ACのプロローグシーンを書いてみた。

プロローグ










 ゴォォオオォン……。
 ウォォンン──……。




 白い靄がうっすらを辺りを覆っている。
 生暖かな風を頬に受けながら、風の音なのか何かが蠢く音なのか──不気味に響く音を耳に、ぶるりと彼女は身を震わせた。
「……なんだか気味が悪い場所っすね、ツォンさん。」
 気丈に声をあげたつもりだったけれど、かすかに語尾が掠れた。
 そんな自分に気づいて、イリーナは唇を、キュ、と結びなおして、知らず知らずのうちに丸まりかけていた背中を、りん、と伸ばした。
 肩の辺りに力が入っていたのか、その拍子に、コキ、と耳元で肩の骨が小さく音を立てた。
「リーブ殿の話では、確かこの辺りだと聞いたんだが……。」
 言いながら、ツォンは身軽な動作で目の前の岩を一つ飛び越える。
 イリーナは先に跳んだ彼の背を見て、足元に見える淡く輝く青い灯のような液体を見下ろして、やや尻込みするものの、とんとんと岩を跳ぶように先へ進んでいくツォンの背に、慌てて足を踏み出した。
 トン、と岩の上に乗ると、耳元でシャランと鳴った金色の髪が、吹き上げてくる空気に揺れる。
 そのまま、キョロリと当たりを見回すと、もう少し下ったところに、傷痕の中心とも言える場所が見えた。
 ライフストリームが蠢き、ピシャンと揺れるそこに、吸寄せられるように視線を当てた瞬間、
「ツォンさんっ!!」
 思わずイリーナは、指を差して叫んでいた。
 そのまま、「それ」に向けて、彼女は岩を蹴り、跳躍する。
 難なく足をつけたすぐ隣に、同じく軽やかに落ちてきたツォンが靴の先を落とす。
 無言で視線を落としたツォンの眉が、険しく寄ったのをイリーナは横目で確認する。
 彼はそのまま、「それ」に近づき、その場に膝をつく。
「……うわぁ……なんか、気持ち悪いっすねぇ……。」
 思わず呟いた声が、自分でも実感が湧かないほどに遠く聞こえた。
 仕事上、色々な物を見てきたけれど、目の前に横たわるソレは、あまりに──グロテスクで。
 思わず顔を顰めずにはいられないイリーナの前で、ツォンはすばやく懐から箱を取り出し、迷うことなく「それ」を掌で掴み挙げた。
 とっさに、うわっ、と声をあげそうになるのを堪えて、イリーナは彼が中に入れやすいように箱を押さえてやる。
 仕事はすぐに完了して、箱の中に入ったそれを厳重に封を済ませた──その瞬間。

『ねぇ……母さんを、どこに連れて行くつもりなの?』

 揶揄するような、見下した声が、間近で聞こえた。
 ハッ、とイリーナが箱を懐に押し込むのと、ツォンが懐から引き抜いた銃を放つのが、ほぼ同時。

 ドォンッ!!

「ツォンさんっ!!」
 ツォンが放った弾の軌跡が、イリーナの顔のすぐ横をかすめ──それは、彼女の背後に立っていたはずの「何か」を射抜くことなく、向こう側の断崖に埋め込まれた。
 イリーナは箱を小脇に抱えながら、自らも銃を抜く。
 耳元のイヤホンが受信モードに入った点滅を繰り返し、続いて少しだけ慌てたようなレノの声が聞こえた。
『イリーナ、どうしたんだぞ、と。』
 こんなときでも直らない口癖に、イリーナは小さな舌打ちを覚えながら、銃の先をツォンの方へ向けた。
──いや、銃の方角は、ツォンではなく……いつの間にか彼の後ろに現れた、男へと。
 パンッ! ──パンパンッ!!
 連続してなる銃声の音には、自分の放ったものだけではなかった。
 その音がさらに連続するのを感じながら──同時に、ずくんっ、と腕に痛みが走った。
 ──相手も銃を持っている!?
 そんな……と、イリーナは歯噛みをしながら──だってまさか、何も身につけていなかったのに、どこに銃を隠していたというの!?
「──……くぅ……っ。」
 それでも必至で、イリーナは負傷した腕で抱えている箱を右腕に持ちかえながら、後退した。
 痛みに顔を顰めながら睨んだ先で、奇妙な形の銃を持った男が1人、立っていた。
 白い靄の中に浮き出る白い肌、灰銀色の髪を肩に垂らし──顔の半分ほどが、長い髪で隠れていた。
 その奥で光る瞳が──ほのかに光を発している。
「あなた、たちは──……っ?」
 見据えたイリーナの真上で、バラバラバラと、ヘリが近づいてくる音が聞こえた。
 ──あともう少し。
 もう少し時間を稼いだら、先輩達にコレを渡して、ヘリに乗り込める。
 ……あぁ、でも。
『母さんを、渡してもらおうか。』
 うつぶせたツォンの手が、ガリ、と床を引っかいた。
 蒼白な面差しで倒れるツォンの肩口から、赤い血が流れている。
 白い靄と青白いライフストリームの中で、だんだんと大きくなっていく染みが、ひどく現実味を失っていた。
 そのツォンの背中に、足を乗せて──銀の髪の男が不敵に微笑む。
「母さんって、……何のこと?」
 小脇に抱えた箱の存在を強烈に意識しながら、イリーナは見たことがないはずの青年を見据えながら──まさか、と、ジリ、と後退する。
 そんな彼女の真上で、バラバラ──と、ヘリの風が舞い起こる。
 と同時、
「逃げろっ!」
 ツォンが叫び、

 ぱんっ!

 腕を捻り上げ、自分の上に乗り上げる男に向けて拳銃を放つ。
 まさかそんなことをする余裕があるなんて思っていなかったらしい青年は、驚いた顔でツォンを見下ろし──そして、当たり前の仕草で顎を逸らしながらその弾丸を避けた。
 続けて、パンッ、と軽い銃の音が響く。
 それは、ツォンが持っている銃の音とは違うような気がしたけれど、イリーナは振り向かない。
 自分が箱を手にしている以上、逃げるしか手段はないからだ。
 見上げれば、白い靄を突っ切るように落ちてきたヘリのドアから、見慣れた顔が覗いていた。
 この大空洞に自分とツォンが下りる前に、ヘリで別れた顔だ。
 とっさにその顔に向けて、手を伸ばしたイリーナの掌に。

 ぱんっ!!

「クゥ……っ。」
 鮮血が、飛び散った。
 とっさに腕を引きながら──それでもイリーナは、抱えていた箱ごとヘリに向かって投げた。
 緩やかな弧を描いた箱が、あやまたずレノの掌に収まるのを見て、彼女はそのままその場に崩れる。
「イリーナっ!」
 今度は、マイク越しではないレノの呼びかけが、聞こえた。
 けれど、イリーナはその声にではなく──、自分を撃った人を見ながら、叫ぶ。
「行ってっ! 行って下さい……っ!」
 右手がじくじくと痛い。
 それでもその手で銃を持ち上げ、彼女は震える腕でそれを掲げて。
 床に投げ出されたツォンに乗り上げる男が持つ銃めがけて、引き金を引く。
 でも。
「くそっ!」
 バラバラバラ──……と、舞い上がっていくヘリの音を耳にしながら、イリーナは唇を歪める。
 これでもう、助かる手段は無くなったような気がした。
 ヘリの音が遠くなるまで待って、それから彼女は、目の前の男に向けていた銃を──ぽろり、と、掌から零した。
 カツ──……カッツン……っ。
 軽やかな音を立てて、それは大きく跳ね、そのままライフストリームの中へと落ちていく。
 安全装置もつけてない状態で、落とすなんて何事だと、レノ先輩に怒られるかもしれない。
 でも──、暴発でもしてくれて、相手に一瞬の隙が出来やしないかと思っていたのだけど。
 銃は、何も起こさずに、そのまま姿を消してしまう。
 それを見る事もなく、イリーナは無言で両手を上にあげた。
──いざというときは、抵抗はしない。
 そう……教えられたから。
「貴方達は、一体、何?」
 硬質的な響きで──背中に冷や汗が滴るのを覚えながら、イリーナは己が死と向き合っているのを感じていた。
 ツォンが固く目を閉じて、荒い呼吸を繰り返している音だけが、いやに鮮明に響き渡る。
 そうしながら、彼女はチラリと視線を走らせ──ツォンの襟元についたマイクが、まだ音声を発しているのを確認して、ゴクリと喉を上下させたあと、声高に叫ぶ。
「目的は、何なの!?」
『あんたたちに、もう用はないよ。』
 言いながら、彼はツォンの頭に銃の先を向けて──、
『消えちゃいな?』
 からかうように楽しげに、そう口にした……瞬間、

『ヤズー、まだ、だ。』

 第三者の声が、響いた。
 ──と同時、グイ、と、イリーナの襟首が強く引かれる。
「キャッ。」
 短い悲鳴をあげて、イリーナの足が空を蹴った。
 目を見開けば、いつの間にか自分の目の前に、端正な面差しの青年が立っていた。
 ツォンを足蹴にしている青年と同じ肌の色、同じ髪の色──少しだけ短いそれを、乱雑に顔の前に落として、彼は皮肉げに口元を歪めて笑む。
『なんで、カダージュ?』
 答える男は、腰をかがめて、ツォンの頭に銃の先を向けたままの体勢で詰まらなそうに見上げる。
 そんな彼を、チラリと一瞥して──その隙に、自分の襟首を掴む男を蹴りつけようとしたイリーナだったが、襟首を掴む手に力を込められて、行為を成し遂げることはできなかった。
「うぐぅ──……っ。」
 苦しげに呻く女に感心はないのか、彼は緩く首を傾げながら、
『なんで……だって?
 そんなの、分かりきってるじゃないか……なぁ、ロッズ?』
 緩慢な仕草をしながら、しなだれるように嫣然と微笑む。
 その彼が呼びかける先──先ほどまで、「あれ」が横たわっていた場所に、いつの間にかもう1人現れていた。
 先に現れた二人と同じ灰銀の髪──けれどその髪は短く、体つきもスレンダーな2人に比べてガッシリとしていた。
──三人も……っ!?
 まだ、相手がたった一人だけなら、なんとかなるかもしれない──そう思っていたけれど、これじゃ、人数が逆転じゃない。
 ギリ、と奥歯を噛み締めながら、イリーナは打たれた右掌から体温が無くなるのに、一瞬意識が遠のく。
 けれど、そんな場合じゃないのだと、自分自身を叱咤しながら向けた視線の先で。
 くっきりと浮き立つ肩甲骨をこちらに向けた男が、地面についた緑色の液体に指を触れさせながら肩を震わせていた。
「──……っ。」
 怒っているようにも、笑っているようにも見えて──この男が、リーダー格なのかと、チラリ、頭の片隅で思った途端。
『う……母さん……。』
『泣くなよ、ロッズ。』
 ヤズーと呼ばれた青年が、からかうように笑う。
『うぅ……ようやく会えると思ったのに……。』
 聞こえる太い声は、かすかに揺れて掠れている。
 泣いている──ようにも見えた。
「な……なんなの、こいつら──?」
 呆れと、不安と、言い知れない恐怖が足元からジワリジワリと登ってくる。
 イリーナは、零れそうになる小さな恐怖を、必至で飲み下しながら、
「まさか──あんたたちの言う母さんって……ジェノバ?」
『すぐに会えるさ、ロッズ。』
 ククッ、と、喉で笑って、イリーナを捕らえていた青年が、そのまま腕に力を込める。
 イリーナとそれほど大差ない身長なのに、あっさりと彼女の体は持ち上げリ、腕一本で釣り上げられてしまう。
「う──……っ。」
 苦しくて、あえいで口を開いたイリーナを、冷ややかな眼差しで射止めて。
『神羅カンパニーの社長が──すぐに吐いてくれるよ。……ねぇ?』
 口元に楽しげな笑みを刻んで見せた。














+++ BACK +++



本当は、こんなシリアスになるつもりはなかったので、すごく適当に拳銃の音とか台詞とか入れてみました(爆)
いやだって、三兄弟って、色々、いじれるじゃないですか? ……ねぇ?
だから、私、三兄弟は登場時、ライフストリームから突然沸いて出てきたんだと思ってたんですよ。
裸で。(どーん)
で、ツォンとイリーナを裸で締め上げて(すごい精神的苦痛ですね、見てるほうは!)、彼の携帯電話で社長と連絡v 続いて彼らのポケットマネーでバイクを調達v 銃と剣だけはイメージで作ってみた、っていう路線でどうでしょう? あの銃剣も、ツォンとイリーナからパクって、

ヤズー「……かっこよくない。」
ごそごそごそ
キラーン
ヤズー「かっこういい。」
ロッズ「いいな、それ。俺もそうしよう。」
ごそごそごそ……。
ごとっ。
ロッズ「────………………。」
ヤズー「格好悪いな、それ。」
ロッズ「……──う……うう……。」
ヤズー「泣くなよ、ロッズ。」
カダージュ「わざわざ改造することもないだろ。ほら、普通にこれを使えよ、ロッズ。」

とか愛らしい会話とかを忘らるる都でしててくれると楽しいです。
うん、三兄弟は、いじりやすいね!

ってことで、本当に書きたかった裸で三兄弟登場シーンは、下でどうぞ。
オチが超弱いです。






「──で、これ、どうやって使うんだよ、カダージュ?」
 黒いスーツの上着を肩から羽織ってみたロッズが、その中にあった電話を取り出して、顔の前に掲げる。
 ライフストリームに散ったジェノバの──しいてはセフィロス因子と呼ばれる記憶から、PHSだの神羅だの、銃の使い方などの知識は持っていたが、実際に使ってみるのは初めてな彼らは、広げたそれらを前に、うーん、と腕を組むばかりだ。
「僕が知っているわけがないだろう? ロッズ。
 記憶は、僕ら三人とも同じ量だけ、だ。」
 そう言いながら、カダージュは、はだしの足を軽やかに舞わせながら、右腕と右肩を押さえて苦悶の表情を浮かべているツォンの前に立った。
 腰をかがめて、ツォンの顔を覗きこむようにしながら、
「ねぇ、あんた? ちょっとこれで、社長に連絡取ってくれない?」
「あんたら、バッカじゃないの?」
 思わずカチンと来たイリーナは吐き捨てて、ツォンの体を自分の体で庇うように前へ出ながら、
「いまどき携帯の使い方も分からないなんて、どこの田舎出?」
 憎まれ口を叩きながら──彼が自分たちの明滅する襟元のピンマイクに気づかれないようにと、願いながら彼らを睨み挙げる。
 きっと、今ごろレノが、ヘリの上でコレを受信しながら、遠くへ──そう、「社長」の元へ向かっているはずだ。
 「災厄の箱」を手に。
「田舎──? セフィロスはニブルヘイムで生まれたらしいけど、僕たちは、どうなんだろうね?」
「ここは、田舎じゃないの?」
 ねぇ? と首を傾げて目を細めるカダージュの、少しまとわり付くような口調に対し、からかうように笑うヤズーの方が、硬質的なイメージがある。
 その彼らが口にした「名前」に、イリーナが庇うように座る後ろで、ぴくん、とツォンが動いた。
 そのツォンの体からは、黒いジャケットは取り払われていた。
 血に濡れたジャケットは今、ロッズと呼ばれた男が肩から掛けて立っている。
 名残惜しげに「あれ」があった場所を見つめている「子供」は、引き締まった臀部をこちらに向けて、ふぅ、だの、はぁ、だのと溜息を零している。
 ──イリーナは、目の前に立つ者を一瞥して、
「……ウォールマーケット出身かと思ったわよ。」
 小さく吐き捨てるように呟く。
「ウォールマーケット──その名前に、覚えはある?」
 カダージュが、腰に手を当てながら、腹を前に突き出しすようにして背中を逸らしながら問いかける。
「女女女の暖簾……。」
 ポツリ、と呟いたヤズーが、分からない、というように頭をかすかに振った。
「さぁ、なんだろうな?」
 肩からツォンのジャケットを無意味に羽織ったロッズが、イリーナの方を向いた──その瞬間、彼女は、その視界の暴力に、もう耐え切れなくなった。
 ただでさえでもさっきから、目の前でブラブラブラブラ──えぇい、口に出すのも汚らわしいっ!
「もう、いい加減にして! あんたたち、服くらい着なさいよ……っ!! ブラブラブラブラ、うっとおしいのよっ! この、○○男ども!!!!!」
────腰を左右に振るカダージュから、思いっきり目を背けて叫んだ。
 ついでとばかりに、ダンッ! と地面を思いっきり叩いて、──とたん、イリーナは右手に走った激痛に、くぅっ、と背中を丸めた。
 そして、そこでようやく──イリーナは、ハッ、と我に返り、慌てて顔をあげると、自分とツォンが身につけているピンマイクを凝視して……そこが、まだ赤々と送信ランプが灯っているのを認めて。
「────…………あぁぁぁぁ…………。」
 がっくり、と、肩を落とした。
 せめて──せめて、レノがこの会話が受信できないところに行くまでは、我慢するつもりだったのに……っ!!
 そう、強く拳を握って心の中で激しく後悔するも──口から飛び出た言葉が戻るはずもなく。

 ────…………ここから戻ったら絶対、レノ先輩にバカにされる〜…………っ。

 目の前で、頭に「?」マークを飛ばしている青年達を前に、イリーナが深い深い後悔に囚われたのは──ある意味仕方がないというか、余裕の大物というか。






 何はともあれ、状況が状況であるにも関わらず、レノがヘリの真上で大爆笑したのは、しょうがない──……状態だったのかも、しれない。