夢見丘 6














SIDE:文通中








──親愛なるエアリスへ


 お返事ありがとう、エアリス。

 私はいま、あと少しで「ぜんたいか」のマテリアをマスターにするところまで来ています。これをマスターにしたら、シドに頼んで売って貰って、ミッドガルまでの旅費にするわね! 会えるまで、あともう少しです。

 そうそう、二日前に、ヴィンセントがナナキと会えたという連絡を貰いました。
 やっぱり、シドやヴィンセントと同じように、ナナキも私達のことを覚えてるみたい。
 ナナキもクラウドやエアリスに会いたがっていたそうよ。
 私も、そのうち暇を見てコスモキャニオンとの中間地点当たりまで足を伸ばして、ナナキと会ってこようと思っているの。
 ヴィンセントが言うにはね、まだ尻尾に火が灯ってなくて、小さくて抱き上げられるくらいの大きさなんだって! クラウドがナナキを背中にぶら下げていたのは見たことがあるけど、抱き上げられるなんて、今だけの特権よね。あと7年もしたら、あんなに大きくなっちゃって、私達を乗せれるくらいになるんだもの。
 だから、ナナキに会ったら、ぜひ抱かせてもらうつもり。今から楽しみ〜♪

 あと、この間の手紙と一緒に送ってくれた雑誌! 面白かったわ! 本当に『月刊セフィロス』なんて雑誌が出てるのね!? エアリスが言ったように、文通相手募集欄なんていうのもあって、楽しく読ませてもらいました〜。
 セフィロスってああしてみると、格好いいしね〜(笑)。
 すごく面白かったので、今度から定期購読することにしました。うちの村には1ヵ月遅れくらいでしか届かないんだけど。
 一年定期購読すると、セフィロスのフィギュアが付いてくるって言うことで、運搬屋のおじさんからフィギュアを貰いました。
 せっかくだから、同封しておくので、クラウドにあげてね☆

 それからね、この間言ってた………………












──親愛なるティファ=ロックハートさま


 お返事&フィギュアありがとう! さっそくクラウドにあげました♪
 クラウド、両手で握って、すごく喜んでいたよ〜。
 セフィロスファンって、コアなのが多いせいか、雑誌定期購読の特典でも、すごく凝ってるフィギュアなんだね。良く似てるからビックリしちゃった。
 そうそう、月刊セフィロスと言えば、今月号でセフィロスのDVD映像の全員プレゼント特典って言うの、やってるんだけど、締め切りがね、今月中なのよ。
 ティファの方は1ヵ月遅れなんだよね? もし、全員プレゼントを応募するつもりなら、こっちでしちゃうよ〜? っていうか、しちゃいました、もう(笑)。
 DVDが届いたら、また同封して送るね!
 そうそう、セフィロス情報といえば、時々クラウドが神羅情報誌を持ってきてくれるの。この間それを見てたら、なんとザックスが3rdソルジャー昇格名簿の中に載ってました! この1年後には1stになって、2年後にはセフィロスの片腕って言われるようになるんだから、スゴイわよね。
 でも写真を見る分には、まだゴンガガって感じよ。
 神羅情報誌は、さすがにミッドガル外には出せないそうなので、雑誌ごと送るのはできないけど、ザックスの写真を切りとってみたので、見て見て♪ それで月刊セフィロス10月号の34ページのカラー写真と一緒に貼ってあげて〜!

 ヴィンセントは精力的に活動してくれてるみたいだね〜。私も、ティファたちに負けずとレベルアップするために、スラムの外やミッドガルの外で、モンスター相手に戦ってるの。
 マテリアがないと不安だったんだけど、レベルはあの時のままみたいで、ロッドで一撃なので、楽チンね。ティファの言ったとおりだわ。
 この間、お金を貯めて、ほのおのマテリアとれいきのマテリアを買ったの。
 これをマスターにして売って、私もジャンジャンお金をかせぐね!

 そういえば、もうすぐミッドガルでお祭りがあるんだけど、その時に……………………














SIDE:クラウド






 狭苦しい新入社員専用の寮の一室──6人の大部屋の片隅にある二段ベッドの下……クラウドのベッドのヘッドには、最近、妙な物が増えて来ていた。
 月刊セフィロスの切り抜きの写真(しかもラミネート加工済み)だの、月刊セフィロス定期購読のフィギュアだの、全員プレゼントのセフィロスバストショット写真集ミニだの、選りすぐりCMセレクションDVDだの──以下略。
 神羅カンパニーが自社の名を派手に売り出す手段の一つとして「英雄セフィロス」の姿を売りつくした結果である。
 しかも、「詳細なプロフィールは秘密」なんていう、ミステリアスさを匂わせて……女性ファンの獲得にも躍起になっているらしい。
 そんな、神羅カンパニーの、人気取りの策である数々の「英雄グッズ」が、クラウドのベッドヘッドを占拠している。
 誰が見てもその光景は、「クラウド・ストライフは英雄ファンだ」と思わずにはいられない状態だ。
 くしくも、入社して4ヶ月目になる今は、初対面時に隠し通していた趣味や悪癖が露わになる時期だったということもあり──、隠れていた趣味として、クラウドは「熱狂的なセフィロスファン」の烙印を押されてしまうことになった。
 クラウド本人には、とても不本意なことである。
 頭の上に正宗を翳したセフィロスのフィギュアがあるせいで、毎晩、セフィロスに戦いを挑まれる夢を見るし。
 立てかけてあったはずのバストショット写真集ミニが転がり落ちてきて、マクラの下に偶然挟まっていたときには、夢の中でセフィロスが半裸姿で正宗を振り回しながらメテオを唱える夢まで見た。
 さらに朝起きたら、クラウドのマクラの下にその写真集がしかれているのを見た同室の少年B(名前を覚えていない)から、
「ストライフ君は、夢に見たいほどのセフィロスファンなんだね!」
 と、なぜか手を握られて、そういいきられてしまった。そのキラキラと輝く目を見るに、多分──……【同類】と思われたような気が……しなくも、ない。
 マクラの下に写真を敷いて寝れば、その人と夢で会える──なんていうロマンチックな行動を起こしてまで、夢の中でセフィロスに会いたかったのだと誤解されたことは間違いないだろう。
 ちなみに、今クラウドが持っている軍からの支給であるPHSには、月刊セフィロスについていたらしいセフィロスネーム入りシールが貼られている。
 しかも、一度貼れば、根性でしがみついているのかと思うほどに剥がせない粘着テープで。
「……………………。」
 寝起きのボケた頭で、クラウドは今日もクッキリはっきり見える枕元のセフィロスフィギュアを睨みつけながら──はぁ、と溜息を一つ零す。
 目を覚めて、枕元の時計を確認するたびに、溜息が零れる。──これは先日、エアリスから「誕生日プレゼント♪」と頂いた、セフィロスの顔写真が入った目覚まし時計なのだ。
 どういうことか、エアリスもティファも、月刊セフィロスを購入しては、懸賞だのに応募してセフィロスグッズを当て……それをことごとくクラウドにプレゼントしてくれるのだ。
 彼女たちが言うには、「対セフィロス攻略のためには、セフィロスのことを知る必要があるでしょ!?」とのことらしいが──……、どう考えても、二人で「月刊セフィロス」という雑誌を買って、共通の話題で遊んでいるようにしか思えない。
 懸賞に応募してみたのはいいものの、当たった賞品はいらないので、「クラウドにプレゼント」しているようにしか感じない。
 そして、その皺寄せを食らったクラウドは、いつもエアリスに無理矢理押し付けられて、新しいセフィロスグッズを手に寮に戻るしかない状態になるのだ。
 そのたびに、クラウドは、ベッドサイドに増えていくセフィロスグッズを見て、……一体どうしろと? と脱力するばかりだ。
 うんざりしながら、額にかかる前髪をかきあげ──どうせならヴィンセントにやってくれと、心の中で吐き捨てること二日に一回。最近は諦めの極致に達してきている。
──正直な話、この社員寮の中は、ほとんどがあの英雄セフィロスに憧れて入社したという人間ばかりだ。だから、探せばきっと、クラウドがもてあましているセフィロスグッズがほしいという人間だって10や20くらい軽くいるはずだ。──例えば、同室者である少年Bことセフィロスファンとか。
 鎮座しているセフィロスフィギュアだの、セフィロス時計だの、セフィロスピンナップだのを順々に眺めて、クラウドは重い溜息を零して、朝から憂鬱な気持ちでベッドから足を投げ出した。
 そう──探せば、寮の中にセフィロスグッズをあげる相手がいるはずだ。
 けれどクラウドには、気軽に【セフィロスグッズ】なんてものをあげるような友達は1人も居なかった。
 そのため、少年Bが羨ましがるほどのベッドヘッド状況は、一向に変わらないどころは増え続けていく一方で──さらに最近では、クラウドが休みのたびにスラムに下りていっているのを見た同僚達が「スラムにカワイイ彼女ができて、その彼女にセフィロスグッズを貢がせている」なんていう噂を広げてくれている始末だ。
「……ティファもエアリスも、本来の目的を忘れてるんじゃないのか……。」
 不機嫌を隠そうともせず、クラウドは起きてから何度目になるか分からない溜息を零しながら立ち上がった。
 口の中に消えるだけの呟きを、忌々しげにはき捨ててしまう程度には、クラウドは枕元の「セフィロスグッズ」に飽き飽きしていた。
 だいたいそもそも、お互いの──ミッドガルにいる「クラウド・エアリス」組と、ニブルヘイムにいるティファを中心とした「ティファ・ヴィンセント・シド」組の連絡を取り合う手段として、エアリスとティファの文通が始まったはずだったというのに、どうしてクラウドにこんなしわ寄せが来るのだろう……。
 最近など、ティファからの手紙のことをエアリスに聞けば、「見てみて〜! クラウド! ティファがね、ニブル山のくずマテリアで、私にピアスを作ってくれたの〜♪」だの、「クラウド、今度買い物、付き合って? ティファがね、雑誌に載ってた服で、欲しいの、あるっていってたんだ♪」だの──、一体、ナニを文通しているのかと、聞きたくなるようなないような内容しか返ってこない。
 昔から──と言うと、今の時代では語弊があるかもしれないけれど──、ティファとエアリスは本当に仲が良くて、その間には共に旅をしてきた仲間達ですら入り込めないところがあった。
 シドに言わせるところの、「女同士の友情ってぇのは、ベッタリのりみてぇにくっつくらしいぜぇ。」という状況を、今更ながらにまざまざと目の前に突きつけられた気がした。
「俺も、なるべく早く自分専用のPHSを買ったほうがいいか……。」
 そうすれば、シドやエアリスにも連絡が取れやすくなる。
 何せ、軍から支給されて持っているPHSは、私用目的で使うことを禁じられていて、発信履歴どころか、着信履歴までもがチェックされているのだ。
 とてもではないが、それを使ってシドやエアリスに連絡することなど出来ない。──だから、私物としてのPHSは、連絡手段としてどうしても必要だった。
 けれど──PHSと言うのは、機械本体を購入すればいいだけではなくて、それを使用するための基本使用料なんていうものが毎月掛かってくる。
 今や世界に名高い神羅カンパニーの社員とは言えど、入ったばかりのペーペー新兵に過ぎないクラウドの薄給では、とてもではないが軽々しく手をつけることはできない。
 特にクラウドは、給料の半分ほどをニブルヘイムの母に仕送りしている身で──どう計算しても、自分専用のPHS代金と毎月の使用料なんていうのは、捻り出てくることはなさそうな気がした。
 けれど、あと一ヶ月ほど我慢すれば、ペーペー新兵から、一般兵になるためのテストが受けられる。
 それに合格すれば──と言っても、入社して半年ほどの訓練を真面目に受けていれば、誰でも憂かるような類のテストだが──、給料が「研修給与」から「一般給与」に上がる。
 そうなれば、ボーナス対象になるし、有給休暇だって取れるようになる。──取れるかどうかは別として。
 「当時」の自分は、一般給与の初任給で母への贈り物と、自分の衣服を揃えたが──ニブルヘイムからでてきた自分の服では、ミッドガルの気候や雰囲気に全くあっていなかったため、一揃いそろえる必要があった──、どうせミッドガルはこれから冬になるのだ。ボーナスがでる前では、ニブルヘイムで着ていた服で我慢して、今回はPHSを購入することにして。
 そう、どうせこの季節に服を購入しても、身長が伸びたせいで来年は着れなくなって捨てるハメになったんだから、お洒落や見栄よりも、実用性だ。
 クラウドはそう決意すると、タオルを手にして、共有の洗面スペースに向けて歩き出した。
 その帰りに、玄関先のチラシコーナー(兵士の購入意欲を狙って、各業者や神羅のほかの部門が、新作のパンフレットなどを置いていく)に行って、PHSの機種が載っているチラシを持って来ることに決めた。
 これでPHSが手に入れば、ニブルヘイム側の進行状況を聞くために、エアリスとティファのラブラブ文通の話に耳を傾ける必要がなくなるわけだ。──シドと直接話しが出来るのだから。
「仲がいいのは、いいことなんだけどな……本当に。」
 ヤレヤレ、と、そんな呟きを零しながら……クラウドは、それでも。
 あの頃に戻ったような気のする穏やかな気持ちに、そ、と口元を緩ませずにはいられなかった。


 エアリスが、笑っていて。
 ティファと一緒に、さも大変そうな顔で、くだらない世間話をして。
 それをボンヤリと聞いていると、エアリスとティファが両サイドから覗き込んで、「聞いてるの、クラウド!?」なんて、怒ったように──でも笑いながら叫ぶ。
 あの頃に、もう二度と戻れないと、そう思っていたからこそ。


──しあわせを、より一層強く感じるから。
 だから。




「今度こそ……失いたくない。」




 零れたその思いは、クラウドだけではなく──きっと、誰もがそう思っていること。












SIDE:エアリス







 ほんの二年ほど前までは、みんなと一緒に、笑いながら旅をしていた。
 すこし寂しくて、心細いと思った夜は、ティファが隣のベッドから手を出してきて、手を握り合って眠ったこともあった。
 野宿をするときは、背中からユフィが抱きついてきて、「それ、あたいの……」と、何の夢を見ているのか、エアリスの胸をしきりに揉んだこともあった。
 焚き火の傍で笑いながら語り合えば、バレットとシドが、自分たちには分からない世代の話で盛り上がって──なぜかケット・シーまでもがその会話に加わったりとかして。
 それから、極貧生活を強いられたときには、ヴィンセントが手品のようなマントマジックを見せて、ちょっぴりの資金を稼いでくれたり。
 クラウドが、時々見せる優しさが、とても嬉しかったり。
 そんな中でも、一番、エアリスのことを分かってくれていたのは──付き合いで言うと、二番目に長くなる……ティファだったのだと、今でもエアリスはそう思っている。
 彼女は、エアリスにとって、一番の親友で、クラウドを巡るライバルで、仲間で、大切な人。
 ティファはいつも、エアリスの優しさや明るさに助けられたって言っていたけれど、それはエアリスにしても同じことだった。
 旅にでて、自分がセトラなのだと──古代種だと思い知るたびに、不安にさいなまされなかったと言えば嘘になる。
 けれどそのたびに、当たり前のように額をあわせて笑って、当たり前のように手をつないで歩いて──小さい頃、女の子なら誰でもやるようなことを、初めて二人でした。
 エアリスにとって、ティファが一番の親友であったように、ティファにとっても、エアリスは一番の親友だったのだと思う。
 ティファは、「エアリス」を失ったとき、自分がどれほど辛く悲しかったのか、決してエアリスにも──誰にも言わないけれど。
 でも。
 こうして、手紙をやり取りしていると──彼女のその「思い」が、ヒシヒシと伝わってくるような気がした。
 受け取った手紙は、喜びと前へ進む強さと、そして。

 今度こそ、エアリスを失いたくないと、そう──強く言っているような気がして。

「ティファは、悲しみも、苦しみも……自己嫌悪も、ぜぇんぶ、自分の中に……閉じ込めちゃうから。」
 だから、心配。
 だから、会いたい。
 会って、私、大丈夫だよ、って──ここにいるよ、って……伝えたい。
 他の誰よりも、ティファが一番、「エアリスはいつもココにいる」って──分かってくれていたのに。
 今は、感じないから、不安を感じているみたい。
 ──うん、そうだね。
 あの時は、私、ずっとみんなと一緒にいたから。
 ティファは、それをきっと、感じ取ってくれていたんだと思う。
 でも、今はソレが感じ取れないから──だからティファは、不安、なのかな?
「……ね、ティファ? もうすぐ……会えるね。」
 受け取った手紙を胸に抱いて、エアリスは、甘いポプリの匂いのする便箋に鼻先を近づけながら、そ、と囁いた。
 まるで、初恋の人に会うのを心待ちにしている娘のようだと、チラリと思った瞬間──なぜか、クスクスと小さな笑い声が込み上げてきて。
 エアリスは、教会の壊れた屋根の上に見える星空を見つめながら。
「たくさん──たくさん、話をしよう。」
 あの頃も、毎日のように話しても、話しきれないことがたくさんあって。
 本当にたくさんあって。

 だから、ティファ?

──会いに行くから……待っててね?













To Be Contenude



ティファとエアリスは仲良しさん。
っていうか書いてて、「なぜこんなにらぶらぶに……?」と疑問に思うことすこし。
今の二人の当面の目的は、お互いにお金を貯めて旅費にすること……(笑)。

そしてクラウドは、相変わらず二人の当て馬状態……(涙)。