一夜夢物語




 夜の空気はさめざめと冷ややかで、その中一人で歩く自分がなんだか泥棒のようだと、スイは思った。
 しかし歩みを止めるつもりはなかった。
 これは、まさに命がけのサバイバルなのである。
 そろそろと、真夜中の城の廊下を歩いていく。歩きなれた自分の城は、月明かりだけでも十分に歩ける。
 誰もが寝静まった静かな空気は、この古城を昔のような恐ろしい化け物が住むお化け屋敷にみせるからふしぎだった。
 その中を、一人で歩いていく少年は、エレベーターの前で止まって、少し考える。
 この城では、階段とエレベーターがそれぞれの階に一つずつしかない。
 どちらも見張りが付いている可能性があった。
 無事に地下に行くためにはどうしたらいいか──優秀な頭脳で考え様とするが、だんだんと面倒になってきて、まぁ、いざとなったら、強行突破しちゃえ、という結論に達する。
 わざわざ城の外壁を下るような趣味はないし(誰かに一度やらせたことはあったが)、エレベーターを動かさずに、つるしてある紐を下るつもりもないし(これもやはり、やらせたことはあったが)。
 今回のことは、自分が言い出した事なのだから、きっちりとやらねばなるまい。
 スイは決意も新たに、ぶらぶらと階段を下り始める。
 静かな夜だった。
 いつもはもう少しざわめいているこの城も、さすがに色々あったためか、皆寝るのが早かった。
 かく言うスイだとて、集まってきた各地に散った解放軍を伴なって戻ってきたフリックと、一悶着起こしたばかりであった。
 解放軍の先のリーダーであったオデッサ=シルバーバーグの恋人であり、副リーダーを勤めていた彼。彼の助力なくしては、解放軍は厳しい面に立たされるからと、船に乗って彼に会いに行って、それから各地のアジトの話を聞いて、早速使いを出してと、とりあえず働いたのだ。
 更にミルイヒの攻撃を受けている仲間を助けに行かなければいけないし……、ということで、多くのものは早く就寝し、明日からの新たな戦いに備えているはずであった。
 にも関わらず、この城の主であるスイは、軽快な足取りで階段を下っていく。
 途中で「いかがなされました?」と、スイに向かって微笑む解放軍兵士をさらりと交わしたり、そのまま撲滅したりとしてみたが、それはまた別の話である。
「♪〜。」
 あまりに上手く行き過ぎるのにちょっと疑問を持ちながらも、無事に地下にたどり着いたとたん、ちっ、とスイは舌打ちをした。
 そこにはすでにマッシュが立っていたのだ。
「スイ殿……。」
 無言でこちらを見詰める自分の軍師に、スイは貼り付けたような微笑みを零した。
「どうしたんだよ、マッシュ? 明日はスカーレティシア城へ行くんだろ?」
 にこ、と微笑んでそう言ったスイに、しかし人の奥底を読む事に慣れている軍師は騙されはしない。
「ですから、忠言を差し上げに参ったということですよ、スイ殿。」
 まさかマッシュ自身が出てくるとは思っても見なかったらしいスイは、軽く唇を噛む。
「危ない所に行くと分かっているのでしょう?」
 マッシュの眉間に寄せられたしわは深い。
 それを眺めながら、スイはこほん、と咳払いした。そして真面目な表情で、マッシュを見上げた。
 一体誰がマッシュに告げ口したかはわからないが、スイも引き下がるわけにはいかなかった。
「だって、おもしろそうだったんだもん。」
「……あなたという方は……。」
 心底呆れ果てたような声が返ってきて、スイはきっぱりと断言する。
「いいじゃない。たまにはこういうことして、息抜きしないと、人生腐っちゃうよっ!」
 自分の立場を考えて物を言え、という気分であった。
 マッシュとしては、なんとしてもスイの野望を砕かねばならなかった。
 一体どこの世界に、軍主が危険な目にあるとわかっていて、送りだす軍師がいるのであろうか?
 特にスイは、トラブルメーカーである。お目付け役がいるところでは、そうたいした悪さはしないが、目を離した途端、あれをするわ、これをするわ……息子など持った事がないマッシュは、子育てを間違えた親の気持ちを味わっているといっても過言ではなかった。
「いいですか、あれほど私が口うるさく申し上げているにも関わらず……。」
「マッシュ口うるさーい。そんなこといってると、ふけるの早くなっちゃうよ?」
「私はもう年だからいいんですっ! それよりも、あなたはリーダーなんですよ、リーダーっ! その自覚を持って下さいと、そう申しているのです。」
「自覚ならあるよー? だから、今回のテーマも、自分一人で解決しようとしてるんじゃない。上手く行ったら、皇帝の首も取ってこれるよ? ほーら、嬉しさ倍増っ!」
 握りこぶしをするスイに、マッシュの目がどんどん据わっていく。
 彼もだてにスイと一緒の時を過ごしていないのだ。
「馬鹿をおっしゃっているんじゃありませんっ! 軍主じきじきに敵地に乗り込むなんて、グレミオどのが許しても私が許しませんっ!」
「今回はグレミオにも内緒なんだけどね。」
「あー、そうなんですか……って、余計に悪いですよっ!!」
 叫んだマッシュに、スイはちらり、と巨大な鏡を見やった。
 そこには転移魔法ができる少女が立っている。
 スイは彼女のほえほえーとした顔に微笑みかけた後、マッシュの腕を掴んだ。
「マッシュ、説教するならこっちこっち。通路に立ってちゃ駄目だよ。」
 スイはいいながら、階段の下から鏡の前に移動する。
 マッシュはぶつぶつと言いながらその後に続いた。
 そしてスイは鏡に前に立つと、にやり、とマッシュを振り返った。
「軍師たるもの、人を疑う事も覚えた方がいいよ。」
「は? ──っ!]
 聞き返した途端、マッシュは気付く。自分が今、帰還魔法のための鏡の前に立っていることに。
 そしてそこには、杖をかざした美少女が一人……。
「しま……っ!」
 とたん、
「はーい、お二人様、グレッグミンスターまでごあんなーいっ!」
 ビッキーの底抜けに明るい声が響いた。
 視界が揺れる。
 マッシュは浮遊間とともに、スイを見下ろした。
「はかりましたねっ!」
 スイはにっこりと微笑んだ。
「さぁ、どうだろうね? 疑わずについてくるほうが馬鹿なのさ。」
 悪魔的な台詞は、イイトコロの御子息にはふさわしくなかった。
 しかしそれが彼の本性でもあると知る軍師は、回る視界に舌打ちしながら叫ぶ。
「どこの世界に軍主を疑う軍師がいるんですかっ!」
 探せばいるかもしれないが、そんな軍師と軍主で、勝てる戦なんてあるものか、とマッシュが言うと、しれっとしてスイが答えた。
「そうだね、軍主を信じられない軍師なんて、最低失格だよね。」
 と。
「だったらどうしろと!」
「僕という軍主を持った自分を後悔することから始めましょう♪ じゃ、ビッキー、行ってきます。」
「いってらっしゃーいっ!」
 ビッキーが明るく答えるのに、マッシュは自分まで魔法に巻き込まれているのに気付く。
「スイ殿っ!」
「あ、言い忘れたけど、今回の罰ゲーム、実はマッシュ同伴条件なんだよねー。」
「…………どこの世界に、軍主と軍師で、敵の頭の所に乗り込もうとする大馬鹿物がいるんですかぁっ!」
「ここの世界にいるじゃん♪」
 言い切ったスイの言葉を最後に、二人の姿はビッキーの前から消えたのであった。
 
 
「ここは……?」
 辺りは闇に包まれていて、ここがどこなのか、マッシュには分からなかった。
 しかし、マッシュの腕を掴んでいたスイにはここがどこか分かったらしい。
「参ったな……間違えて僕の家に出ちゃったよ。」
 二人の足下は、ふかふかの絨毯に埋もれている。
 そして良く見ると分かるのだが、壁には美しいタペストリーがかかっていた。
 スイには懐かしい家である。
「僕の……?」
 いぶかしむようなマッシュに、スイが振り返る。
「うん。目的地のイメージ役を僕がしたんだよ。だから、僕が一番よく知っているここに出ちゃったみたい。」
 言いながら、スイは慣れた様子で、壁にかけてある手燭を手にする。そして、ごそごそと棚を探ると、そこから火打ち石を取りだし、そこに火を付けた。
 ほんのりと明るくなった周囲に、一応表から見えることを心配して、火の勢いを調節した。
「……それで一体、何の罰ゲームなんですか?」
 ここまで来てしまっては仕方ないと言いたげに、マッシュが本題に入る。
 スイがよく変な罰を作ったゲームをしているのは知っていた。それが命を賭けるようなものでもあることを。
 いつもはスイは負けないのだが、今回は珍しくも敗者になってしまったらしい。
「んー? 今回は珍しく戦の役に立とうってことで、ミルイヒの館に忍び込んで、彼の弱みである猫を攫ってくる事っていうのがゲームだったんだよ。」
「…………………………………………そんなので、役に立たなくてもいいですよ。」
 マッシュが深深と溜め息をついたのは仕方あるまい。
 そう言えば、先の将軍との戦い──クワンダ・ロスマンの時もそうであったような気がする。
「よりのもよってあなたと私が来るような事態なんて──。」
「え? 僕は元々来ることになってたんだよ? 僕意外に誰がミルイヒの家が分かるのさ? 罰ゲームで選ぶのは、僕の相手だったんだよ。それなのに、あいつら皆揃って当り引いてさ〜。」
「つまり……?」
「皆が当りだったときの罰ゲームの相手は、マッシュって、最初にくじ引きで決めておいたんだよ。」
 しれっとして、スイは言ってくれた。
 つまり、マッシュは良い迷惑であったということであろう。
 とすると、スイが今夜グレッグミンスターに行くぞ、という情報をくれたのは、スイとグルだったと見るべきであろうか?
「…………、ミルイヒ将軍もクワンダ将軍のように、ルーンに支配されていると考えたら、弱点など探しても無駄だと思いますよ?」
「ま、そりゃそうだけど。──どっちにしても、ここからミルイヒの館に忍び込むには、道具が足りないかな?」
 スイは、懐をごそごそと探って、そこから盗賊が持つ七つの小道具を出す。そして、それを確認して、やっぱり足りないなぁ、などと呟いている。
 それを眺めながら、どうして軍主がこんなものを……とマッシュは心ひそかに思った。
「それならば、鏡で戻りましょう。明日はスカーレティシアに攻めるんですから。」
 ここは誰一人としていないマクドール家であるとはいっても、敵地の直中であることには変わりないのだ。
 こんなところに長居していてはいけない。スイは顔が知れているのである。
 しかしスイは、そんな軍師の言葉を真面目に聞いていなかった。
 リビングを出て行くと、廊下を覗いた。
「あー、埃がこんなに積もってるや。ったく、父上もずぼらだなぁ。手伝いの一人や二人くらい手配しろってんだよ。これだから再婚のめども経たないうちに、息子に家出されるんだぞー。」
 かく言う父は、それどころじゃないだろうに、息子はそんなことを言ってくれる。
 感傷に浸っている部分もあるのだろうが、マッシュの前でそれを見せる事はないのだろう。
「スイ殿、不祥の息子の言う言葉じゃありませんよ。」
 スイの後を追ってきたマッシュが、少年の隣にたって、呆れたように呟いた。
「もう一緒にいられないと思うからこそ、こうして口にして言うのが親孝行の息子ってもんなんだよ、マッシュ。」
 ろうそくの明かりを受けて、スイは白い肌を際立てるように微笑む。
 儚いその笑みは、まるで自分の今の行動を悲しんでいるように見えた。
 が。実際スイがそう思っていないのは、彼の軍師であるマッシュには分かっていた。
「あなたを見ていると、グレミオ殿は育てかたを間違えたんですねって、思いますよ。」
「あはははは。マッシュは冗談が下手だね。もう一回若者の流行を調べ直してきなよ。」
 笑顔でスイがそう告げると、マッシュもそれに微笑みながらこたえる。
「今のは本音ですよ、ははははは。」
 しばし二人は密やかに笑い続けた。その声が奇妙に乾いていたのは間違いではあるまい。
「余計に悪いよ……っと、こんなこと話てる場合じゃなかったっけ。──どうしようかなぁ?」
 暗闇の中をろうそくの明かりでかざして、スイは首を傾げる。
 そして、階段を見上げて、少し動きを止めた。
 辺りは暗く、スイが今どんな表情をしているのかは、まるで分からない。
「早く戻りましょう。」
「ええ? 折角ここにいるんだもん、なんかしてかないと……あ、そうそう。忘れ物でも取ってこよう。」
 忘れ物……と、マッシュは溜め息とともに呟いた。
 スイはそれにかまわず、階段向けて歩き出す。
「…………何を取りに行くんですか?」
「着替えと、本。読みかけの本があってさ、暇になるとあの続きが気になってねー。あとは、へそくりとかさ♪」
 この人の言葉を聞いていると、マッシュは解放軍が暇そうに思えて仕方なかった。
 実際スイは、毎日何かトラブルを起こしている気がする。なんといっても、グレミオが「スイがいない」と叫ぶ時に言う言葉がいつも、「ぼっちゃんが今ごろ何をしでかしているのかと思うと、もーう心配で心配でっ!」である。
 何が心配なのだろうと思うのだが、それは皆、怖くて聞けないのであった。
「…………。」
 そんなものを、わざわざ持ってくのか、といいたげなマッシュに、スイは懐かしそうに階段を上りながら口元に苦笑を刻ませる。
「ここを飛び出すときは、旅の用意してる暇なんてなくってさ。台所にあった、非常食とかしかなかったんだよね。クレオやグレミオが、自分の財布を持ってて、旅の支度にはそれを使ったっけ……。」
 何も持ってなくて、ごめんね、と謝ったら、二人は微笑みながら、そんなことは気にしなくてもいいんですと、そう言ってくれた。
 だから、せめて二人の私財をこれ以上食いつぶさないようにと、モンスターを率先して倒すようにしたし、ビクトールから狩の方法を教わったりと、節約に心がけてきた。
 グレミオもクレオも、家を飛び出した時に、職を失ったも同然の状態になっている。だから、二人の大切なポッチに手をつけたくなかったのだ。
 スイが苦く語るそれに、マッシュは彼の細い背中をみあげながら、無言で目を細める。
「……────あなたを見ていると、そうは思わないのですが、大変だったのですね。」
 しみじみと思った事に、スイは驚いたように立ち止まり、マッシュを見下ろした。
 そして、ああ、と囁く。
「……そうだね。大変、だったのかもね。」
 まるでそうは思っていないかのようなその言葉に、マッシュは何故か笑いたくなった。
 彼は大変じゃなかったのだと、そう思っているのではない。
 あの時は大変だったのだと、そう思い出しているだけなのだ。
「なんていうか、遠い昔みたいだなぁって、思うんだよね。」
 軽く言い切って、スイは階段の上に出た。そのまま自分の部屋に向かおうとして、ふと脚を止めた。
「あれ? 何か僕の部屋で物音が……?」
 いぶかしむように眉を顰めた途端、マッシュがスイの隣に立った。
「どうかしましたか?」
「うん。今なんか僕の部屋に……。」
 いいながら、スイはそろり、と歩き始める。
 マッシュも足音を消してその後に続いた。
 そして二人は、そろりとドアを開いて──スイの部屋に明かりが灯っているのを見た。
 こっそりと、ドアから中を覗いて、二人は沈黙した。
「あれは……確か──。」
「帰ってたんだね。──父上。」
 スイの部屋で、ドアに背を向けている人を一目で見抜き、スイはなんとも言えない表情になった。
 そして、ちらり、とマッシュを見上げて、ふぅ、と溜め息を吐いた。
 この館の主、テオは、無言でスイのベッドを見ていた。きっとそこに、ありし日のスイを見ているのだろう。今は敵となってしまった、息子を。
「スイ殿……。」
 不安を抱いて密やかな声を出したマッシュは、無言でスイのベッドを眺める父を見詰めるスイを見下ろした。
 スイはなんとも言えない表情をしていた。
「なんでこういう時に帰ってるかな、あの人は。どうせ帰っても待ってる人なんていないんだからさ、わざわざ戻ってこなくてもいいのに。」
「…………────。」
「これじゃ、本どころか着替えも取れないじゃないか。ったく、なんで自分の部屋にいないで、こんな時間に息子の部屋にいるかなぁ。」
 ぶつぶつと、小声で悪態づいている少年に、マッシュは何も言う気力はなかった。
「スイ殿、見つかる前に帰りましょう。」
「らじゃー。」
 少し不安を抱いていたマッシュのそんな気持ちを吹き飛ばすように、スイは即答した。
 そして、父の後ろ姿をもう一度見て、いろいろな思いのこもった溜め息を零した。
「スイ……──。」
 ぽつり、と呟かれた父の声に、スイはびくり、と肩をあげた。
 続けて、テオは呟く。
「今ごろ……反乱軍の兵に好き放題されていやしないだろうか。──あの子の顔では、普通に軍役に付かせたのでは不憫だろうと思って、近衛に推薦したのが行けなかったのだろうか。」
「マッシュ。ちょっとあのくそ親父殴ってきていい?」
「駄目です。」
 気付いたらスイの手には、愛用の棍が握られていた。
 それをマッシュが冷静に止めて、スイの腕をつかんで階段へと戻ろうとする。
 スイは文句を言いたげな表情をしていたが、仕方なくそれに続こうとした、が。
「こんなことなら、兵役に付かせた方が良かったのだろうか……。いやしかし、それにはあまりにもスイは可愛らしいっ! あれではすぐに兵たちの慰み者になってしまうっ! それなら私はどうすれば──っ!」
「どうも考えるなっ! そんなことぉぉぉーっっ!!」
 耐えられず、スイはドアを開放すると同時、思いっきり天牙棍を投げ飛ばした。
 ああっ! と叫んだマッシュが止める暇もなかった。
 がごんっ、とその棍は、テオの後頭部にぶつかった。
 スイは入り口に仁王立ちして、床に沈み込んだテオを見下ろした。
「全くもうっ! 将軍のくせに、背後からの攻撃をよけられないとは、情けないねっ!」
「スイ殿…………。」
「さぁっ! 今のうちに持ち出すよっ!」
 倒れ付したまま動かないテオの身体をぶしぶし踏んで、本人曰く「親孝行な息子」は、自分のたんすを開け始める。
 そしてさくさくと、手慣れた空き巣のように、荷物をまとめ始める。
 それを呆然と眺めるマッシュが、はた、と我に返った頃には、スイは父に投げつけた天牙棍を手にしていた。
「さ、帰ろうか。もう夜も遅いし。ミルイヒの館は諦めて……あ、そうそう。」
 いいながら、スイは倒れた父の側にしゃがみこんで、ためらうこともせず、懐に手を忍ばせた。
 そして、ポッチがずっしりと入った財布を抜き取ると、ふぅ、と出てもいない汗を拭った。
「ボスを倒したら、アイテムとポッチは貰わないとねっ! 基本基本っ!」
 そして、意気揚々と部屋を出ていく。マッシュはそれを見送って、静かにテオを振り返った。
「あなたの息子は、しっかりものに育ってますよ。」
 そう、言い残して。
──次の日、息子の部屋で起きたテオが、息子の夢を久しぶりに見たと思ったのは、また別の話である。



ヤマダ様

好き勝手していますが、何か好き勝手しすぎている気がするのは気のせいでしょうか?
このようなものでよろしかったら、どうぞ軍師とセットで貰ってやってください。