まぶしい光が、ギラギラと照りつけている。
夏の日差しそのものであるソレを見上げて、サイファーは目を細める。
このセントラの森ですら、こんな陽気だ。
さぞかしバラムは、暑苦しいに違いない。
「──。」
ふと思った言葉に、苦い笑みを貼り付ける。
時々、何かと比べるときに、どうしても「バラム」という言葉が出てくるのは、仕方がないことだ。
このセントラが、サイファーとスコールにとって「故郷」の一つであることは間違えようがないが、それでもG.Fのために記憶が薄れた彼らにとって、一番思い出深い「故郷」とは、バラムのことだ。
セントラのような冴え冴えとした青さとは違う、明るいカラリとしたエメラルドグリーンの海。
空はここのような真っ青ではなく、薄いきれいな水色。白い雲がコンモリと形良く流れて行くその光景は、ひどく優しく、港町に相応しい明るさに満ちていた。
あの場所を思うたびに、苦さと共に懐かしさを思い出すのは仕方がないことだ。
サイファーとスコールにとって、あそこは、10年もの月日を──そう、生きてきた半分の時間を過ごしてきた場所なのだから。
「ったく……バカだよな、あいつも。」
久し振りに──そう、本当に久し振りに、ポツリとサイファーはそう呟いた。
せっせと一心不乱にハーブの手入れをしているだろうスコールの──自分にとって見慣れたスコールの姿ではなく、7年近くも前に見たっきりの、冷えた目を持つ「バラムガーデンの指揮官」にむけて。
そう、あの「指揮官」は、男なら誰もがうらやむようなものを持っていた。
名声、富、バックボーン、若さ、美貌、頭脳、力。
──そして魔女である恋人と、「魔女の騎士」という肩書き。
2人の幸せそうな姿は、世界各地で放映された。
未来の魔女を打ち倒した日、バラムガーデンで催されたパーティで、仲睦まじい恋人同士が幸せそうに微笑みあっている姿の映像は、サイファーも知っている。
それで全部終わりだと思っていた。
なのに。
『サイファー……っ、俺と共に来い……っ!』
ガギンッ、と砕かれた鍵が壊れる音を、今でもサイファーはアリアリと思い出せる。
処刑を前にして、まさかそんなことをして助けに来る人間が居るとは思っても見なかった。
そうしないために──そうさせないために、風神と雷神をガーデンにやったのに。2人が自分を助けに来ない枷になる役割りを、スコールたちなら果たしてくれると、そう思ったのに。
よりにもよって、その「枷」が、助けに来るだなど、誰が思うだろう?
憎まれていると思った。もし万が一、そうではなかったとしても、きられていると。
なのに彼は、ライオンハートを手に、ハイペリオンを抱えて──頼りない牢獄を照らす明かりの下で、泣きそうな顔でそう叫ぶのだ。
行こう、と。
スペシャルの名を持つに相応しい実力を身につけたスコールは、後始末の仕方も優秀だった。
──と言っても、できることは俺が考えていたのと同じこと。
逃げた後、手引きした後を隠す為に、爆破したのだ。──木っ端ミジンに。
その後は、お決まりの逃亡劇。
とにかく逃げて逃げて──てっきりガーデンに逃げ込むつもりなのかと思った俺の予想を裏切って、スコールはF.Hまで人目を避けて強行軍で進み……おかげでモンスターとの戦闘には酷く苦労したし、死にそうになったことも一度や二度じゃない。
しかもその上、スコールのバカは、「ガーデンを逃げてきた」からと、ガーディアンフォースを全部置いてきたというのだ。
バカだ、こいつ、正真正銘の、頭の使えないバカだ。
そもそも、ガーディアンフォースのほとんどは、スコールが魔女戦争の戦いの中で手に入れたものばかりだ。
確かに、「SeeD」としての任務で見つけたアイテム、G.Fの所有権は全てガーデンに属する、──と規律上はなってるけどな? ガーデンから逃亡するときに、一個や二個くらい拝借してくることくらい、なんでできねぇんだ、お前、指揮官だったんだろーが。
そう思う気持ちがなかったわけじゃない。
だけど、スコールが不器用で、──そして妙に生真面目で優しいヤツなのを知ってたから、あえて何も言わなかった。
レベル99もあるスコールと一緒に居るおかげで、出てくるモンスターの強さは、マジでハンパじゃなかったけどな?
ようやくF.Hに着いたときには──そうだな、二ヶ月か三ヶ月くらいは過ぎてたんだろうな。森の中や山の中を強行軍で走ってきたから、サッパリ日付感覚がわからねぇけどな。
けど、F.Hに着いたときには、俺もスコールもマジで人前に出れネェくらいにボロボロでな? 誰も、スコールを「スコール・レオンハート指揮官」だなんて思わなかったし、俺を見て「サイファー・アルマシー」だなんて思わなかったみたいだ。
──ま、そりゃそうだろ。
宿を取って鏡の前に立った時にゃ、良く泊めてくれたもんだと、F.Hの宿のヤツに感謝したくらいだからな。
そこでセントラ行きの船に乗るんだと、スコールにそう言われて──ようやく俺はそこで、スコールに聞いた。
なんでお前、俺を助けたんだ、と。
そしたらスコールのヤツ、わからねぇと言いやがった。
わからねぇも何もないだろーに、わからねぇ、んだとよ。
気づいたら、ライオンハートを持って、着の身着のまま飛び出していたと、ポツリポツリとだが話してくれた。
それから、ドロのように眠って──翌朝、セントラ行きの船に乗って、セントラ大陸にやってきて。
情報収集もその時にちょいとしたけどな?
なんか、俺はどうも「元魔女の騎士を憎むテロ組織」によって、刑務所を爆破されて殺された──らしいぜ?
死刑を待つことなんかできなかった過激派の仕業らしい。
その話を聞いて、スコールはホッとした反面、ひどく複雑そうな表情をしていた。
──ま、アレだな。
こりゃ、ガーデンに居るスコールの仲間たちや、──後は、カーウェイ大佐の力添えがあった上での、情報操作に違いない。
俺ですらそう容易く予想できたことだ。
スコールにとっちゃ、考えることもないくらい簡単にに答えは出せたはずだ。
まぁ、何にしろ。
カーウェイが関わっている以上、俺を追う追っ手はない。
そして、スコールは──ガーデンが、行方不明の情報を出してないということは、戻れるってぇことだ。
だから。
「ココまででいいぜ、スコール。」
そう言った。
だって、なぁ?
スコール? お前は、小さい頃に無くしたものを──そのために心を塞ぎ、ヒトとを関わることを恐れたほどのものを、もう、取り戻したんだぜ?
愛する女も居る、信頼できる仲間もいる。
そして、エルオーネも見つかったし、ママ先生だって操られていたことが判明して──まぁこりゃ、俺の刑務所内での証言があるおかげなんだけどよ──、シドと一緒にバラムガーデンに居る。
さらに、風の噂じゃ、実の父親だって見つかったそうじゃねぇか。
俺に付き合って、逃亡生活なんかすることもなけりゃ、新しい生活を送ることもない。
そうだろう?
もう俺の命は大丈夫だと解ったんだ。
後は──まぁ、石の家で冬を越して、それからのことはまた後で考えようと、そう思ってた。
なのに。
だから、ガーデンに戻れ、と──俺は、最後までいえなかった。
そう言って振り返ったスコールの顔が、今まで見たこともないくらいに、泣きそうで──たまらなく、切なかったからだ。
「………………────っ。」
スコールは、黙って口を一文字に結んでいた。
俺が言った瞬間、驚いた顔をして──考えなかったというような顔になって。
それから、泣きそうに、顔を歪めた。
あの頃の──小さかった頃のスコールなら、そのまま大粒の涙をぽろぽろ零していたに違いない。
けど、スコールの目から涙はこぼれなかった。
代わりに彼は、ただ、ジ、と俺を見ていた。
その彼の顔を見ていて──この手を伸ばせば、彼の一生を棒に振ることになるのだと、分かっていたのに。
それでも俺は、手を、指し伸ばしていた。
「それとも……俺と一緒に来るか?」
もしかしたら、スコールも何かから逃げたいのかもしれないと、あの時は思った。
俺は、その体のいいダシにされてるだけなんじゃないだろうか、と。
スコールのヤツは、プライドは高いけどな、普通の男と違って、妙なところに一本気が通ってるからな……。
色々手に入れた「普通なら羨ましい状況」が、精神的に疲れて参ってるのかもしれねぇしな。
それならそれでいい。
スコールなら強いし、相棒として申し分ねぇしな。
ちょっとの間──スコールが戻る気になるまでの間、一緒に旅をするのもいいと思った。
そして──俺とスコールは、旅の相棒として、歩き出した。
俺1人なら、石の家に居てもよかったんだが──まぁ、スコールのヤツが、ガーデンに見つかったり居場所を知られたりするのもイヤかもしれねぇしと思って、そこではなく、森の方角を目指した。
小せぇ頃の記憶なんだが、このセントラにも、一応小さな集落みたいな村はあって──確かそこが、森沿いにあったはずだと。
そう思って、歩き出して。
──冬になる前に、今、住んでる村に着いた。
あの時はまだ、俺もスコールも、この村に住むなんてことは考えてもなくって──さらに言えば、お互いに、こんな関係になるなんて、思っても見なかった。
憎みあってはなかったけどな? でも、本気で剣を交えて、殺しあった相手だぞ?
俺は、ガキの頃の記憶が結構残ってるからな、スコールを好きか嫌いかって言われたら、嫌いとは言えねぇ。
──スコールのヤツに記憶はなくても、俺にとってスコールは、「最後の家族」だったからだ。
……まぁ、ガーデンに来てからのことはとにかく、それ以前の面倒見てやったこととかは、全部コロッと忘れやがったけどよ、コイツ。
雪で閉ざされる冬の間、俺とスコールは猟師小屋で暮らした。
ここに来るまでの強行軍がウソのような穏かな暮らしに、最初はなれなくて戸惑ってたし、互いの距離もつかめなくて、四苦八苦したものだけどよ。
それも、一週間、二週間と経つにしたがって、何も苦痛じゃなくなった。
時々、ぽつりぽつりと、スコールと話して──スコールに聞かれて、彼の記憶の補充もしてやった。
つぅかコイツ、俺やキスティス、ゼルやセルフィのことは思い出したくせに、「あの赤毛のがアーヴァインなのか?」──って、オメェ、ちょっとそりゃ酷すぎねぇか?
アーヴァインのヤツも救われねぇな? せっかく再会した幼馴染が揃いも揃って自分のことを忘れてた挙句、スコールに至っては、思い出したくせに、「アレがそうなのか?」だぜ?
ま、色々と個性豊かな孤児院の中で、影が薄かったっつったら、一番薄かったけどよ、アイツ。
そんな風に、少しずつ──ガーデンに居た頃みたいな人目がない分だけ、俺たちは些細なケンカをしながらも、距離を縮めていった。
雪が辺りを覆い尽くす頃になると、まともな舗装のされていない小屋は寒くて、森で取ってきた木の板で隙間風を塞いでも、日差しのあまり差さないココは、暖炉の火ごときじゃ暖まらないほど、冷え込んだ。
村の人から貸りた布団くらいじゃ、とてもじゃねぇけどあったまらなくて──どちらからだったか、一つの布団に包って寝るようになった。
まるで、小せぇガキの頃のように。
肩を預けあい、背中を預けあいながら眠るのは、逃亡中の旅のさなかでもよくあったことだ。
あの時はお互い、殺しあっていた相手に背中を預けて、無防備に寝れるものだと思っていたものだが──モンスターがうろつく森の中で、安心して熟睡できる相棒が居るのは、本当にありがたいことだった。
あの時のように、暖をとるために──必要に駆られてひっついて寝てるだけ。
それだけのはずだったし、それだけのつもりだった。
なのに、ふと夜中に目を覚まして、スコールに触れてねぇところが寒いと思った。
だから、アイツの体を引き寄せたら、暗闇の中でもはっきりと解る白い肌が、ハ、と震えて──瞳が開いた。
間近に見えたスコールの顔と、吐き出す互いの白い息が絡み合ったのが見えて……気づいたら、あいつの口を塞いでた──貪ってた。
かんがえてみりゃ、魔女戦争の時からずっと、女と寝てねぇわけだし、もともと俺は血気盛んなガキだったからな?
そりゃ、生死かかってたとは言え、半年近くも自慰行為すらしてねぇんだぜ?
ガルバディア軍じゃ、男同士でヤルのは結構当たり前だったんだけどな──、アソコは兵士が男しか居ねぇからな。あんときゃ、男同士なんて冗談じゃねぇと思ったもんだけどよ。
こんだけ切羽詰ってたら、ま、いっか、って──思っちまったっていうか、なんというか。
抱きしめたスコールの体が細くて、あいつの体温が暖かくて。
口付けた唇も、少しかさついてたけど、女のものと変わらねぇくらい柔らかくて、でも、女とキスしたときのようにべっとりとした感触はなかった。
唇を割って舌を入れれば、さすがのスコールも抵抗するかと思ったけど、あいつもあいつで溜まってたのか、単に寝てたところを無理矢理やられて体が動かなかったのか。
俺の腕を掴んだだけで、それ以上押しのけることもなかった。
だからそのまま、思う存分久し振りに他人の唇を味わって、唇離して目を開けたら、スコールが頬を紅く染めて、なまめかしく唇を唾液で輝かせて、潤んだ目で見ててよ。
相手がスコールだってわかってたのに──いや、スコールだってわかってたからか?
もう、止まらなくなって、あいつの腰に固くなり始めた俺の息子を押し付けた。
そうしたら、驚いたように目を見張ったスコールの──アッチも立ち上がりかけてたのがわかってな。
あー、そういや俺が溜まってるってことは、コイツもそれなりに、溜まってるはずだな、ってな。
小さいガキの頃は、一緒に風呂に入ったり、水浴びしたりしてて、見せあいっことかもした相手の体だ。しかもキスティスやセルフィなんかと違って、正真正銘の男だ。
なのに、急かすように脱がせたスコールの肌が見えた途端、頭の中がカッと真っ赤になった。
童貞じゃあるまいし、なんであんなに突っ走っちまったんだろうって──そりゃ、当時自覚してなかっただけで、惚れた相手の欲を見せられて、やっていいみたいな状態になったんだから、理性のタガがキレても当然っつったら当然だろうな?
スコールの体を解すのもそこそこに、欲求のままに突っ込んだから、絶対、痛かったはずなんだ。
なのにアイツ、唇噛み締めてさ、声も出さないように必至になってるから……だから、そんなんじゃ余計に痛くて苦しいだけだって教えようとして、唇近づけて、囁いたセリフが。
「……好きだ……。」
──いや、言った俺が一番ビックリしたな、アレは。
スコールも驚いたように目を見開いてたけどな。
そしたらもう、止まらなくなって、あいつに突っ込みながら、好きだ、って繰り返した。
名前を呼んで、キスをして、俺を受け入れてるアイツの中をえぐって──全部俺の色に染めてやりてぇと思った。
俺の腕を掴んでいたスコールの手が、ソロリと背中に回って──ギュ、と爪を立てられて。
噛み付くように肩に歯を当てたスコールが、掠れそうな小さな声で、俺の耳元で囁く。
「……れも……、俺も……、……好き………………。」
その後のことは、正直、ぜんっぜん覚えてねぇな。
久し振りのセックスって言うのもあったけど、想い確かめ合ってエキサイトしてたっつぅか。
夢中になってスコールを貪って、あいつもそのあとは声を抑えることなく俺に従順に鳴いてくれてな?
気持ちよくて、最高で、スコールがかわいかった、っていうのは覚えてるんだが──、ラリってるみたいな感じだな……もったいねぇ。
次の日、目が覚めたら、スコールはコンコンと寝てて。
はだけた毛布の中で、白い肌には自分でも驚くくらいの跡がたくさんついてた。
さらに下半身に鈍い疲れが漂ってて、スコールの下は……、俺、後始末する余裕なかったんだな、と、さすがにスコールが起きる前にキレイにしとかねぇとマズイと思うくらいの有様だった。
つぅかなー? 両思いになって、初めて体繋げてな?
しかも半年振りのセックスだぜ? んな、朝からそんな部分の後始末なんかしたら、またやる気になるっつぅの、朝だしな?
だから、起きて速攻、眠そうに目を瞬かせるスコールを襲ったのは、若気の至りであって、俺が性欲魔神だとかそういうんじゃないと思うぜ。当然の結論だ。
目を覚まして、俺を不思議そうに見上げて……かと思ったら、昨日のこと思い出して顔を紅く染めて、背中向けて丸まるんだぜ? お前、んなカワイイ格好見て、ヤラなきゃ男が廃るだろっ!?
──なのにスコールのヤツ、未だに時々、ネチネチとそのことを繰り返して拗ねやがる。
初めてだったのに、3回もした挙句(俺の記憶じゃ4回戦もしたような覚えがあるんだけど、多分こりゃ、スコールの記憶が飛んでるんだな)、朝から2回もされて、1週間も体が動かなかった、ってな。
いいじゃねぇか、どうせやることなかったんだからよ。俺だって、一週間の禁欲食らったんだぜ? ──あぁ、もちろん8日目からは、スコールの体力考えて、毎日2ラウンドにしてやったけどなv
まぁ、時々それを越えるのも、若さゆえっつぅか、他にやることねぇしな〜、この田舎は?
丸ごと一冬、そうやって思い確かめ合って、手探りで互いの距離を測って──。
俺達は、どちらから言い出したのかは分からないけど、この村に住むことを選んだ。
2人で、一緒に──いけるところまで生きて行こうって、そう思ったからな。
+++ BACK +++
オマケ
俺とサイファーは、村の人々から「夫婦」と呼ばれている。
村を歩くと、呼び止められた俺に向かって「旦那さんと最近どーだい」とか、おばさんが話しかけてくるし。
サイファーはサイファーで、村の人に「うちの嫁さん」とか俺のこと言ってるし……。
っていうかそもそも、男同士で夫婦ってどうなんだとか──まぁ、確かに夫婦とそう変わらない生活はしてるけど……でも、やっぱり、普通、抵抗あるんじゃないのか?
この村の人、ちょっとおおらかすぎるぞ……。
おおらかと言えば、俺達が最初に来た時のことだってそうだ。
そう思って、時々差し入れしてくれるおばさんに、聞いてみたことがある。
──俺たちが怪しい人間だと思わなかったのか、と。
たとえ世間から隔離されてるような場所でも、「魔女戦争」のことはさすがに知っているだろうと思った。
それが終わったこの時期に、いかにもな逃亡者風で、大きい剣を──ガンブレードを持った二人の男が「どんなところでもいいから、一冬を越させてくれ」なんて言ってきて。
それで、どうして疑わなかったのだと、そう思わないでもなかった。
そうしたら、おばさんは、大笑いしながら言った。
「やだねぇ、あたしたちはこんな辺鄙なところで暮らしてるけど、人を見る目をなくしたわけじゃないさ。
あんた達が、好きあってるのに引き離されようとした恋人同士だってことは、ちゃーんと見抜いてたさ、皆ね!」
──正直、その話を聞いたときには、目が飛び出るかと思った。
恋人同士って……好きあってるって──……。
それは、確かに、間違いではない──。
実際、偏見の目がないこの村では──おおらか過ぎるというか──、サイファーと俺は、ごく普通の夫婦のように扱われてる。それがありがた迷惑なこともないわけじゃないんだが……。
口下手で人付き合いが苦手なのに、時々おばさん方の井戸端会議──旦那の取扱い方について、なんていうそんな会議の場に引っ張り出されることもしょっちゅうだし。
ある意味、村で一番のおしどり夫婦だと、言われているほど、知れ渡ってはいるけど。
でも。
この村に着いたときには、まだ、そんな関係じゃなかった。
なのに、ココに来たときから解ってたって──……、それって…………。
どうなんだ、と。
おばさんがコロコロと笑いながら話してくれたとき、俺は自分の顔が真っ赤になっていないか、隠すために掌で顔を覆うのが精一杯だった。