」
ソニア「──……スイ……っ。」
スイ「時間だってほら、もう夕方だよ。早くしないと、うちの夕飯になっちゃうよ。」
ソニア「──……〜っっ。」
スイ「ソニア様のおかげで、うちのデザートも、しばらく安泰だ〜。」
ソニア「……なんであんたは……っ。」
スイ「ん?」
ソニア「そう、一言も二言も多いのっ!!!」
スイ「──えっ、何!? なんでそこで、怒ってるのさっ!?」
ソニア「いいから、とっとと、それを持って帰りなさいっ!!!」
スイ「はーい。」
ソニア「まったく本当に……っ。」
スイ「ソニア様ー、握りつぶしちゃいますよ、そのクッキー。」
ソニア「──……わかっている!!」
スイ「それじゃ、後でパーンに取りにこさせるかな〜。
 あ、その時に一緒に、うちにおいでよ、ソニア様。
 一緒に夕飯しよう、夕飯。」
ソニア「────………………分かったわ……。
 ……まったく、本当に……喰えない子供なんだから………………。」



優しいヒト。