密     談









グラスランド地方──チシャ・クランの程近くに、その【場所】はあった。
シンダルの遺跡と、言われている場所だ。
昔からチシャに住まう者は、ひっそりと『炎の英雄が眠る場所』と言う意味を込めて、【英雄の遺跡】と呼ぶこともある。
その遺跡は、墓所と呼ぶにふさわしく、昼間でもひっそりと静まり返り、ひんやりと冷たい風が吹く。
険しい道の奥にぽっかりと空いた入り口は、森の木々に囲まれ、常に薄暗い。
そんな場所であるからこそ、昼間であっても、誰も寄りつかずひっそりと静まり返っているのだ。
けれど、それもつい数ヶ月前までの話だった。
今──この遺跡はかつてないくらいに、活気に満ちていた。
それこそ、永い眠りについた炎の英雄が、墓から起き出してきそうなほど、である。
特に賑やかなのは、英雄の遺物が今も当時のまま残されていると言う、英雄の私室である。
過去、ここは英雄の妻たるサナ以外、誰も立ち入ることはなかった。
にも関わらず──今日も今日とて、ぽっかりと、ベッドの下の扉が開く……。










『今、何とおっしゃいましたか、スイ殿?』
英雄の私室にある地下へ続く石階段を下りて進むこと、少し。
上の部屋とは正反対の暖かな地下は、セルゲイの新発明「空気めぐ〜る君(特許出願中)」によって、常に快適な空気が保たれていた。
その地下の通路を巡る風に乗って聞こえてきた声に、リオはふと足を止めた。
「あれ、今のシュウさんの声だよね?」
不思議そうに首を傾げながら呟くリオに、隣を歩いていたナナミが目を瞬く。
「え? シュウさんの声? まさか! だって、ここ、一階だよ?」
ありえないわよ〜、と、笑いながら否定するナナミに、そうだよね、とリオも頷く。
この地下一階は、上の炎の英雄の私室にある隠し階段に気づいた侵入者対策に作られた、行き止まりしかない──ように見える空間である。
 そのため、他に施設はなく、地下二階へ続く隠し階段があるだけなのだ。
 そういう理由から、この階に来るのは、外に出たい人間だけだ。
 基本、軍師室にこもりっぱなしのシュウが、来るような場所ではない。
 しかも、最初の頃はとにかくとして、今は、外に出る道はここだけではない。
 ちょうどこの間、スイが、
「考えてみたら、外に出るためだけの通路を使うのに、蝋燭を使うのはもったいないよね。
 やっぱり今は、資源節約の時代だし。
 だから、直で外に出れる 道を作ってみたよ!」
 と──色々しでかした結果出来た大穴を、強引に活用してくれたので、わざわざ通路を使わなくても、エレベーターで地上まで出れるようになったのである。
 だから、この通路を使うのは、今では数少なくなっていた。
 エレベーターのほうが便利だからである。
 とは言えど、エレベーターにも不便なところはあって──さすがに、チシャクラン側の出口に堂々とエレベーター乗り場があっては、おかしかろう、ということで、裏側に出るようになっているので、チシャに出るには少し遠回りになるのだ。
 なので、今のリオたちのように、チシャクランへ行く用事がある場合は、今までどおり地下一階通路を使うのだ。
後、モンスターで実験したいと言う、セルゲイやメグたちなんかも、良く使っているが。
けれど、シュウが使う意図は分からなかった。
「……ハッ! ま、まさかシュウ! スイさんと協力攻撃がしたいばっかりに、前線で戦うつもりで、老体にムチ打って準備してるんじゃ……っ!」
 ハッ、というように顔を跳ね上げて、リオが勘良く気づいた! ──というように閃いた顔を見せるのに、
「いや、ジルじゃあるまいし、それはないと思うよ。」
 すかさずジョウイが、バシリ、と裏手で突っ込んだ。
 あえて説明してみると、ジョウイの元妻であるジル元皇女は、本来戦闘タイプではなく、サポートタイプの人間なのだが──、スイと協力攻撃がしたいという、ただそれだけの理由で、戦闘できるようになろうと、毎日必死にジョウイとピリカを巻き込んで、洞窟内でせっせと経験値をあげているのである。
 ちなみにこの場合、ジョウイは、ジルの「スイと見立てた練習台」扱いをされている。
「リオ、本当にそれ、シュウさんの声だったの?」
「だと思うんだけど──、なんて言ってたのかは、良くわからなかったんだけど、あの口調は紛れもなく、問い詰めモードのシュウさんだった。」
 15年前、散々聞かされ続けたあの口調を、たとえ15年経過していようとも、僕が間違えるはずがない!
 ぐ、と拳を握って力説するリオに、それもそうね、と頷くナナミ。
 そんな姉弟を交互に見やって、ジョウイが乾いた笑いをあげる。
「問い詰めモードって……。」
 同盟軍時代に、一体、どれほどこの姉弟は、シュウさんの胃を痛めてきたのだろう……。
 思わず遠い目になって考えたジョウイは、ふと自分の耳を掠めるような「音」に気づいた。
「……──ん? ちょっと待って、二人とも、声が……。」
 リオの言う「シュウの問い詰め口調」かどうかは分からないけれど、風に乗って聞こえてきた音は、確かに「声」だった。
 何かを話しているようにも聞こえる。
 静かに、と、二人に手の平を向けて、ジョウイは自分の口元に人差し指を押し当てる。
 そうしながら、音が聞こえてきた方に視線を向けると、リオとナナミもつられるように、そちらへ視線を向けた。
 暗い通路の先には、明かりも何もついていない、隠し通路のある曲がり角がある。
 暗闇に包まれたソコを見て、三人はチラリと視線を交わしあい……こっくり、と誰にともなく頷いた。
 耳を澄まし、意識を集中すれば、通路の先から、再び音が聞こえてきた。
『そのようなことは、今まで一度もご報告いただいておりませんよ?』
 ひそやかに聞こえてくる声は──確かに、シュウのものだった。
 リオの言うように「問い詰める口調」かどうかは分からないが、真摯な色を宿しているのは確かである。
 どこか緊迫したような雰囲気に、ジョウイが顔を顰める。
「誰かと一緒、みたいだね?」
 ひそ、と囁けば、ナナミが、驚いたように口元に手を当てる。
「そ、それって、もしかして──……っ。
 シュ、シュウさんにも、とうとう春が来たってことっ!?」
 キラキラキラッ、と、好奇心に輝くナナミの双眸が輝く。
「やだっ、ちょっとリオ、どうするっ!? どんな人かしらっ!? キャーっ、き・に・な・るぅ〜っ!」
 バシバシッ、と、隣に立っていたリオの背中をバシバシ叩いて、ひそやかでありながら興奮気味にナナミが叫ぶ。
 激しい音で背中を叩かれて、リオは軽く咳き込む。
「ちょ、なな……げほっ、痛いって……げほげほっ。」
「ナナミ、ちょっと静かにして。聞こえないから……。」
 し、と、唇の前に指を立てて、静かにしてくれと告げながら、ジョウイは更に聞こえてくる声に耳を澄ませる仕草をする。
 そんな彼に、興奮したままの表情で、コクコクとナナミが頷く。
「分かってるってばっ! シュウさんの逢引現場だもんねっ!」
「逢引現場なの?」
 キャーッ、と、嬉しそうな悲鳴をあげる彼女に、リオが不思議そうに首を傾げる。
 ジョウイは苦笑を浮かべて、
「暗くて人気がないところ──って言う意味じゃ、確かにいい場所かもしれないけど……。」
 いくらなんでも、ココ、通路だし。
 と、冷静に突っ込みながら、声の続きに耳を傾けた──ところで。
『失礼だな、きちんと報告くらいしてるじゃないか。』
 こちらは、ささやき声であっても良くわかる……印象的な声が聞こえてきた。
「って、あれ、スイさんっ!?」
 この声に即座に反応したのは、リオであった。
「うそっ! シュウさんの逢引相手って、スイさんだったのっ!?」
 ありえないーっ! と、両頬を押さえて叫ぶのはナナミ。
 その内容に、リオは大きく目を見開いた。
「あい、びき相手、って──……。」
 この暗闇の中、人気がいない、通路とは言えど二人きり。
 その状況下で逢引する相手と言えば──それはもう、答えは出ているでではないか!
 そう思ったと同時、
「スイさん、こんなところでシュウなんかと二人っきりで居たら、危険ですーっ!! その男は、野獣ですよーっ!!!」
「あっ、こらリオ、待っ……っ!」
 ジョウイが止めるよりも一瞬早く、リオは曲がり角に向けて猛ダッシュしていた。
「逢引って決まったわけじゃないだろ──……っ、って、ああ、もうっ!」
 世話が焼けるな、と、溜息をつく暇もなく、ジョウイは飛び出していったリオを追いかける。
「何言ってるのよ、ジョウイ! 暗闇で二人きりって言ったら、逢引よーっ!」
 キャーッ! と、嬉しそうに楽しそうに、ナナミは燭台を両手で握り締めて、蝋燭の明かりにボンヤリと顔を薄気味悪く照らし出しながら、ジョウイの後を追って走り出す。
「って、ナナミ──シュウさんとスイさんが、本当に逢引しててもいいの?」
 すぐに追いついたナナミに、ジョウイが呆れたように問いかけると、
「逢引くらいなら、全然OKに決まってるじゃないの! だって、スイさんがシュウさんなんかを、本気で相手にするわけないじゃないのーっ!
 もうっ、ジョウイったら、気を使いすぎっ!」
 バシバシッ、と背中を乱暴に叩いて、ナナミは明るく笑い飛ばす。
「──……あぁ、そう。」
 まぁ、スイさんがシュウさんと「逢引」していること自体、まず、ありえないと思うんだけどね。
 そもそも、もれ聞こえてきたセリフから判断するに──と、ジョウイがソコまで思ったところで、

「ええーっ!!! スイさん、ルックのところに行くんですかーっ!!?」

 曲がり角の先から、リオのそんな絶叫が聞こえてきた。
──ほーら、やっぱり、こういう展開だった。
 やれやれ、とジョウイは走りながら肩を落とし、リオと同じように曲がり角を曲がった。
 すると、ナナミがすかさず差し出した蝋燭の明かりの先に──同じように蝋燭を持った人影が立っていた。
 その数は三つ。その中の、燭台を持った一番小柄な影が、チラリとこちらを振り返る。
 ボンヤリとした蝋燭の明かりに照らし出される白皙の頬。
 さらりとかかる前髪の影が、いつもよりも濃く額に落ちていた。
「あれ、ジョウイとナナミじゃないか。」
 ふ、と口元に浮かんだ微笑が、ユラリと揺れる炎に照らされて、いつもよりも鮮明に見える。
「すみません……うちのリオが、お話の邪魔しちゃったみたいで……。」
 スイとシュウが一緒に居る──この状況で考えられるのは、たった一つだ。
 おそらくは、新しい進軍予定だの、なにらかの計画だのが、発足したのだろう。
 それは、この通路のことについて、なのかもしれない。
 そう判断したジョウイは、スイの傍に立っていた幼馴染の襟首を引っつかみ、ぐい、と自分の方に引き寄せた。
「あ、ジョウイっ! 今ね、僕も一緒にルックのところに行くって、スイさんにお願いしてたところなんだーっ。」
 背中からジョウイのほうに引き寄せられたリオは、顎を反り返るようにして仰向けにジョウイを振り仰ぎ、にぱっ、と嬉しそうに笑う。
「あーっ、いいなーっ! リオだけずるいっ!
 スイさん、私もっ、私も連れてって下さいっ!」
 途端にナナミがプックリと頬を膨らませて、両手を胸の前で組み合わせてスイにおねだりする。
「って、ナナミも、リオも、そんな無茶を……。」
 言っちゃダメだよ、と続くはずだったジョウイの言葉はしかし、
「うん、いいよ。」
 あっさりと了承を出したスイの返事に、途中で途切れざるを得なかった。
「えっ、い、いいんですかっ!?
 だって、ルックのところって……つまり、その……仕掛け、をするって、ことですよね?」
 驚いて声を荒げてしまった前半に対して、後半は口の中にこもり、消えるような小さなものになってしまう。
 それもそのはず──最近はいろいろ忙しくて(主にスイがしでかした事件とか、スイが提案した事件とか、リオとナナミの猪突猛進とか、ジルに振り回されたりとか、そういう関係で)うっかり忘れていたが、この「軍(?)」を立ち上げたのは、そもそも、仮面の神官将ことルックの計画を邪魔しよう、という物だ。
 ルックと対立しているというビュッデヒュッケ城の面々にばれないように、こっそりと裏から画策して、ルックの作戦をことごとく妨害・もしくは被害を減少させ、結果的にビュッデヒュッケ城側が勝利するように導くという、影の力持ち的役割をするのだ。
 そのため、一つの作戦を立て実行するにも、それによる波紋や予想、危険度を十二分に相談した上で、行わなくてはいけないのだ。
 そんな大事な作戦を──詳しい内容も知らずに「参加する」と言った人間を、パーティメンバーに加えて、本当にいいのだろうか?
 心配そうに眉を寄せるジョウイに、スイは不思議そうに瞬きをしたが──すぐに彼が懸念する内容に気づいて、あぁ、と笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ、ジョウイ。その心配は何もない。
 それに、こうしてルックのところに突撃するのは、何も今日が初めてじゃないしね?」
「そうです、それがおかしいと言っているのですよ、スイ殿!」
 にこやかな笑顔で告げたスイの言葉に、すかさずシュウがビシリと詰問口調で突っ込む。
 条件反射のように、ビシリとリオの背筋が真っ直ぐに立った。
「だいたい、この軍の今の仕事内容は、ルックを阻止するというよりも、ルックによる被害の後始末ばかりではありませんか。」
 厳しい口調で言い募るシュウの顔は、険しく顰められている。
 彼が語る内容には、ジョウイもリオもナナミも覚えがあった。
 ルックの起こす作戦の阻止をしたことは──実を言うと、いまだに1度もない。
 彼がカラヤクランを襲ったときも、ダッククランを襲ったときも、手を出す暇すらなかったのだ。
 駆けつけたときには、もうすべて終わりかけていて──ルックたちの姿は、すでに影も形もなかった。
 あの時は──出遅れたか、と、そう思う間もなく、スイが全員に向かって、生き残った者の救助と、そしてこの事件による後遺症とも言える出来事の緩和を命じた。
 ……できたことは、ただ、それだけだった。
「なのに、あなたは今、先ほど──『ルックへの襲撃がめでたく、今回で10回を迎えることになった』、と。……そう申しましたよね?」
 シュウの眉間に刻まれた皺は深く──蝋燭の明かりに照らされた白い秀でた額は、この軍に来た時よりも、少しばかり後退したように見えた。
 ずいぶん、苦労してるんだなー、と、思わずリオは、そんなシュウの黒々とした髪に白髪が混じっていないか、ぼんやりと探してしまった。
「うん、言ったよ?」
 非難の混じったシュウの言葉をサラリと流して、スイはしれっとして答える。
 ぴくん、と、シュウの米神が揺れるのを、ジョウイはしっかりと目の当たりにした気がした。
「今までの襲撃と違って、さすがに10回を迎えるとなると、今までのようなちっぽけな襲撃じゃなくって、大々的に行いたいと思ってね。
 それなら、ちゃんと前もって軍師殿に了解を取っておかなくちゃ、って思ったんだよ。」
 今までと違って、軍(?)の人間だけではなく、設備もいくつか投資して動かしたいし。
 どうせだから、軍師殿に、救助活動や食材確保などの理由以外で、頭を使わせてあげたかったし?
 この際、策を練ってもらうのもいいよね、と。
 楽しそうにのどを震わせて笑うスイに、シュウは米神の血管が、二本ほど切れそうになる感覚を覚えた。
「……──ほぅ、それであなたは、襲撃に出かける前に、わざわざ、私の部屋によって下さったわけですね?」
 普段はまるで近づかないくせに、珍しくやってきたと思ったら──ことにかいて、告げたセリフがセリフだ。
「そう、それで、どうせだから実物の設備を見ながら話をしようと思って、ココまで連れてきたってわけ。」
 剣呑な雰囲気も物ともせず、スイは穏やかに微笑みながら──「実物の設備」の部分で、天井をしゃくる。
 そんな彼の仕草に釣られるように、思わず視線を上に──天井に当てたリオたち三人は、あっ、と、軽く息を呑んだ。
 そこには──、一面の。
「──……天井に、トゲトゲが一杯ついてるっ!」
 蝋燭を高く掲げて、ナナミが叫べば、
「針天井っ!!」
 ジョウイが、ヒュッと息を呑んで目を見開く。
「えっ、何? もしかして、この天井が落ちてくるって言う仕掛けですか、スイさんっ!?」
 さすがのリオも、この天井を見て思いつく案は一つしかなく──いつのまにこんな物を、とスイを振り返る。
 三人の反応に、満足げな笑みを零したスイは、ゆっくりと頷くと、
「目立たなく地味な侵入者防止策を、今、技術者チームで開発してもらってるんだよ。
 コレは、その実験第一号でね。」
 視線を天井から下ろして、小首を傾げる。
「どうせだから、せっかく出来たこれを使って、ルックと遊ぼうと思ってるんだけど──どうやって遊ぶのか、なかなかいい案が出なくって……ほら、せっかく10回目になるんだから、ルックが思いも寄らない方法を使いたいだろ?」
 だから、軍師殿にも協力してもらって、思いっきり大々的にやろうかと、と。
 スイは、あくびれることなく、新しい遊びを見つけた子供のような満面の笑顔で、そういいきってくれた。
 ルックにとっては、物凄く迷惑なことこの上ないことを──とても軽く、あっさりと。
「──は、はぁ……。
 ……あ、じゃ、今すぐにルックのところに行くわけじゃないんですね?」
 なんと答えていいのか分からず、曖昧な苦笑を浮かべたジョウイは、コリコリと頬を掻きながら、これだけは……と確認する。
「それはね。
 今までみたいに、ルックの寝床に蟲入れてみたり、夜な夜なアルトとテッドとルカと父上を使って、枕元で『あなたはだんだんハゲになーる』とか嫌がらせに囁かせてみたりするのとは、レベルが違うから、突然決めて突然実行、なんてことはしないよ。」
 あははは、と軽く笑ってくれるスイの言った内容に、シュウの顔が引きつった。
「──スイ、どの?」
「なにかな、軍師殿?」
 かすかに動揺の色を滲ませたシュウを、スイは、何を言われるのか分かっているような顔で振りかえる。
「私は、今までのルックへの襲撃の件は、まるで知らなかったのですが……、いつのまにか10回を迎えているということに、非常に驚いていましたし、正直、軍師である私にも告げてないのかと、腹ただしかったのですが。」
 スイの整った顔を見下ろしながら、シュウは複雑な気持ちを抑えることができなかった。
 まさか、とは思う。
 まさかとは思うのだが──聞いていると、それ以外にないような気がした。
「もしかして、その、蟲を入れてみたりとか、ハゲになると囁くとか……そういうのも、回数に数えられてるんですか……?」
 もし、本当にそうだと言うのなら。
 ──それは、襲撃、ではなく……イヤがらせとか、イヂメとかになるんじゃないだろうか、と。
 軍まで作っておいて、やることがそのレベルかと、ほとほと愛想がつきそうな内容に、シュウがそう問いかけた瞬間、
「ね? これくらいなら、シュウの許可なんて要らないでしょ?」
 にっこりと、あでやかな微笑みで、スイは言い切ってくれた。
 その笑顔に──シュウは耐え切れず、がっくり、と両肩を落とした。
 これほど大規模な軍まで作って……食料の問題や武器の問題、商業ルートの確保など、もろもろの頭の痛い問題をすべてクリアさせて、本拠地も住みやすく快適に改造までしているというのに!
 やっていることは、子供のいたずらレベル──……。
 いや、確かに、被害への救済処置などは、適切で迅速だったから、その辺りには文句は一つもないのだが。
 本来の目的そのものは……イタズラレベル。
 ありえない──と、シュウは額を手の平で押さえる。
「スイさん、酷いです〜っ! 僕も、そういうのに誘ってくれたら良かったのに!」
 ぷっくー、と頬を膨らませて拗ねるリオの態度が、シュウには信じられなかった。
 なぜ、このようなイタズラレベルに参加したいと思うのだろう?
 むしろ、軍師として──こんなイタズラに加担していたと思われたら、末代までの恥である。
「何言ってるの、リオ? リオだって、一緒に参加した襲撃イベントもあっただろう?
 ほら、例えば、ルックに花を咲かせましょう〜、企画とか。」
 あの時は確か、ルックの頭に──いや、背中に桜の木を植え付けて、彼から飛び出た桜を、皆で愛でたのだった。
 ルックが「ちんもく」を回復した後は、全員で逃げ大会に入って、とても楽しい思いをしたものだった。
「あれは……襲撃ではなく、企画では?」
 疲れた気持ちでジョウイが突っ込むが、スイはそれを笑顔で黙殺してくれた。
「それに、今度の10回記念には、皆にも参加してもらうつもりだしね。
 きっと、シュウ殿が、とてもすばらしい策を考えてくれると思うから──リオもナナミも、ジョウイも。」
 そこでスイは、さらに魅惑的な笑みを昇らせると、108星に限らず、老若男女ナンパ確率99.9パーセントと言わしめた伝説の微笑みでもって、
「一緒に、がんばろうね?」
 駄目押しというように、キラキラとリーダーオーラを振りまいて、その場の空気を見事に制したのであった。




 かくして、スイ・マクドール主催。
「ルックを襲撃しよう! 第10回特別企画!
 なんと今回は、シュウさんが策を練ってくれるぞ! 針天井を使って、ルックと遊ぼう☆ミ」
 が、近々開催される予定、なのだという。


「……っていうか、それ、やっぱり襲撃じゃなくって、企画じゃないんですかっ!?」
 思わず裏手で突っ込まずにはいられないジョウイの肩に、
「スイだから。」
「あきらめろ。」
 やるせない声と共に、ぽん、と。
 スイ・マクドール被害者の会の先輩達が、思い思いの気持ちで、手のひらを乗せてそう説得してくれたのであった。




 


続 き ま せ ん (爆)


上手くまとまらなかったな;
やっぱり108星は、会話文だけで書いた方がノリがいいですね(笑)