レアチーズケーキ

レアチーズケーキ
濃厚で柔らかな風味のケーキです
下地のビスケット生地がまた香ばしい







ドラゴンクエスト4 ピサロ女勇者

「汚された素肌」






──その純白の素肌に、傷跡がいつ落とされたのか……本当は私、知っているのよ?






 復興途中の小さな山奥の村。
 いくつかの建設中の建物が散らばる中、村の入り口のほど近くに、小さな平屋の家があった。
 二人の少女が住む、小さな小さな山小屋のような家。
 ドアを開いたら、そこが居住区。他に部屋はない中で、箪笥代わりの蓋付きの籠と、二人が抱き合って眠れるくらいのベッド、そして、部屋の中央に小さなテーブルが一つ。
 その小さな自分たちの城の中、唯一家具らしいものであるベッドに腰掛けたシンシアは、揺れる眼差しで同居人の背を見つめた。
 その背中を見れば見るほど、なんだか不思議な思いに駆られてきて、シンシアは思わずポツリとつぶやいた。
「リラ、あなた──最近、変だわ。」
「気のせい。」
 返ってきた答えは、あまりにも簡潔。
 リラはクルリと背を見せて、手にしていたお盆を部屋の中央の小さなテーブルの上に置いた。
 そのまま、こちらを向くことなく、カチャン、と湯飲みを置くリラの背を、シンシアは途方にくれた瞳で見つめた。
──今のは、紛れも無い、「拒絶」だ。
 狭い部屋の中の──テーブルまでの距離が嫌に短く感じて、顔を顰める。
 彼女の様子がおかしいのは、誰が見ても分かるだろう。
 それがいつの頃かと思い返せば──あぁ、そうだ。
 今年の初め──、リラが「新年パーティ」に参加してくると、村を出て行ったとき以来だ。
 確か、仲間達に誘われたのだと言って、シンシアも一緒に行こうと誘ってくれたのだが、シンシアは村の復興に携わってくれている面々との約束が入っていて、リラを送り出した。
 リラもこの村で行われる「新年パーティ」に参加したいから、ほどほどのところで切り上げて帰ってくると、最初は言っていた。
──にも関わらず、リラが帰ってきたのは、その三日後だった。
 何があったのかとシンシアが尋ねたときは、彼女は笑って、「マーニャと飲み比べしたら、そのまま倒れちゃって、二日酔いで動けなかったの」と言った。
 聞いたときは、ありえそうだと思って、思わずシンシアは溜息を零して、もう子供じゃないんだから、自分で酒量くらいわきまえなさい、と言うだけにとどめた。
 けど。
 あの日から、リラは──少しだけ、様子がおかしくなった。
 何度か、様子がおかしいよと、そうリラに言ったことはあった。
 けれど、リラはそれに笑って、なんでもないと言った。
 それから、何度繰り返しても──返ってくる言葉は同じ。
 だから、今回も同じように、シンシアはこう答えるしかない。
「そう……なんでもないなら、いいんだけど。」
 これを必要以上に突付いても、リラは決して何があったのか吐くことはないのだろう。
 なんでもないと言い張るに違いない。
 ──悲しい現実ではあるけれど、リラにとって、私は……「守りたい」対象の中のトップ1に輝いていて、現状では、相談に乗ることすらさせてくれないから。
 ……だから、シンシアは何も知らない顔で呟いて、リラが淹れたお茶を飲むために、表情も変えずにテーブルに付いた。
「ちょっとね、このままだと、冬の間の食料が足りないかなー、って、考えてただけなの。」
 小さく笑って、リラはそんな「嘘」を吐く。
 お茶を入れているときの横顔を、ずっと見られていたことを知っているくせに──平気でそんな嘘をつく。
 そんな彼女の言葉に、胸の中に、ツキン、と走る痛みを覚えて──シンシアは、自分が知っている頃よりも随分と女めいた丸みを宿したリラの背中を見つめた。
「食料が切れる前に、ブランカに人手を出した方がいいかもしれないわね。」
 リラの言葉を受けるように言葉をつむぎながら、シンシアはカップを取り上げて、そこに口をつけた。
 そうしながら、かすかに宿った苛立ちを、シンシアは無理矢理飲み込んだ。
 そんなシンシアに気付いてか気付かずか、リラは小さく笑いながら、戸棚の中からケーキを取り出す。
 白い──濃厚なレアチーズケーキ。
 今朝、村の若い娘に分けてもらったばかりのそれを小皿の上に取り分けて、
「少しの量ですむようなら、私がまたルーラするよ。」
「……そう。」
 短く答えて、シンシアはお茶を啜った。
 啜りながら──舌先に触れた熱い温度に、泣きそうな気持ちになった。
 それがどうしてなのか、自分でも分からなくて……いや違う、分かっているけれど、それをリラの前で出すわけには行かないのだ。
 彼女が、村の外に出るのを──本当は、すごく、イヤだなど……言うわけには、いかないのだから。
「うん。」
 シンシアが座る席の前に腰掛けて、リラはケーキを差し出しながら、その白い表面に向かって、プスリとフォークを突き刺した。

 純白の──白いケーキの生地に、銀色の棘が刺さる。

 思わずその光景に、視線が奪われたシンシアが、その光景からナニを想像したのか──全く気付かない様子で、リラは、
「今の季節なら、南の──リバーサイドで魚とか分けてもらってくるのもいいかなぁ? 雪の中に埋めておけば、腐るのも遅いし。」
 首をかしげながら、そんな贅沢を口にして──笑う。
 それから、なんでもないような仕草と声で、
「一日くらいあったら、色々買ってこれるから、シンシア、何かほしいものがあったら、言ってね。」
 笑って、そう続ける。
 そんなリラに、シンシアは同じように笑いかけながら──プスリ、と、ケーキにフォークを突き刺して。
「そうねぇ……、寒いから、コートなんてほしいかも?」
 軽口を叩くように笑いながら。

──ねぇ、リラ?
 あなた、本当に、気付いていないと、思っているの?

 その問いかけは、けれど、決して口に出すことはない。
 代わりにただ笑って、
「ふふ、いいわよ、ほしいものなんてないわ。
 リラが居て、笑っていてくれるだけで、わたし、幸せだもの。
 だからリラ? 少しゆっくりしてらっしゃいよ。一泊でも二泊でも、好きなだけ。
 皆と顔をあわせてくるのもいいんじゃないの?」
 帰ってきてくれたら、何も言わない。
 そう暗に込めて、微笑みながら、リラを送り出す。
 ──いつも、いつも。

 あなたが、外へ買い物に行った後は必ず──その耳元に、赤い痕をつけてきていることに……白い肌に、血のような跡が残っていることに、いつも、気付かないフリをして、あなたの重石になるの。




 ──わたしがダイキライなあの男の下へ、あなたが一生囚われることがないように。










 ちょっとダークっぽく