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お礼駄文*幻水3舞台・裏的108星設定DE魔法少女的

魔法少女的風景

先に、SSSダイアリーにて、「幻水1 魔法少女的」を検索して見ることをオススメします☆
















☆前回までのあらすじ☆
 星に選ばれた者の一人、天間星であるルックは、魔術師の塔の大掃除の最中に、不思議なロッドを見つけた。
 そのロッドは、誰でも正義のヒロイン魔法少女に変身することが出来るというものだった。
 ルックはそれを手にすることで、ロッドの継承者に選ばれてしまった。
 かくしてルックは、多くの人々を不幸と悲しみから救わなくてはいけない運命を、託されてしまったのである。






──────────────




 今日も今日とて、ルックは不幸な人を見つけた。
 その人は、このヤザ高原で──グラスランド・ゼクセン地方ではゼクセンの森にしか生息しないはずのモンスターに、パックリと食われていた。
 モギュモギュという擬音と共に、パラリラリー♪ とクリティカル「美味しい」音まで発動する始末。
 食人植物に「美味しい!」と言われるとは、なんと不幸な人なのだろう。
 カズラーの緑色の蓋の間から、出ている青いマントの裾を見て、ルックは思った。
 そして──今こそ自分の出番だと!
 すちゃ、とルックはピンクのロッドを構えた。
 自分の二の腕くらいの大きさのロッドだ。掌にしっくりと来るそれを、しっかりと握り締めて、ルックはクッチャクッチャと咀嚼音をさせているカズラーの前に立った。
「そこまでだよ、カズラー。」
 静かな、語りかけるような声で、ルックは偉そうに軽く首を傾げてロッドを顔の前に掲げる。
 カズラーは、くっちゃくっちゃと咀嚼音をさせ続ける。
「この僕がいる限り、ただでさえでも不幸な彼を、これ以上不幸な目に合わせることはない。」
「ちょ……、おま……そんなこと言ってないで……ぐはっ。」
 くっちゃくっちゃ、とい咀嚼音の間に、蓋がかすかに開いて、べったりと唾液にまみれた人間の指先が見えた。それと共に、ちょっと瀕死になりかけかもしれない人物の声が聞こえたが、それでルックは口上をやめることはない。
 口上をすることは、彼の務めだからである。
 ぐはっ、と、指が震え、マントの裾が更に蓋の中に入っていくのを見ながら、ルックは顔の前でロッドを斜めに構える。
「普段は宿星の一員、天間星のルック──しかし、不幸な人を見たとき、僕は正義と愛の使者に変身する!」
 美しい容貌でそう囁くように呟き──ヒラリ、と舞った風がルックの淡い色の髪を揺らす。
 幻想的な桜色の花びらが、ヒラヒラと彼の容貌を彩り、その中、ルックは一度目を閉じる。
 くっしゃくちゃと言う音は、絶え間なく続いていたが、ルックは気にしない。常にマイペースがルックの信条だからだ。
 そして、ゆっくりと目を開くと、ロッドを横に携えて、
「ミラクル☆メタモルフォーゼっ!
 フリ・ツクサ・ンハセ・カ・イイチ・ノ・フコ・ウモノ!!」
 呪文を唱えながら、ルックはピンク色の光を宿したロッドで左から右へと下弦の弧を描く。
「って、ちょっと待て、こらーっ! なんだ、その呪文はっ!!」
 思わず「カズラーに食われた被害者」が、緑色の蓋をポッカリと開いて、顔をのぞかせて叫ぶ。
 しかし、もちろんそれは、変身の呪文を唱えたルックの耳には届かない。
 ロッドの先から、虹色の光が飛び出し、ルックの姿を包み込む。
 虹がルックのしなやかな肉体を布のように包み込み、それがしなやかな体のラインにぴったりと張り付く。
 逆光の中で白い肢体が浮かび上がり、虹がリボンとなってルックを飾り立てていく。
 足先にはしなやかな羽付きのブーツ。髪が伸び、体がまろやかなラインを描いていく。
 ヒラリンと揺れる短いフレアスカートの裾は、膝上30センチ。三重にレースがかかり、少し肌色が透けているにも関わらず、パンチラしないのが、さすがと言ったところだろう。
 光はみるみる内にルックの中に吸い込まれ、ルックはその姿を──10代の少年から、とびきりの美少女へと変えた。
 そして、ピシリ、とピンクのロッドをカズラーに向けて指し示すと、リンとした声を張り上げて叫ぶ。

「愛ある限り、戦いましょう! 美少女戦士、ポワトリン!!!!」




 カッチン☆



「カーット!!」
 美しくバラの花びらを散らしながら、そう宣言した瞬間、カチンコが鳴った。
 と同時、近くの木陰に監督椅子を設置していた少年が、くい、とサングラスをあげて、渋い表情でリテイクを告げる。
「それ、違う番組だから、間違えちゃダメだよ。」
 まったく、と、監督はカチンコで自分の肩をポンポンと叩きながら、やれやれと溜息を一つ。
「あ、そうでしたね。すみません、つい……小さい頃のコスプレの癖で。」
 困りましたね、と、「ルック」らしくない表情で、穏やかに微笑む「ルック」に、照明係りをしていたシーナが思わず突っ込む。
「小さい頃のコスプレってなんだよ。」
 けれど、その突込みは、誰もが突っ込みたいことであるにも関わらず、綺麗にスルーされてしまう。
 さすがは、腹黒揃いだといわれているハルモニアの神官将と言ったところだろうか?
「もう、このシーンだけでリテイク3回目だよ、ササライさん。しっかりしてよね。
 このままじゃ、フリックが消化されて、出てきたときには素っ裸になってるよ。」
 監督は渋い表情でサングラスを顔の前に戻すと、おもむろに左手を掲げて、
「優しさの雫。」
 癒しの紋章をフリックに向けて解放してやる。
 とたん、カズラーの中に閉じ込められたままのフリックが、キラキラーと光り(だがしかし、カズラーの中に居るので、その風景を見ることは適わない)、瀕死状態が一気に回復される。
 ──とは言っても、回復されるのは肉体であって、カズラーの消化液に浸かった衣服や蒼いバンダナがどうなっているのかは、さっぱり分からない。──マントの端が無事なのは、見ても分かるのだけれど。
「じゃ、もう一回、変身シーンだけ撮るからね。」
「わかりました。では──えーっと、解除の呪文は、笑顔が似合う人、でしたね。アラニス!」
 ロッドを振り上げてササライがそう唱えた瞬間、キラキラキラー、と、一瞬で「魔法少女」は、ルックに良く似た姿をしたササライの物に戻った。
 ふぅ、と吐息を吐くササライの背後では、
「──……ロリコン……。」
「ロリコンだ……。」
 ぼそぼそ、と、照明係りその2のサスケや、その3のチャコが、こそこそと話をしていた。
 それを聞いた「メイク担当」兼「映像装置管理担当」のメグが、イヤそうな顔をして、
「ちょっと、うちの娘には手ぇ出してないでしょーね?」
 などということを言い始める。
 そんな彼女に、誰もが、「そんなに心配だったら、鉄砲玉してないで、戻ってやればいいだろーが」と裏手で突っ込んでいた。──が、決して声には出さない。
 出したとしても、「それでも冒険が私を呼んでるのよ!」とこたえらえっるに違いないからである。
 ササライは、柳眉を軽く顰めると──不思議と、ササライはルックと違って、穏やかな雰囲気を持っているせいか、表情を「作って」いないと、ルックに比べて男らしく見える──、心外だと唇を歪める。
「子供は、どんな子供であっても、無邪気な笑顔が似合うじゃないですか。」
 ロリコンだなんて、失礼ですよ、と、そう続けるササライに、監督席の隣に立っていたグレミオが、なぜか妙に生ぬるい笑みを浮かべて、監督席を見下ろすと、
「──そうですね、子供のころは……本当に無邪気な笑顔が良く似合う、可愛らしいお子様だったんですよね。
 どこで育て方を間違えたのやら……。」
「失礼だな、グレミオ。僕は今でも、笑顔が良く似合うって言われるぞ。」
 ほら、──と。
 サングラスを外して、キラキラキラ、と輝かしいばかりの笑顔を、にっこり、と向けるスイに、
「あぁっ、スイさん……さすがです! 魔法ロッドを使ってないのに、こんなにキラキラした光が出せるなんてっ!!」
 こちらは、キラキラキラと目を輝かせて、うっとりと両手を組みながら見上げるリオの姿が一つ。
 その隣で、ジョウイが膝に、最近脱皮したおかげで、専用テントから出ることが出来るようになった蟲の幼虫──ベビィちゃんを乗せながら、はは、と乾いた笑いを零している。
 さらに、スイが座っている木の上が、ガサガサッ、と揺れたかと思うや否や──、ぼと、と。
「──……あぁ……す、スイ様…………っ。」
 息も絶え絶えの姿で、ロッカクの里の頭領がおちてきたりなんかするから。
「──ぼっちゃん、それは、ちょっと公序良俗罪になるので、謹んで下さい……。」
 思わずクレオは、そういわずにはいられなかった。
「そう? じゃ、ちゃんとサングラスしてるよ。」
「サングラス姿も、良くお似合いですよ、スイ様。」
 すかさずそんなスイの足元に跪くレパント元大統領だの、胸を押さえながら、なまめかしい吐息を漏らすカスミだの、単体で立っていればこちらも破格のカリスマを発揮するはずの元同盟軍軍主だのをはべらせるその姿は──まさに。
 監督というよりも、どこかの王宮の独裁者のような気がして、グレミオは、そ、と指で瞼を押さえてみた。

「それでは、気を取り直して、変身シーンから行きますね。」
  
 少し離れた場所から、ササライがそう告げるのに、スイが鷹揚に頷き、カチンコを掲げる。
 レックナートが、ジュッポたちの力作である「映像を保管できる装置(BY群島諸国の某発明家の流れを汲んでいるらしい)」を掲げて、任せてくださいと意気込む。
 カッチン☆と景気良くカチンコが鳴らされたところで、再びササライの変身シーンの呪文が唱えられ、キラキラしく彼を光りが包み込み──……、そうして。

「愛と正義の名の下に! 魔法少女ルックン!
 この仮面にかけて──愛ある限り、戦いましょう!」

 きめセリフをばっちり決めて、レックナートが自分の記憶を丁寧に攫って模写して作った「仮面」を、仮面舞踏会風にあつらえたものを、そ、と白い面に重ねる。
 途端、パァッ、と背後にバラが散り、バッチリ美しく停止シーンが決まった。
「あの仮面に、何の意味があるのですか、スイさま?」
 左手にロッド、右手に仮面。
 おかしな魔法少女だ。
 そう呆然と呟いたクレオに、スイはごく当たり前のように答えてくれた。
「仮面がないと、ササライさんだって、バレバレじゃない。」
「……は、はぁ……。」
 そういうものなのか? ササライとルックの違いって、あの仮面だけのものなのかっ!?
 そんな疑問を覚えたが、クレオはそれ以上問いかけることはなかった。
 なにせ、そのあたりを問いかけようものなら、まず始めに、「どうして魔法少女ロッドを使って、わざわざササライにルックのフリをさせて、特撮なんて撮っているのか」という辺りから、掘りさげて話さなくてはいけないからだ。
「不幸な人を更に不幸にするカズラーっ! この愛の制裁を受けなさいっ!」
 言いながら、ルックンはロッドを大きく振りかざして、足をそろえながら、クルリと回転する。
 ヒラヒラとレースやリボンが舞い散り、降り物係りであるクライブが、無言でシュトルムを構え──タイミングを見計らって、ルックンの上に向かって発砲するっ!
 シュトンッ、と音を立てて打ち出された弾は、ルックンの上で破裂し、キラキラと光る花びらとビーズを舞い散らせる。
 更にキラキラしさを倍増させたルックンが、すちゃ、と決まったポーズを取り、後ろ足を跳ね上げてロッドを上空で振り回す。
「キューティクル・ウィンド・ラブポーション!!」
 腰をフラリと揺らした瞬間、ヒラリとスカートの裾が翻り、白いレースがついた純白の下着が、丸見えになる。
「……はい、カーットッ!!!」
 びし、と、すかさずカチンコをスイが鳴らす。
「ササライさん、それ、ダメっ!」
「はい? え、何がですか?」
 ロッドの先から飛び出したピンク色のレーザーを、どこへともなく放りながら、ササライは不思議そうに振り返る。
 ピンク色のレーザーは、そのまま飛んで行き、ザクッ、と、照明を掲げていたシーナの足元に決まった。
「おわっ! ちょっ、ササライさん、マジ危ねぇってっ! ルック並じゃんっ!」
 慌てて数歩後ず去ったシーナが抗議の声をあげるが、おっとりと首を傾げているササライは、全く聞いていなかった。
「スカートだよ、スカート! 魔法少女はね、下着が丸見えじゃダメなんだよ。」
「え、けどこれ、見せる下着ですよ? スコートみたいなものですから、大丈夫じゃないですか?」
 ちらり、と、スカートの裾を持って、平気な顔で脚をきわどいところまで捲ってみせるササライに、きゃーっ、きゃーっ、と、照明係りその2とその3が、持っていた照明を取り落として、顔を赤く染めてその場にしゃがみこむ。
 ササライのパンチラで顔を赤く染めるとは、どれくらい純情だ、と、クレオは額を押さえて溜息を一つ零す。
「ダメっ! 健全な少女番組なんだから、パンチラは隠してください。
 だいたい、捲れたスカートをそのまま放っておくなんて、ルックらしくないからね。」
 カチンコで肩をポンポンと叩きながら告げるスイに、なるほど、とササライは頷くと、
「それが劇中のキャラ設定だと言うなら、従いましょうか。」
 素直に受諾してくれた。
 それに、そうしてくれ、とスイは頷くと、何度目のリテイクやら、と溜息を漏らしながら、チラリとフリックINカズラーを見やる。
 まだ、クリティカル咀嚼を3回しか受けていないから、もうしばらくは大丈夫そうだ。
「……ルックって、捲れたスカートをそのまま放っておかないんですか?」
 キョトン、とした表情でリオが監督席に座るスイを見上げる。
 あのルックがスカートを履くところがまず想像できないが、ルックのことだ、スカートが捲れようと何しようと、気にせず突っ立ってそうな気が──しないでもないのだけれど。
「僕だったら、気にしないですけど……。」
 だって、元々男だし。
 そう呟くリオに、ジョウイは疲れたような顔で、
「そうだね、君は前にそのロッドを使った時、逆さづりにされて丸見えになっても、隠そうともしてなかったよね……。」
「そういうジョウイは、そういや、隠してたっけ。」
 思い出すように顎に手を当てて考えるリオに、普通はそういうものなんだよ、とジョウイは溜息を漏らす。
「見てるこっちが恥ずかしかったよ……。」
 まったく、と額に手を当てるジョウイに、ふーん、とリオはイマイチ分かっていない風だ。
 そういえば、メグやミリーも、15年前は風が吹いて捲れるたびに、キャーッと悲鳴をあげてスカートを押さえていたっけ。(そしてシーナが喜んでいた)
 そういう物なのかもしれない。──たとえルックが本当にするかどうかは分からないけれど。
「けれど──実際、あのルック君が、スカートを気にして戦うなんて、ありそうにないですよね。」
 ふふ、と、クレオがおかしそうに口元に手を当てて笑う。
 ──とは言うものの、実際のルックはズボンを履いているし、スカートが捲れることなんてないのだろうけれど。
 それに、風で捲れそうになったら、紋章を解放して風を操ってしまいそうだ。
 そういうクレオに、スイは顎に手を当てて首を傾げると、
「いや、そうでもないよ。20年前は、けっこう気にしてたよ。」
「──……、と、いうと……魔法少女になっていたとき、ですか?」
 だから、ササライにもそうするように言ったのだと告げるスイに、一同は微妙な表情になる。
 ルックが魔法少女になったのは、20年前に4度、そして15年前に2度。そのどれもを、クレオは見ていなかった。
「いや、違う。普通の戦闘の時だよ。」
「……?? 20年前は、もしかして、あの法衣の下にズボンを履いてなかったんですか??」
 リオは、不思議そうに首を傾げて問いかける。
 法衣がヒラヒラ捲れて生脚が良く見えて困ったので、15年前は法衣の下にズボンを履いたのだろうか?
 疑問を口にしたリオに、クレオはそんなことはない、とパタパタと手を振ってそれを否定する。
「白い上下に貫頭衣を上からかぶってただけだよ。15年前とほとんど同じだったよ。──っと、けど、ベルトは増えてたかな?」
 あと、貫頭衣も、少し長くなっていたような気がする。
 昔を思い出すようにそう呟くクレオに、そういえばそうね、とメグが同意する。
 それに答えるのは、映像装置を回していたレックナートだ。
「ええ、なにか、風で揺れやすいので、固定したいとか言っていましたね。」
 けど、裾を長くした分だけ、余計に揺れるのではないかと言ったのですが、──と、続けるレックナートの言葉を受けて、
「ああ、うん、そう。脱がせられにくいようにと考えたらしい。」
 スイが、あっさりと爆弾発言してくれた。
「そうですね、脱がせられにくいように…………、って、ぼっちゃんっ! 20年前に、ルック君に何をしたんですかっ!」
 思わず普通に受け流そうとしてしまったグレミオは、養い子の言葉に秘められた意味に気づいて、血相を変えて叫ぶ。
「す、スイ様……っ! スイ様は──もしかして、もう、ルックと……っ。」
 がーん、と青筋を持ってカスミがその場に倒れこむ。
 胸に手を当てて、フルフルと体を揺らし始めるカスミに、スイは片眉を呆れたように顰めると、
「なんか二人とも、スゴイ勘違いしてるみたいだけど、別にルックを嫁にいけないような体にしたとか、そーゆーオチじゃなくって。
 普通に、ルックの服が繋ぎ服みたいに上と下で繋がってるのか、それとも上下別々なのか気になって、ちょっとズボンを脱がしてみただけなんだよ──戦闘中に。」
「──……あー……そういや、前にやってたことあったな。」
 すっかり忘れてた、と、シーナはボリボリと頭を掻きながら、やる気なさげに呟く。
 確かあの時は、なぜか男ばっかりのパーティの中に放り込まれたのだ。
 シーナは、男ばかりのパーティの時は、なるべく記憶に残さないようにしている。──記憶容量がもったいないからである。
「せ、戦闘中にって……、スイさん、冒険者ですねっ! さすがですっ!!」
 あの、ルック相手に、戦闘中にズボンを脱がすなんてっ!!
 両手を握り締めて、感激するリオに、「それはどうかと……」とジョウイが突っ込む。
 そもそも、戦闘中って、言うなれば生死をかけた戦いの最中ということだろう? そのさなかにズボンを脱がすって……、怪我の治療とかならとにかく、どうなんだ、それ。
 額を押さえたくなるような気持ちになったが、ジョウイは無言でベビィちゃんの背中を撫でながら、チラリ、とスイを見上げて。
「──で、どうなったんですか?」
 とりあえずそう尋ねてみた。
 やはり気になってしまうらしい。
 スイはそんな彼に、そうだね、と優雅に微笑むと、
「上衣と下衣は、別だったよ。」
 言い切った。
「いえ──そっちが聞きたいのじゃなくって。」
「……こいつ、その時、ズボンと一緒に下着まで引き摺り下ろしてたんだぜ。」
 ジョウイが困ったように訂正すると同時、シーナが苦々しい顔の中にも、面白そうな色を滲ませた笑みを張り付かせながら、当時の出来事を振り返る。
「ええっ、る、ルックを、下半身すっぽんぽんにしちゃったんですかっ!!?」
「ぼっちゃん!! そういうのを、お婿にいけなくなるような体にしちゃった、って言うんです!!」
 ぱちくり、と目を瞬くリオの頭の上から、グレミオが怒鳴りつける。
「えー、大丈夫だって。どうせ皆、ルックのピー(以下自主規制)なんて、見慣れてたんだからさ。」
 それに、うっかりそうなっちゃうこともあるだろうと思ったから、男ばっかりでパーティ組んだんだから。
 ヒョイ、と肩を竦めるスイの言葉に、メグが大仰な仕草でのけぞる。
「……シーナ、あんた、いつのまにルックとそんな関係に……。」
 思わず、ジト目でメグが呟くのに、シーナは慌てて頭を振った。
「勝手にそんな関係にすんなっ! スイも、人聞き悪いこと言うなよなっ!!」
「だって、見慣れてるじゃないか。──しょっちゅう一緒に風呂入ってたんだし? リオたちだって、ルックと風呂に入ってただろ?」
 最初は腰をタオルに巻いて入っていても、荒くれ者どもがそんな上品な入り方を許してくれるわけはない。
 気づいたら、「おめーら、そんな物で隠すようなイチモツかよ!」とタオルを引っぺがされ、丸裸にされて床に転がされ、デッキブラシで「背中流してやらぁっ! おーらっ!」と言われながら擦られるような、そんな世界だ。──ちなみに、フリックはその洗礼を受け、体中をあかすりされた。ビクトールは毛が邪魔で擦りにくいと文句を言われていた。
 スイは、問答無用で野郎どもの急所を蹴り上げ、熱湯を振り掛けるという、してはならない行動をして以来──ゆっくりと風呂に浸かりながら、その洗礼を見る権利を手に入れていた。
「あ……ああっ! お風呂ですかーっ!
 それならあります! ルックは、お風呂の隅っこで、いつも【風呂くらい静かに入りなよ】って言ってましたけど、静かにしてたら、一緒に入ってくれてました!」
 はい! と手をあげて元気に返事をするリオに、だろう? とスイは微笑む。
「団体行動は嫌いだとか口では言いながら、けっこう真面目に団体行動してくれるからね。」
 だから、別に一緒に風呂に入っている面子ばっかりだったから、多少脱がされようと下半身裸にされようと、構いはしないかな、と思ったんだけど。
 スイは当時を懐かしみ、ふぅ、と吐息を漏らすと、穏やかな微笑を浮かべ続ける。
 そう──あの時は、ルックの服がどうなっているか気になって──アレはつなぎなのか、それとも上下服なのか。
 風呂でもチェックしていたのだが、いつも気づくと脱ぎ終わっているから、確認できなかったのだ。
 しかし、通常時のルックに隙はない。
 仕方がないので、戦闘中にルックを自分の前列に配置して、モンスターを攻撃するフリをしてルックのズボンをすかさず下ろしたのだ。
 勢いを込めすぎて、うっかり下着まで下ろしてしまったときには、「しまった、やりすぎた」と思ったけれど、まぁ、結果オーライ。
 やっぱり上下は別だったのか、と理解して満足したスイの前で、ルックはロッドを持ってフルフルと震えた後──、暴発するかのように、真の風の紋章を大解放してくれたのだ。
 それ以降、彼はズボン下ろしに、非常に警戒を示すようになった。
 しばらくは、風が動き気配がしただけでも、バッ、と貫頭衣を押さえるくらいだ。ズボンを落とすときに貫頭衣の裾を捲り上げたことを、覚えているのだろう。
 だから、結論として、
「──ズボンを落とされて草原の只中で下半身すっぽんぽん事件のおかげで、ルックは、スカート捲りには敏感なはずだよ。」
「い、いやな事件ですね……。」
「むぅ──そんなことが。」
 たら、とジョウイの頬を汗が伝い、レパントが納得したように渋い声を漏らす。
 クレオは疲れたような溜息を零し、額に手を当てて緩く頭を振った。
 なんだか、ルックが哀れでしょうがなく思えた。
 ──だって、そんな目やあんな目にあわせられた挙句、今じゃ……そのルックをモデルにした、魔法少女な番組を作られてしまっているのだ。
 近いうちに、この辺りでそれは放映され、道具屋などで魔法ステッキなどの模造品玩具が売られることだろう。
 不憫だ──未承諾でそんなことに使われてしまうとは、本当に不憫で仕方がない。
「──っと、そういえば、スイ殿? 他にルックンとの相違点とかありましたら、教えていただけますか?」
 なんとなく気分がブルーになってきたところで、ますます滅入るような姿をした相手が、ヒラリンとスカートを翻してこちらを振り向いて声をかけてくる。
 キラリンと光る柔らかな長い髪。白い面。ふっくらとした唇には艶やかなピンクのルージュ。
 見た目はこの上もなく可愛い美少女ルックである。
 ロッドを握る右手の小指を、ぴ、と立てている辺りが、ルックには見えなかったが。
 というより、魔法少女にノリノリなルックの時点で、本来ならNGだ。
「ああ、そうだね。えーっと……。
 …………一つ言うなら。」
「はい。」
 こくり、とササライが頷く。
 神妙な態度の魔法少女の後ろでは、もっきゅもっきゅ、とカズラーがまだフリックを咀嚼していた。──そろそろその回数が減ってきたので、味に飽きて吐き出されてしまうかもしれない。
「ルックとは、胸の大きさが全然違うかな。」
「胸の大きさですか。」
「うん、(同じ遺伝子なのに)ルックは、巨乳魔女っ子だったんだよ。」
「あぁ、なるほど。確かに私は、そんなにないですしね。」
 なるほど、と、ササライは己のかすかな胸元のふくらみを下から持ち上げるようなしぐさをして、ふむ、と頷く。
 そんな些細な仕草にも、サスケは鼻を押さえて顔を真っ赤に染める。
 カスミはそれを見て、もう少し色の修行が必要かしら、と頬に手を当てて溜息を一つ零した。
「それなら、ボリュームを水増しするために、肉まんでも詰めておきましょうか。」
「あぁ、そうだね、それはいい。」
 ごく当たり前のように会話する二人に、シーナは投げやりな目つきで右斜め上を見ながら、
「ふつーに魔法で水増ししとけよ……。」
 ぽつり、と小さく呟いてみた。
 そして、重い照明をもう一度掴んで掲げ直そうとした──ところで。
 早速肉まんをどこからともなく取り出して、それを胸に無造作に突っ込もうとしていたササライの後ろを見て。

「って、あーっ! スイ! フリックさんがとうとう戦闘不能になって、カズラーに吐き出されたっ!!!」

 ぺっ、と、カズラーが、吐き捨てるように唾液まみれになり、くしゃくしゃになったフリックを吐きだすのを指差した。
「あっ、しまった! さっき、クリティカル音がしてたのに、回復させるの忘れてたよっ!」
 スイが苦い色を刷いて──もう一回やり直しかー、と、フリックにとってこの上もなく不幸なことを、呟いた。















──そうして、それから数日後の、ある日、ある場所で。


【魔法少女、ルックン! この仮面にかけて──愛ある限り、戦いましょう!】


 ひらりん、とどこかで見たようなピンク色のロッドを翻し、可愛い女の子が、奇妙なポーズをピタリと決める。
 するとそれを見ていた彼女の友人たちが、きゃーきゃー言いながら飛び跳ねて、
「いいなぁっ! いいなっ! ルックンのロッド、買ってもらったんだーっ!!」
 触らせて、振らせてーっ!
 と、甲高い声で、誇らしげな表情の彼女におねだりする。
 そんな彼女たちを、セラはいつもの無表情で見つめて、軽く首を傾げた。
 その視線が、ふと、近くの雑貨屋に止まった。
 そこには、質素な外観に似合わない、派手なピンクとレースがかかったポスターが貼られている。
 そこには、大きな文字で、先ほど少女たちが口にしていた言葉が描かれていた。

「魔法少女ルックン☆」

「魔法少女、ルック、ン?」
 何かが気になって、セラはソ、とそこに近づく。
 ポスターに目を走らせて──ひゅっ、と、彼女は息を呑んだ。
 そこには、新発売の商品情報や、放映日時と場所が描かれている、が、問題はそこではない。
 ポスターの中で微笑み、ウィンクまでしてポーズを取っている──見せそうで見えないチラリズムで、大きなお兄さんの心までもをわしづかみにしている「美少女」。
 どこかで見た仮面を片手に持つその姿は。

「……ッ! ルック、様……っ!!!??」

 彼女が良く知る人の容貌をしていた。
 なぜ、と、息を詰まらせ──いつのまに、ルックがこんなことをしていたのだろうと、セラは唇を歪ませる。
 そ、と近づき、彼女は掌でポスターをなで上げる。
 そんなセラの背後から、
「呼んだかい、セラ?」
 マジマジと見つめるポスターの中の、可憐な笑顔と同じ顔をした人の声が飛んできた。
「あ、る、ルックさま……っ。」
 珍しく動揺した態度で振り返るセラに、ルックは怪訝そうな表情を見せたが──すぐに彼は、セラの掌の先にある物体に気づいた。
 その表情が、みるみる内に冴え渡り──冷ややかな、凍てつくほど怜悧なものへと変化していく。
「る、っく、様……?」
 あまりの変貌に、セラは息をするのも忘れて、彼の恐ろしいほど冴え渡った美貌を見つめた。
「──…………。」
 ふ、と、ルックの唇から息が漏れる。
 それは、彼の言葉にならない言葉を含んでいるようだった。

──なに、この低俗なポスターは。

 と。
「……………………。」
 セラは、冷ややかな空気に耐え切れず、そ、とポスターに向き直った。
 とてもではないが、ルックをそれ以上直視していられない。
 しかし、ポスターを見たところで、目に飛び込んでくるのは、これでもかというくらいに強調された胸の谷間と、ヒラリンと翻るスカートと、キラキラしい微笑み。
 がつん、とセラは額をポスターにぶつけた。
 これも直視できない。
「──私たちの行く道は、どれほど険しく辛い道のりなのでしょうか。」
 あぁ、一体、どこへ進んだらいいのでしょう。
 小さく、小さく──セラは呟いて、心痛を覚えた胸元を、そ、と押さえつけた。
 ──と、その時である。
 無言でポスターを睨みつけるルックの元に、女の子が一人、近づいてくるや否や、
「ねぇねぇ、お兄ちゃん? お兄ちゃんも、ルックンが好きなのーっ!? その仮面、ルックンの仮面だよねーっ?」
 私のと、おそろいーっ! ──と。
 無邪気に──恐れを知らない少女は、何も知らない純粋無垢な笑顔で、そうのたもうた。
 瞬間。
 セラは、あぁ、と、遠い目で空を見上げずにはいられなかった。
 ……違うのです。
 これは……この方は、その、魔法少女ルックンのファンではなく。
 その……モデルとなったお方なのです。
 ──もちろん、そんなこと、ルックの目の前で言えるはずもなく。
 フルフルと、震えが限界点に達しそうな勢いで揺れる拳を握り締めるルックの、燃え滾るような怒りの波動を背に受けながら、セラは、そ、と溜息を零して、
「さあ、もうお行きなさい。友達が待っていますよ。」
 これ以上ルックの怒りに油を注がないうちにと、未練たらしそうにルックを見上げている少女の背中を強引に押して、押し出すのであった。
 ──その、すぐ後のことであった。





「……っの、バカ英雄……っ!!!!:





 グラスランド地方で巨大な風の竜巻が起きたのは。
 その正体を知るのは、ほんの一握りの人間だけ──、である。













ノリノリなササライさまを書いてて楽しかったです。

玩具などの収益は、裏的108星の活動費用にされます。
ちなみにササライさまは、スイたちがなぜこんなことをしているのか、まるで気にしていません。