馬がいななき、音を立てて馬車が止まった瞬間、膨らみに膨らんでいた喜びをはじけさせるかのように、豪快にドアが開いた。
そして、一面に広がる白い砂浜に、飛び出す。
天上からジリジリと照らす太陽、照り付けられ陽炎を浮かべる砂浜、そして、涼やかな風を巻き起こす、青い海――。
「夏だ! 海だっ! かいすいよくだーっ!!!」
一番に馬車から飛び出した少年が、両手を広げて波打ち際へと走って行く。
足跡一つついていない砂浜が、彼の勢いのある蹴りによって、砂を巻き上げる。
「リオ殿っ! あんまりはしゃぐと、またこけますよ……っ!」
まったく、と苦々しい口調をして叫んだ青年は、けれど、口調ほど不機嫌なわけではないらしい。薄い唇に笑みを浮かべて、眩しげに額に手を翳した。
見事なくらいの晴天の空。まぶしいばかりの白い雲がたなびいている。
まだ朝も早い時間なのに、地面を照らす太陽は温かく、足を柔らかく受け止めてくれる砂も、心地よい。
片手に潜水のための道具を抱えたフリックが、叫んだ青年の隣に立ち、あ、と小さく叫んだ。
勢い良く波打ち際まで走っていった少年が、見事に正面からこけたのである。
「あーあ、言ってる先からこけてるよ。まったく、見てて飽きない奴だなぁ。」
笑いながらサンダルを足に引っかけて降りてきたのはシーナであった。
彼は、首からサングラスを下げて、早速辺りを見回す。けれど、一面の砂浜と美しい色の海の海水浴場には、目当ての美女は一人としていなかった。
「さっさとパラソル立ててくれる?」
肩から長いシャツを羽織ったルックが、不機嫌極まりない顔で、きつい太陽に目を眇める。
白い肌が、その下で病的なくらいに弱々しく見える。
シーナは、そんなルックを振り返り、嫌そうな顔で自分の顔を指差す。
ルックは、さも当然と言いたげに、頷いて見せた。
冗談じゃねぇ、とシーナが吠えるよりも先に、
「すっごい、すっごーいっ! きもちいいよーっ!!!」
反対側のドアから飛び降りた元気少女が、楽しそうに、嬉しそうに叫んだ。
そして、白い砂を蹴散らしてこちらへ走ってくる。
薄いピンクの水着を着込み、両手にサンダルを持っている。そして、すらりと伸びた素足で、砂浜を駆けて行く。
ナナミの後ろ姿を、呆れたように見ながら、いつもとそう変わり無い姿に見える水着を着込んだアイリが、サンダルをしっかりと履きながら彼女の後を続く。
「アイリちゃんっ! 早く早くっ! ほら、砂も、水も、奇麗っ!」
満面の笑顔で振り替えるナナミに、わかってる、と返してから、アイリは未だ馬車の回りにいる男どもを振り返る。
「パラソル、頼むからねっ!」
そして、手にしていた日焼け止めを放るや否や、振り返りもせずに走り出す。
二人の少女のしなやかな肢体が、ころんだリオに追いつき、両脇から彼を抱き起こすと、そのまま海の中へと入って行く。
水に触れた瞬間、冷たいっ! という、楽しそうな声があがった。
「……パラソル…………立てるか。」
ルックに言われただけでは、嫌そうな顔しか見せなかったシーナが、ぽつり、と呟いた。
ルックは、そんな彼に冷たい視線を向けたが、特に何か言うこともなく、顎で砂浜をしゃくった。
この野郎、とシーナが握り拳を震わせる。
「おう、シーナ。手伝え手伝え。パラソルとシート用意すんぞ。」
ビクトールが、さっさとパラソルとシートを引きずり出して、その先でシーナをつつく。
どん、と叩かれるようにつつかれて、シーナが面倒そうな表情で振り返った。
「俺かよ……。」
「それじゃ、すでに水ではしゃいでるリオや、力のないルックとか、向こうでさっさと一人で涼んでいるシュウに手伝えと?」
ビクトールが、くい、と顎で示す先では、アイリやナナミと水掛けあいをしているリオが居る。そんな三人を見ているシュウは、少し離れた木陰で、さっさと座り込んでいる。こんな所にまで本を持ち込んでいるあたり、ルックと気が合いそうであった。
「フリックさんとかさー。」
俺はナンパで忙しいの、というのは、女っけのない海岸を見渡したら、使えない言葉であることは良く分かることである。
着いた早々重労働しているのは気に食わないと顔を歪ませたシーナは、ふと、今まさに馬車から降りてこようとしていた少年の存在に気付いた。
さらり、と揺れる明るい髪の色が、色素の薄い肌を際立てる。灼熱の太陽の下、眩しいばかりの白さである。まったくもって、ルックと良い勝負であった。
「おおっ! ジョウイ君っ! まさに君は救世主だよっ!」
わざとらしく両手を組んで、おおげさにシーナが笑ったその刹那。
するり、とジョウイの腕に、華奢な腕が絡まった。
「まぁ、とても奇麗な海ですのね。」
美しい漆黒の髪を、高々と結わえた少女は、にこやかに微笑みながら、波打ち際ではしゃぐ少年少女を眩しげに見つめた。
抜けるような白い肌、すらりとした肢体を覆う臙脂色の水着――あでやかな微笑みを浮かべて、彼女はジョウイに笑いかける。
答えて微笑むジョウイの口端が、やや引きつっていた。
敵国の皇王であり、后であるはずの夫婦を前に、ビクトールが冷静に突っ込む。
「で? 誰が救世主だって?」
「………………はいはい、てつだやいいんだろ、手伝えばよ。」
乱暴にビクトールからシートを奪い取り、ずかずかと歩いて行く。
その後に続こうとしたビクトールが、ふと後ろを振り返り、肩からパーカーをかけたジョウイと、彼に寄りかかるジルを見た。
「お前等はどうするよ?」
「おかまいなく。わたくしたちはわたくし達で、用意させますから。
――ね、シード? クルガン?」
にこ、とジルが華やかな微笑みで振り返った先に、馬車から降りてくる二人の男の姿があった。
熱い太陽の光にも負けない、赤い髪を持つ青年と、この熱いのに、いつもと変わり無い姿で降りてきた男との、二人である。
「え? あ、ああ、はい。もちろんそれは、クルガンがしっかりと立ててくれますよ。」
しれっとして、シードが笑う。
クルガンが何か言いたげに口を開きかけたが、無駄だと思っているのだろう、すぐにため息を零した。
ジョウイが、ごめん、と片手をあげている光景が、この四人の上下関係を物語っているようであった。
フリックが、苦い笑いを貼り付けながら、
「ま、俺等も手伝うからさ。」
勝手な約束をしてくれた。
「何ぃっ!?」
シーナが大袈裟に身体を引くのを横目に、肉体労働が得意なビクトールが、笑った。
「まぁいいじゃねぇか。今日ばかりは、敵味方もなしだって、ちゃーんと契約書にもサインさせたんだしよ。」
「いや、そーゆー問題じゃなくってさぁ。」
まじかよぉ、と砂浜に座り込むシーナを、ビクトールが強引に立たせる。
ルックは、さっさとシュウと同じ木陰に非難して、シードは楽しそうにシュノーケルの道具を抱えて、波打ち際へと走って行く。
ジルは優雅に笑い、ジョウイを促そうとする。
ジョウイは、ちらり、と幼なじみ達の方を見て、辛そうに目を細めたが、何も言わず、ジルに頷く。
その瞬間である。
「ジル、日に焼けないように、日焼け止め塗ってあげるよ。」
最後に馬車から降りてきたスイが、そう優しく声をかけたのは。
「ぼっちゃんのパラソルはどうしますかぁ? ほら、レパントさんが持たせてくれた、解放軍模様の。」
「捨てとけ。」
いそいそと、馬車の中から用意してきた籠だの、パラソルだの、浮き輪だのを持ち出すグレミオに、振り返りもせずにスイが即答する。
そんな、あいかわらずの主従の声が聞こえた瞬間、ジルは、するり、とジョウイから腕を抜いた。
驚くジョウイを脇に、ジルが少女らしい微笑みを浮かべ、スイを見上げる。
「日焼け止めでしたら、馬車の中でたっぷり塗りましたわ、スイ。」
「それじゃ、ぼっちゃんの分を塗りましょうか。
そのまま泳ぐと、すーぐに真っ赤になりますよ?」
パラソルを仕舞い、変わりにいろいろな物が入った籠を取り出すグレミオに、ジルがもっともだといいたげに頷いた。
「そうですわよ、スイ。スイの肌は、敏感なんですからっ! 私もお手伝いしますから、ね?」
いそいそと、笑顔でスイに近づいて行く妻に、ジョウイは笑顔をこわばらせたまま、僕は? といいたげに自分を指で指し示した。
けれど、ジルは振り返ることなく、グレミオとスイとの会話に頬を綻ばせていた。
「…………………………………………。」
「ジョウイ様……、パラソル、手伝ってくださいますか?」
さっさとシードにも置いていかれたクルガンが、静かに声をかけた。
ジョウイは、少しだけすねたような、困ったような笑顔を浮かべると、そうだね、と頷いた。
そして、クルガンが一人で抱えているパラソルを手伝って持ち、
「どこに立てようか?」
気軽な声で、尋ねた。
「そうですね……同盟軍の隣というのは、気にいりませんけど。」
「大丈夫だよ。どうせ、パラソルの中にいるのは、シュウ殿とルックさんくらいだろ?
こっちも、クルガンがいるかどうかだと思うけど。」
ちらり、と視線を向けた先で、シードが早速海に入って行くのが見えた。
気性が激しい彼であるが、人付き合いの良い面も持っている。
隣を通るさいに、リオとナナミから声をかけられ、笑顔でそれに答える。
どうやら、今日の機嫌は最高潮のようであった。
スキューバのための道具をつけたフリックが、海の底に沈んでいき、赤い髪を波間に浮かせて、シードが泳ぐ沖よりもずっと手前――海岸近くで、子供たちは水遊び以外の別の遊びを見つけていた。
砂浜では、女性達の黄色い悲鳴や、少年たちの楽しそうな声を、面白くもなさそうな表情で見ていた。
シュウは長い髪を結わえ、団扇でひっきりなしに自分の顔を仰いでいた。
隣でルックが、一人涼しい顔で書物の紐を解いている。時々吹いてくる海からの涼しい風だけでなく、人工的な風がルックの髪を揺らしていた。
それにご相伴に預かるように、ルックの後ろでシーナが座り込んでいる。暑い中、パラソルを二つ立ててしまったため、体力が無くなったようである。
いつもなら、アイリちゃんが、だとか、ジルちゃんも捨て難い、だとか言い出すだろうに、今日はおとなしくくたばっている。
静かでいいものである。
が、波打ち際は静かではなかった。
「きゃーんっ! 岩っ、岩がっ!」
ナナミが楽しそうに笑いながら、ばしゃん、と足を上げる。
透明度の高い海は、底の岩も良く見通せた。
仁王立ちしたアイリが、底を覗き込むように目を細め、あ、と声をあげた。
「ウニがいる。」
「うそうそっ!? 食べれるっ!? 食べれるーっ!?」
一転してアイリの方を見たナナミが、しゃがみこんで水の中に指先を浸けた。
そんな彼女に、リオと二人で肩を寄せ合って笑い会っていたジョウイが、慌てて声を荒げる。
「手を触れちゃ駄目だよ、ナナミっ!」
「そうだよ、危ないんだからっ!」
ジョウイの後を継いで、リオも叫ぶ。
二人から叫ばれて、ナナミは腰を曲げた体勢のまま、軽く唇を尖らせる。
「わかってるよぉ。」
ぷく、と頬を膨らませるナナミに、どうだか、とアイリが笑う。
「あっ、魚っ!」
とたん、あがった声に、ナナミもアイリも、声をあげたリオの方を見た。
リオが、身体を固めて視線だけで海を追っている。
「どこ?」
鋭くジョウイが尋ねるのに、そこそこ、とリオが指差す。
けれど、すい、と逃げる魚は、その影だけが見えるだけで、良くは見えない。
うーん、と四人で海面に目を凝らして立ち尽くしていると、
「ほら、みんな、これ。」
スイが笑顔で何かが入った袋を差し出した。
彼の細い腕には、しっかりとジルの腕が絡まっていた。
そして、とても幸せそうにジルが微笑む。
「グレミオさん特製のパンですのよ。」
本来なら、ジルが巻き付いている腕の主はスイではなくジョウイのはず――なのであったが、すでに誰もそれに疑問を抱いてなかった。
ジョウイにしても、ジルの相手をスイがしてくれていれば、久しぶりにリオ達とゆっくり出来るのである。
「食べるの? これ。」
スイが差し出してくれた袋を受け取り、確かに中に入っているのがパンだと知ると、さっそくリオが腕を入れる。
グレミオの手作りとなれば、美味しいパンに決まっているのである。
そういえば、お腹もほどほどに空いてきたところであった。
しっとり柔らかなパンを思い描いたリオは、突っ込んだ指に触れるパンの感触に、眉を顰める。
「なんだか、パサパサなパンですね……。」
「別にお腹すいてないですよ、私?」
ナナミが、きょとん、とパンを覗き込む。
どうして海の中でパンを食べるのであろうかと、軽く首を傾げる。
アイリは軽く肩を竦めて、貴族っていうのは分からないと、小さくぼやいた。
ジョウイも、不思議そうにパンを見つめている。
「くすくす……そうじゃなくって、このパンはね、ほら、こうするんだよ……。」
スイが、微笑みながら、パンの切れ端を手にした。
そして、それを更に細かく千切り、ぱらり、と海面に撒いた。
「スイさん、環境破壊は感心しませんけど……。」
ジョウイが、眉を引き絞って囁くのに、リオもうんうん、と同意しかけ、海面を見やった。
刹那、ひゅっ、と息を呑む。
「って、そうじゃないよ、ジョウイっ!」
そして、焦ったようにジョウイの腕をわしづかみにして、がしがしと揺らしはじめる。
「あわっ、わわっ、リオっ! 危ない、危ないっ!!」
岩に足を取られそうになり、慌ててジョウイがリオの腕を掴み取る。
ぐい、と引っ張られるように巻き添えにされかかったリオが、焦って腕をじたばたさせる。
スイがそれい微笑みながら、仲がいいねぇ、とジルに笑いかける。
ジルもその微笑みを受け取って、本当、と笑う。そうしながら、片手にはパンの破片が握られている。
彼女は、そっとそのパンを崩して海に撒く。
あ、とナナミがそれを指定するよりも先に。
ばっしゃーんっ!!
「ぶはっ! ジョウイっ、ひどいっ!!」
「それはこっちの台詞だよっ!」
見事に、二人揃って海の中に崩れ落ちていた。
頭からずぶぬれになりながら、顔を揃えて叫び合う彼らに、しょうがないと、ナナミが腰に手を当てる。
「まったくもう、リオはそそっかしいんだから!」
「それはナナミにいう言葉だろーっ!」
「ちょっとそれ、どういう意味よーっ!」
海面から顔だけ突き出して言い合う彼らに、会話に出されたナナミがムッと顔を膨らませる。
そして、乱暴な手つきで二人の頭を、ぐいっ、と下向けて押した。
「がぼっ!」
「な……っ。」
思いも寄らない攻撃に、二人はあっさりと海の中に沈み込む。
アイリが、手の平を合わせて、黙とうをささげる。
と、その時である。
ナナミの手に抵抗をしていた二人の動きが、不意に止まったのである。
「な、ナナミっ!」
まずいんじゃないの、と、焦ったようにアイリが彼女の腕を引っ張り、ナナミも恐る恐る腕をどけた瞬間、
ざばぁっ!
「さ、さ、さ、魚っ!!」
二人が、焦ったように立ち上がった。
驚いて目を見張ったナナミとアイリに、リオが海を指差す。
「魚っ、魚が集まってきてるのっ!」
え? と、やっと海面に目をやったナナミも、あ、と息を呑んで動きを止めた。
そんなナナミの足を、するり、と魚が泳ぎぬける。
「お魚さんっ!!!」
叫んだナナミが、慌てて魚の行く先を視線で追った。
その先には、 スイとジルが居た。
姉弟のように笑い合う彼らは――年齢的にも、精神的にも、兄妹と言ったほうが正しいのだが、見た目はどうしてもスイの方が年下であった――、手にしたパン屑を海に投げる。
パンが海面に触れた瞬間、魚達が先を争ってそれに群がりはじめる。
その光景は、まるで餌に飢えたピラニアのようであったl。
「あ、あ、あ、あーっ、パン食べてるーっ!!」
リオが指差し叫ぶのに、スイがにっこりと笑ってパンの入った袋を差し出す。
「さ、みんなもどうぞ?」
「ほらほら、すごくたくさんの魚が来ましたわよっ!」
ジルが、きらきら光る海面を指差して笑う。
いつもの上品な物ではない、明るい笑顔に、ナナミも大きく頷く。
「よぉっし、お姉ちゃんにまっかせなさーいっ!」
「って、ナナミずるーいっ!」
「ほら、リオリオっ! こっちにもたくさん来たっ!」
興奮したようにリオの腕を引っ張って、アイリが寄ってきた魚にパンをあげることを勧める。
「わーっ! すっごーいっ!!!」
はしゃぐナナミの笑い声。
「ほらほら、ナナミ♪」
リオが、大き目に千切った魚を、ほい、とナナミの脚近くに放った。
すると、一気に魚が寄ってきて、ナナミの脚を囲みはじめる。
「きゃうっ! って、ちょっとちょっとっ!」
すごい勢いで寄ってくる魚に、脚をついばまれて、ちくん、と痛みが走る。
慌てて後退したナナミの目の前で、海面に浮かんだパン屑をついばむ魚が、どこか恐ろしい。
その光景を見たナナミが、むぅ、と唇を歪めた。
「もう、リオっ! 仕返しっ!!!!」
そして、千切ったパンを、リオめがけて投げつける。
しかし、そのパンは、狙いからまったく外れてジョウイの脚に触れた。
「ん?」
軽く目を瞬いたジョウイのすぐ側に、
「はい、ジョウイ君。」
笑顔でスイも、パンを投げつける。
更に、
「それでは、わたくしも♪」
楽しそうに、ジルもパンを投げる。
「って、ちょっとちょっとちょっとーっ!!!!!」
四方八方から魚に囲まれて、身動き一つできずに、ジョウイが叫ぶ。
慌てて持っていたパンを遠くに放り投げ、魚の注意を引こうとするものの、あまりに遠くに放りすぎてしまい、魚達はどいてくれない。
「うひゃっ、くすぐったい……って、ちょっとみんなーっ!? どこ行くのーっ!?」
遠ざかって行くリオ達に助けを求めるものの、
「だって、向こうでグレミオさんがご飯を用意してくれてるんだもーん。」
リオが、茶目っ気たっぷりに笑うだけで。
「御魚さんに餌やってたら、ご飯食べたくなっちゃったー。」
「美味しそうだねー。」
ナナミとアイリが、さもわざとらしく海岸からあがる。
ジルが笑顔で、
「それではジョウイ。お先に。
行きましょう、スイ?」
つい、とスイに手を差し出す。
スイはそれを受け取って、未だ魚に囲まれているジョウイに、残ったパンを差し出した。
「じゃ、それの後始末よろしくね。」
満面の笑顔であった。
ビニールの袋が海面に落ちるのを見ながら、濡れたパレオを絞るジルの後ろ姿を見送る。
残されたジョウイは、いつのまにか砂浜に用意されている昼食の準備と、自分の回りで泳ぎ回っている魚とを見比べる。
空は、明るいばかりの太陽が輝いていた。
「あっれぇ、ジョウイ様? なぁにやってんすかぁ?」
ばしゃばしゃと、昼食時に引かれて海岸に戻ってきたシードが、濡れた髪を掻き上げながら、快活に笑う。
それに、ジョウイは疲れたような笑みを浮かべると、
「シード……魚、好き?」
海面に落ちたパン入りビニール袋を差し出しながら、そう尋ねるのであった。