マリベル「何してんのよ、アルスっ! さっさと来なさいっ!」
アルス「マリベル……だって、ねぇ、本当にするの?」
マリベル「今更怖じ気づいてんじゃないわよ、ったく、いくじなしねっ! いーい? これは、任務なのよ、に・ん・む。」
アルス「任務って、なんの任務なんだよ〜……。
それに、いくら平和な国だからって、城下町は酒場もあるし、夜に一人で行ったら危ないって、いつも言われてるじゃないか。」
マリベル「一人じゃないでしょ。……まぁ、アルスみたいなの、一人って数えられないけどね。」
アルス「危ないんだってば、マリベル? ねぇ、今から帰ってもまだ間に合うよ? 帰ろうよ、マリベルぅ。」
マリベル「情けない声だしてないのよ、ったく、あんたそれでも男? 本当に付いてるの?」
アルス「なっ、何言って……っ!」
マリベル「なぁんてね。誰もそんなの見たくなんかないわよ。で、アルス? 行くの、行かないのっ!? 言っとくけど、あたしを止めても無駄よ。あたしは、この任務を遂行するわ。」
アルス「なんか、すっごく……わくわくしてない?」
マリベル「あら? 当然でしょ? だって、お城よ、お城。それも夜中に忍び込むんだから、これが冒険じゃなくって何だっていうの? ま、このマリベル様に寝顔を見られるんだから、キーファも満足でしょうね。」
アルス「……………………………………マリベル……………………。」
マリベル「さ、行くわよ、アルスっ! 早く先に歩きなさいよ、あんた、レディに先を歩かせるつもり?」
アルス「どうしても、行くんだね……あーあ……誰だよ、あんなの持ってきたの………………。」
マリベル「何グチグチ言ってるのっ!? さっさと歩くのよっ! ったく、どんくさいんだからっ! ほんと、あたしがいないと、駄目ねぇ、アルスは。」
アルス「マリベルがいなかったら、こういう事をしなくてもいいと……そう思うんだけどね。」
アルス「えーっと……僕たちは今、謎の任務書により、夜のグランエスタードに来ています。」
マリベル「これが何かと思っている人も多いでしょうけど、これは、純然たる視聴者のリクエストによってなる番組です。
今回、私たちにリクエストが来たため、こうして出番となったのです。
うふ、あなた、なかなか目が利くじゃないの?」
アルス「寝姿拝見レポートって……そんなに、イイモノなのかなぁ?」
マリベル「乙女の夢でしょ、夢。――ま、今回のターゲットを考えると、くだらないって思うけどねぇ。」
アルス「………………キーファの寝姿なんて、いつも見てるんだけど――今更じゃないの?」
マリベル「何言ってんのよ、アルスっ! キーファの寝てるところ見てるのなんて、あんたくらいでしょうが。
他の人がみたいって言ってんだから、あんたが案内するのは当たり前でしょ。」
アルス「でも……友達を売るなんて…………。」
マリベル「いーいっ!? アルスっ!? あんたは、こういうことしか役に立たないんだから、ちゃーんと、やるべき任務はやりなさいよ!」
アルス「でも……。」
マリベル「それに、キーファだって、どうせ起きたら面白がるわよ。
今度はあんたの寝姿取りに行こうとか言い出すかもね。――そんなの見ても面白くないでしょうけど。」
アルス「――――――………………わかったよ。それじゃ、マリベル――静かにしてね。」
マリベル「あたしはいつだって静かで――って、アルスっ!? どっち行くのよっ、そっちは掘りよっ!?」
アルス「……静かにってばっ、マリベル。
城の門から行っても開けてくれないから、裏道から行くんだよ。」
マリベル「そりゃ、門から行って開けてくれるわけないでしょ。――っていうか、なんであんたが裏道なんて知ってるのよ?」
アルス「……内緒だからね。
キーファの隠し通路。」
マリベル「……ははーん、なるほど。
ということは、カメラは、ここでいったんとめないとね。」
アルス「あ、そっか……。」
マリベル「ったく、ほんとに間抜けなんだから。やっぱりアルスはアルスよね。」
アルス「…………………………(苦笑)。」
マリベル「アルスのくせにやるじゃないっ! ここ、城内よね? うん、見覚えあるわよ、ここは、城の……一階?」
アルス「静かにってばっ!」
マリベル「アルスのくせに生意気よっ!」
アルス「もう、そうじゃなくって……っとっ!?」
マリベル「っ! ――危ない危ない。なんで兵士が見回りなんかしてんのよ?」
アルス「そりゃ。城だからだと思うけど。」
マリベル「そんなのわかってるわよっ! 言ってみただけでしょ、言ってみたっ! ――それにしても、暗いわね。ったく、蝋燭ケチってんじゃないわよ。」
アルス「マリベルの家だって、夜は蝋燭消してるじゃないか。」
マリベル「馬鹿ね。城がこれだけ暗くちゃ、不法侵入者に気付きにくくて、まずいんじゃないかって言ってるのよ。」
アルス「でも、今の僕たちは、その方が好都合なんだよね。」
マリベル「…………まぁね。」
アルス「……あ、いいみたい。マリベル、階段上ろう。」
マリベル「命令しないでよっ! ほら、行くわよ、アルスっ!」
アルス「だから静かにって言ってるのに……。」
マリベル「ふふふふ、何か物語の中のスパイみたいね。ドキドキしてきたわ。」
アルス「この先がキーファの寝室だよね。」
マリベル「わかってるわよ。寝るときしかいない、キーファの私室でしょ。」
アルス「そんなことないよ、たまにいるよ。」
マリベル「いつよ?」
アルス「えーっと……謹慎受けてるときとか、何か道具を使ってる時とか、本の謎を解いてるときとか――。」
マリベル「(呆れつつ)隠してたお菓子を食べるときとか、でしょ。」
アルス「………………え…………う、うん。そんなとこ…………かな。」
マリベル「ったく、やっぱりくだらないわね。」
アルス「あ、あははははは(否定する気もない)。え、と。それじゃ、キーファの部屋だけど……あ、やっぱり、兵士が立ってるね。」
マリベル「どうしようかしら? ここはやっぱり、お酒を差し入れて、眠らせてから――でも、どうやって酒をさしいれようかしら?」
アルス「じゃ、ちょっと行ってくるね。」
マリベル「どうや……ん? って、こらっ、アルスっ! あんた、何やってん……っ、と、声出しちゃまずいわねっ。
あー……っ! ああああああああっ! 何兵士の前に出てんのよっ! ――って……?」
アルス「こんばんわ。」
兵士「あれ? ――アルスさん? どうしたんですか、今日は御泊りでしたっけ?」
アルス「そういうわけじゃないんだけど――ちょっとキーファに用があって。
もう寝てるかな、キーファ?」
兵士「御眠りだとは思いますけど。いくらアルスさんでも、こんな夜中に王子の御部屋に御通しするわけには行きません。」
アルス「それじゃ、泊まってくことにするよ。それならいい?」
兵士「……そう、ですね。今から城の外に出れるわけもないですし――それなら。」
アルス「ありがとう。良かった、キーファに会えなかったら、どうしようかと思ったんだ。」
兵士「それでは、どうぞ。」
アルス「……キーファ、寝てるんだよね?」
兵士「ええ。」
アルス「………………それじゃ、なかなか起きないよね……。」
兵士「……お水、持ってまいりましょうか?」
アルス「そう言ってくれると嬉しいです。」
兵士「それでは、先に中にお入り下さい。」
アルス「うん。」
兵士「では。」
マリベル「…………あんた、妙なことしてくれるわね。ちょっと見直したわ。ちょっとだけね。」
アルス「そうかな? いつものことだし。」
マリベル「そういえば、時々お城に泊ってたっけ?」
アルス「うん。さ、今のうちに。」
マリベル「わかってるわよ。……って、何よこれっ! 真っ暗じゃないっ!!」
アルス「マリベルっ、声が大きいよっ!」
マリベル「あんたもねっ! ――ったく、蝋燭ないの、蝋燭?」
アルス「この辺にあると思う。」
マリベル「さっさと捜して火をつけてよ。」
アルス「……うん。えーっと……。」
マリベル「それにしても、男臭いわね、この部屋。あんた良くこんな所に泊れるわね。」
アルス「お城に泊る時は、ほとんど部屋にいないんだよ。僕もキーファも。
城の探検してるから。」
マリベル「はっ、お子様ね。そのわりに、汗臭い部屋。なによ、これ?」
アルス「マリベル。その辺いじると、キーファが……。」
マリベル「さっさと火をつけなさいよ。」
アルス「今……。」
ぼっ
マリベル「ふぅ、やっと人間の生活になった感じだわ。
じゃ、さくさくとレポートしましょうか。」
アルス「あ、うん。えーっと、キーファのベッド…………………………あ、あれ?」
マリベル「何よ。」
アルス「…………ねぇ、マリベル……。ベッドにキーファが寝てない場合って、どうしたら……いいのかなぁ?」
マリベル「はぁぁぁぁっ!?」
アルス「だって、ほら。」
マリベル「いないじゃないのっ!? 何やってんのよっ! っていうか、何? どこにいったのよ、あの馬鹿王子はっ!」
アルス「どこにいったんだろ、キーファ。兵士さんは、ここに居るって言ってたみたいだけど。」
マリベル「決まってるでしょ、あの王子のことだもの。どうせ抜け出して遊びほうけてるのよ。
今ごろ城下でほうけてるんじゃないの?」
アルス「…………………………あ、でも、布団はまだあったかいよ。どこか……………………………………あ。」
マリベル「あんた、何ベッドの上に乗っかってんのよ?」
アルス「マリベル。」
マリベル「何よ?」
アルス「下。」
マリベル「は?」
アルス「下に……落ちてる。」
マリベル「……………………………………………………このくそ王子、寝相が悪すぎんのよ。」
アルス「とりあえず、キーファの寝顔も取ったし、ちゃんとベッドの上にも戻したし。
――マリベル。どうやってキーファの部屋から出るの?」
マリベル「あんたが何とかしなさいよ。最後くらい役に立ちなさいよね。」
アルス「うーん、わかった。兵士さんの気を逸らしておくから、自分で逃げてくれる?」
マリベル「はぁぁぁ? あたしが、一人で? あんたはどうするのよっ!?」
アルス「え? だって、兵士さんに、ここで泊るって言っちゃったし。」
マリベル「そういうときはねっ! 女の子を送ってから、もう一回ここに来るのが筋合いってもんなのよっ!!」
アルス「えっ、だ、だって……。」
マリベル「文句あんのっ!?」
アルス「――――――……………………ううん、うん、送ってく…………………………。」
マリベル「あったりまえでしょ。」
翌朝
キーファ「ふああああ、良く寝た……。
………………あれ? アルス?? なんで隣で寝てるんだ?」
アルス「(熟睡、どうやらフィッシュベルへ往復したのが効いているらしい)……すぅすぅ。」
キーファ「おーい、アルスー? アールース…………駄目だ、寝てる。」
アルス「……………………。」
キーファ「ま、いっか。アルスが居るってことは、今日は迎えに行かなくてもいいってことだしなっ! よし、今日は朝の勉強からも逃げて、アルスと遊ぶかっ!」
アルス「……………………………………んー…………頭の上が…………うるさい……………………。」
キーファ「よし、そうと決まったら、アルスっ! アルスっ!! おきろーっ! おやじたちが起きる前に、抜け出すぜっ!」
アルス「うう……僕寝たの……明け方なんだけど………………。」