「いかれたポット」 魔王陛下直属の女官長 アルタミラ「四天王の皆様、こちらは、陛下からのご温情の品でございます。」 風の四天王シルバー「へ……陛下から!?」 水の四天王リヴァン「……匂いはとてもおいしそうだけれど──これは、バナナブレッドかしら?」 土の四天王ゴールド「陛下からオヤツの差し入れって──なんだか怪しいよね…………。」 アルタミラ「さ、どうぞお食べ下さい。お茶は何を淹れしましょうか?」 シルバー「あ、いえ! 陛下の女官長さまから直々に淹れていただくわけにはいきません。私が……。」 アルタミラ「遠慮なさることはありません。 実はわたくし、新しいポットを陛下から頂きましたの。 ちょうどそれを使いたいと思っていたところですのよ。」 リヴァン「まぁ、陛下からポットを? それはさぞかし、素敵なお品なのでしょうね。」 ゴールド「陛下は趣味がよろしくていらっしゃるから、アルタミラさまにピッタリのポットなのでしょうね。」 アルタミラ「────………………………………。」 シルバー「いかがなされました、アルタミラさま?」 アルタミラ「いえ、……確かに、いいポットといえばいいポットなのかもしれませんが、趣味がいいかと言う話になると──少々私には、不釣合いかと思わずにはいられませんので。」 リヴァン「まぁ、アルタミラさまに不釣合いだなんて……一体、どんな素敵なポットなのかしら? とても興味があるわ。」 シルバー「確かに。──それではアルタミラさま、ぜひそのポットで、私達のお茶を入れていただけますか?」 アルタミラ「もちろんです、シルバー様。 むしろ、私のほうがお願いしたいくらいです。 私は魔力なしですから、万が一ポットの魔力が暴走したときに、何も対抗できるすべがありませんから、正直、筆卸するのが少し怖かったんですよ。」 ゴールド「──……えっ、魔力持ちポット!?」 シルバー「暴走するって……陛下に限って、そんな危険なポットを、カッフェにならとにかく、アルタミラさまにプレゼントするわけが……。」 リヴァン「……って、そういえば、カッフェはどうしたの? あの食い意地がはっているカッフェが、オヤツの時間にココに来ないなんで珍しいわね。」 シルバー「昼に会った時に、陛下に呼ばれているとか言っていたから、それじゃないのか?」 ゴールド「ほんと、カッフェって、陛下のおきにいりだよね。」 リヴァン「そうね。そのおかげで私達、ずいぶん楽をさせてもらってるわ……ふふ……と、アルタミラさま、今の失言は、どうぞ聞かなかったことにしてくださいね?」 アルタミラ「ふふ……もちろんよ。たまには四天王の方々にも休息は必要ですものね。 さ、それでは皆様、席についてくださいな。 今から、私のポットを呼びますから。」 ゴールド「呼ぶって……え、もしかしてその魔力があるポットって、呼んだら来るんですか?」 アルタミラ「きますね。」 シルバー「へぇ……さすがは陛下からの贈り物だな。それは興味がある。」 リヴァン「確かに、どんな構造なのか、見て見たいわ。」 アルタミラ「あらあら、ふふふ……見てみるも何も、皆さん、良くご存知のはずですよ?」 ゴールド「……え?」 リヴァン「さて──それじゃ、『いかれたポット』、皆さんにお茶を入れて差し上げて。お茶の葉は、いつもの棚の中よ。」 いかれたポット「……へーい、アルタミラさまは、カップでも用意しててくださーい。」 シルバー「──……ぶはっ。」 リヴァン「……ぶっ。」 ゴールド「──……っ!!!!!!????」 アルタミラ「私がカップを? ご主人様遣いが荒いポットね。 まぁいいわ、あなたに触らせて割られるよりもマシですものね。」 シルバー「って、あ、ああああ、アルタミラさま!!?」 リヴァン「カッフェ!! あなた、なんて格好してるのよ!!?」 ゴールド「そっ、その頭のソレ何!? っていうか、背中に何生えてるのっ!?」 いかれたポット「お、よー、お前ら、昼ぶり〜……って、ぐはっ! おあおああああっ!! あ、アルタミラさまっ!!?」 アルタミラ「ご主人様。」 いかれたポット「あ、そうだった、今はご主人様だ。 ということで、女王様っ!!!」 ピシィィッ! アルタミラ「──どうしてもムチで鳴かせて欲しいらしいわね、いかれたポット?」 いかれたポット「あぁうあぅ、ウソです、すみません、ご主人様……っ! って、そりゃどうでもいいんすけど! なんですか、アレはっ!!」 ゴールド「なにそれって言うのは、こっちのセリフだよカッフェ! なんて格好してるんだよ!?」 シルバー「──……あ、アァ……なるほど、頭の上のが、ポットのフタで、背中のがポットの取ってか……あぁ、なるほどな………………。」 アルタミラ「あのフタ押したら、口と鼻のどちらからお湯が出るのかしら? どっちでもいやよね。」 いかれたポット「なんで、あいつらのテーブルの前に、バナナブレッドが置いてあるんですか!?」 アルタミラ「あら、だってアレは、陛下から直接、シルバーさまとゴールドさまとリヴァンさまに、あげなさい──って言われたんですよ? 女官長たる私が、逆らえるはずもないじゃないですか。」 いかれたポット「ないですか……って、ないですか……って! だって、だって、あれ……アレは、俺が昨日実家に帰ったときに、ばあちゃんが焼いてくれたバナナブレッドーっ!!!!!」 リヴァン「……読めたわっ!」 シルバー「あぁ……うん、俺もわかった。」 ゴールド「──そういえば、昨日1日、カッフェの姿見えなかったよね。」 リヴァン・シルバー・ゴールド「「「またお前、陛下に無断で実家に帰ってたのか。」」」 いかれたポット「だって、だって、キースが……弟が、『カッフェお兄ちゃんへv 最近、ぜんぜん会いに来てくれなくて寂しいです』なんて手紙書いてきたんだぞっ!? カッフェお兄ちゃんだぞ、カッフェお兄ちゃん! こんなの書かれて、速攻行かないなんて兄貴が廃るだろうっ!!?」 アルタミラ「そしてそれが陛下の怒りに触れて、今日一日、カッフェさまは私の『いかれたポット』なんですの。」 シルバー「────…………あぁ…………そりゃ確かに……使うのも怖いよな……。」 リヴァン「というか、それを私達に使おうとするアルタミラさまが恐ろしいわ……。」 ゴールド「カッフェ……──なんで毎回毎回、学ばないの……。」 シルバー「カッフェだからだろ。」 リヴァン「カッフェだからよね。」 アルタミラ「さ、いかれたポット。早くポットの中に沸いたお湯を注いでちょうだい。」 いかれたポット「俺のバナナブレッドーっ!!!!!!」 |