愛しき暴君






 湖の真ん中に立つ古城――いつのまにか解放軍の本拠地となったその城の名は、「シュタイン城」。
 赤月帝国の各地から集まった猛者の集う場所である。
 その最上階のとある一室で、解放軍の幹部とも呼べる者達が一同に会していた。その座の名称は、軍事会議、という。
 いかつい顔の戦士から、身なりの整った貴族然とした者、美しい女性と、バラエティに飛んだ種々さまざまな幹部たちが、長い机に席をとって居た。
 見た目だけは、軍事会議というよりは、ただの怪しい組合の集まりのようであったが、会議自体はヒートアップしていた。
 喧々囂々と語り合う幹部たちは、挙手して発言、などという事をするものは一人もいなく、誰かが発言したら、それにかぶさるように誰かが叫ぶ。
 ほとんど喧嘩腰の会議の中、黙っているのは、ほんの一握りの者だけであった。
 その中の一人に、会議の中央に座っている軍主も居た。彼は、腕を組み、目を閉じ、静かに黙考しているようであった。
 そんな彼を前に、ひときわ熱弁を振るうのは、初老の騎士――マクシミリアンであった。
「じゃからっ、今こそその時期であると……っ。」
「ですが、今の時期は稲の収穫がありますから――。」
「それが何だと言うんだ、一体。」
「ここから攻め入るとすると、民衆がまともに巻き込まれる可能性があると言うのですよ。」
「民衆くらい、どうでもいいだろうが。」
「どうでもいいとはどういうことだよっ!? 解放軍は、民衆のための物だろうっ。」
 白熱する話し合い――というか言い合いに近い会議になってしまうのは、いつもならこれを纏めているだろう軍主様の存在が、今日はとても薄いからである。
 その上、軍主に倣うかのように、彼のすぐ近くに控えている軍師も、無言でその言い争いを見守っている。
 結果として、話し合いはヒートアップする一方であった。
 このまま永劫にも続こうと思うくらいの叫び合いに、うんざりしたクレオが目を閉じ、ビクトールが飽きた顔でおおあくびをした、まさにその時であった。
 バン!
 激しい音がして、机が叩かれた。
「だから、いいかげんまともに話そうと言っているだろうがっ!」
 壁を震わせるような怒声が響き、視線が声の主に集まる。
 軍主を囲むようにして、軍師の正面に座るその人――前髪を一房染めている彼の名は、フリック。この解放軍の初期メンバーの一人にして、副リーダーその人である。
 微かに頬が紅潮しているのは、怒りのためであろう。短気ですぐカッとなりやすい一面も持ち合わせる彼の眉は、これでもかというくらい引き絞られていた。
 そんな彼に、慌てて口をつぐむのはほんの一部だけであり、残りの者達は、あからさまな顔で彼を横目で見やった。
「…………………………。」
 お前が言うか? といいたげなその顔に、フリックが一瞬言葉を詰めた。
 まるでその瞬間を悟っていたかのように、刹那、一同は何事も無かったかのように、再び言い合いを始めた。
 そうなってしまえば、フリックの一喝によって黙り込んだ他の者達も、口々に自分の意見を言いはじめる。
 フリックはそれを前にして、きりり、と唇をかみ締め、再び声を荒げようとした。ビクトールはそれを横目にみながら、無駄だと思うぜ、とジェスチャーを送る。
 しかし、フリックがビクトールからの忠告を素直に聞くはずはなかった。
「だから、冷静になって話し合おうって言ってるだろうがっ!」
 両手を机についたまま、一同を見やって叫ぶフリックの声に、今度は誰も反応しなかった。
 それどころか、フリックの声は奇麗にもみ消されてしまった。
 きりり、と歯噛みするフリックに、だから言ったろ、とビクトールが冷たく呟く。そういうビクトールは、さっさとつまらない言い争い会議から、一抜けた表情であった。あと数分したら、会議を抜け出すための行動に出ることは、間違いない。
「てっ、てめえらなぁっ!」
 叫ぶフリックに、マッシュが薄く目を開ける。
 少し呆れたような表情は、あなたこそ冷静になりなさい、と言っているようであった。
 けれど、無言で黙ったままの軍主に視線をやると、軍主が何も動かないのを悟り、再び黙する。
 いつもなら、真っ先に切れたフリックをいじめるだろう軍主が、何も反応もせずに黙っているのである。これは、軍主自身に考えがあると見た方がいいだろう。
 ふるふると肩を震わせたフリックの隣で、ビクトールがさっそく辺りに視線を走らせ、いざ抜け出そうとした、まさにその時であった
 騒動にまるで気付かないかのように、黙って目を閉じていた軍主が、不意に瞳を開けた。
 気付いたマッシュが、かすかに姿勢を正す。
 軍主は、マッシュの視線を受けながら、それを奇麗に受け流して――唐突に一言、呟く。
「……決めた。」
 それは、大きな声であったわけではない。
 どちらかというと、独り言に近い、小さな呟きであった。
 けれど、その軍主の声は、フリックの怒声よりも効果があった。
 声が零れた瞬間、ピリリ、と空気が緊迫した。
 熱気に満ちていた室内は、一瞬で常温まで静まり、吐息すら零れるのが禁忌だと言うように、息を呑む。
 まるで時間が止まったかのように動きを止めた彼らは、ゆっくりと首を傾け、腕を組んだまま正面を睨んでいる軍主を見た。
 尊敬と敬遠。そして、軍主の言葉の先を待つ期待の込められた視線。
 マッシュは、一同のそんな目を平然と受ける軍主の視線を捕らえようとするが、彼はただ正面を見つめるだけで、決してこちらを見なかった。
 それにかすかな不安を感じつつも、軍師は冷静な声で、彼に声をかける。
「お決まりですか、スイ殿?」
 解放軍の基本は、話し合いと意見のぶつけ合いで決定される。
 しかし、最終決定権はあくまでも軍師であるマッシュと、そして軍主であるスイに一任されているのである。
 特に将としての才能溢れる軍主の決定は、優秀な軍師であるマッシュが依存を唱える事も少なく、スイの「決めた」の一言は、実質本決定に近いのであった。
 そうであるからこその、軍師の短い促しであった。
 答えるスイの言葉は、いつも簡潔で、決断力に満ちたものであった。――もちろん、その結果に異論があるならば、この場に居る誰もが声を荒げる事は間違いないのであったが。
 だからこそ余計に、一同は息を呑んでスイの言葉を待った。
 スイは、真摯な瞳で、自分を信じて待つ彼らを見回す。
 そうして、ゆっくりと唇を割った。
「やっぱり、通り名は必要だ。」
 断言する声は、凛々しく、決意に満ちていた。
「……………………………………。」
「……………………………………。」
 満ちては、いたのだけど。
「…………………………え?」
 小さく尋ねたカスミが、困ったように首を傾げるのをみながら、マッシュは、またか、といいたげに額に手を当てたのであった。






「……で、通り名がどうしたというのですか、スイ様?」
 呆れた声を隠そうともせずクレオが尋ねる。
 この場で一番、軍主のとっぴな行動と言葉に慣れているのは、他ならない彼女だからである。
 どうせまた、くだらない事に、情熱と決意でもって接するつもりなのだ、この年若い軍主様は。
 警戒を見せながら視線を向けてくるクレオに、スイはにっこりと頷いて答える。
「この間から、考えていたことなんだよ――飛刀のクレオ?」
「…………はぁ…………。」
 帝国の軍に仕えていた当時に呼ばれていた通り名を口にされ、クレオはあいまいな返事を返す。
 どうにもスイの真意が読めないクレオに変わって、今度はパーンが、コリコリと頬を掻きながら尋ねる。
「一体何がしたいんですか、スイ様は?」
 面倒な言葉の探り合いを苦手とするパーンだからこその、直情的な尋ね方であった。しかし、それこそを、誰もが待っていた。
 パーンの素朴で、もっともな問い――けれど、誰もがスイの性格を知っているので、まともに正面から聞くことが出来なかった問い――に、一同が期待の視線を向けるのに、スイはもっともらしく頷いた。
 そうして口にしたのは、先ほどと同じ言葉を、若干ニュアンスを変えただけの物であった。
「だから、渾名は必要な物だと思うんだ。
 そう思わない? 夜叉カミーユ?」
 突然話を振られて、カミーユは困惑した顔を見せる。
 彼女は、一同の視線が自分に集まるのを感じつつ、居心地悪そうに身体をゆすった。
 彼の言う通り名というのが、有名な傭兵が持つ「アレ」であることは分かる。
 青雷のフリックにしかり、風来坊のビクトールにしかり、である。
 確かに渾名を持つということは、傭兵としても名が通っているということであり、仕事の量や質にも関係してくるから、必要なことではある。
 もっとも、つけたいと思ってつけれる物でもなく、それは自然と知名度と関係してくるのだから。渾名を持っているカミーユも、傭兵としては長通っていると言えるのだろうが――正直な話、カミーユの通り名は、血が散る戦場で響く物ではなく、酒場での戦場で慣らされたものである。こういう場所で口にされても、なんとも答えようがなかった。
 気まずそうなカミーユを見てから、スイは再び室内を見回した。
 真摯な表情で、口を割って出てくるのは、一同を説得するための言葉である。
「例えば、僕の父、百戦百勝将軍テオ=マクドールは、その通り名ゆえに、例え名を知らないものが居たとしても、相当のツワモノであると想像することが出来た。
 通り名があるということは――それも、効果的な通り名を持つということは、相手の闘争心を削ぐ効果もある。」
 もっともらしくうんちくを垂れるスイに、腕を組んだビクトールが大きく同意を示す。
 何やら面白そうな方向に話がやってきて、先ほどまでのやる気の無さはまったく消え、今は、目を輝かせて、にやにやと笑っている。
「まったくまったく。
 ちんちろりん大魔王って名前聞くだけで、お前とちんちろりん勝負はしたくねぇって思うもんな。」
 それはなんだか違う、と思わないでもなかったが、とりあえずフリックはそんなビクトールに突っ込んでおいた。
「それでもスイと勝負して、毎回身包み剥がされてるだろうが。」
「いや、そうと分かってても、一発勝負にかけてみるのが男ってもんじゃねぇか。」
 乗ってきたね、とフリックに軽く答えてやると、
「負けてりゃ世話はないけどね。」
 あっさりとクレオが言い切る。容赦のない物言いに、そりゃねぇぜ、とビクトールが情けなく眉を顰める。
 そんな彼らを見つめながら、スイは微笑んで見せた。
「青雷のフリック、風来坊ビクトール。
 君たちの名前を聞けば、傭兵達は、あれが、と思う。
 その名前のメリットは、ひどく大きい。事実、その名の知名度ゆえに、投降してきた兵士達だって居るしね。」
「俺等だけじゃねぇけどな。
 実際、解放軍には、通り名を持つものは数多くいるし……ハンフリーだってそうだし、サンチェスだって持ってるし。」
「……私の通り名は、別に相手にダメージを与えるような物ではないですけどね。」
 フリックが肩をすくめて呟くのに、名を呼ばれたサンチェスが苦笑を浮べて答える。
「インパクトがありゃいいんだよ、そんなのは。」
 ひらひらと手を振りながら告げたビクトールが、それで? とスイに先を促す。
「スイ? お前、今更渾名をつけてくれ、とか言うんじゃねぇだろうな?」
 顔を顰めるビクトールに、一同はなんとも言えない顔になる。
 スイに渾名があるのは――通り名があるのは、誰もが良く知っていることであった。
 軍内における軍主の呼び名は、何通りもある。それは、ちんちろりん大魔王であったり、白銀の悪夢であったり、闇の帝王であったりと、さまざまである。
 けれど、それよりも何よりも、赤月帝国においての「解放軍軍主スイ=マクドール」の通り名が、彼らの頭を駆け抜けた。
 「呪いの軍主」、「父殺しの軍主」、「魂盗人」――それは、解放軍のメンツが、親しみと敬愛を込めて名づけた通り名とはまったく違う、悪意と恐怖のみの通り名。
「…………。」
 まさかそれを口にすることは出来ず、軍師を始めとして、一同は沈黙をもって視線を交わし合う。
 スイは気付いているだろうに、彼らの視線を見て見ぬふりをして、笑顔で続ける。
「通り名というのは、一種の武器だと思う――そうだろう、マッシュ?」
 不意に話を振られて、マッシュが小さく息を呑んだのが分かった。
 表情は、誰が見ても分かりにくいポーカーフェイスであったが、この場に会する全てのものが、悟っていた。
 あれは絶対、できることなら答えたくないと思っているに違いない、と。
 しかし、ここで「回答拒否」ができるほど、スイは優しい人ではない。
 促すように軽く顎でしゃくられて、マッシュはそっと吐息を零した後、
「私は、それも構わないと思いますが。」
 しぶしぶ――そう答えた。
「確かに、あなたのイメージを払拭するための通り名は必要ですしね。
 もちろん、効果的に広めることも出来る。」
 軍主の通り名が、悪意に満ちたものであることは、同時に解放軍のイメージにも関わってくる。
 だからこそ、スイの通り名を、格好の良いものに代えるのは、多少軍資金がかかったとしても、行う価値はある――はずである。
 確かにスイの言うことには一理あり、この事を彼自身から告げさせてしまったのは、軍師達の落ち度であるとすら言えた。
「私も、それには賛成です。
 もっとも、今、この場でそういう意見が出た事には、感心しませんけど。」
 にこりと唇を綻ばせて、クレオが微笑む。
 スイの「悪意に道が通り名」を嫌い、心を痛めていた一人である彼女は、その名が払拭されるならばと、率先して同意する。
 もちろん、今度の戦のことを決める軍事会議で、わざわざ提案してきたスイを、軽く睨み付けることは忘れなかったのだが。
「そうですよねっ! スイ様に良く似合う、素敵なお名前を考えないと駄目ですよねっ!」
 嬉々として声をあげたのは、カスミであった。
 頬を紅潮させて、満面に微笑んだ彼女は、ふ、と時分に集中する視線を感じて、一瞬で真っ赤に染まった。
 そして、慌ててうつむくと、
「いえ、その………………えーっと…………。」
 ますます顔を俯けながら、ボソボソと呟く。
 その耳まで真赤な若き忍者を、どこか微笑ましい思いで見つめた後、バレリアが一同を見回す。
「インパクトがあって、強い感じのする名前にする方がいいと思う。
 相手は黄金皇帝の異名を持つのだから、それに対抗できる名前――。」
「こんなのはどうだよっ!? 魔神スイ=マクドールッ!! まーさーに、これぞスイって感じだろっ!」
 バレリアの言葉尻を奪うようにして、ビクトールが威張るように笑った。
「だから、いい響きを持つ名前を考えろと言ってるだろっ!」
 クレオが怒鳴る隣で、
「やっぱり、強い名前って言ったら、破壊王だなっ! 破壊王、スイ=マクドール。強そうじゃないか。」
 パーンが一人納得して頷いていた。
「だーかーらーっ!!」
 クレオに続いて、バレリアも拳を握り締めた刹那。
「誰が僕の渾名を決めろって言ったんだよ?」
 呆れたような声が、軍主の席から聞こえた。
「………………へ?」
「いや、だって……。」
 慌てたように視線を飛ばしてきた幹部達に、呆れた眼差しを向けて、スイはゆったりとした動作で頬杖を突いた。
 そうして、下から睨み付けるように一同を見回して、もう一度唇を開く。
「僕の渾名なんて、今あるので十分だよ。
 僕が、通り名が必要だと言っているのは――。」
 スイの赤い眼差しが、す、と滑って、マッシュに止まった。
「マッシュだよ。」
「…………………………。」
 スイが告げた瞬間、マッシュの微かに持ち上げられていた唇が、引きつった。
 いつも冷静沈着な――ただし、軍主が騒ぎを起した時は、誰よりも堪忍袋が短くなる――軍師にしては珍しいくらい、凝固していた。
 そんなマッシュに、笑顔と共にスイは、更に言葉を重ねた。
「副軍師であるレオンにすら、通り名があるじゃない? 冷酷無比とか、残酷だとか、ナルシストだとか。」
「ナルシストっていうのは、お前個人の意見だと思うのは、俺だけか?」
 思わず隣からフリックが突っ込むのに、スイは優しい微笑みを零して彼を見た。
「そういえば、フリックにも、青雷っていう通り名以外にも、渾名があったよね?
 『青い』って言う。」
「…………っっ、おっ、おまっ、お前なぁぁぁっ!」
「あー、青い青い。青くて青くて、熱くなりすぎ。」
 わざとらしく手の平で頬を扇ぎながら、スイがわざとらしく視線を逸らした。
 フリックがパクパクと口を開いたり閉じたりしているのは、見なかった振りである。
 その後、まったく何事もなかったかのように、にっこりと笑顔を零すと、
「さて、それじゃ、マッシュの通り名でも考え様か。」
 ぱふ、と両手の平を合わせて、それはそれは楽しそうに言ってくれたのであった。
 が、いくら楽しそうなことであっても、それを素直に受け入れるわけには行かなかった。
 何よりも今は、軍事会議の只中なのである。
 正気を取り戻したマッシュが、掠れた咳払いを零す。
「考えようか、ではありません。スイ殿? 私は、解放軍のいわば影役のようなもの。その私に、何故威嚇のような通り名が必要なのですか?」
 きりり、と顔つきを正した彼に、スイは手元の書類を手繰り寄せる。
 その中から、一枚取り出し、両手でそれを掴みながら、
「それでね、三つくらい候補を考えてみたんだ。」
 マッシュの言葉を、まったく何も聞いていなかったと分かる台詞を口にして、書類をかざした。
 そこには、今度攻め入る地区の詳細な地図と、地理状況が詳しく書かれていた。
 れっきとした、今回の軍事会議の必要書類、三ページ目の参考資料であった。
 一同が眉をひそめたのを見計らったかのように、スイはそれを裏返した。
 はたしてそこには。


 おやじ

 はげ

 糸目  』

 の、三文字が書かれていた。
 ぶふぅっ!!
 そこかしこで、吹き出す声が聞こえる。
 なんとか吹き出すのをこらえた面々も、口を押さえて肩を震わせていた。
「…………す、スイ……殿…………。」
 震えるマッシュに、スイはにっこりと笑う。
「的を得てるでしょ?
 それにほら、昔から、地震雷火事おやじって言うし。
 はげほど怖いものはないっていう人もいるし。」
「それでは、最後の一言は何なのです?」
 ひくひく、と引きつるマッシュの顔に、いつもは冷静なんだけどなー、と、ビクトールがぼやく。
 フリックはどこかハラハラした面持ちである。
 スイは、軽く首を傾げるようにして。
「やっぱり、その人を良く指している台詞が必要だと思わない?」
「……………………………………スイ殿?」
 糸目が更に細まって行くマッシュに、クレオが額に手を当てた。
「ま、でも、ね?」
 口元にはかれるのは、意地悪げな微笑み。
「こんな通り名じゃ、誰も恐れおののいたりしないから、ちゃんと別のを考え様か。」
 ひらひらと、紙を振るスイに――。
 マッシュが、がくりと肩を落とした。
 どうやら、負けのようである。
 かくして、今日の会議は題名を変更せざるを得なかったのだと言う。






 結果、軍師の渾名に選ばれたのが何なのかは、その時会議に参加していた幹部のみが知る事であった。







薬屋様


33333申告ありがとうございましたv
リクエストどおりの、かっこよさげな坊は無理でしたが(^_^;)、傍若無人な坊はお届けできたと思われます。
そうとうお待たせいたしましたが、どうぞお受け取り下さいませ。






※※※※軍師の渾名決め会議の一部を中継してみました※※※※


「マッシュの渾名なぁ。マッシュらしいのじゃなくっちゃ駄目なんだろ。」
「そうだな。っていうと――特徴は、さっきスイがあげてたしなー。それでいいんじゃないのか?」
「おやじマッシュ。」
「はげマッシュ。」
「マッシュ糸目。」
「おっ、語呂いいじゃん。それで行こうぜ、それで。」
「って、ちょっとちょっとあんたたちっ! マッシュ様、睨んでるよっ!?」
「マッシュの渾名なー。渾名渾名。マッシュって言うと、何だ?」
「えーっと――こういう事は、子供に聞いてみるといいんですよ。子供は正直ですから。」

「額。」
「額だよな。」
「額だよねー。」

「…………額??」
「それを説明するとだねっ! つまりっ! そろそろ後退してきたようにも見えるけど、じつはかつらっ!? かつらなのか、とっても疑問っ!? 疑惑だということなんだよ!!」
「とっても、嬉しそうですね、スイ殿?」
「そりゃ、愛しいマッシュの渾名を決める、大事な会議だもん。楽しくないはずがないじゃないかっ!(きりりっ!)」
「…………………………。」
「じゃ、マッシュの渾名を決めるよっ! 適当な書類の裏に、これだ、と思うマッシュを示すものを書いてくれっ!」
「書類の裏ですかっ!!」
「そう、裏。資源の節約をしなさいって、いつもマッシュが言ってるじゃないか。」
「そういうことじゃなくってですねぇっ! その書類は、この会議の資料であって――っ!」
「大丈夫。今のこれも、会議の一つだから。」
「あのですねっ!」
「んー……マッシュって言ったら……。」
「これだね。」
「だな。」
 カキカキカキカキ。
「…………………………だから、資料の裏に………………。」
「はげマッシュの似顔絵ー。将来予想図っ!」
「描くなって言ってるだろうがっ! 軍主自らっ!!」
「じゃ、マッシュ糸目。」
「あなたって人は〜っ!」
「血管浮き出てるよ、マッシュ?」
「誰のせいだとおもってるんですかっ!」
「……マッシュのせい??」

「よしっ! できたぞっ!」
「俺もだ。」
「私も。」
「わたしもー。」

「よし、それじゃ、皆同時に開示だっ!」

ばばーんっ!!

『軍師』

「…………………………あー……マッシュって、感じだね。」
「…………………………。」
「いやぁ、あの四つ以外、ほかに浮ばなくってさぁ。」
「…………………………(ショック)。」
「軍師マッシュ。――うーん、そのまんまだけど、ま、いっか。」
「いいんかいっ!!」