乱  闘















 さて、と、スイは上を見上げた。
 いつもなら、そこには土壁を綺麗に均した天井が見えるはずだった。
 けれど、今日は違った。
 見上げた天は、土ではなく、ぽっかりと不ぞろいな丸い形に切り抜かれた、蒼い空だった。
 それはとてもあざやかに青くて、まるで土壁の中に、ぽつん、と綺麗な蒼い絵の具を落としたように見えた。
「綺麗だなー。」
 ぼんやりと呟いて、スイはしばらくその空を眺めていた。
 するとそう間をおかず、蒼いだけの空の中に、ふんわりと白い雲が通り過ぎていく。
 その光景が、どこか不思議に見えるから、天井に空いた穴というのも面白い、と、そう思ったところで。

 どごっ!

 がらっ、がらがらがらがら──……っ。
 スイのすぐ近くで、再び天井が音を立てた。
 激しい音に、スイは軽く顔を顰めた後、ヒョイ、と左に1歩ずれた。
 ──途端、今までスイが立っていた位置に、ごつん、と拳大の岩が転がり落ちてきた。
 もし、あのままソコに居たなら、大怪我をしていたことは間違いないだろう。
「……うーん、だんだん危険な場所になってきた。」
 チラリと横目で確認した岩の大きさに、思わず顎に手を当てて、小さく唸り声をあげて呟いた。
 それからスイは、天井を見上げて、今の攻撃でぽっかりと空いた穴を見上げてみた。
「あ、スゴイ。さっきのよりも大きいんじゃないかな?」
 おぉ、と、ちょっと感嘆の声を漏らしてみたりしてから、スイは首を軽く傾げて見る。
 これで、この部屋の天井に空いた穴は二つになった。
 一つ目の穴と、二つ目の穴の間は、ざっとみて1メートルくらいだろう。
 その間に、軽い衝撃を与えてみたら、きっと真ん中は突き抜けて──、
「この分だと、せっかく出来たお風呂が、露天風呂になるのも、夢じゃないかなー、なーんて。」
 あはははははは、と、軽い感じに笑ってみたところで、スイは自分の頭の上に蔭りが落ちたのに気づいた。
 ん? と首を傾げるようにして顔をあげたところで、
「あれ、シュウ殿。」
 そこに立っているのが、昼日中の風呂とは無縁の存在である、この軍(?)の軍師だと言うことに気づいた。
 これは非常に珍しいことである。
 軍師シュウと言えば、ラダトの商人時代はとにかくとして、ジョウストン同盟軍時代から、昼間と言えば、執務室にこもって延々と仕事をしているか、徹夜明けで寝ているかのどちらかしかない、と言われていたくらいである。
 そんなシュウが真昼間から風呂場に来るなんて、天変地異が起きそうだ、と思いかけて──あぁ、今、人為的な天変地異が起きている最中か、と納得した。
「珍しいね、シュウ殿がこんな時間からお風呂だなんて。
 あ、もしかして、ようやくドラム缶風呂以外のお風呂が出来たと聴いて、早速見に来たの?」
 微笑を口元に刻みながら、スイは穏やかにそう話しかける。
 そんなスイの背後で、どごっ! と、土壁がえぐれる音がした。それと共に、複数の誰かが悲鳴をあげている。
 人為的天変地異は、すでにレベル4辺りになっているようだ。
「何を能天気なことをおっしゃっているんですか……っ。」
 ぴくぴく、と米神を揺らしながら、シュウは顔をクシャリと歪める。
 指先で眉間の間を揉み込みながら、ジロリとスイを根目つけた。
「なにやら騒動が起きていると思ったら、何をしてらっしゃるんですか──……っ!?」
「あ、シュウ殿、目の下に隈が出来てるよ? もしかして、徹夜明けのお風呂?」
 無邪気な笑顔で、スイは指先でシュウの目元を、ツ、と撫でた。
 その柔らかな感覚に、シュウはゾクリと背筋を震わせて、ズ、と1歩後ず去った。
「なっ、何を誤魔化そうと……っ。」
 思わずスイの指先が触れた頬の辺りを擦りながら、シュウはギッとスイを睨みつける。
 しかし、見た目はおとなしそうな坊ちゃん然とした姿に反して、歴戦の戦士を片手一本でまとめあげる覇王の素質を持った人は、軍師の睨み程度で体を震わせることは、決してなく。
 そんなシュウに、イタズラ気な笑みを浮かべると、
「シュウ殿、軍師たるもの、いついかなる時も冷静に、状況から物事を判断しましょう、──だろ?」
 まるで、レオンやマッシュのようなことを、楽しそうに告げてくれた。
 その口調に、ムッとしたものを覚えつつも、確かに冷静さを失いかけていた自分が居たのは確かだ。
 どうも、この英雄を前にすると、調子が狂う。
 憮然とした表情で、シュウは1度固く目を閉じると、ふぅ、と心を落ち着かせるように──それでいてイヤミったらしく溜息を零すと、
「冷静にならずとも、今の状況は一目で分かりますよ、スイ殿。」
 そうして、やれやれと言いたげに頭を軽く振ると、むっつりと不機嫌顔を作り、
「私が聞いているのは、その原因です。
 ──で、どうして、出来たばかりの風呂場で、バトルロワイヤルが起きているんですか?」
 腕を組んで、この上もなく気分が悪いと言うオーラをもらしたシュウの隣を、ドォンッ、と、音を立てて火炎の矢が飛んだ。
 それに伴い起きた爆風に、シュウの髪が揺れる。
「──……。」
 シュウは激怒に叫びたくなる気持ちを抑えて、無言で乱れた髪を耳に引っかけ直しながら、促がすようにスイを見た。
 そのスイの背後では、腰にタオルを巻いただけのフリックが雷の紋章を発生させ──ちぎれたタオルを股間に当てたシーナが、それに対抗すべく土の紋章を発動させていた。
 ついでに、なぜかリオが、割れたタイルが飛散する、むき出しになってしまった床の上で正座して、目の前で同じく正座しているジョウイから、こんこんと説教を食らっている。
 ビクトールが、フリチンで風呂場の中であるにも関わらず──すでにもう、風呂と言っていいのかどうかわからない有様になっているが、一応本日作られたばかりの風呂釜だけは無事なので、風呂と言っていいだろう──、覇王剣を構え、それ目掛けてサスケが壁を跳び回りながら手裏剣を投げている。
 一体、何がどうなっているのか、本当に良くわからない状態だ。
 頭痛どころか、倒れこみたくなってくるその光景を、自分の肩越しに振り返ったスイは、うーん、と首を傾げると、
「んー、それがね? 僕も良くわからないんだよね。」
「──……どう考えても、あんた以外に原因はいないだろうが?」
 思わずシュウがそう突込みをしたくなるようなことを、スイは困ったように呟く。
「いや、だってさ、石鹸の取り合いだとか、風呂の入り方が間違ってるだとか、晩酌セットを忘れてきただとかで、怒ったりしたあげく、乱闘になるのは理解できるんだけどね?」
 解放軍時代も、そういうくだらないことで乱闘になった挙句、「全員まとめて飲むよ?」の一言で制して来た──という記憶は、20年近く経った今でも、容易く思いだせるどうでもいい記憶のひとつだ。
 だから、そういう血の気の多い男どもが、血気盛んになるような「ネタ」で、乱闘が発生したのなら、わかるのだけれど──……。
「風呂に入ろうとしたときに、こうなっちゃったんだから──何が原因かなんて、わからないだろ?
 背中を流す流さないで乱闘になったことなら、同盟軍でもあったから、わかるんだけどな?」
 うーん、と、不思議そうに首を傾げるスイが、「あ、もしかして、混浴じゃなかったから、怒ってるのかな、みんな?」とか、見当はずれのことを呟いて──けど、混浴は、まだムリかなー、とか言っているのを聞きながら。
 シュウは、心の奥底からイヤそうな顔で、遠くを見つめた。
 これだけの説明で、物事の原因が分かってしまう自分が、心底イヤだった。
 イヤだったのだが──分かってしまったものは、仕方ない。

 やっぱり原因は、この英雄だ。そうに違いない。

 けれど、本当にそれが原因なのか分からなかったため──というよりも、むしろ、推測が当たっていたほうがイヤなので、一応確認のために、聞いてみることにした。
「時に、スイ殿? ──その、お風呂に入るときですが、スイ殿はその時、何をしていらっしゃいました?」
「え? 僕? そりゃ、僕はリーダーだから──一番湯を貰って、もう入ってたよ?」
 とは言っても、乱闘が始まってすぐに、巻き込まれてはたまらないと、風呂から出て──さっさと先に着替えてしまったのだけれど。
 そう続けるスイに、
「──あぁ、通りで髪が濡れていると。」
 シュウは、どうでもいいことに納得した後──ごくん、と喉を上下させて。
 今、一番聞きたいことを……口にした。
「それで、──つかぬことをお聞きしますが、お風呂に入ったときには、どの位置にいらしたのですか?」
「──は? 位置? 端っこの角のところだけど──そんなの聞いて、どうするの?」
 パチパチ、と目を瞬くスイに──あぁ、と、シュウは絶望の溜息を零しながら核心した。

 間違いない。

 こいつらは──むだに、出来上がったばかりの風呂を壊しかけているこいつらは。







 単に、風呂に入ったスイ殿の隣で風呂に入りたかっただけなのだ、と!!!!!!!






「──……風呂を修繕するのにも費用がかかるって……わかってんのか、こいつらは……っ。」
 ワナワナ、と、握った拳に強く力を込めながら──シュウは、今にも唇を噛み切りそうなほど強く、下唇を噛み締めた。
 この乱闘が終わったら──こいつら全員、まとめて出稼ぎに放り出してくれようっ!!!!
 そう、心に誓いながら。









おしまい



坊総受け〜。
本当は、他にも出したかったのですが、一応、6人パーティ+補助メンバー1人ってことでvv(笑)
この面子だと、

ビクトール(覇王剣)+フリック バディ1
シーナ+サスケ バディ2
ジョウイ+リオ バディ3
スイ サポートメンバー

となります。
え、なぜそうなるかって?
みんながスイとバディを組みたがるからですよvv(ウソ)
本当は、スイを主力面子に入れると、スイさんが面倒がって、火の紋章系を使うときに、範囲指定を考えずにぶっ放してくれるからです。
常にフリックさん巻き添え(笑)


ちなみにスイがバディに入ると、こうなります↓



ビクトール「気をつけろっ! 複数で一斉に襲い掛かってくんぞっ!」
フリック「分かってる。お前こそ、そのデッカイ腹に邪魔されないように気をつけろよ。」
ビクトール「うっせっ! てめぇの下腹だって人のこと言えねぇだろーがっ!」
シーナ(サポート)「あの二人、仲いいよなー。
 ──って、アレ、なんだよ、スイ? お前、サスケについていかなくていいのか?
 お前のバディの前衛、サスケだろーが。」
リオ「本当は僕がスイさんと組みたかったんですーっ!」
ジョウイ「リオっ! 余所見してないで、協力攻撃で一気にカタをつけるよ!」
サスケ「おっ、そうしてくれよ、二人とも。
 あんたらの協力攻撃は、強力だからなー。助かるぜっ!」
ビクトール「おっ、サスケ、今のは駄洒落か?」
サスケ「ちっげーよっ!!」
フリック「ビクトール! そうやって油断してると、お前、また……。」
ビクトール「おわっ!」
バルバロッサ『こら、ビクトール。お前の腹で、私の柄がつっかえてしまったじゃないか。』
フリック「ほら見ろ、その妊娠三ヶ月の腹が……。」
ビクトール「今のは違うだろーっ!」
シーナ「……余裕綽綽だよな、あの人ら……。軽口叩いてるよ、囲まれてるのに。
 っていうか、もう少し真面目にしてくれねぇと、サポートメンバーのはずの俺まで、戦いに参加しなくちゃいけなくなっちゃいそーだぜ、おい。」
スイ「うーん、それじゃ、しょうがないな、紋章でも使うか。」
シーナ「また冥府か?」
スイ「ううん、下手に使うと、ルックに感づかれる可能性があるから、今回は普通に火の紋章。」
シーナ「お前、なんだかんだで火の紋章とも、そこそこ相性いいから、けっこう攻撃範囲が広いんだよな。
 気をつけないと、フリックさんたちも巻き添え食うぞ。」
スイ「わかってるよ、大丈夫。

 最初から攻撃範囲なんて考えずに打つから。」

フリック「ってこら、ちょっと待てーっ!!?」
サスケ「え、何? どういうこ……。」

スイ「大爆発。」



きゅぃぃーん──どっきゅーんっ!!!!!



フリック「ぐわっ!」
ビクトール「ぎゃっ!!」
サスケ「ぅわああっ!!」
リオ「ふぎゃっ!」
ジョウイ「ぐっ!!」

シーナ「ことごとく全員範囲に入ってるじゃねーか、スイっ!!!」
スイ「大丈夫だよ、みんな、そこそこ魔法耐久値あるんだから。」
シーナ「そういう問題じゃねぇだろっ!? あぁ、くそっ! 大いなる恵み!!!
 サポートメンバーだけど、盾の紋章宿しておいて良かったぜっ!」
スイ「うん、よし、予定通り!」

フリック「予定通りじゃないだろーっ!!!」
ビクトール「つぅか、お前の火の紋章は範囲が広いから、宿すなって、何度言ったらわかるんだっ!? あぁっ!?」
リオ「さすがスイさん……過激です……ぽっ。」
ジョウイ「こらこら、リオ、何照れてるんだよ。」
サスケ「くは……効いた……今の、マジで効いた……_| ̄|○i|||i。」