夢見丘 3











SIDE:クラウド&エアリス













 教会の中で、花の香にうずもれるその人の姿が見えた瞬間──クラウドは、泣きたくなった。
 ツン、と鼻の頭が痛くなるのを感じながら、足を進める。
 始めはゆっくりと──けれど、耐え切れず、花畑の近くに来たときには、小走りになった。
 その近づく足音に全く気付いていないのか──無防備に見える背中がすぐ間近に見えたとたん、クラウドはそれ以上足を進めることが出来なくなって、ピタリと歩みを止める。
 少し離れた場所で──彼女は、小さく鼻歌を歌いながら、上から降り注ぐ太陽の光を浴びて、花に手を当てていた。
 時折鼻歌に混じって小さく呟く声は、「星」に聞かせているのか、「花」に聞かせているのか……。
 白く輝く容貌を柔らかに緩めて、口元に笑みを浮かべるその顔は──知っている「エアリス」の顔よりも、少し幼くて。
 けれど、良く見慣れた表情に、声をかけるのをためらったのは、ほんの一瞬。
 エアリスが、話して、笑って、──泣いて、怒る。
 あの時失ったと思ったエアリスが──あの時よりもあどけない容貌の彼女が、目の前にいる。
 そう思った瞬間、声はスルリと喉から零れていた。
「…………あ、の──……。」
 けれど、かけた声はそれ以上続かなくて、──なんて言ったらいいのかと、拳を握り締めて喉を上下させる。
 手の平に汗が滲むようだと、そう二の足を踏んだ瞬間。
 フイに、エアリスが、弾けるように顔を上げた。
 大きな翡翠色の瞳が、まっすぐにクラウドを射抜く。
 その、まっすぐな──涙が出るほど懐かしい視線に、クラウドが眩暈にも似た感情を覚えたとたん、エアリスは、見張った瞳を、さらに大きく見開いた。
「……──ぁ……っ。」
 零れた驚きの声は、クラウドの方が先か、エアリスの方が先なのか。
 エアリスの目に、クラウドの目に──お互いの姿が映った瞬間、声に出す必要すらなく──二人は、お互いを認識した。
 それは。
 喜びと、驚愕と、混乱と──それから。
「……エアリス?」
 震える声で呼びかけた瞬間、エアリスの瞳に走ったのは、紛れもない驚喜。
 その色を認めて──彼女は自分を知っていると感じた瞬間、ブルリと震えが走るほどの喜びが、クラウドの全身を駆け巡った。
 ヨロリと足を進めて、
「……エアリス、だよな?」
 確認するように声をつむげば、──声が掠れないように必死に、彼女の名を呟くことしか出来ないクライドに向けて、エアリスが蕩けるような満面の笑みを浮かべて頷いた。
 かと思うや否や、
「クラウド!」
 花畑から立ち上がり、全身で喜びを表現しながら、エアリスが飛び上がった。
 彼女の、見知っている声よりも少しばかり高い声で名前を呼ばれた瞬間、じくり、と胸が熱い色を宿す。
 その感情に……込み上げてくる色に、クラウドは行動することが出来なくて、その場でタタラを踏んだ。
 エアリスはそんなクラウドに向けて、迷うことなく駆けつけて、
「クラウドっ!!」
 両手を差し出すようにして──そのまま、ぶつかるように勢い良く、抱きついてきた。
「──ぅわっ。」
 「あのとき」ならイザ知れず、今のクラウドはまだ14歳の小柄な体だ。
 飛びついてきたエアリスの甘い香のする体を受け止めることなどできなくて、フラリと足元をかしがせて後方に倒れそうになるのを必至に堪えるばかり。
 そんなクラウドの首に腕を巻きつけて、エアリスは、輝く目でクラウドの顔を間近に見つめる。
 ふわりと鼻先に、あまい花の香がした。
「クラウド? 本当にクラウド? 私の知ってる、クラウド、だよね?」
 大きな瞳いっぱいに、クラウドの幼い顔が映し出される。
 その、キラキラ光る──懐かしい思いがこみ上げてくる瞳を見下ろして、クラウドは忙しなく頷く。
「あ、あぁ……そうだ。俺だ、エアリス。
 あんたも──覚えてるんだな?」
 胸を占めるのは、安堵と同時に不安。
 彼女まで「ココ」に居ることの意味を図りかねて──自分が思っていたような、単純なタイムトリップではないのだろうかと、クラウドはかすかに眉を寄せる。
 けれど、エアリスはそこまで思うことはないのか、柔らかに微笑むと、コクリとクラウドの言葉に頷いて、抱きついた彼の体から、そ、と身を剥がした。
 名残惜しそうにクラウドの二の腕に手を当てて……自分が知っているクラウドの腕よりも細いソレを指先で撫でながら、
「うん……ぅん。何が起きてるのかは、全然わからない。でも──会えて嬉しい。」
 まるで昔に戻ったかのような生活に、実は少し──だいぶ、心が疲弊していたのだと言うことを、エアリスは気付いた。
 目の前で心配そうな顔をするクラウドの顔は、自分が知っている顔よりもずっと幼くて、ずっと小柄で──そういえば、視線もエアリスよりも下だ。
 けれど、そのクラウドを目の前にして──自分が決して知りうることのなかったクラウドの幼い姿を前にして、エアリスはなんだか心浮き立つ気分で、彼の整った顔を見下ろした。
 それから、胸の中にしこりのようにあった不安のようなものが、随分軽くなっているのに気付いて、ふふ、と小さく笑うと、
「これが、夢でも──それでも、本当の貴方に会えて、嬉しいよ、クラウド。」
 ヒョイ、と、クラウドの顔を見上げるようにして覗き込んだ。
 その柔らかな笑顔を認めて、クラウドは、つられるように笑みを零した。
 彼女が口にした言葉に、ふとあの日の情景が蘇って──クラウドは、「今」はまだ起きていないその出来事に思いを馳せるように瞳を細めて、彼女を見上げた。
 見上げなければならない角度に、少しばかり奥歯を噛み締めながら、
「……何度でも会ってたよ、エアリス。」
 自分の腕に添えられた彼女の手を撫でて、
「あんたのこと、……いつも感じてた。……ありがとう──。」
 万感の思いを込めて──出会うことがあったなら、伝えたいと思っていたそのすべてを一言に込めて囁く。
 するとエアリスは、パチパチと目を瞬いて、すこし考えるように首を傾げる。
 クラウドの腕から手の平を離すと、その手で自分の顎を撫でながら、しばし。
 彼女はふと顔を上げて、その翡翠色の瞳でクラウドの目を覗き込んだ。
「……クラウド、どこからの記憶が、ある?」
 そうしながら覗き込んだクラウドの目は、記憶にある不思議な色ではなく、純粋な青色。
 吸い込まれそうな綺麗な瞳に──クラウドは、魔晄に浸かる前はこんな綺麗な色を持っていたんだと、純粋に感嘆を覚えた。
 綺麗な色にクラリと眩暈にも似た感覚を覚えたエアリスの様子に気付かず、クラウドは彼女の言葉を受けて、慎重に答える。
「カダージュたちのことを。──それから、2ヶ月くらい後、かな。」
「……それじゃ、私と同じだけ、だね。」
 「記憶」に誤差はない。──ということは、自分たちが居たあの時間軸で何かが起きて、ココに来たのだと考えるのが正しいということだろう。
「──ね、クラウド? 私達以外にも、誰か……来てるかな、ここに。」
 誰か一人だけが過去に来たというなら、それはライフストリームが見せる夢や幻のような「過去の知識」だと言える。
 けれど、クラウドとエアリスがココに居て──さらに仲間の誰かがココに来ているのなら、その可能性はない。
 そう考えて、エアリスは顔を上げて問いかけるが、クラウドはそれに答えず、渋面で考えるように眉を顰めていた。
「ここがどこだか分かるか、エアリス?」
「……分からない……星の声も、あの頃と同じ……ううん、それよりもはっきり聞こえるけど、それは……私が、セトラの民として、覚醒してるから、だと──思う。
 はっきりとは、分からないの。ざわざわ、ざわざわしてる。」
 本当にタイムトリップを──しかも、精神だけタイムトリップをしてしまったようだと、エアリスは呟いて、自分の両手を見下ろす。
 ざわざわ、ざわざわ──……たくさんの声が、エアリスの耳に届く。
 けれどその声は、ライフストリームに居ることよりも曖昧で、「9年前の自分」よりは鮮明に耳に届く。
 あの頃は、時々しか聞えなかったのに、今は毎日当たり前のように耳にするのだ。
 それが警告を発しているような、そうじゃないような──ライフストリームに溶けないと、何が言いたいのかなんてことは、分からないのかもしれない……たとえ、純血のセトラでも。
「あんたの仕業ってわけじゃ、ないのか。」
 エアリスの真剣な横顔に、なるほど、と呟いたクラウドが、思わず零したらしい言葉に、エアリスははじかれたように顔を上げた。
「あっ、ひどーい、クラウド、疑ってるのね!?」
 そのまま、片手の拳を握り締めて、もう! と振り上げるエアリスに、クラウドは小さく笑って、それから、ごめん、と謝った。
 その柔らかな笑みに、エアリスは一瞬毒気を抜かれたような表情になった後──振り上げた拳をチラリと見上げて、ふぅ、と溜息を零した。
「もう、私、何もしてないわよ。
 私が何かしたなら、ザックスも、こっちに来てるはずだもん。」
 ぷく、と軽く頬を膨らませる子供じみたエアリスの言葉に、クラウドは突然表情を強張らせる。
 思い出すのは、つい先ほど──1番街スラムのステーションで逢ったばかりの青年の姿だ。
 黒いツンツンした髪の、精悍な面差しのソルジャー。
 どうして彼があんなところに居たのかは分からないが……まぁ、アイツの行動パターンから察するに、女を送ってやったか、女を迎えに来ていたか、バイクがガス欠になったから上まで電車で帰ろうと思っていたところだとか──その辺りだろう。
 思い出した瞬間、懐かしさやせつなさよりも、「彼女」と呼ばれたことへの苛立ちがフツフツと湧いてくる。
 一度ならずも二度までも人のことを「女」と間違えて、さらにあの時と同じようにナンパしてきやがって──……っ! 本当に、女にだらしないっていうか、手クセが悪いっていうか、学習能力がないっていうか……っ!!
 右手にギリリと力が入るクラウドに、エアリスは不思議そうに首をかしげる。
「クラウド? どうかしたの?」
「──……ぁ、いや……。」
 純粋に自分を見上げてくる彼女の顔に、怒りから我に返ったクラウドは、なんでもないんだと片手をあげかけて──ふと、エアリスとザックスの関係を思い出す。
 そうだ、この二人は確か、「付き合って」はなかったが、当時、随分親しい関係だったはずだ。
 名前までは聞いてなかったが、クラウドがザックスと友人づきあいをするようになったときには、「スラムに花売りの娘が居てさ、時々こうして買ってるんだ」と言って、いらないと言っているのに花を押し付けてくることが二度三度──いや、数え切れないくらいあったのを記憶している。
 「花売り」は、エアリスだけではないけれど──アレは、確実にエアリスのことだろう。
「……なぁ、エアリス、あんた、ザックスと会ったか?」
「ううん、この時の私、まだザックスと会ってないの。
 知ってるのはツォンくらいだけど──ツォンとこの間あった時には、ツォン、普通だった。……知ってるかどうかは、分からない。あの人、昔っから、こーんなだもの。」
 言いながらエアリスは、両手の指で自分の目を真横に引いて、口元をへの字に捻じ曲げる。
 とてもではないが、あの無表情のツォンに似ているようには見えなかったが──それでも、彼女が作り出した雰囲気は、どことなくあの長髪のタークス主任を思わせた。
 思わずクラウドは、プッ、と噴出す。
「……微妙に似てるかも……。」
 楽しげに喉を鳴らせるクラウドに、でしょ? とすこし自慢げに笑って、エアリスは改めて幼いクラウドを見下ろした。
 7年後とは違う柔らかな輪郭に、形良い鼻梁、伏せられた長い睫は金色の光を宿し、薄い影を頬に落としている。
 エアリスの視線を感じて視線をあげたクラウドの瞳は、魔晄にさらされてはいない……綺麗なあおいろ。
 この年頃にしか見えない、思春期の少年の不安定さがより一層クラウドの面差しに魅力を加えているような気がして、エアリスは、マジマジとその顔を見つめる。
 そんな彼女に、クラウドは不思議そうな顔でパチパチと瞬きをした。
「エアリス? どうかしたのか?」
「……あっ、う、ううん。」
 まっすぐな視線を受けて、慌ててエアリスはかぶりを振って──気を逸らすように、指先を組みながら話の矛先を元に戻す。
「ね、クラウドは、ザックスと……会ったの?」
 問いかけたエアリスに、クラウドは、なんとも言えない苦い色を刻んで……曖昧に首を傾げる。
「………………。」
 会った、と言えば会った。
 それもついさっき──思いっきり吹っ飛ばしてきた。
 けれど、エアリスが言う「会った」は、そういう「会った」なのか、それともこの時代のクラウドがザックスと友達になったのかという意味なのか分からなくて。
 言葉をつむぐこともなく、ただ黙るクラウドに、エアリスは残念そうに瞳を曇らせた。
「そっかぁ。
 記憶、持ってるの──、私と、クラウドだけ、なのかな?」
 顎を引いて、ちょっとかんがえるような仕草をするエアリスに、クラウドは彼女がナニを言いたいのか悟る。
 エアリスは、自分が精神だけタイムトリップしているのなら、一緒に居たザックスも……「ココ」に来ていると──そう考えたのだろう。
「……エアリス……。」
 躊躇ったのは、ほんの一瞬。
 けれど、ここで嘘を付いたとしても、どうせすぐにばれる嘘だ。
 ──あの「ザックス」は、紛れもなく、記憶を持っていないザックスだ。
「……俺、さっき──ザックスに会ったんだ。」
 そ、と目を伏せながら告げると、エアリスは驚いたように顔を跳ね上げた。
「ザックスと会ったの!?」
「うん……。」
 頷いて、──それから、なんと口にしてもいいかと戸惑うクラウドのつらそうに寄せられた眉を認めて、エアリスは彼が何を言いたいのか、理解した。
「……クラウド…………。」
 だから、そ、と手を伸ばして、クラウドの手の平に自分の手を重ねて、7年後よりも柔らかで小さな手の平を握り締めた。
「……クラウド………………、だいじょうぶ?」
 顔を寄せて、そ、と小さく尋ねると、クラウドはギュ、と強く眉を寄せた後、自分の手を握り締めるエアリスのすこしささくれ立った手を見下ろし、──ゆっくりと顔を上げた。
「……平気だ、エアリス。問題ない。」
「──そ?」
 首を傾げて、腰を折って見上げてくるエアリスに、クラウドはしっかりと頷いてみせた。
 そんなクラウドを見上げて、エアリスは小さく笑うと、つん、と彼の頬をつついて、
「あ、クラウドのほっぺ、柔らかい。」
「……エアリス。」
 何がしたいんだ、あんたは。
 そんなあきれを滲ませて、クラウドは彼女から一歩後ろに下がると、追ってきた手の平を軽く叩き落して、生真面目な顔で彼女を見上げた。
「それよりも、……なぁ、エアリス? これは……やり直す機会だと思うか?」
 話を強引に最初に戻すクラウドに、エアリスは一瞬、キョトン、と目を瞬いたが──すぐに柔らかに微笑んで、しっかりと一つ、頷く。
「──だと、わたし、思うよ。」
 首を傾げて、だよね? と笑いかけるエアリスに、そうだな、とクラウドも同意を示した。
 エアリスはその返答に満足したように笑って見せた後──フイに眉を曇らせて、顎に手を当てて、もう片側に首を傾げながら、クラウドの顔を覗きこむ。 
「ね、クラウド? みんな、どうしてるかな?」
「分からない。」
 返答は、ひどく簡単だった。
 スラムに居るエアリスには、他の仲間と連絡を取る手段はないに等しい。
 けれど、クラウドはそうではないと思ったのだけど──と、エアリスはクラウドの顔を、ジ、と覗き込む。
「バレットは、コレルよね?」
 ちゃんと連絡は取ったの? と、確認するように見上げてくるエアリスに、クラウドはお決まりのパターンのように、ヒョイと肩を竦めて答える。
「バレットがコレルのどこに住んでるのかも知らないし、そもそもなんて連絡するんだ?」
「それは……コレルの自治政府に連絡して、バレットを呼び出してもらう……っていうのは、無理、か。」
 うぅ、ん、と唸るエアリスに、だろう? と同意してみせたクラウドは、さらに溜息を一つ零して、
「連絡が取れそうなのって言うと、シドだと思って、一応端末で調べてはみたんだ。シドはああ見えて、宇宙開発部門のエースパイロットだから、すぐに見つけられたけど──とてもじゃないが、新兵の俺が接触する機会なんてない。
 メールアドレスもPHS番号も知りようがないしな。」
「直接行くには……遠いもんね、ロケット村。」
 うーん、と唸るエアリスに、だろう? とクラウドが重々しく頷くのに、彼女はかすかな苛立ちを隠すように目を伏せて──ロケット村に一番近いのは、ニブルヘイム、と呟いた瞬間、弾けるように顔をあげた。
「──ぁ、ねぇ、クラウド、ティファはっ!? ティファ、クラウドと同じ村出身だよね!?」
 ニブルヘイムは、小さな村で──顔を知らない者が居ないほどだと、クラウドもティファも言っていた。
 実際、建て直されたニブルヘイムは、ほんの30分ほどもあれば村の端々まで行くことが出来そうなほどだった。
 その小さな村の中なら、それぞれの家の電話番号くらい、把握していてもおかしくはない。
 特にティファは、クラウドにとって「憧れの初恋の人」だったのだ。──クラウドがティファに連絡を取るために電話番号を控えていないはずがない。
 エアリスはそう判断して、クラウドの手を握り締めて、ぐい、と彼に向かって進んだ。
 その目は、キラキラと明るい色に輝いていた。
「ティファには、連絡、取ったっ!? ね、ティファ、元気だった? わたしのこと、覚えてたっ!?」
 そのあまりの勢いに、クラウドは思わず後ろに後じさった。
────エアリス……なんであんた、俺に会った時よりも必死で、嬉しそうなんだ?
 エアリスの勢いに飲まれるように、クラウドはもう一歩後退して、エアリスを見下ろす。
「いや……連絡は、取ってない。」
「え、どーしてっ!? あ、もしかしてニブルヘイム、電話、ないの?」
 クリ、と首を傾げるエアリスが、見て分かるほどガックリと肩を落すのに、クラウドは苦い笑みを刻んでみせた。
「……ティファの家に電話はあるんだが──俺は、ティファの家に電話はできない。」
「番号、知らないの?」
 さらに顔を覗きこむエアリスは──なぜか、クラウドを責めているように見えた。
 その、ジットリと睨みあげてくるエアリスの視線を避けるように、クラウドはさらに一歩後ろに下がると、ますます苦い色を刻みながら、コクリと頷いた。
「それもある。
 でも、知っていたとしても、俺……ティファのオヤジさんに嫌われてるんだ。だから、電話でも手紙でも、俺が名乗るわけにはいかない。」
 ──そういえば、そんなことをクラウドが昔言っていたような、言ってなかったような……。
 そんな記憶を掘り返して、エアリスは腕を組んで、小さく唸り声を上げる。
「……………………ぅーん──……。」
 首を左右にゆっくりと傾けて──とどのつまり、クラウドはティファの電話番号は知らないけど、住所は分かってるわけよね?
 っていうか、ニブルヘイムの規模だったら、「ニブルヘイム ティファ・ロックハートさま」で手紙がついちゃいそうよね?
「それじゃ、クラウド? ……わたし、手紙出してもいいかな?」
 とりあえず、それが一番手っ取り早そうだと、クラウドを見やれば、彼はそのエアリスの言葉に驚いたように軽く目を目を見張った。
 そうだ、そういう手があったか。
「あぁ、そうだな。そうしてくれ、エアリス。
 そのほうがいい。実際、俺の出す手紙や俺に着く手紙は、検閲されてる可能性があるしな。」
 ついでに、シドやバレットにも手紙を出してくれたら嬉しい、と続けると、エアリスはそれに大きく頷いた。
「うん、わかった。それじゃ、ティファに連絡取ってみて、ティファが私達のこと、覚えてるかどうか確かめるね。
 ……それから、ティファにヴィンセントも起こしてもらって、ナナキとも連絡取れるかな?」
 でも、手紙を出すお金は、クラウドと折半だよ、と続けるエアリスのちゃっかりした経済感覚に、クラウドは苦い笑みを刻んで見せて──それから、分かった、と頷いた。
「ナナキは──どうだろう? ……まぁ、十中八九、ユフィは無理だな。」
 何せユフィは、つい先ごろ戦争が終ったばかりの「ウータイ」にいる、十歳にならないお子様だ。
 たとえ18歳のユフィの精神が宿っていようとも、未成熟すぎる体では、何の役にも立たない……といえば、ユフィはきっと怒るだろうけど。
「だね。」
 小さく、クスクスと笑って、エアリスはクラウドから視線をずらして、自分の視界に広がる花畑を見つめた。
「──みんな、元気にしてるかなぁ。」
 不安に、思ってないかな。
 そう零すエアリスこそが、不安そうに見えて──クラウドは、彼女と同じように変わらずにそこに広がる花畑を見つめた。
 自分が居た9年ほど後と変わらず、そこには鮮やかでむせ返るような花の香。
 クラウドはそれを見つめて──知らず、ぼんやりと問いかけを零した。
「──……過去を変えることは、難しいかな…………、エアリス?」
 その、ぼんやりとした呟きに、エアリスは驚いたように顎をあげて──それから、自分が思っていた場所よりもずっと下にあるクラウドの顔へ、ゆっくりと視線を落として。
 その、伏せた瞳を認めて、口元に優しげな笑みを上らせた。
「違うよ、クラウド。」
「?」
 顔をあげたクラウドに、エアリスは、うん、と一つ頷いてみせる。
「過去じゃない、──いま、だよ。」
「……………………。」
「だから、がんばろう。──……ね?」
 ──あの時、あの冒険の中で、彼女はこんな笑みを浮かべていた。
 前を見て、明日を見て。
 あの──白い森の中で立ち去るときですらも……彼女は、明日を見つめる微笑みで、がんばろう、だいじょうぶ、と、笑った。
 その笑みを、懐かしく思い出して──そして、あどけなく幼い容貌ながら、今も変わらない表情に、クラウドの胸は、ジン、と熱くなった。
「あぁ……、そうだな──。」
 ゆっくりと頷くと、エアリスは柔らかな笑みを更に深めて、そうだよ、と大きく頷いた。
 それから、クルンと踵を返して、改めてクラウドに向かうと、彼の顔を覗きこむと、
「そうと決まったら、クラウド! 時間、まだある?」
 突然の問いかけに、クラウドは驚いたように目を瞬く。
 空を見上げても、ミッドガルのプレートに阻まれて空は見えない。
「今日は休みだから──夕方くらいまでなら。」
 帰りは、電車に乗らずに帰ろうと思っていたことを思い出し、門限から逆算して答える彼に、だったら時間はまだあるね、とエアリスは明るく笑った。
「だったら、うちに来て! ご飯、作ってあげる。
 ティファほど美味しくないけど……、あ……ティファの作ったご飯、食べたいなぁ〜? あとね、ティファのオリジナルカクテル!」
 底抜けの明るさを装うエアリスに、クラウドは小さく笑みを零した。
 彼女の明るい笑顔を見ていると、自分でも気付かないうちに心の中に溜め込んでいたらしい不安が、すこしだけ薄れていくのを感じて、
「今のあんたも俺も、未成年だぞ、エアリス。」
 そう軽口を叩いて、また笑って──。
 そう言えば、「ココ」に来てから、笑ったことがなかったな、と。
──今更ながらに、そんな事実に気付いた。
















To Be Contenude



ということで、エアリスとクラウド再会編。
クラエア風味でありながら、根底はエアティ。……おかしいから、このカプ設定(笑)。

私の中で、エアリスもティファもクラウドが好きなんだけど、そんな恋愛よりも、初めての同性の親友に夢中になっている感じでお願いします。
なんていうんだろう……クラウドをアイドル視して、二人でキャァキャァいいながらじゃれてる感じ?(笑)  いや、イメージとは違いますが。
三人で一緒に居ると、クラウドが疎外感を感じてくれるほど仲がいい感じです。
たまにクラウドは本気で、「ティファもエアリスも、俺を好きだと言ってるけど……実は、俺、ただのあて馬なんじゃないのか?」と思うことがあるくらいで。


ティファのファーストキスの相手はエアリスだといい(←こら)。
でもエアリスのファーストキスの相手はザックス(笑)。
でもってクラウドのファーストキスの相手はセフィロス。……うーん、めぐり巡る(嘘)。
……って、そんな裏設定はいらない?(大笑)