ザックスに、「ちょっと任務に出てくるから、その間に、俺の部屋を片付けといてくれ」と、頼まれた。
 なんで俺が、と憮然として断ろうとしたのだが、その前にザックスが、キラリと光るキーを取り出して揺らしてくるから。
 ──俺みたいな一般兵の給料では、とてもではないけれど買えない、あのバイクのキーを、ユラユラ揺らしながら、
「部屋を片付けるためには、俺の部屋に出入りが必要になるから、この鍵、預けるぜ〜、クラウディアちゃん。」
 いつもなら、「その名前で呼ぶな!」と、握りこぶしをしてぶん殴るところだが(とは言っても、腐ってもソルジャー。簡単には殴らせてくれないのだが)、今回は、彼の手に握られている鍵の存在がある。
 それは、ザックスのルームキーと一緒になっている、彼の愛車の鍵だ。
 そして──その愛車は、俺が今、喉から手が出るほどに欲しがっている──────神羅の最新式、あのセフィロスが試乗してポスターモデルに強力した、神羅の一押しの、バイク。
 葛藤に震えながら、チラリと見上げたザックスの目が、にんまりと笑っているのには、腹が立った。
 腹は、たったの、だけど。

 でも。

 ちょっとザックスの部屋を掃除するだけで、彼が居ない間、バイクに乗り放題というのは、正直、捨てがたかった。
 掃除だって、言いたくはないが、「特務」の仕事で慣れているし──何せ、別名雑用係と言われている特務は、メイドの格好をして貴族の家に掃除に行ったり(あまり表に出れないようなものを掃除する役割を含む)、ホテルなどの清掃係に忍び込んで清掃の仕事をする傍ら、情報収集やスパイ活動をしたり(でも見た目はメイドや清掃のお姉さん)することがあるからだ。
 そういう役割を担っている以上、掃除は、得意だといわざるを得ない。
 ザックスもそのことが分かっているから、こういってくるのだとも分かっていた。
「な、頼むよ、クラウド〜。欲しい雑誌とかあったら、勝手に持って行ってもいいし、武器やマテリアや支給品だからあげれねぇけど、ま、俺が居ない間に、試し使いするくらいならいいからさ〜。」
 な? と、首を傾げて覗き込んでくるザックスの「言い分」は、正直、とんでもない。
 ソルジャー1stクラスに支給されたものを、一般兵が試し使いしてどうするんだ! というか、そんなこと、できるもんか!!
 声を大にして叫んで、ザックスを張っ倒したくはあったが、場所が悪かった。
 公共の場。それも、一般兵の寮の、出入り口だ。
 その目立つ場所で、ソルジャーの制服に身を包んだザックスに、拝み倒されてる俺は、きっと悪目立ちしていることだろう。
 特務の性質上、目立つわけには行かない立場にあるのに──(と思っているのはクラウドだけで、男子寮で女顔が3人も揃っていたら、とおの昔に悪目立ちしている)と考えると、頭痛すら覚えた気がして、俺は、それ以上ザックスが頭をさげないうちに、彼の手からルームキーをもぎ取ったのだ。
 これが、ザックスの策略かもしれないと──そう思っていても。
 ソルジャーに頭を下げさせるどころか、土下座までされたら、周りの視線やさげすみが酷くなるからだ。……前に一度やられたから、それで懲りている。
 ザックスは、嬉しそうに小躍りして、
「クラウド、愛してるぜーっ!!! このお礼は、帰ってきてから、俺の体で払ってやるからな★」
「──……っ! ばっ、バカか、あんたはっ!!!!」
 ギュッ、と正面から抱きついてきたものだから、思わず、思いっきり頭を殴りつけて床に沈ませてしまったのだけれども。





 翌日、俺は、なんと表現していいのか分からないザックスの部屋の惨状を前に、あのときのことを思い出して、
「……やっぱ、踏んどけば良かった。」
 ベッドの上に散らかる下着や靴下やバスタオルにまぎれて、いたるところに置かれた、開きっぱなしの。
 いわゆる、「エロ本」というのを目の当たりにして。
 思いっきり、ため息を零したくなった。
「こんな部屋、人に片付けてもらおうと思うなよな…………。」
 軽装でやってきた自分を、恨むように小さく呟いて、どこから手をつけていいのか分からない室内を、ただ──呆然と見回した。







真昼の色情魔










 最後にある記憶の中で、ザックスは、小さなテントの中で明かりを灯して、バカ話に興じていたのだ。
 同じソルジャー仲間の同僚達と一緒に就いた、モンスター殲滅任務。
 依頼書に書かれた期間は一週間。対峙するモンスターの種類も、弱点も、地図も同封された──本来なら、一般兵とソルジャー3rdクラスが組んで行うような、平凡な仕事だ。
 けれど、あの「宝条」から直々に依頼された──という時点で、なにやらキナ臭いものを感じたセフィロスが、直々にザックスたちに任務を拝命してくれた。
 神羅の中枢の一つであるマッドサイエンティスト宝条が関わっている以上、「普通の任務」でくくれるはずがない、というのがセフィロスの持論だった。
 実際、普段から宝条に困らされているソルジャー上位の者たちが、そのセフィロスの持論に反対するわけもなく。
 どちらかというと、「絶対何かが起きるに違いない」任務に、自分達が選ばれてしまったことの不運を、肩を叩き合って慰めるしかなかった。
 運がよければ、何も起きず、2、3日で任務を終わらせて帰ることが出来るだろう──と、それを祈りながら、任地に来て……すでに丸2日。
 今回の任務の依頼書類に書かれているとおり、天候が荒れることもなく、野宿や食料に困ることもなく──何も問題はおきてはいなかった。
 現れるモンスターは、一般兵が相手にするような「雑魚」ばかり。
 宝条が関わっている以上、絶対、「モルモット」がその中に入っているに違いないと──下手をすれば、あのマッドサイエンティストは、一般兵やソルジャー3rdごときじゃ太刀打ちできないと分かっている上で、モルモットの実力を図るためにあえて「Cランクのモンスター退治任務」として依頼することがあるのだ──そう思っていたのだが、これも拍子抜けするほど、ごくごく普通のモンスターばかり。
 一応、宝条の実験体が逃げ出したような痕跡はないかも調べてみたが、そういう気配もなければ、最近、生態系がいたずらに狂わされた痕跡もなかった。
 つまり。
 たまには宝条も、「いつも高ランクのモンスター退治を、低ランクと偽っている」と思われないために、普通の低ランク任務を依頼してくることもあるのだろう、と。
 優秀なるソルジャー達は、任地に来て2日目の夜に、そう判断を下していた。
 その上、あたりの地形が少しばかり変わってしまったが、無駄にはびこっていた雑魚モンスターたちは、ほとんど殲滅させてしまっている。
 後は、日が昇るのを待って、ミッドガルに帰るだけ──というような状態だ。
 ザックスたちが、気を緩めて、少し騒いでしまったのも、仕方がないと言えば仕方がないことだった。
 昨日の夜は、モンスターの襲撃を考えて、しっかりと明かりを落としたテントの中も、今日は日が暮れてからずっと明るいまま──半月が西の空に大きく傾く時間帯になっても、明かりが消えることはなかった。
 明かりに照らされた人影は4つ。その影は絶え間なく上半身を揺らし、そのたびに明るい笑い声が零れだす。
 深夜の人気のない山中には、あまりにも不似合いな風景であったが、それをいぶかしむ人間もいなければ、モンスターや獣もいなかった。
 モンスターがはびこっているために、近隣の人間はこの山の中に踏み込むことはなくなっていたし、獣はモンスターたちに食い尽くされており──そして、その「強者」たるモンスターは、今日の夕方に、生態系の頂点に立つソルジャー達によって、殲滅されてしまったからである。
 つまり、今、この山の中には、年若いソルジャー達4人しか居なかった。

 ──そう、そのはずだった。

「……そういえばさ、ザックス? お前、最近、五番街にしょっちゅう通ってるらしいな?」
 テントの中、図体のでかい男が四人もひしめけば、話題は色事方面へと転がっていく。
 今回もそのパターンで、赤髪のソルジャーがニヤリと笑いながら、入り口近くに陣取っていた黒髪の男に揶揄の声をかけた。
「んー? 俺、そんなにファッションにゃ興味ねぇから、月1くらいなんだけどな〜?」
 相手が何を言いたいのか分かっていながら、ザックスはヒョイと肩を竦めて、何の話かわからねぇ、とうそぶく。
 そんな彼のたくましい二の腕を肘でつつきながら、赤髪の男がにんまりと目元を緩める。
「上の五番街じゃねぇって分かってるくせに、そらっとぼけんなよ、ザックス!」
「そうそう、ネタはあがってんだぜ〜?
 タークスの連中が、『ターゲット』に、しょっちゅうくっついてる黒髪のソルジャーが邪魔だっ、って愚痴零してたってな!」
 手にしていた耐熱カップを掲げながら、ザックスの正面に座っていた男が、不器用に片目を瞑って「告げ口」すれば、残る1人がドッとはじけるように笑った。
「まーじーでっ!? おまっ、バッカじゃねぇの、ザックスっ!?」
 ぶはははははっ! ──と、遠慮もなくバカ笑いしまくる同僚に、ザックスはすかさず軽く握った拳ではたきながら、
「うっせぇっ! つぅか、そこまで分かってんだったら、なんで俺が下に下りてるのか聞くんじゃねぇよ!」
 苦いものを噛み砕くように、口の端をフルフルと震えさせた。
 そんなザックスに、三人は笑い顔を隠すこともなく、
「ザックスよぅ、タークスに邪魔扱いされたら、お前、将来ないようなもんだぞ〜?」
「そうそう、イヤがらせに、絶対、ウソ情報掴まされるぜーっ!」
「ちょっと苦労してこいとか言って、マテリアも支給されないように、裏から手を引かれるかもな!」
 ドッ、と──大笑いしながら、腹を抱えて地面をバンバンと叩く。
 目の端には涙までもが滲んでくるほどの、笑いように、ザックスはむっつりと唇を捻じ曲げた。
──確かに、だ。
 この数ヶ月ほど、気になる女性が出来て、スラム街に下りる日々が続いている。
 日もまともに差さないスラムの世界にあって、艶やかで美しい花を売る娘は、華奢ではかなげに見える外見と正反対の、気骨たくましい、芯のしっかりした──なのに、思わず守りたくなるような、ザックスの男心を多いに擽ってくれる。
 彼女に、「タークス」が付いていることに気づいたのは、二度目の出会いの時。
 なぜ、と気にするそぶりのザックスに、彼の青く光る光彩を覗き込んで、娘はなんでもないことのように、茶目っ気たっぷりに笑ってこう言った。

『わたし、実は、副社長の、婚約者候補なの。』

 どこまで本当かは分からない。
 けれど、いつも副社長の傍に居るツォンが、何度か娘の所に居るのを見たこともあるし──ちなみにそのとき、偶然居合わせたザックスの顔を見て、眉間に皺を寄せた後、「彼女にかかわりを持つな」と忠告までされた。
 もちろん、そんな忠告に従うつもりはまるでなかったけれど。
「あのな〜……それ、しゃれになんねぇんだからな?」
 眉間に皺を寄せながらそう答えたザックスに、赤髪のソルジャーが、プッ、と軽く噴出して笑った。
 思わず、無言でソイツの頭を抱え込み、グリグリとこめかみに拳を押し当てながら、
「わたたっ、いたっ、痛いっつぅの、ザックス!」
「タークスを敵に回すと面倒なことになるっつぅんだったらなぁぁぁっ!? お前ら、今回の任務が『そう』だって可能性があるってこと、ちゃーんとわかってんだろーなっ!?」
 ジタバタと暴れる赤髪を強引に腕力だけで押さえ込むザックスに、ケタケタと明るい笑い声をあげて、転げまくっていた残り2人が。
 ザックスの皮肉を聴いた瞬間──ピタリ、と、動きを止めた。
 それと同時、ザックスの腕の中でもがいていた赤髪もその動きを止め、手のひらを彼の腕に押し当てたまま、ヒタリ、と天井を見据えた。
 一瞬でテントの中の空気が変わる。
 その理由を揶揄しようとザックスは口を開きかけるが──「そんな場合じゃない」ことをいち早く悟って、チッ、と舌打ちを零した。
 腕を緩めて赤髪を解放するのと、彼がすばやく身を起こして自らの得物を手にしたのが、ほぼ同時。
 ザックスもその時には、片割らに置いてあったバスターソードの柄を握り締め、「テントの中で扱うな! 邪魔だ、それ!」と、同行者から不評の高い大きな刃を自分の膝の上に持ち上げる。
 そうしながら、四人は、煌々とした明かりの元、無言で視線を交し合う。
 言葉は必要なかった。
 彼らの──ソルジャーの鋭い感性が、皮膚を刺激するような殺気も、雑音めいて聞こえる荒い呼吸音も、きっちりと捕らえている。
 数にして、およそ20。
「……どこにこんなに隠れてたんだか。」
 ひそやかに呟いて──確かに今日の昼間で、山の中のモンスターは全滅させたはずだったんだけどなぁ、と軽口を叩く金髪のソルジャーが、槍の先を持ち上げて、切っ先にカンテラを絡ませる。
 彼が何をしようとしているのか悟って、ザックスは口元に余裕の笑みを刻み付けると、
「やぁーっぱ、アレだろ?
 俺の日ごろの行いのよさっていうか?」
「悪さ、の間違いだろ。」
 正直な話、軽口を叩くような場面ではない。
 けれど、彼らの表情には、笑みすら浮かんでいた。
──だてに、ソルジャーの名を抱き、幾十もの修羅場を体験してきたわけではないのだ。
 ついさっきまで、一つも気配がしなかった「存在」が、一瞬でテントの周りを囲んで現れたのだとしても。
 やることは、たった一つだと、彼らは理解していた。
 そして、それを、自分達ならやり遂げることが出来るということも──理解していた。
「……ま、この事態が、タークスを敵に回したザックスのせいなのか、単にいつもの宝条博士の秘密主義の為せる技なのか、は。
 ミッドガルに帰ってから、セフィロスさんに調べてもらうとして。」
 剥き身の武器を手にしながら口でやりあうザックスと赤髪に口を挟んで、金髪の男が、穏やかな口調に皮肉のとげを織り交ぜて──小さく、合図の言葉を呟く。
「A地点に1000。過ぎたら置いてくぞ。」
 山の中に入る前──任務に就く前に決めた「待ち合わせ場所」に時間を添えて告げると、三人の答えを待つことなく、槍の先をクルンと回転させた。
 からん、と。
 テントの頂点から外されたカンテラが、小さな音を立てると同時、槍がビュンッ、と唸り、テントを巻き込んで一回転する。
 ビッ、と裂けるような音がして、地面に縫い付けられていたはずのテントが、一瞬で槍の先に巻き取られる。
 視界を遮っていた布がなくなると同時、侵食する闇の中に、三つの影が飛び込んでいく。
 その先には──闇夜にまぎれた、殺気の主達。
 音もなく忍び寄ったソルジャー達が、そのまま闇に身を躍らせ、最初の断末魔を作り上げたのを確認して、金髪のソルジャーもまた、槍の先に絡みとったカンテラごと、テントであったものを、ガンッ、と、──地面にぶつけた。

 がしゃんっ!

 カンテラのガラスが割れる音がして、ボッ、と布地に炎が燃え移る。
 あっと言う間に油が染み出し、それが炎を写し取る。
 その後どうなるのかは見ることすらせず、金髪のソルジャーもまた、戦いの始まった場所に向けて、その身を躍らせた。
 ゴゥッ、と燃え盛る炎に照らされるはずの「闇」は、けれど。
 何も映し出すこともなく……ただ、高く火の粉を舞い上げるばかりだった。







 そして、気づけば。







「…………………………なんで俺、こんな格好してるんだろ?」
 がっくり、と両手を地面について、うずくまる少年が、1人。
 うなだれる頭に生えた髪の毛は、黒色。闇に埋もれるようなその色はしかし、今はなぜか内側から発色していた。
 見下ろした地面についた両手は、見慣れている自分の手よりも、ずっと小さく──ずっと、頼りない。
「あー……うー…………。
 …………くそっ、覚えてねぇ。」
 少年は、歯を食いしばるようにして記憶を浚ってみたが、結局、何も思い出せなくて、地面の上に直接胡坐を掻いて、頭をガシガシと掻き毟る。
 手のひらに当たる髪の感触は、真っ黒で、固くて、ちょっとトゲトゲしていて──生まれたときから付き合ってきた、自分の髪の毛であることは確かだ。
 なのに、見下ろした手のひらは記憶にあるものよりも小さくて、──もしかしたら、クラウドよりも小さいかもしれない、と。
 親友の小奇麗な顔を思い出して、うーむ、と少年は腕を組んだまま、首を傾げた。
 とりあえず、戦場において、はぐれてしまったときや、孤軍と化してしまったときに、一番大事なのは、「状況把握」だ。
 うん、と頷いた少年は、改めてことの始まりを思い出そうとする。
 というほどのものでもない。
 ことの始まりも、何があったのかも、彼はしっかりと覚えているのだ。
 ミッドガルから一週間の期限の任務にやってきて。
 マッドサイエンティストの悪名も高名な宝条博士が依頼してきた任務だからと、みんなで気を引き締めて任務に当たったのだ。
 内容は、しごく簡単。
 とある山奥の山が、モンスターの巣窟と化してしまい、そこに住んでいた動物は食われつくし、植物の生態にもダメージが現れてきたのだという。
 宝条は、そこに群生している植物で、何とか言うクスリを作りたいらしく、今回の依頼にあいなった。
 もっともらしい任務ではあるが、あの、宝条の任務なのだから、絶対、一筋縄ではいかないだろうと、そう思っていたのだけれども。
 気合も十分、警戒心も十分に当たった任務は、ソルジャー4人で望めば、1日で済んでしまうほど、楽なものだった。
 宝条が「隠していた」事実や、彼が依頼した任務にありがちな「未発見のモンスターが出没」なんていうこともなく。
 本当に、楽な任務だったのだ。
 1日目でほとんど殲滅しつくし、2日目の午後まで、残るモンスターを狩り、巣をすべて燃やしつくし。
 その夜には、山の中には自分達四人しか居ないような、そんな状況下で、くつろいでいたのだ。
 ところが。
 そこに、強襲があった。
 一瞬前までは、何も居なかったはずなのに、だ。
 どういうことなのか分からないままでも、彼らは神羅の誇るソルジャー達であった。
 一瞬で行動を開始し、躊躇うこともなく戦闘の火蓋を切っておとしたのだ。
 そうして、とりあえずクライムハザートで十匹くらい一気に死滅させ、何が自分を襲ったのか確認しようとファイアを指先に宿したところで──気づいたら、また、同じ数の敵に囲まれていて。
 気配も感じなかったぞと、驚きながらも、体は戦闘と殺気に反応するように動いていた。
 それが、何度か続いて……いくらなんでも、自分が気づかないうちに包囲されているのが、5度も6度も続くはずはない。
 これはおかしいんじゃないかと、もしかしたら幻覚か何かの──そう、コンフュにでもかかってしまったんじゃないだろうかと思い当たり、慌てて辺りを見回して、仲間の姿を探そうと思ったのだけれども。
 辺りは闇に包まれていて、自分と敵の交わす剣戟の音しか聞こえなかった。
 意識を研ぎ澄ませても、まるで反応がなくて。
 これは、いよいよコンフュにかかってしまったのかと、そう思いながら、痛みで正気を取り戻そうと、剣先で自分の体を切りつけたところで──────。
「………………覚えがない。」
 むむ、と眉を寄せて、少年は自分の体を改めて見下ろした。
 あのとき、自分の体を傷つけようとしたのは本当だ。
 ということは、この体のどこかに、剣でつけた傷があるはずなのだ。
 そう思って見下ろしたのだけれど。
 目に映るのは、同じ光景。
 記憶にあるよりもずっと小さくなった、こんがりと日に焼けた、子供の体だった。
 近所の子供たちよりも体格は良かったため、しなやかな筋肉はついているけれど、腹の辺りはぽってりと重そうに見えるし、手も足も丸みを帯びていて、とても大人の体には見えない。
 さらに視線を下に落とせば、股の間からはウィンナーのような可愛らしい息子の姿も見えた。
 あの、凛々しく雄雄しい、自慢の息子の見る影もない。
「──じゃなくって。」
 少年はそこで裏手で自分に突っ込んで、胡坐を掻いた己の体に、ため息を漏らす。
 子供の姿になっているのも驚きたが、今の彼は、その身に何も身に着けていなかった。
 気を失うにしろ、やられてしまったにしろ、体に傷一つ負っていない上に、真っ裸というのは──どうなんだ。
 しかも、体が、子供に返ってしまっている。
 そんな現象、ミニマムの呪文でも起こるはずがない。
「うーん……どうするかなぁ?」
 顎に手を当てて首をひねって、少年は膝に小さな手のひらを置く。
 周りは真っ暗で静かで、まだ夜が明けるには時間がありそうだ。
 シン、と耳を打つほどの静寂を感じながら、少年はゆっくりとあたりを見回した。
 子供の姿になっているというのに、両目は、魔bを宿しているときのように、くっきりと闇の中を見渡すことが出来た。
 彼がペタンと座り込んでいる場所から、ほぼ背後に当たる位置に、頼りない星明かりに照らされた山の影が見えた。
 そこから続く街道や、左右に立ち並ぶ木々の形に、なんとなく覚えがある。
──あの山に入る前に、ザックスたちが通った道だ。
「……俺、いつのまにか、山から降りちまったみたいだなー。」
 呟いた声が、妙に甲高く響いて、少年は顔を強く顰める。
 小さい頃はこんな声だったかもしれないが、渋くていい声の今の「美声」に慣れてしまった身としては、妙に居心地の悪い声でもある。
 手のひらを喉に当てて、さすりあげながら、少年は耳を澄ませ、あたりの気配をうかがう。
 けれど、人気はまったく感じ取れず、獣の咆哮どころか、虫の声すら皆無だった。
 まるで、何もない暗闇の中に、ぽつんと置き去りにされたかのようだ。
 少年は、はぁ、とため息を零すと、
「参ったなー……めちゃくちゃはぐれてんじゃん、俺。」
 コリコリと頭を掻きながら、とりあえず──集合場所に向かってみるかと、立ち上がるために、トン、と地面を蹴ったその瞬間……。

 びゅぉんっ!!!

 ありえない速度で、少年の体が飛び上がった。
「──……ぅおっ!!!?」
 ヒュンッ、と、耳元で風が音を立て、みるみる内に座り込んでいた地面が遠のいていく。
 何が起きているのか分からないまま、慌てて首をめぐらせるが、視界に移るのは、満天の星明かりだけ。それも、心細い光を転々と零すだけで、何の役にも立ちはしない。
 バタバタと手を上下させてみるが、手のひらに感じるのは風の感触ばかり。
 視線を下方へと向ければ、遥か遠くに地面が見えた。
 そして──そうして。
 ひどく、不思議なことなのだが。
 地面を蹴って飛び上がった(?)あの瞬間から、どうも彼は、「落下してない」ようなのだ。
 つまり。
 どう考えても、少年は今──浮いていた。
「って──っ、なんで俺、浮いてんだよっ!? れ、レビテトかっ!? 俺、いつの間にかレビテトかけられてたのかっ!?」
 いくらソルジャーとは言えど、長時間滞空していることだけは、出来ない。
 人間が生身の体で空中に浮かぶには、タイニーブランコなどによって、上から綱で繋がれるか、「レビテト」をいう呪文を使うしかないのだ。
 そして今ココに、タイニーブランコなどという機械がない以上、考えられるのは、「いつのまにかレビテトをかけられていた」というパターンなのだが──。
 いくら「浮遊呪文」であっても、レビテトは所詮、地面から数十センチほどしか浮かび上がることが出来ない呪文だ。
 せいぜい、手品や地震退避くらいにしか使えないのである。
 となれば、これは、レビテトの呪文のせいではない。
 浮かんでいるのは──もっと、他のことが原因なのだ。
「ぅーわぁぁぁ〜……これってなんだ?
 つぅか、アレだよな? アレ以外ねぇよな??」
 頭を抱えて、少年は思い当たる節NO1を脳裏に思い描きながら、ジタバタと空中で身悶えた。
 そうしていても、少しだけ体が横にずれるばかりで、彼の体は一向に下に落ちていく気配はなかった。
「突然、子供になって、しかも空中に浮いてるってなったら──そりゃもう、怪奇現象だよな! しかも! あのマッドサイエンティスト手作りの、怪奇現象だよっ!!」
 半ばヤケになって怒鳴りつけ、くそっ、と彼は舌打ちして、空中に仁王立ちする。
 十中八九、この意味のわからない現象は、あの男──宝条の仕業に違いない。
 何をして、どうやって、こんなことになったのかは分からないが、絶対にそうだ。
 何せ、今までにも、似たようなことは何度もあったのだ。
 宝条に頼まれた仕事をして帰ってきたら、右腕に人面阻が出来ていたとか──どうも、モンスターの顔部分だけを抽出した何かを、移植させられていたらしい──、髪の毛が全部ヘビになっていたとか──同上──、以下たくさん。
 だからきっと、コレもそうなのだ!
 いつ、何をされたのか、まったく気づかなかったが、それ以外にありえない。
「くっそ〜! してやられたぜ! 気をつけてたつもりだったんだけど、最後で気ぃ抜いちまったか。」
 こんな姿で帰ったら、絶対に、セフィロスに鼻で笑われた挙句、クラウドから冷たい視線を貰うに違いない。
 仕事中に、何、気を抜いてるんだ、だとかなんとか、説教までついてくるのも、想像に難しくはなかった。
「とは言っても、もうなっちまったもんはしょうがねぇしな。
 とりあえず、他の奴らと合流して、それから、か?」
 あいつらもきっと今頃、餓鬼の頃の姿になって、裸でどうしようか悩んでるんだろーなー、と。
 少年──ザックスは、お気楽にそんなことを考えて、そんな場合じゃないのに、クックッと笑った。
 とりあえず、四人で集まって、近くの村か山まで行って、それからミッドガルに向かって。
 そうして、セフィロスでも呼び出してもらって、宝条を締め上げてもらえば、多分、──3日くらい実験体扱いされて、解放されるはずだ。
 そう思った瞬間、ザックスは言い知れない切なさに胸がキュンと鳴いた気がして、ガックリと肩を落とした。
 けれど、いつまでもそうしているわけにも行かず、ザックスは、バタバタと足と手を動かせて──まるで水の中を突き進むかのような鈍行さで、待ち合わせ地点めがけて、ジタバタと泳ぎ始めるのであった。











 そして、ザックスが短い手足に四苦八苦して、ようやく空を快適に泳げるようになるころ──東の空は白みはじめ、襲撃を受けた山は、遥か遠くに霞むように見えるだけになっていた。
 これは、下を走るよりも、ずっと早く目的地に着けそうだなぁ、と。
 元々泳ぎが達者なザックスは、なれた調子で空中クロールに興じながら、スーイスイと風を掻き分けて、深い森だって中に踏み込むことなく、上を泳いで通り過ぎ──時々風に煽られて違う方向に流されながらも、仲間達と約束した合流地点には、明け方を過ぎたくらいに到着した。
 余りに早すぎる到着に、「一番初めに合流地点に到着したもの」がしなくてはいけない項目をやらなくてはいけないことに、ゲンナリしながらも、上空から周囲を警戒し、周りにおかしなところがないことを認めると、トン、と空気を蹴るようにして、地面へと急降下した。
 すでにこの辺りの動作もなれたものだ。伊達にソルジャーになるほどに運動神経に恵まれていたわけではない。
「日が上ってるから、火を焚く必要はねぇだろー。
 朝食の支度ー、は、面倒だしな……つぅか、そういや俺、腹、減らないな?」
 思わず手のひらを腹部に押し当てて、首を傾げる。
 いつもなら、これくらい運動した後なら、そろそろ小腹が空くはずなのだ。
 なのに今日は、胃が何も文句を言ってこない。
「うーん、これはアレか? 体が小さくなったから、胃も小さくなったってことか!」
 ハッ、と、今、気づいたといわんばかりの態度で目を見開くザックスに、突っ込む人間は誰も居なかった。
 ザックスは、なるほどなー、と納得したように、うんうんと頷きながら、胃の上を軽く撫でさすり、「自分が腹が減ってないから、朝食の支度は放棄」と言う結論を出した。
 一番面倒臭いのが、「飯の支度」だからだ。
 薪を集めて、かまどを作って、時には鍋やフライパン代わりのものを見つけてきて、食材まで探してと、忙しいことこの上ない。
 男なら、丸焼きだ! ──と言い切るのも手だとは思うのだが……実際、ザックスの食事当番は、大抵「丸焼き」だ。
 そして今の自分は、子供になっているから、「丸焼き」になる食材を探すのも一苦労というわけだ。──そんな面倒はゴメンだった。
 そういうことで、ご飯の支度の面倒は免れた。
 後やることは、──と、あたりを見回したところで、お、とザックスは遠目に見えた点に気づいて、額に手を当てる。
 自分がやってきた山の方角から、少し東にずれた辺りから、豆粒のような点が1つ、ものスゴイ速さでこっちに向かってきているのが見えた。
 小さな点は、みるみる内に人間だと判断するにふさわしい大きさになり、あと10分もしないうちに、ここに到着するようだった。
 そのまま視線をずらせば──今度は、西の方角から、豆粒のような点がこちらへと走ってきているのが見えた。さらに少しずれた位置から、もう一つ。
 みるみる内に、東側からの点は髪の毛すら判別できる大きさになり、西側の点の二つは、途中で合流して、こちらへ向かうスピードをあげたところだった。
「おーっ! お前ら、けっこう早かったなっ!」
 みんな無事だろうとは思っていたが、こうして無事な姿を見るのは嬉しい。
 ザックスは、今の自分の姿のこともスッカリ忘れて、両手を大きく振り上げて、ブンブンと左右から迫ってくる3人に笑った。
 すぐに最初の1人──東側からかけてきていた黒髪のソルジャーが、トン、と身軽な動作でザックスの10メートルほど手前に足を下ろす。
 テントの中で見たときとはまるで違い、髪はボサボサに掻き乱れ、どこに突っ込んできたのか、支給服には、草や葉っぱの欠片が張り付いていて、ズボンには泥と黒ずんだ返り血がついていた。
「おっまえ、きったないなーっ!」
 思わずザックスは、無事に再会を果たした戦友に向かって、開口一番、そんなことを叫んでいた。
 そんなことを言えば、彼はきっと、「そーゆーお前は、なんだよ、その格好!?」──と、悲鳴に近い声をあげてくれるはずだ。
 そう思って、ザックスはわざとらしく小さく揺れる物体を晒すかのように、両手を腰に当てて、ちょっとおなかを前面に押し出すような格好をして、彼を出迎えたのだけれども──。
 黒髪のソルジャーは、頬についた汚れを無言で手の甲で拭い取ると、鋭い視線を西の空に向けて、
「………………ザックス……。」
 なぜか、苦痛に満ちた色で、ザックスの名を呼んだ。
「おう! どうした? 何かあったのかっ!?」
 てっきり、見えないところに傷を負っているか何かして、渾身の力でココまでやってきたところなのかと──にしては、ずいぶん身軽で、軽快な動作であったけれども──思い、慌ててザックスは自分の名を呼んだ男の下にかけつけるが、男は自分の腰ほどの大きさしかないザックスに目を留めることなく、ただ、視線を西に方角に向けている。
「……おい?」
 小さく呼びかけながら──ザックスは、ヒヤリと背筋を伝うイヤな予感を覚えて、無言で視線を男が向けている方角に向けた。
 今の呼びかけは、自分が怪我をしているということをザックスに知らせようとしたのではなく。
 ──仲間の状態が、おかしいと。
 そういう呼びかけだったのだろうか。
 ヒタヒタと打ち寄せてくるような悪寒を堪えながら、ザックスはこちらに向かっている残り2人の人影に視線をあてた。
 白々とあけ始めた空の、明け色に染まったほんのり薄暗い色を背に抱えた2人組みは、すでにその全身が判別できるほど近くに迫っていた。
 それでも、魔bが宿っているわけではないザックスの今の視力では、彼らの体に大きな傷があるのかどうかは判断つかなかった。
 動きを見ている分には、何らおかしなトコロはなさそうだと、とりあえずホッと胸を撫で下ろしかけたザックスは、そこでふと。
「────…………アレ?」
 2人組みの男の片割れ──赤い髪のソルジャーが、背中に何かを担いでいるらしいことに気づいた。
 暗さにまぎれて良く見えないその背中の物体は、テントの中に残してきた荷物──であるはずはない。
 あのとき、自分達は道具袋に入る荷物以外のものはすべて捨て置き……身一つで飛び出してきたからだ。
 ということは。
「もしかしてあいつ、死体を研究材料にとか言って、持って返ってきたのか〜?」
 思わずゲンナリして、ザックスはダラリと両肩を落とした。
 確かに、それなら、男がうんざりしてザックスに呼びかけるのもムリはない。
 あんなの担いで帰るのが、どれほど大変か……いやそれ以前に、「死体を持ち帰らなくてはいけない」と判断するような状況が、発生してしまったという事実そのものが、考えるのも億劫なほど、面倒くさいことになるのだ。
 死体を腐らせないように、ブリザドをかけて、凍らせて──それを「ひやっこい! ひゃっこい!!」と言いながら、交互にかついで持ち帰るのだ。
 前にも何度か、「あまりにも不審すぎるモンスター」に出会い、それを持ち帰ったことがあるが、あのときは担いでいた背中が軽い凍傷になったのだ。──ソルジャーの鍛え上げられた体でも、ずっと担ぎ続けていたおかげで、そうなったのだ。しかも、氷が解けかけてる、という理由で、背負ったままのザックスに向けて、ブリザドを唱えやがったヤツまでいるんだ! 誰とは言わないけど、今回の任務を押し付けてきた某S氏とか。
 そして、それを研究所に押し付けた後、事後報告と報告書を提出しなくてはならなくなる。その上、事情聴取まであったりするから、もう大変だ。任務後の休暇は、それで吹っ飛ぶと言っても過言ではない。
 つまり。
 赤髪のソルジャーが背中に抱えている「未確認物体」である死体は、はっきり言って、邪魔者以外、何者でもないのだ。
「わー…………なんか俺、アイツごと、ファイラかけて消したくなってきたぜ。」
 思わずゲンナリしながら、そんな軽口を叩くザックスであったが、背中からピリリと殺気じみた気配を感じて、慌てて両手で口を覆った。
「いやっ、冗談だぜ、もちろんっ!?」
 まさか、こんなことで怒るとは思わなかった。まだこいつらは、戦闘の時の高揚気分が抜けていなかったのか、と。
 軽い笑い声をあげながら、肩越しに振り返り、仰いだ先で。
 男は、険しい顔で眉を寄せ──なぜか、その両目に、深い悲しみをたたえていた。
「──っ?」
 何を、と。
 思いも寄らない感情を目の当たりにして、絶句しかけたザックスを一瞥すらせず、男は、ザッ、と足を前に踏み出す。
 慌てて後退して道を譲ったザックスの横を通り過ぎ、彼は、間近に迫った男2人が着地する地点に赴き、顎を逸らして顔をあげて──、
「………………キリア。」
 小さく、赤髪の男の名を呼ぶ。
 それに答えるように、赤髪の男と金髪の男は、無言で、ザッ──と男の前に着地をして。
 男と視線を合わせるのを避けるかのように、つい、と目を落とし、うなだれた。
 その、常に見ない態度に、何事だと、ザックスは目を見張って──自分だけが理解していない展開に、キョロキョロと彼らを見上げる。
 その誰もが、自分と異なり、「大人」の姿そのものだった。支給服もちゃんと身に着けている。
──となれば、普通、この状況では、子供の姿で裸んぼになってしまったザックスを見て、「お前、なにやってんだーっ!」と大爆笑するか、拳骨を喰らうかのどちらかしかないはず……なのに。
 彼らは、ザックスを目にも留めず、沈痛な面持ちで、暗い雰囲気を漂わせていた。
 一体、自分が居ない間に、何があったのだ、と。
 そう思いながら、ザックスは己よりもずいぶんと高いところにある彼らの顔を見上げて、一体どうしたんだと、手をあげかけて──────────そのときになって、ようやく、気づいた。

 キリアと呼ばれた男がその背に背負っているものが、モンスターではないことに。

「────見つけたときには、……もう。」
 キリアの声に、震えが混じっていた。
 その背には、物言わぬむくろが一つ、背負われたまま──ピクリとも動かない。
 ザックスは、目と鼻の先に見える、「むくろ」がダラリと下げる指先を、呆然と見上げるしかできなかった。
 金髪の男が無言でグッと拳を握り締め、
「……モンスターの強さを判断し間違えた、俺の責任だ。」
 悔恨を漂わせた、低い、喉から血が出るように低い声で、呻く。その声もまた、かすかに震えていた。
 頭の上から降ってくる、錘のように重い声を聞きながら、ザックスは、ただ呆然と、目の前の見慣れた指先を見詰めるしかなかった。
「いや、お前の責任じゃない。俺達も、あれは──個別に戦っても十分だと、ソウ思ったんだ。
 だから、……まさかこんなことになるなんて…………。」
 その爪先が、かすかに歪んでいるのは、おとつい、切り損ねたから。
 その手首に、小さなかすり傷がついているのは、昨日、バスターソードでヒゲを切ろうとしていたところに、キリアから「自殺なんて早まったことするなーっ!」と、冗談半分で抱きつかれたから。
 そして──その、キリアの背中に埋もれるように押し付けている顔が、土気色なのは……………………。
「──────────…………ザックス……っ。」
 悲痛の声を涙に交えて、そう──彼らが呼んだ人物は。
 決して、三人の足元で、呆然と「自分のむくろ」を見上げている子供のザックスではなく。

 キリアの背中に背負われた、物言わぬむくろと成り果てた────………………。






「おっ…………俺ぇぇぇぇーっ!!!!!!??????」








つづく


ザックスの部屋には、ビニ本があるという設定でお願いしますv(笑)



文調から分かると思いますが、ギャグですv
オチもわかっていると思われますが、その辺りはスルースルー♪


元ネタはわたしが見た夢です(笑)
どうっしても、書きたかったんですけど、その夢にあうキャラクターが見つからなくって、どうしようかと思っていたところ……。

ザ ッ ク ス が い た じ ゃ な い か … っ!

と、白羽の矢が当たりました(笑)。

今回は、冒頭部分以外は、ザックス+オリキャラばかりで申し訳ない次第です。
でも、次はクラウド出てきますから〜。